ものづくりプレス
2024-03-02
天然ゴムの歴史や合成ゴムとの違い、劣化の原因と防止策
天然ゴムの発見、そして合成ゴム技術の発展により、現在ではゴムは生活に欠かせないものとなりました。
しかし「天然ゴムと合成ゴムどちらがよいか」「天然ゴムの品質や価格」などについて悩む人も多いでしょう。
当記事では、天然ゴムの歴史や合成ゴムとの違い、天然ゴムが劣化する原因とその対策方法などについて解説します。
天然ゴムの歴史
南米では古くから生活に天然ゴムが取り入れられていましたが、ヨーロッパに初めてゴムを紹介したのはコロンブスだと言われています。その後、防水布や球体のおもちゃなどでしか使われていなかったゴムが、工業用途として本格的に研究されるようになるまで約200年かかりました。
1839 年に「Goodyear(グッドイヤー)」社により天然ゴムの加硫技術が生み出されてからは、産業的な用途に大量に用いられるようになりました。その後、天然ゴムの需要に原料の供給が追い付かないことや、原産地の東南アジアを日本が支配するなどの影響で、天然ゴムの原料入手が困難となります。これをきっかけに、ドイツやアメリカなどで合成ゴムの技術開発が活発化。現在では幅広い種類の合成ゴムが誕生し、さまざまなゴム加工品として活用されています。
天然ゴムの原産地
現在の天然ゴムの主要な原産地は東南アジアで、中でもタイ、インドネシア、ベトナム、中国の総生産量は、全世界の約4分の3に相当すると言われています。特にタイとインドネシアは世界の2大天然ゴム生産国であり、日本で消費する天然ゴムの多くをこれらの国から輸入しています。
天然ゴムの生産量
天然ゴム生産量の上位を占めるタイとインドネシアの2020年の実績は以下のとおりです。
・タイ:4,703,171トン(世界第1位)
・インドネシア:3,366,415トン(世界第2位)
ベトナム、インド、中国がその後に続きます。
天然ゴムの生産量と消費量は、歴史が進むにつれて増加傾向にあります。特に天然ゴムは生産量の約7割がタイヤに使用されると言われ、過去40年の間に生産量はおよそ3倍に達しています。
しかし東南アジアの発展途上地域において、天然ゴムの生産は貴重な経済資源である一方で、大量のゴム木の植樹や伐採、インフラ整備などによる環境破壊が問題となり、自然生態系への影響が浮き彫りになっています。この現状を受けて、タイヤメーカーであるミシュラン社、トヨタやゼネラルモーター社などの自動車メーカーが、持続可能(SDGs)な天然ゴム製品の生産と利用を目指す取り組みを始めています。
天然ゴムの価格
天然ゴムは自然由来原料のため、世界情勢や環境などが影響し、価格にも反映します。天然ゴムの近年の価格動向は以下のとおりです。
【天然ゴムの価格動向(1980〜2020年)】
2010年は3.65ドルと高い価格で取り引きされていましたが、2012年に欧州債務危機による欧州経済の悪化、2013年には中国をはじめとする新興国の経済鈍化の影響により、2015年はキロ当たり1.57ドルまで価格が下がっています。
2021年は新型コロナウィルスの影響を受けました。しかし、その後の経済活性化が期待される動きから、2.32ドルまで天然ゴムの価格が上昇しています。
原料の供給および価格に安定性のない天然ゴムに対して、安定した供給が可能で、低価格で生産できるのが合成ゴムです。合成ゴム技術の飛躍によって、ゴムと同じように使用できる、または天然ゴムとは異なる性質を持つさまざまな合成ゴムが生まれました。
天然ゴムと合成ゴムの違い
天然ゴムと合成ゴムを見た目だけで区別するのはとても困難ですが、両者の明らかな違いは、原料と加工方法、そして用途です。
天然ゴムの機械的特性を超えられる合成ゴムがない一方で、天然ゴムにはない性質や形状を持つ合成ゴムもあり、さらに天然ゴムや合成ゴムを混合して使用することもあります。そのため、天然ゴムと合成ゴムどちらが優れているか一概に比較することはできません。
天然ゴムの性質と特徴
天然ゴムの原料は、ゴム樹であるヘベアブラジリエンシス(バラゴムノキ)の樹液です。この木の幹を傷つけ、樹液を採取します。ブラジル北部の州(パラ州)が原産地ですが、現在では東南アジアの熱帯地域を中心に植樹と伐採が行なわれています。
天然ゴムは以下の性質を持っています。
・優れた弾力、伸長、粘着、耐久性
・破壊強度が大きい
・金属との接着性に優れている
・内部発熱が低い
このほか、合成ゴムと比べて耐候性や耐オゾン性が低いため劣化しやすく、また耐油性や耐熱性も弱いという短所があります。
天然ゴムは特に大きな摩擦や負荷のかかるバスやトラックなど大型のタイヤに多く用いられています。
天然ゴムとラテックスは違うもの?
「ラテックス」は天然ゴムの取引形態のひとつで、以前は「天然ゴム=ラテックス」として呼ばれていました。現在は、機械的強度により取引形態が異なるため、ラテックスを含む天然ゴムは以下の3種類に分けられています。
▼ラテックス
本来ラテックスは、ゴムの木の幹を傷つけて採った樹液(フィールドラテックス)を指します。ゴム製品としてのラテックスは、この樹液が凝固しないようにアンモニアを添加し、濃度を調整してつくった液体の天然ゴムです。液状のため柔軟性が高いのが特徴で、糸ゴム、ゴム手袋、タイヤコードの浸漬加工、接着剤などに使われています。
ラテックスには、天然ラテックスと合成ラテックスがあり、混合する材料の有無や配合率により分けられます。天然ゴムの保有率が80%以上なら天然ラテックス、それ以下は合成ラテックスです。
▼RSS(視覚格付けゴム/VGR)
RSSはシートラバーとも呼ばれ、その名のとおりシート状に加工した天然ゴムです。
フィールドラテックスを固めた後、乾燥、スモークしてつくられます。機械的強度が高いため、タイヤをはじめとした自動車用の製品や部品に多く用いられています。
▼TSR(技術的格付けゴム)
粉砕したゴムをブロック状に成形したゴムです。原料ゴムの違いにより等級が異なり、例えばUSS(スモーク前のRSS)や、樹液を採集する容器に付着して固まったゴムを原料としたものは中級品、フィールドラテックスのみや高純度の原料を使用したものは上級品です。
またRSSが視覚的に格付けされるのに対し、TSRの場合は、ゴム、窒素含有量、可塑度残留率、灰分、ウォーレス可塑度、揮発性物質などの分析検査の結果で格付けされます。
TSRはRSSよりも機械的強度が落ちるものの、価格の安さがメリットです。そのため、RSSの代替として使用できるTSRを開発したメーカーもあります。
合成ゴムの性質と特徴
合成ゴムは、石油やナフサ(原油を蒸留して分離した石油製品)を原料に作られた化学工業品です。化学的に製造するため、使用する原料によってさまざまな特性を持たせることができるのが特徴です。現在、化学構造による分類だけで十数種類あり、市場に流通している合成ゴムに関しては100種類以上あるとされています。
合成ゴムは、用途によって汎用ゴムと特殊ゴムに分けられます。
▼汎用ゴム
価格が安く、自動車タイヤをはじめとした幅広い用途に使用される合成ゴムです。主に炭化水素だけで構成したゴム群で、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)などがあります。なお、ゴムという大きなくくりの中では、天然ゴム(NR)も汎用ゴムに該当します。
▼特殊ゴム
天然ゴムにはない耐油性、耐候性、耐熱性などの特性が添加されているのが特徴で、自動車用や工業用の部品などに多く使用されます。化学構造により、イソブチレンイソプレンゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(F)、アクリルゴム(ACM)などの種類があります。
天然ゴムの加工方法
ゴムの木から採取した樹液(ラテックス)をろ過して不純物や固形物を除去した後、以下の手順で加工され、天然ゴムがつくられます。
1.ラテックスに酸を添加後、型枠に入れてシート状に固める
2. 5~7日間、屋外・屋内で自然乾燥
3.乾燥後、ゴム工場にて生ゴムシートの検査および選別
4.洗浄後、いぶしながら乾燥(スモーク)
5.ゴム内のゴミを除去。その後、視覚検査により国際規格(RSS1~RSS5)に等級づけ
6.シートを積み重ね、111.11kgを基準に圧縮成形
天然ゴムが使われているもの
天然ゴムは弾性、耐摩耗性などの機械的強度が高いため、主に以下の用途で使用されています。
・トラック、バスなどの大型タイヤ
・ホース
・履物
・靴底
・工業機械用ベルト
・一般工業用品 など
天然ゴムは自然環境などの影響を受けるために品質や価格が安定せず、またゴミなどの不純物が混入するなどのデメリットがあります。そのため、天然ゴムと似た構造を持ち、品質や価格も安定している合成ゴムであるイソプレンゴムが代替品として用いられることもあります。
天然ゴムの劣化の原因と防止策
天然ゴムは機械的強度が高い一方、耐熱性、耐油性、耐候性、耐オゾン性が低く、主に以下のような条件が原因で劣化しやすい性質を持っています。
◇オゾン
オゾンは強い酸化作用を持つ気体で、空気中にも存在しています。天然ゴムを含めた二重結合の分子構造のゴムは、オゾンと反応すると化学変化が起こし、垂直方向に亀裂が走るオゾンクラックという現象が発生します。
オゾンによる天然ゴムの劣化を防ぐためには、主に以下の方法があります。
・天然ゴムの表面にワックスを塗る
・天然ゴムに老化防止剤を配合する
・オゾン濃度が高い場所で使用しない
・保管方法に気を付ける
天然ゴムにワックスを塗ることで、表面に薄い皮膜をつくり、オゾンの作用から保護します。また老化防止剤はオゾンの化学反応を抑え、劣化を防ぐことができます。
保管場所や方法を考慮するのも、オゾンによる劣化の防止に有効です。例えば、湿度やオゾン濃度の高いクリーンルームのオゾン発生器付近や直射日光の当たる場所に置かない、保管時は積み重ねや曲げを避けて伸びが発生しないようすることでも効果が期待できます。
気候や自然環境
天然ゴムは耐候性、耐熱性ともに低くなっています。低温環境では弾性が失われて硬化し、反対に高温環境では、天然ゴムの物性が低下して粘着や亀裂などが発生する原因となります。また熱や光、水も劣化を引き起こす原因であるため、湿気や直射日光といった自然環境も、耐候性の低い天然ゴムにとっては天敵です。
天然ゴムの気候や自然環境による劣化を防ぐには、以下のような対策を行ないます。
・耐熱限界温度、耐熱安全温度、耐寒限界温度を超えた使用をしない
・湿度の高い場所に保管しない
・直射日光の当たる場所を避ける
また、天然ゴムの一般的な各限界温度は以下のとおりです。
・耐熱限界温度:80℃
・耐熱安全温度:65℃
・耐寒限界温度:-50℃
これらの限界温度以外の環境で使用しないことに加えて、高温や低温のものと接触させないことも重要です。
油
天然ゴムは非耐油性ゴムであり、油によって劣化します。油の種類は動物性、植物性などの天然由来、石油などの化学由来を問いません。対策方法としては、パッキンやシール材などの油と接触する用途で天然ゴムを用いないことです。
天然ゴムのデメリットは合成ゴムで補える
天然由来の原料から作られている天然ゴムは、ゴムの中でも最高の弾性を誇り、機械的強度にも優れています。しかし、品質や価格が安定しない、自然破壊の原因にもなるなどのデメリットがあります。一方で合成ゴムは、安定した供給が可能な反面、天然ゴム以上の弾性を得ることはできません。
このように両者にはメリットとデメリットがあり、それぞれに独自の物性や性質を持っています。そのため、製品の目的や用途に適したゴムを選択することが重要です。
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