ゴムの硬さ(JIS硬度)と圧縮率|Oリング・パッキンの材料選定で押さえる基礎
「硬度70で」と指定したのに、組み付けたら漏れる。あるいは、硬すぎて組み付かない――。シール部品の設計で、硬度は最もよく指定される項目のひとつですが、実は硬度だけを合わせても、シール性能は決まりません。
硬度は、材料を選ぶうえでの分かりやすい入口です。数値で表せるため、図面にも書きやすく、つい「硬度さえ合わせれば大丈夫」と考えてしまいがちです。しかし、シールがきちんと機能するかどうかは、硬度に加えて「どれだけつぶすか(圧縮率)」と「どんな溝にはめるか(溝設計)」の組み合わせで決まります。硬度だけに注目していると、この全体像を見落としてしまいます。
実際、シール不良の相談の多くは、材質や硬度そのものではなく、硬度・圧縮率・溝設計の「組み合わせ」に原因があります。一つひとつは正しくても、組み合わせが噛み合っていないと、漏れや組付不良が起きるのです。だからこそ、硬度を単独で考えるのではなく、シール設計という全体の中で位置づけることが大切になります。
結論です。シール性は「硬度 × 圧縮率 × 溝設計」の組み合わせで決まります。 硬度を合わせても、つぶし代が不足すれば漏れ、過大なら組付不良や永久ひずみを招きます。この記事では、JIS硬度の基本から、圧縮率との関係、そして失敗しないための勘所までを整理します。
JIS硬度(デュロメータ硬さ)とは
まず、硬度の基本を押さえましょう。ゴムの硬さは、一般にデュロメータ(硬度計)を使って測定します。日本ではJISで規定されており、代表的なのがタイプAとタイプDです。
タイプAは、一般的な柔らかいゴムの硬さを測るのに使われます。私たちが日常的に「硬度70」などと言うとき、多くはこのタイプAでの測定値を指します。一方、タイプDは、硬質ゴムや樹脂に近い、硬い材料を測るのに使われます。
つまり、「硬度70」と言っても、タイプAの70とタイプDの70では、まったく硬さが違います。図面に硬度を指定するときは、どのタイプでの値なのかを明記することが、認識の食い違いを防ぐ第一歩になります。
測定値がばらつく要因
硬度は、同じ材料でも測定条件によって数値が変わることがあります。押さえておきたい要因は3つです。
ひとつめは、厚みです。試料が薄すぎると、下の台の硬さの影響を受けて、実際より硬い値が出ることがあります。
ふたつめは、温度です。ゴムは温度によって硬さが変わります。低温では硬くなり、高温では柔らかくなる傾向があります。
みっつめは、測定面です。表面が平らでなかったり、測定位置がばらついたりすると、値もばらつきます。
これらを理解しておくと、「硬度の数値が図面どおりでも、実使用では感触が違う」といった場面で、原因を切り分けやすくなります。
硬度と圧縮率(つぶし代)の関係
シール設計で硬度と並んで重要なのが、圧縮率(つぶし代)です。Oリングやパッキンは、溝の中でつぶされることで隙間を密封します。このつぶす割合が圧縮率です。
硬度と圧縮率には、密接な関係があります。硬いゴムは、同じだけつぶすのに大きな力が必要になります。反発力が強いので、しっかり密封できる反面、相手の面の凹凸への追従性は下がります。逆に、柔らかいゴムは追従性が高いものの、反発力は弱くなります。
つまり、「硬ければよい」「柔らかければよい」という単純な話ではなく、用途に応じて硬度と圧縮率のバランスを取る必要があります。高い面圧で確実に密封したいのか、細かい凹凸に追従させたいのか。求める機能によって、最適な組み合わせは変わります。
シール設計での硬度選定
ここからは、材質・硬度の観点から、用途に応じた選び方の目安をお伝えします。ただし、溝寸法・面圧・相手部品との関係は取付側(シール設計)の領域であり、最終的な硬度・寸法は、それらと合わせて決める必要があります。
シールの用途は、大きく静的シール(動かない部分の密封)と動的シール(往復運動や回転運動を伴う部分の密封)に分かれます。
静的シールでは、比較的しっかりつぶして確実に密封する設計が取りやすい一方、動的シールでは、摩擦や摩耗も考慮する必要があります。硬すぎれば相手を傷つけたり、追従できずに漏れたりし、柔らかすぎれば摩耗が早まったり、隙間に食い込んだりします。
特に注意したいのが、隙間への食い込み(はみ出し)です。圧力がかかると、ゴムが溝と相手部品の隙間に押し出されようとします。硬度が低すぎると、この食い込みが起きやすくなります。高圧の用途では、硬めの材料を選ぶ、あるいはバックアップリングを併用するといった対策が検討されます。
硬度だけでは決められない理由
ここまで見てきたように、シール性能は硬度単独では決まりません。加えて、もうひとつ重要な事実があります。同じ硬度でも、配合によって物性が異なるということです。
硬度70のニトリルゴムと、硬度70のフッ素ゴムは、硬さこそ同じでも、耐熱性・耐薬品性・圧縮永久ひずみといった物性はまったく違います。さらに、同じニトリルゴムの硬度70でも、配合が違えば、へたりやすさ(圧縮永久ひずみ)などに差が出ます。配合は材料メーカーの領域であり、私たち自身は配合を行いませんが、用途に応じた材質・硬度の選定は、材料メーカーと連携してご相談いただけます。
圧縮永久ひずみは、シール部品では特に見落とせない物性です。これは、長時間つぶされ続けたゴムが、元に戻ろうとする力をどれだけ保てるかを示します。この値が悪い材料は、時間とともにへたって、シール性能が落ちていきます。硬度が合っていても、圧縮永久ひずみが用途に合わなければ、長持ちしません。
用途から硬度・材質を選ぶときの目安
硬度と材質を選ぶとき、「まず用途ありき」で考えると迷いが減ります。ここでは、代表的な考え方を整理します。あくまで方向性であり、実際の選定は個別の条件確認が前提です。
確実な密封を優先する静的シールでは、中〜やや高めの硬度が扱いやすいことが多くなります。しっかりした反発力で密封しつつ、組付けが極端に難しくならない範囲を狙います。
細かい凹凸への追従が必要な用途では、やや低めの硬度が向きます。相手の面の微妙な凹凸に、ゴムがなじんで密封します。ただし、低すぎると隙間への食い込みや摩耗のリスクが上がるため、下限には注意が必要です。
高圧がかかる用途では、隙間への食い込みを避けるため、硬めの材料や、バックアップリングの併用が検討されます。
動きを伴う動的シールでは、硬度に加えて、摩擦特性や耐摩耗性も重要になります。硬すぎれば相手を傷つけ、柔らかすぎれば早く摩耗する。このバランスが要点です。
そして忘れてはならないのが、使用環境(接触する流体・温度)による材質の制約です。いくら硬度が適切でも、その材質が使用環境の薬品や油、温度に耐えられなければ意味がありません。硬度は「材質を決めたあとの調整項目」と位置づけ、まず使用環境から材質を絞り、そのうえで硬度と圧縮率を詰めていく――この順序が、失敗の少ない選び方です。材質選定については、耐薬品性・耐油性の早見表もあわせてご活用ください。なお、ここで示したのは材料側の目安です。実際の値は、溝設計や相手部品、使用条件と合わせて、取付側と擦り合わせて決めてください。私たちは、その材料側の判断をご相談ベースでお手伝いします。
硬度と耐久性・摩耗の関係
硬度は、シール性だけでなく、部品の耐久性にも関わります。動的シールのように、擦れ合う部位で使われる場合、硬度は摩耗の進み方に影響します。
一般に、硬すぎるゴムは相手の面を傷つけやすく、柔らかすぎるゴムは自身が早く摩耗しやすい傾向があります。どちらに寄せるべきかは、相手部品の材質や表面粗さ、動作の速さ・頻度によって変わります。摩耗が進むとシール性能は徐々に低下するため、「どのくらいの期間、性能を維持したいか」という寿命の観点も、硬度選定に織り込む価値があります。
また、硬度と圧縮永久ひずみの関係も、耐久性を考えるうえで重要です。同じ硬度でも、圧縮永久ひずみの小さい配合を選べば、長期間つぶされ続けてもへたりにくく、シール性能が長持ちします。長寿命が求められる用途では、硬度の数値だけでなく、この圧縮永久ひずみまで含めて材質を選ぶことが、結果的にメンテナンスの手間やコストを抑えることにつながります。
図面で硬度を指定するときの実務
ここまでの内容を、図面指定の実務に落とし込んでおきましょう。硬度を図面に書くときは、次の点を意識すると、認識の食い違いを防げます。
まず、測定タイプを明記すること。前述のとおり、タイプAの70とタイプDの70はまったく違います。「硬度70(タイプA)」のように書いておくだけで、解釈のぶれがなくなります。
次に、公差(許容範囲)を添えること。硬度は測定条件で数値が動くため、「70±5」のように、現実的な許容範囲を持たせるのが一般的です。ぴったり70でなければ不可、という指定は、ゴムの性質上、現実的ではありません。
そして、硬度だけで材質性能を代表させないこと。硬度は数ある物性のひとつにすぎません。耐熱・耐薬品・圧縮永久ひずみといった、その用途で本当に重要な性能を、硬度とは別に明示しておくことが大切です。硬度だけを頼りに材質を決めると、肝心の性能が抜け落ちることがあります。
理想は、硬度を単独で決めるのではなく、使用環境・要求性能とあわせて、材質選定の一部として決めることです。私たちは、材料メーカーと連携しながら、用途に合った材質と硬度の組み合わせをご提案できます。「硬度をいくつにすべきか分からない」という段階でも、用途をうかがえば、適切な方向性を一緒に定められます。
よくある失敗と確認ポイント
最後に、シール設計でよくある失敗を整理しておきます。
最も多いのが、硬度指定だけで発注してしまうケースです。硬度は選定の入口にすぎず、圧縮率や溝設計、圧縮永久ひずみまで含めて考えないと、シール性能は保証できません。
次に多いのが、溝寸法との不整合です。Oリングの硬度や寸法が正しくても、溝の設計が合っていなければ漏れます。硬度・圧縮率・溝設計は、三位一体で考える必要があります。溝設計の詳細は、公差設計の記事で扱っていますので、あわせてご確認ください。
なお、Oリングは金型成形品であり、その公差はVDI規格に基づく金型公差で管理されます。硬度や圧縮率とあわせて、公差の考え方も押さえておくと、シール設計の精度が一段上がります。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 硬度70とは何を指しますか?
一般に、デュロメータ タイプAでの測定値を指します。図面ではタイプを明記することをおすすめします。
Q. 硬度が同じなら、どのゴムでも同じ性能ですか?
いいえ。配合によって、耐熱性・耐薬品性・圧縮永久ひずみなどの物性が異なります。
Q. つぶし代はどれくらいが適切ですか?
用途(静的/動的)と溝設計によって変わります。求める機能に応じて設計します。
Q. 硬度を上げれば漏れにくくなりますか?
一概には言えません。硬すぎると追従性が下がり、かえって漏れることもあります。
Q. シール部品で、硬度以外に必ず確認すべき物性は?
圧縮永久ひずみです。長期間のシール性能を左右します。
硬度・圧縮率・溝設計のバランスは、用途をうかがえれば一緒に詰められます。材質が決まっていない段階でも、お気軽にご相談ください。
平日9:00〜17:30/図面・資料の添付にも対応しています。
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