ものづくりプレス
2023-12-17
アクリル樹脂について解説
汎用性が高く、外観の美しさから『プラスチックの女王』とも言われるアクリル樹脂は、高い耐候性と優れた加工性、耐衝撃性を兼ね備える便利な素材です。
透明度が高く、ガラスの代替材料としても重宝されるアクリル樹脂の特徴やアクリル板の種類、アクリル樹脂の成形・加工法について解説します。
アクリル樹脂とは
アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルを重合してつくられる熱可塑性プラスチックのひとつで、光沢と透明度の高さを主な特徴とする非結晶性樹脂(無定形樹脂)です。
見た目の美しさに加え、ガラスよりも耐久性や耐衝撃性に優れているため、さまざまな用途に使用されています。
アクリル樹脂といってもその意味は広義で、アクリル系ポリマー全体を指すこともあれば、一般にアクリル樹脂と呼ばれているメタクリル樹脂を意味することもあります。
◇アクリルとメタクリル
先述したように、アクリル樹脂はアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを重合した高分子化合物を指しますが、このうちメタクリル酸エステルを重合してつくられたものがメタクリル樹脂です。 そのため、メタクリル樹脂も一般にはアクリル樹脂と呼ばれています。
透明性を表す基準となる全光線透過率は、プラスチックの中で最高の約92パーセントとされています。 一般的なガラスの全光線透過率は90%程度であるため、メタクリル樹脂はガラスよりも透明性が高いことを意味しています。
一方、アクリル酸エステルはほかのモノマーと共重合しやすい性質があります。
そのためアクリル樹脂をベースとして、性能の異なるアクリル樹脂の合成や、塗料、接着剤、粘着剤などに応用されることがあります。
アクリル樹脂の特性
『プラスチックの女王』とも言われるアクリル樹脂は、「耐候性」「加工性」「耐衝撃性」という3つの優れた特性を兼ね備えています。
そのため、航空機や光学レンズなど専門分野で重宝されているだけでなく、DIYやハンドメイドアクセサリーの材料など、身近で使いやすい素材としても広く知られるようになりました。
アクリル樹脂の長所と短所を詳しく見ていきましょう。
◇長所
アクリル樹脂はガラスよりも透明度や衝撃性に優れ、紫外線や風雨に耐えられる高い耐候性を持つなど、非常に高性能で実用的な素材です。
▼耐候性
太陽光や紫外線からの影響を受けにくく、雨・風・雪などの厳しい気象条件下での使用にも耐えうる優れた耐候性を持っています。
そのため、看板や建築材料などに適しているほか、自動車のテールランプやパトカーの赤色灯などにも使用されています。
▼加工性
射出成形、圧縮成形、押出成形、真空成形など、さまざまな成形方法に対応します。 また研磨や切断、穴あけなどのほか、接着剤による貼り合わせにも適しているなど、加工の自由度が高い素材です。
さらに、一般的なガラスの比重が2.5なのに対し、アクリル樹脂の比重は1.19と半分以下であり、加工の際の扱いやすさもメリットです。
高い強度に加え、軽量でガラスより柔軟性があり、特別な技術力がなくても加工しやすいことから、DIY初心者でも使用しやすい素材と言えるでしょう。
▼透明性
全光線透過率が約92%と、プラスチックの中で最も透明度が高い点もアクリル樹脂の大きな長所です。ケイ酸塩を主成分とする一般的なガラスよりも高い透明性を有します。
アクリル樹脂は比較的自由な形状に加工できるため、ガラスでは難しい厚さや形状の製品の代替素材として多用されています。
なお、ケイ酸塩を主成分とするガラスは無機ガラスまたはミネラルガラス、またアクリル樹脂を主成分としたものを有機ガラスやアクリルガラスと、呼称で区別することがあります。
▼耐衝撃性
アクリル樹脂の耐衝撃性は、無機ガラスの約10~16倍と言われています。 何千トンもの高い水圧にも耐えることができるため、水族館の大型水槽にも使用されています。
万が一割れた場合でも、無機ガラスのように鋭利で大きな破片が飛び散る危険性がないのも、大きな利点のひとつです。
▼耐久性
耐候性が高く耐水性もあるアクリル樹脂は、耐久性の高さにも定評があります。 屋外使用でも10〜20年、アクリル性の水槽は30年以上使用されているケースも見受けられます。
アクリル樹脂が開発された1930年代以来、航空機などの風防ガラスにアクリル樹脂が多用されていることからも、その耐久性が証明されています。
◇短所
耐衝撃性や耐久性に優れたアクリル樹脂ではありますが、耐熱性の低さやキズがつきやすいなどの欠点があります。 それぞれ詳しく見ていきましょう。
▼耐熱性
アクリル樹脂は、熱を加えると軟化する性質を持つ熱可塑性プラスチックのため、耐熱性に劣り、連続耐熱温度は約60〜87度です。
また、材料の燃焼持続性を評価する酸素指数も17〜18と低く、比較的燃えやすい部類に属しています。
▼硬度
剛性はアルミニウムと同等であるものの、摩擦に弱く、表面にキズがつきやすいという短所があります。 またアクリル樹脂表面の硬度を鉛筆で例えると、2H~3H程度とされており、無機ガラスよりも劣ります。
なお樹脂表面にシリコーン塗料を塗布し、キズを防ぐ加工法を施すことで、この欠点をカバーすることが可能です。
アクリル板の製法と特徴
アクリル樹脂でつくられた板のことをアクリル板と言います。
製法により押出し材板とキャスト材板の2種類に分けることができ、それぞれに長所と短所があります。
特徴をよく理解し、用途に合った製造法を選ぶことが大切です。
◇押出し板
加熱溶融して粘土状になったアクリル樹脂を、ローラーで押し出して成形した板です。
板の状態のまま使用するのに適しています。
▼長所
・板厚の寸法精度が高い
・溶剤に溶けやすいため、溶剤接着する製品に適している
・穴あけや熱曲げなどの加工が容易で、熱成形しやすい
・値段が安価
▼短所
・温度や環境による反りが出やすい
・薬品などによるクラックや細かいヒビが入りやすい
・加熱部分が溶融するため、高速切削加工や彫刻に不向き
▼活用例
屋内看板、アクリルケース、ショーケース、DIY材料 など
◇キャスト板
加熱溶融したアクリル樹脂原料を2枚のガラス板を重ね合わせて作った型に流し込み、成形した板です。
押出し板と比べて硬度が高く、熱にも強いため、屋外で使用する製品の素材に適しています。
▼長所
・押出し板より硬度が高く、反りにくい
・熱に強く、機械加工に適している
・押出し材ではつくれない大きな板(1,000mm×2,000mm以上)や厚い板(20mm以上)の製造が可能
▼短所
・板の厚みにばらつきが出やすい
・溶剤接着加工に時間がかかり、接着強度が低い
・値段が高価
▼活用例
アクリルカラー板、水槽、彫刻加工した看板 など
◇主な成形方法
アクリル樹脂は加工しやすい素材のため、さまざまな成形や加工方法に対応できます。
主に以下のような成形方法があります。
▼シート成形
文字どおり、シート状に成形する方法です。 主にプレス成形、真空圧空成形、フリーブロー成形などで行ないます。
▼真空成形
まず、金型の近くに設置したヒーターでアクリルシートを加熱軟化させた後、冷却固化させる前にシートを金型に密着させます。その後、金型にあいた無数の穴から空気を抜き、真空状態にすることで成形する方法です。 薄肉品や大型製品の成形に適しています。
また、凹凸いずれかの金型だけで成形できるため、コストが比較的安価で、試作や型修正がしやすいというメリットがあります。
▼射出成形
アクリルのペレット原料をシリンダー内で加熱溶融し、圧力で金型に射出注入して冷却固化させる方法で、複雑な形状の成形が可能です。
水分を多量に含んでいると外観に影響するため、ペレット原料を乾燥機で4時間ほど乾燥させる必要があります。
◇主な加工方法
アクリル樹脂は切削性に優れているので、木材加工の要領で容易に加工できるのが特徴です。
▼切断
ノコギリやアクリル用カッターを使い、切断することが可能です。 薄い押出し材や厚みのあるキャスト材は、レーザーなどの加熱式カッターを使うと断面が綺麗に仕上がります。
なお、熱により溶解するおそれがあるため、高速切削加工は押出し板には不向きです。
▼曲げ
押出し板に適した加工方法です。 180~200℃程度に熱した成形炉やヒーターで加熱し、ゴム状の軟らかさになったところで曲げた後、固まるまで冷却します。
▼穴あけ
ハンドドリルや電動ドリルなど、木材と同じように加工することが可能です。
アクリル専用のビットを使えば、割れやヒビが入りにくく、綺麗に仕上がります。
薄いアクリル板は、熱した針金や釘などで穴あけすることも可能です。
アクリル樹脂とプラスチックの違い
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルを重合してつくられる熱可塑性プラスチックのひとつです。
つまり、アクリル板とアクリルガラスは同じプラスチックの仲間と言うことができ、大きな違いはありません。
アクリル樹脂の主な用途
アクリル樹脂は、その透明度の高さや軽量性・耐候性などを活かし、飛行機やヘリコプターの風防やメガネのレンズなどさまざまな分野で使用されています。
また、安価で加工しやすい押出し材のアクリル板は、透明な間仕切りやパーテーションとしても大活躍しています。
アクリル樹脂が用いられている主な製品をご紹介します。
◇車両・航空関係
航空機の風防・窓、自動車内装部品、メーターカバー、テールランプ など
◇光学部品
眼鏡用非球面レンズ、コンタクトレンズ、光学レンズ、プリズム、導光板 など
◇その他
照明カバー、ショーケース、看板、水槽、浴槽、食品容器 など
便利で安全、生活にも身近なアクリル樹脂
ガラスの代替品として開発された歴史を持つアクリル樹脂。1934年に工業化されて以来、さまざまな分野で使用される便利な素材として、身近な存在となりました。
また光沢性や透明度の高さ、着色のしやすさから、DIYやハンドメイドの材料としても重宝されています。
アクリル樹脂の特徴や長所を知ると、思わぬ使い道が見つかるかもしれません。
便利で安全、自在にデザインできるアクリル樹脂を導入してみませんか?
記事検索
NEW
-
2024/12/08合成ゴムSBRの基礎知識 その製造方法と特徴スチレンブタジエンゴム(sbr...
-
2024/12/07ゴムの架橋とは?加硫との違いもご紹介!ゴムの弾力性や耐熱性などの...
-
2024/12/07研磨加工とは?加工の特徴や費用、製品の具体例をご紹介!研磨加工は、製品の表面を滑...
-
2024/12/07金型とゴムの接着加工とは?喰い切りと洗浄の基本を解説ゴム製品の製造は、接着、成...
CATEGORY
ARCHIVE
- 2024/12 10
- 2024/12 10
- 2024/12 10
- 2024/12 10
- 2024/12 10
- 2024/11 27
- 2024/11 27
- 2024/11 27
- 2024/11 27
- 2024/11 27
- 2024/10 39
- 2024/10 39
- 2024/10 39
- 2024/10 39
- 2024/10 39
- 2024/09 35
- 2024/09 35
- 2024/09 35
- 2024/09 35
- 2024/09 35
- 2024/08 27
- 2024/08 27
- 2024/08 27
- 2024/08 27
- 2024/08 27
- 2024/07 20
- 2024/07 20
- 2024/07 20
- 2024/07 20
- 2024/07 20
- 2024/06 2
- 2024/06 2
- 2024/06 2
- 2024/06 2
- 2024/06 2
- 2024/05 8
- 2024/05 8
- 2024/05 8
- 2024/05 8
- 2024/05 8
- 2024/04 12
- 2024/04 12
- 2024/04 12
- 2024/04 12
- 2024/04 12
- 2024/03 10
- 2024/03 10
- 2024/03 10
- 2024/03 10
- 2024/03 10
- 2024/02 2
- 2024/02 2
- 2024/02 2
- 2024/02 2
- 2024/02 2
- 2024/01 9
- 2024/01 9
- 2024/01 9
- 2024/01 9
- 2024/01 9
- 2023/12 14
- 2023/12 14
- 2023/12 14
- 2023/12 14
- 2023/12 14
- 2023/10 5
- 2023/10 5
- 2023/10 5
- 2023/10 5
- 2023/10 5
- 2023/09 9
- 2023/09 9
- 2023/09 9
- 2023/09 9
- 2023/09 9
- 2023/08 13
- 2023/08 13
- 2023/08 13
- 2023/08 13
- 2023/08 13
- 2022/04 2
- 2022/04 2
- 2022/04 2
- 2022/04 2
- 2022/04 2
- 2022/02 4
- 2022/02 4
- 2022/02 4
- 2022/02 4
- 2022/02 4
- 2022/01 1
- 2022/01 1
- 2022/01 1
- 2022/01 1
- 2022/01 1
- 2021/12 1
- 2021/12 1
- 2021/12 1
- 2021/12 1
- 2021/12 1
- 2021/11 5
- 2021/11 5
- 2021/11 5
- 2021/11 5
- 2021/11 5
- 2021/10 3
- 2021/10 3
- 2021/10 3
- 2021/10 3
- 2021/10 3
- 2021/08 3
- 2021/08 3
- 2021/08 3
- 2021/08 3
- 2021/08 3
- 2021/05 5
- 2021/05 5
- 2021/05 5
- 2021/05 5
- 2021/05 5
- 2021/04 1
- 2021/04 1
- 2021/04 1
- 2021/04 1
- 2021/04 1