ものづくりプレス

2025-01-28

無充填プラスチックで最高の機械強度を持つPAI(ポリアミドイミド)樹脂

PAI(ポリアミドイミド)は、無充填プラスチックで最高の機械強度を持つスーパーエンプラです。厳しい使用環境にも耐えられる耐熱性と優れた電気特性、摺動性があり、金属の代替素材として幅広い分野で重宝されています。
この記事では、PAIの物性や主な用途、ポリアミドやポリイミドとの違いについて解説します。

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PAI(ポリアミドイミド)樹脂の物性

PAI(ポリアミドイミド)は、優れた耐熱性や機械的強度を有するイミド結合と、強靭性と柔軟性を有するアミド結合の両方を合わせ持つ熱可塑性樹脂です。
物性はメーカーによって多少異なりますが、標準的なPAI樹脂の物性は以下のとおりです。

◇熱可塑性樹脂の中で最高レベルの耐熱性、耐熱温度

ポリアミドイミドは融点が300℃前後、耐熱温度が275℃前後と熱可塑性樹脂の中で最高レベルの耐熱性を有しています。200℃以上の厳しい環境でも機械的強度を保ち、その強さは常温のエンプラの強度に匹敵するほどです。


◇線膨張係数が低く、優秀な寸法安定性

高温下でも力学的強度に優れ、中でも圧縮強さと曲げ強度はほかに類をみない程です。
また、耐疲労性や耐クリープ性にも優れているため、寸法安定性にも秀でています。

◇高い機械強度(摩擦係数、耐衝撃性、引張強さなど)

摩擦係数が低いため、耐摩耗性や摺動特性、耐衝撃性などが高く、高温下の使用にも耐えることができます。

◇成形や加工性が良好(射出成形、押出成形など)

アミド結合を有するため軟らかく、加工性に優れています。押出成形や射出成形、圧縮成形などでの成形が可能です。
また、通常の機械加工や接着、めっき加工もできます。

◇優れた難燃性

燃えにくい性質を持ち、燃焼の際も非常に少ない煙しか排出しません。

◇高い耐薬品性

高い耐薬品性を有し、酸やアルカリに侵されず、有機溶剤に対しても高い耐性を示します。
また塩素化水素やフッ素化炭化水素にも侵されません。

◇優れた電気特性(絶縁性が高い、誘電率・導電性が低い)

高い絶縁性、低い誘電率・導電性と、全体的に優れた電気特性を示します。その特性は、非常に優れた電気特性を有することで知られるポリイミドとほぼ同等と言われています。

◇外観(色、手触りなど)

非常に滑らかな手触りで、色は黄土色から茶色、黒系です。樹脂表面には光沢があります。


PAI(ポリアミドイミド)樹脂の欠点

非常に滑らかな手触りで、色は黄土色から茶色、黒系です。樹脂表面には光沢があります。
全体的に優れた特性を持つPAIですが、以下のような欠点もあります。

◇吸水性・吸湿性が高い

親水性の高いアミド結合を分子構造に持つため、高い吸水性・吸湿性があります。雰囲気温度210℃以上の環境で使用する場合、乾燥させてから使用しないと、膨張による破損の恐れがあります。

◇耐アルカリ性に劣る

耐酸性は良好ですが、強アルカリに侵される場合があるので注意が必要です。

◇価格が高い

PAIと同様の機能性に優れたスーパーエンプラのPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂よりも、さらに高価です。

PAI(ポリアミドイミド)樹脂の主な用途

優れた耐熱性と耐摩耗性、耐衝撃性を生かし、機械的負荷が大きく、使用環境温度が非常に厳しい機械部品に多く使用されています。

◇電子・家電部品

安定した電気特性と耐熱性を持つため、電子レンジやアイロンなどの部品に用いられています。また耐薬品性にも優れていることから、ヘアアイロンやドライヤーなどヘアドレッサー部品の材料としても重宝されています。

主な電子・家電部品の用途

電子レンジ部品、ヘアドレッサー部品、アイロン部品、プリンタ部品、コイルボビン、プリント基板部品、バーンインソケット、ブレーカー部品、ソケット、プロジェクター など

◇自動車部品

その機械的強度や耐熱性から、金属の代替素材として多くの自動車部品に使用されています。

主な自動車部品の用途

スピードセンサー部品、エンジン部品、スロットルボディ部品、トランスミッションバルブ、イグニッション部品 など

◇産業機器部品

高い機能性を有することから、各種産業機器の部品としてはもちろん、半導体部品の検査装置や製造ラインの部品としても重宝されています。

主な産業機器部品の用途

各種製造ライン用部品・真空ポンプ・半導体・半導体検査装置部品・搬送容器・液晶製造装置部品・治工具・コンプレッサー など

◇食品関係

耐油性や食品接触適合性があり、表面が滑らかで汚れがつきにいという性質を生かし、食品機器にも使用されています。

主な食品関係の用途

電子レンジ部品、食器洗い機部品、攪拌ブレード、カッター、食品機器 、包装部品 など

◇ポリアミドイミド銅線

PAIの電気特性を生かし、銅線に絶縁皮膜としてPAI樹脂膜を焼き付けたエナメル線がポリアミドイミド銅線(AIW)です。
耐熱クラスは200〜220℃前後で、耐熱性や耐冷媒性、耐摩耗性に優れるなど、全体的に機械的強度に秀でています。

主なポリアミドイミド銅線(AIW)の用途

耐熱モーター・電動工具用モーター・電装品 など

◇ポリアミドイミド塗料、コーティング、ワニス

耐熱性や耐薬品性に優れ、高温下でも耐摩耗性や摺動性などの機械的特性を維持するため、各種塗料の接合剤として広く使用されています。

主なポリアミドイミド塗料、コーティング、ワニスの用途

耐熱塗料、腐食防止塗料、絶縁コーティング塗料、耐薬品性塗料、潤滑性塗料 など

◇その他(航空、医療など)

高圧蒸気や放射線に対する耐性も有しているので、繰り返し滅菌処理可能な素材です。そのため医療機器や器具にも多く使用されています。
また航空産業においても、照明器具や各種電気機械部品、航空機のエンジン部品などに用いられています。

PAI(ポリアミドイミド)とポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)の違い

PAI(ポリアミドイミド)は、ポリアミド(PA)とポリイミド(PI)の特性を備えたスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)です。

ポリアミド(PA)は汎用エンプラ、ポリイミド(PI)はスーパーエンプラで、いずれも名前は似ていますが、合成方法や物性は異なります。


ポリアミド(PA)は、商品名であるナイロンの名で広く知られています。耐摩耗性や靭性が高く、柔軟性を持つ樹脂ですが、PAI(ポリアミドイミド)と比較した場合、PAIの引っ張り強さや曲げ強さはPAの約2倍です。


またポリイミド(PI)は、超耐熱エンプラとも言われており、最も耐熱性に優れた熱硬化樹脂です。PAI(ポリアミドイミド)と比較した場合、PAIはPIに比べ連続使用温度が低い一方で、破壊靭性は高いという特性を持っています。例えば一部のグレードにおいて、PAIは最大260℃程度まで強度と剛性を維持しますが、PIでは最大370°Cまで操作できます。


また化学物質への耐性や耐クリープ性、耐摩耗性の高さは、いずれも同等に優れています。さらに化学的劣化がほとんど見られず、厳しいストレス下や過酷な化学環境・高温下でも動作できる特性を有しています。

金属の代替素材として期待されるPAI(ポリアミドイミド)樹脂

非常に優れた耐熱性や機械特性を有するPAIは、金属の代替素材として軍需産業や航空宇宙産業でも注目のスーパーエンプラです。またその絶縁性の高さから、ポリアミドイミド銅線やPAIコーティングは、ハイブリッドカーや電気自動車の主要部品に用いられる電磁コイルや周辺部品への使用が進むなど、活躍の幅を広げています。
今後もPAI(ポリアミドイミド)樹脂の需要はますます加速していくとみられ、その動向から目が離せません。