ものづくりプレス
2025-06-25
エポキシ化天然ゴム(ENR)とは? 環境配慮で注目されるその特性と用途
エポキシ化天然ゴム(ENR)は、化学反応によってエポキシ基を取り込んだ天然ゴムです。天然由来のゴムでありながら合成ゴムの代替品として改質されたその性能は、近年の環境意識の高まりから注目が集まり始めています。 本記事では、エポキシ化天然ゴム(ENR)の特徴や、その特性を活かした製品についてご紹介します。
■エポキシ化天然ゴム(ENR)とは
エポキシ化天然ゴム(ENR)は、エポキシ化という技術を使って処理を行なった天然ゴムです。エポキシ化とは、過酢酸、過ギ酸、メタクロロ過安息香酸などの有機過酸を使用し、ラテックス状のゴムの分子の結合部分を過酸させ、エポキシ基を取り入れる反応です。エポキシ化した天然ゴムは性能が向上することから、従来天然ゴムでは充分な性能を発揮できなかった用途にも、エポキシ化天然ゴム(ENR)は使用されています。
またエポキシ化の技術は、表面処理にも活用されています。かつてはパウダーやコーティング、塩素処理などが主流でしたが、地球環境だけでなく作業環境にも悪影響を及ぼすことが問題視されていました。しかしエポキシ化の導入により、これらの問題が改善されています。
■エポキシ化天然ゴム(ENR)の特性
エポキシ化したゴムは、天然ゴムと比較してどのような性能の違いがあるのでしょうか。エポキシ化天然ゴム(ENR)が持つ6つの特性についてご説明します。
◇①極性が高い
極性とは、分子や化学結合における電荷の偏りのことで、物質は高い極性を持つ溶媒により溶解しやすいという性質があります。エポキシ化天然ゴム(ENR)はこの極性が高く、NBR(ニトリルブタジエンゴム)と同程度の優れた耐油性を持っています。さらに極性分子を持つ物質と親和性があることから、例えば水に対しては吸水しやすくなり、ゴムの充填剤であるシリカとは、一般に必要とされるシランカップリング剤(無機質と有機質の素材をsu添加剤)を使用せずに配合が可能です。
◇②ガラス転移点
ガラス転移点とは、物質が冷えたときに硬質なガラス状になる温度のことです。エポキシ化天然ゴム(ENR)は天然ゴムよりもこれが高い傾向にあり、冬などの低温環境では弾性を失い、硬化しやすくなります。
また、エポキシ化の度合いが1パーセント上がるとガラス転移点は約1度上がりますが、この度合は調整することが可能です。
◇③密度
エポキシ化の度合いが上昇するにつれ、密度もそれに比例して高くなります。一般に密度が高くなると、重量や強度が増します。
◇④ガス透過性
エポキシ化天然ゴム(ENR)は、ガス透過性が高いとされるブチルゴムに匹敵するほどガスや気体を通しにくい性質を持っています。ガス透過性の高さは、気密性や密封性に優れていることを示します。
◇⑤低反発弾性
衝突したときに跳ね返す力を反発弾性と言います。この力が低いということは、衝撃を吸収する力が大きいことを意味します。そのため、エポキシ化天然ゴム(ENR)はクッション性の高さが求められている製品などに適しています。
◇⑥耐熱性
エポキシ化する際に使用される界面活性剤の影響により、本来天然ゴムが持つ老化防止効果成分が取り除かれてしまいます。そのため、耐熱性は天然ゴムよりも低下します。
しかし合成の老化防止剤を配合することで、一定の耐熱性を付与することが可能です。
■エポキシ化天然ゴム(ENR)の用途
元々優れた性能を持つ天然ゴムですが、エポキシ化することによって、さらに高い機能を付与することができます。そのため、エポキシ化天然ゴム(ENR)はさまざまな用途で使用されています。
ここではその中から2つの事例を紹介します。
◇タイヤへの応用
一般的にタイヤの原料の約6割は石油由来の材料が使われています。しかし、近年は環境問題や資源の有限性の観点から、石油を使わない製品開発に取り組む社会的必要性が出てきています。そこで合成ゴムの代わりとして注目されているのが天然ゴムです。
実際、天然ゴムは大型車のタイヤに使用されていますが、ガラス転移点が低いという問題があります。そこでエポキシ化によりガラス転移点を調整できるというメリットを生かし、エポキシ化天然ゴム(ENR)が新たな素材として注目されています。今では多くのメーカーが研究や開発を重ね、機能に特化したエポキシ化天然ゴム(ENR)製のタイヤを製品化しています。
◇ゴムホース、その他への応用
エポキシ化天然ゴム(ENR)には極性があり、極性分子を持つ物質と高い親和性を示します。この特性はゴムホースにも生かされています。 例えば、ガス用高圧ホースは複数層で構成されています。
そのうち内面ゴム層にエポキシ化ゴムを使用した場合,エポキシ基が内面樹脂層と親和性を持つことで、接着剤を使わずに接着が可能となります。さらに接着剤塗布の際に使用していたVOC(揮発性有機化合物)も削減できることから、環境問題やコストの低減に貢献します。
エポキシ化天然ゴム(ENR)の持つこの特性は、ゴムホースだけでなく、粘接着剤としても使用されています。そのほか、優れた耐油性やガス透過性などを生かし、スポーツシューズや安全靴、ボール、コンベヤなどの用途にも使われています。
■将来的な用途拡大に期待
エポキシ化天然ゴム(ENR)は、本来天然ゴムが持つ優れた性質に加え、弱点である耐油性などを改良したゴムです。また原料のほとんどが石油外資源であり、限りある資源の節約だけでなく、環境にも配慮した素材と言えます。
現時点では用途は限られていますが、上手く活用できればこれまでにない製品を製造につながる可能性を持つ素材かもしれません。
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