金属のレーザー加工：超高精度で実現する微細部品の作成

ものづくりプレス

2025-04-23

加工方法

製造業において、「高精度」「非接触」「スピーディー」といった要素は、年々求められるレベルが高くなっています。そうしたニーズに応える技術のひとつが、レーザー加工です。特に近年注目されているのが、熱の影響を最小限に抑えつつ、微細な加工を可能にする「フェムト秒レーザー」や「5軸制御技術」の組み合わせです。
本記事では、レーザー加工の基礎から最新の5軸フェムトレーザー加工までをわかりやすく解説し、ものづくりの未来を変えるその可能性について掘り下げます。

レーザー加工って何？その基本と最新技術を簡単に解説

レーザー加工とは、高エネルギーのレーザービームを対象物に照射し、切断、穴あけ、彫刻などを行う加工技術です。最大の特徴は、工具による接触がなく、摩耗や変形の心配が少ない点にあります。これにより、金属、プラスチック、ガラス、セラミックなど、さまざまな材料に対して高精度な加工が可能です。
従来のレーザー加工では、レーザーによる熱が材料に与える影響（熱変性）が問題となっていましたが、現在では「フェムト秒レーザー」と呼ばれる超短パルスレーザーが登場し、状況は一変しました。フェムト秒レーザーは1フェムト秒（1兆分の1秒の1000分の1）という極めて短い時間でレーザーを照射するため、材料に熱がほとんど蓄積せず、熱によるダメージや変形を極限まで抑えることができます。
これにより、これまで加工が困難だった極薄素材や、熱に弱い樹脂系素材に対しても、驚くほど精緻な加工が実現可能となっています。

5軸フェムトレーザー加工の可能性

5軸フェムトレーザー加工は、レーザー技術とNC（数値制御）機構を融合させた次世代の精密加工手法です。「5軸」とは、X・Y・Zの直線移動に加えて、2軸の回転（A軸・B軸）を加えた計5つの自由度を持つことを指します。これにより、従来の平面加工では不可能だった複雑な3D形状の表面にも、正確な角度・深さで加工ができるようになりました。
また、フェムト秒レーザーとの組み合わせにより、熱影響の極めて少ない状態で微細かつ高精度な加工が可能になります。この技術は、単なる「切る・削る」加工を超えて、微細構造の形成や微小穴あけ、内面彫刻などにも応用されており、まさに産業界におけるイノベーションの中核を担う存在です。

5軸フェムトレーザー加工の活躍が期待される分野

微細部品の製造
航空機や自動車などの先進産業では、軽量化と高性能化を両立させるために、複雑な形状の金属部品のニーズが急増しています。5軸フェムトレーザー加工は、これらの複雑な3D形状を一工程で正確に加工することができ、組立の簡素化や工程削減、さらには材料ロスの低減にもつながります。また、従来では不可能だった内部構造の形成や微細な肉厚制御も可能です。

医療技術の進化
人工関節やステント、外科手術用具といった医療機器は、患者ごとに形状が異なることが望ましい「カスタムメイド」が理想とされています。5軸フェムトレーザー加工は、3Dスキャンデータをもとに患者専用のインプラントを精密に加工できるため、術後の適合性向上や回復の早期化が期待されます。また、手術中に使う極小ツールの加工も、高精度で実現できます。

マイクロエレクトロニクス
スマートフォン、タブレット、ウェアラブル機器などの小型電子機器では、基板や微細配線の加工が極めて重要です。5軸フェムトレーザー加工は、狭いスペースでも精緻に回路を形成したり、熱に弱い部材への加工を安全に行ったりすることができるため、デバイスの高性能化と小型化の両立を支援します。

バイオマテリアルの加工
近年注目されているバイオマテリアル（生体適合性の高い新素材）に対しても、非接触・低熱影響で加工できるフェムトレーザー技術は相性が良く、医療分野での応用が急速に進んでいます。体内で自然分解する素材への複雑な孔あけや、細胞レベルでの構造加工など、従来の機械加工では難しかった技術が実現可能です。

芸術とデザイン
アートや装飾の分野においても、5軸フェムトレーザー加工は新たな可能性を拓いています。木材、ガラス、貴金属、樹脂など、さまざまな素材に対し、高精細な模様彫刻や3D形状の加工ができるため、これまでの製造方法では表現しきれなかった複雑な意匠や独自性の高いデザインが具現化できます。工芸、ジュエリー、建築デザインの分野でも活用が広がっています。

まとめ：5軸フェムトレーザー加工が拓く未来

5軸フェムトレーザー加工は、精密加工に求められる「非接触・非熱変性・高自由度」のすべてを兼ね備えた、次世代の加工技術です。その特性は、産業用途だけでなく、医療やアート、先端技術分野にまで応用が可能であり、今後もますます需要が高まることが予想されます。
これまで不可能だった形状や素材への加工が現実となり、ものづくりの世界に新しい地平を開くこの技術。精密さと自由度の両立が求められる未来において、5軸フェムトレーザー加工はその中心的な存在として、大きな役割を果たすことになるでしょう。