ものづくりプレス

2023-08-18

樹脂の加工方法と材料となる樹脂の種類

樹脂にはさまざまな種類が存在しており、それぞれが持つ特性や性質に違いがあります。中には「そもそもプラスチックと樹脂の違いが曖昧でわかっていない」と感じる方もいるのではないでしょうか。


当記事では樹脂とプラスチックの違いから樹脂の種類と特性、さらに樹脂の加工方法の概要について解説します。

樹脂とプラスチック

樹脂とプラスチックは違うもの?

結論から言えば、「天然樹脂とプラスチックは違うもの」、「合成樹脂とプラスチックはほぼ同じもの」と考えて差し支えありません。定義として分けるのであれば、「樹脂は原料」であり「プラスチックは完成品(成形品)」といえます。

樹脂とは

樹脂は「樹」と「脂」という字が使われていますが、実際には樹だけでなく「植物体から分泌される精油類緑物質」の総称となります。実際に植物から出た、ヤニ状の高分子物質を「天然樹脂」といいます。

「じゃあ合成樹脂も天然素材なの?」という疑問が出てきますがそうでありません。合成樹脂とは石油(ナフサ)を原料とし、化学反応を用いて人工的に作られた高分子体のことです。天然樹脂を模して人間の手で作られた素材で、供給が安定しない天然樹脂の代替品として使われてきました。

例えばゴムだと、「ゴムノキ(ゴムの木)」から取れた天然樹脂を利用したゴムは「天然ゴム」に分類され、合成樹脂を利用したゴムは「合成ゴム」と呼ばれます。

プラスチックとは

前述のとおりプラスチックは石油を原料とし、化学薬品との合成によって作られた「合成樹脂」のことです。天然樹脂に類似した性質を持つことから樹脂の名前が使われていますが、実際に樹脂を原料としているわけではありません。

もともと樹脂という言葉は天然樹脂そのものを意味していましたが、この合成樹脂の誕生によって「天然樹脂」と「合成樹脂」に名称が分かれるようになりました。

英語では「plasticity」とされ、和訳すると「可塑性(かそせい)」です。可塑性は「一定以上の力を加えると、力を取り去っても歪みが残る」ことで、樹脂の性能がそのまま当てはまります。プラスチックを使った加工製品は、この可塑性を利用して造形を行っているのです。


素材としてのプラスチックの特徴は次のとおりです。


·    木材や金属よりも成形がしやすい

·    安価かつ短時間で製造できる

·    ひとつの型があれば大量生産ができる

·    着色がやりやすい

など


上記からわかるとおり、合成樹脂は天然樹脂を模しつつ製品用に加工しやすいように作られました。プラスチック素材は産業用や家庭用問わず、さまざまな製品に用いられています。

実はプラスチック製のゴムはない?

少し表現が難しいですが、日本においてプラスチック製のゴムはありません。

まず日本産業規格(JIS)にあるプラスチックの定義に「ゴム・塗料・接着剤は除外される」と記されています。そもそもプラスチックにはゴムのような弾力はありません。しかし、合成ゴムは間違いなく合成樹脂が原料となっています。

ではなにが違うのか。それは合成樹脂が「プラスチック」と「エラストマー」に分かれることが関係しています。

普段私たちの生活で普及している一般的なプラスチックは「汎用プラスチック」と呼ばれ、プラスチックから作られます。一方、合成ゴムは「エラストマー」に分類され、弾力から強度までプラスチックと異なるものとなっているのです。


エラストマーとは、常温でゴムのような弾性を持った柔らかい高分子を意味します。一般的にゴムと呼ばれるのは「熱硬化性エラストマー」ですが、2021年現在では「熱可塑性エラストマー」というプラスチックとエラストマーの2つの性質を持つ素材も注目されています。

ただ、このあたりの分類や定義は書籍や企業によっても微妙に分かれる点ではあるので、一旦は「プラスチックとエラストマーがある」「ゴムはエストラマーの一部」という認識で問題ありません。

ゴムはさらに充填剤や老化防止剤なども加えて製造します。

樹脂加工に使用される樹脂の種類

合成樹脂のうちプラスチックは、「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」に分かれます。

熱可塑性樹脂

熱可塑性樹脂とは、熱を加えると溶けて軟化、さらには液状になり、冷やすと再び固まる性質を持ったプラスチックです。そこからさらに再加熱しても同じように軟化し、冷やすと再び固まります。

成形が容易にできるタイプであることから、熱硬化性樹脂より生産性に優れているのが特徴です。

熱可塑性樹脂は、大きく分けて以下の3種類に分けられます。



種類

概要

汎用プラスチック

日用品に使われるごく一般的なタイプ

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)

·         強度を高めたもので、電子部品や機械的性質を要求される製品や場所で使われるタイプ

·         一般的には耐熱性100℃以上のもの

スーパーエンジニアリングプラスチック

·         エンジニアリングプラスチックよりさらに強い耐熱性を持ったタイプ

·         一般的には耐熱性150℃以上のもの

以下では、3種類それぞれのプラスチックに当てはまる素材をまとめました。



<汎用プラスチック>

ポリエチレン(PE

耐寒性、耐薬品性、絶縁性、耐油性に優れるが耐火性や接着性に難あり

ポリプロピレン(PP

ポリエチレンと似た性能だが耐候性に難あり

ポリスチレン(PS

耐候性、絶縁性、加工性に優れるが耐熱性や耐衝撃性、耐薬品性、耐油性に難あり

ポリ塩化ビニル(PVS

可塑剤を用いることで耐性をある程度コントロールできる

ABS樹脂

非常に汎用性が高い素材

 

<エンジニアリングプラスチック>

ポリアセタール(POM

耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱・耐寒性、酸以外の耐薬品性などが優れるが、加工性や難燃性に難あり

ポリアミド(PA

耐摩耗性やそのほかの強度も優れ、防弾チョッキにも使われるが吸水性に難あり

ポリカーボネート(PC

透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、加工性に優れるが、耐薬品性、接着性に難があり、アルカリ性の洗剤で劣化する

変性ポリフェニンレンエーテル(m-PPE

エンプラ中トップの軽量さを持ち、耐衝撃性や耐疲労性、耐薬品性に優れるが、加工が非常に難しい

ポリブチレンテレフタレート(PBT

加工性、絶縁性、耐摩耗性などが優れており、バランスがよい

 

<スーパーエンジニアリングプラスチック>

ポリエーテルエーテルケトン(PEEK

性能と値段ともにトップレベルで、金属の代替としても使用される

ポリアリレート(PAR

強度、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、耐摩耗性、耐薬品性に優れる

ポリスルホン(PSU

耐熱性、耐寒性、耐衝撃性、耐薬品性に優れており、さらに加工性もよい

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE

圧倒的な耐薬品性に加えて高い耐熱・耐寒性、絶縁性、難燃性を持つ上、摩擦係数の低さから物質がくっつきにくい

液晶ポリマー(LCP

耐熱性、強度の強みに加え、振動吸収や気体を通さない性質などがあるが、一定方向にしか力を発揮しない

ポリアミドイミド(PAI

ポリアミドとポリイミドの両方の性質を持つ

<スーパーエンジニアリングプラスチック>

熱可塑性ポリイミド(TP)

対プラズマ性を持ち、航空宇宙分野にも用いられる

ちなみに上記の分け方の他にも、「結晶樹脂」と「非結晶樹脂」という分類方法も存在します。

熱硬化性樹脂

熱硬化性樹脂とは熱可塑性樹脂と違って、一度でも熱を加えると三次元構造または網状構造となり、そのまま形が固定される性質を持ったプラスチックです。


熱可塑性樹脂と比べて生産性は劣るものの、機械的強度や耐熱性に優れます。金属と比べて軽量な点も長所の1つです。主な熱硬化性樹脂の種類は次のとおりです。


·    エポキシ樹脂(EP): 耐薬品性、耐水性、耐熱性、絶縁性に優れており、炭素繊維を組みわせて耐熱性を持たせることも可能

·    フェノール樹脂(PF): もっとも古い人工プラスチックであり、現在もほかの材料と混ぜて利用される ·    ユリア樹脂(UF): フェノール樹脂と似た性質を持ちつつ、フェノール樹脂より優れた接着性を持つ

·    メラミン樹脂(MF): ユリア樹脂より強度や耐熱性、耐水性に優れる

·    シリコン樹脂(SI): 水のはじきがよく、耐油性や耐熱性にも優れる


一般的な製品というより、製造をサポートする治具といった産業用に使われることが多いです。

樹脂の加工方法

樹脂を加工するには、主に次の方法を用います。


·    射出成形

·    押出成形

·    旋盤加工

·    フライス加工

·    注型

·    ウォータージェット加工


それぞれみていきましょう。


射出成形

射出成形とは融解させた樹脂を金型に注入し、冷えて固まったところを取り出す加工方法です。インジェクション成形とも呼びます。

金型固定を用いた大量生産ができたり、金型次第で複雑な形状が成形できたりなどのメリットがあります。

主に熱可塑性樹脂に用いる加工方法です。

押出成形

押出成形は、あらかじめ融解させた樹脂をダイと呼ばれる金型に流し込み、その後押し出し機などによる押し出し、冷却機による冷却、硬化という順番で成形する方法です。

複雑な断面の形成が可能なのはもちろん、かかる力が少ないことによって脆い素材でも成形できるメリットがあります。また、ところてんのように押し出されることから、得られる表面も非常に滑らかです。

旋盤加工

旋盤加工とは、旋盤に工作対象物をセットして回転させ、バイトと呼ばれる刃を当てて切削する加工方法です。

外径や内径の寸法を見ながら成形できる点や、丸棒や円状の工作物の加工がやりやすい点がメリットです。旋盤には「汎用旋盤」や「NC旋盤」などの種類があるため、現場に応じた旋盤を選択しましょう。

フライス加工

フライス加工は、フライスと呼ばれる刃をセットして回転させ、工作対象物を当てて切削する方法です。フライスの形状を選択することで、平面の削りから溝堀り、穴あけなど臨機応変な加工が可能になります。

職人のスキルを反映できる手動の汎用フライスから、コンピュータ制御を可能としたNCフライスなどがあります。

注型

注型とは、すでに作成してある試作品(マスター)からシリコンで型を取り、その方に樹脂を流し込んで固める加工方法です。

試作品さえあればすぐに製品を複製できる点や、一体成型によって実際に近い状態での成形が可能な点がメリットとして挙げられます。ただし本来の樹脂特性は得られません。

ウォータージェット加工

ウォータージェット加工は、ポンプの力を加えつつ小径ノズルから勢いよく噴射させた水で樹脂を切断し成形する方法です。

熱に弱い樹脂や電気を通さない樹脂の加工に対応できます。また局地的にエネルギーが集中する加工であるため、よけいな変形や歪を防げる上に、脆い素材の加工も可能です。

それぞれの樹脂の特性をふまえて材料選びを

「樹脂」には合成樹脂から天然樹脂、さらには熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などさまざまな種類が存在します。とくに熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂ではポリエチレンを始めとする多くの種類があるため、加工の際にはそれぞれの樹脂の特性を踏まえた材料選びが大切になるでしょう。

加工方法も考慮しつつ、最適な樹脂加工を実施してください。


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