ものづくりプレス

2023-12-08

防音もゴムで解決! 意外に響く音の対策

作業する音や人の足音が階下に響くなど、防音対策が求められるときに効果を発揮するのがゴムです。

ひと口にゴムと言っても、音の原因や性質、効果によって種類が分かれます。そのため、用途に応じたゴムを製造するには、材料選びも重要になります。

この記事では、各防音方法とそれに適したゴム材料、ゴムを使用すべき場所などについて解説します。

防振ゴム

机上の音も階下に響く?

防音と聞いて、工事や乗り物などの騒音対策をイメージする人も多いかもしれません。しかし実際は、気付かないうちに自分が騒音を出していたり、作業音や足音が下の階に響いていたりするなど、屋内でも他人に迷惑をかけている場合があります。


例えば、机上で書類を揃える「トントン」という音など、些細な音が階下まで響いて苦情にまで発展したケースがあります。それも、音の発生元と思われる机の下に防振ゴムを敷き、防音対策を施していたにもかかわらずです。


ではなぜ、このような何気ない音が問題になったのでしょうか。


それは、音には「硬いもの同士で伝わる」という性質があるためです。


このケースの場合、使用していた防振ゴムは硬質のものでした。そこで、軟らかい素材の防振マットを追加したところ、苦情はなくなりました。このように、間違った対策は解決にはなりません。そのため、音の性質や状況を見極め、最適な防音方法を施すことが重要なのです。

4種類の防音方法

防音対策は、音を制御する方法の違いにより「吸音」「遮音」「制振」「防振」の4つがあり、それぞれに機構や得られる効果が異なります。

確実な防音をするためには、場所や目的などに合った方法と素材を選ぶことが大切です。

次に防音方法ごとの具体的な特徴と、最適な素材について解説します。

◇吸音

音を吸収して防音効果を発揮する方法です。

音エネルギーが吸音材にあけられた細かい穴を通り抜ける際、摩擦よって熱エネルギーに変わり、力が弱まります。その結果、防音効果が得られるという仕組みです。


吸音は、室内での音の反響を抑える効果があるため、例えば楽器の練習室、会議室などへの使用に適しています。

しかし吸音性能が高すぎると、反響音を失って聞こえにくくなることもあるので、目的によっては適度な反響音を残すことも必要です。


▼吸音に適した材料

吸音には、細かい穴がたくさんあいている多孔質材料や、音の振動を吸収する膜状材料が多く用いられています。

またガラスや炭素などを原料とした無機繊維材、ゴム樹脂などが使用されることもあります。 特にウレタンフォームは、気泡同士が繋がった構造を持つだけでなく、気泡そのものも細かく、単位質量当たりの表面積が大きいことから、高い吸音性能を発揮できる吸音材として知られています。また、中に空気層を設けたり、鋼板などと組み合わせたりすれば、低中音域の吸音率をアップさせることも可能です。

ウレタンフォームを含め、吸音材として使用されている主な材料は以下のとおりです。

・ウレタンフォーム

・グラスウール

・ロックウール

・石膏ボード

・セメント板


  天然ゴムや合成ゴムなどのゴム素材は吸音性能があまり優れておらず、吸音材として用いることはほとんどありません。しかしその物性を生かし、現在研究開発が進められています。

例えば、古タイヤを粉砕、細粒化して吸音材としたものは、既に実用化されています。

◇遮音

空気中に伝わる音を跳ね返し、外に音が伝い漏れるのを防ぐ防音方法が遮音です。防音対策の中では、もっとも手軽に行なわれている方法のひとつでもあります。



しかし遮音は、音を跳ね返すという理論上、外に漏れなかった音が室内で反響することになります。結果、遮音性が高くなるほど室内の音が聞き取りにくくなるというデメリットが発生します。  


そのため、音の大きさや状況に応じて反響をコントロールする吸音材や拡散材などの調音材を併用するのが有効な方法です。


▼遮音に適したゴム系材料

遮音材には、表面積が大きく、面密度や質量の高い素材が適しています。

中でも最適なのがゴム系材料です。シート状で現場施工がしやすく、柔軟性があるため曲面のある場所や設備にも施工できるのがメリットです。さらに、遮音性を向上させるために行なうフィラーなどの配合作業を、既存の設備でできることも理由のひとつです。

遮音材は、重量があるほどの遮音効果が高いとされており、ゴム系材料以外では鉄板やコンクリート、石膏なども一般的な遮音材として使用されています。しかし、その重さから施工効率がよくないというデメリットがあります。  


遮音材として使用されるゴム系材料には、天然ゴムや合成ゴムのほか、タイヤチューブからつくられる再生ブチルゴムや再加硫物などの再生ゴムなども含まれています。形態は厚さ1~5ミリ程度のシート状で、そのまま使用するケースもあれば、合板の間に挟んだり、布の両面にコーティングしたりして使用することもあります。

◇制振

例えば、人が歩くと振動が起こりますが、これが床などの固体に伝わると音が発生します。このような振動の共振で起こる音を制御することを制振と言います。


一般に制振の方法は、共振の原因となる場所に直接制振材を使用することで振動を抑え、音の発生を低減させます。  

 また防音効果を高めるために、反響を低減させる吸音材や、音の出入りをさえぎる遮音材と一緒に用いられることもあります。


▼制振に適したゴム系材料

一般に制振材は、ゴム系や樹脂系などの粘弾性のある材料と基材の二層で構成されており、非拘束型(エクステンションタイプ)と呼ばれています。

このほか、拘束層と基材で粘弾性物質を挟んだ構造を持つタイプもあり、これを拘束型(コンストレインタイプ)と言います。拘束層が粘弾性物質の変形を抑えるため、非拘束型より高い制振性を示すのが特徴です。


粘弾性物質にはゴム系材料が多く使われ、中でもブチルゴムが代表的です。

ゴムの制振性能は材料の種類だけでなく、環境温度、ゴムに加わる周波数や振動の振幅によっても変化します。しかし、ゴムを構成するポリマーの種類や分子量、分子構造、充填剤の種類や配合量で特性を変えることが可能です。そのため、使用する目的や環境に合わせてこれらを選択・配合することで、目的に合った制振材に仕上げることができます。

近年では、ポリノルボリネンゴムや、シリコーンゴム、ポリヘキセンゴムなど、ブチルゴム以外のゴムを使った制振材が開発されています。

◇防振

防振とは、機器などの振動が床や壁、外部に伝わらないようにする方法です。振動による衝撃を吸収することで発生する音も低減できるため、結果として防音効果を得ることができます。

防振は、エンジンや発電機、鉄道車両の台車、家庭用洗濯機など、稼働時に大きな振動が発生する機器に対して行なうのが有効です。  



振動の吸収に優れた特性を持つことから、防振材にはゴム系材料が使用されることが多く、一般に「防振ゴム」や「クッションゴム」などと呼ばれています。  


防振ゴムの形状には主に以下の種類があり、用途に応じて敷く・挟むなどして使用します。

・丸型

反発力が強く、シンプルな構造を持つ汎用性の高い小型の防振ゴムです。両ボルトタイプや片ボルトタイプ、片座金タイプがあり、エンジンやポンプなどに接続させて振動を吸収・低減させます。

・V型

ゴムを傾斜状に左右に配置した防振ゴムです。特に空気圧縮機や遠心分離機など、複雑な振動や横方向の揺れに対して効果を発揮します。

・マウント型

機器の下に置くことで、振動を分散させるように働きます。重さのある機械や複雑な振動を発する機械への使用に適しています。

・吊り型

主にダクトや配管類、吊り下げタイプの機械などの振動防止に使用します。天井から吊り下げるタイプ以外にも、配電盤などの取り付けに便利な壁面設置型もあります。

・防振パッド

取り付けが不要で、機械などの下に敷くだけで防振できるタイプです。一般に表面に溝があり、ここから衝撃を吸収することで防振します。  


▼防振に適したゴム系材料

防振目的の場合、振動の伝達率の低さだけでなく設置する場所や機械に適したゴム系材料を選びます。

例えば、屋外に設置する機器なら耐候性の高いもの、油が付着する可能性のある部分には耐油性の高いもの、などです。  

防振に適していると言われているゴム系材料には以下のものがあります。

・天然ゴム(NR)

・ブチルゴム(IIR)

・シリコーンゴム(SI / SR)

・スチレン・ブタジエンゴム(SBR)

・アクリロニトリル ・ブタジエンゴム(NBR)

・クロロプレンゴム(CR) など

防音対策すべき場所

音の発生には、空気を伝わって発生する「空気伝達音」と物質を伝わって発生する「固体伝達音」があります。


空気伝達音を防ぐためには、扉や窓、パーテーションなどの隙間の防音対策をします。吸音材や遮音材を併用すれば、さらに高い効果が得られます。 固体伝達音は、自分でも気が付かないうちに音漏れや騒音を引き起こしていることがあります。例えばオフィスの床や壁が薄い場合、発生した音は構造のコンクリートを介して階下まで簡単に伝わります。


これらの問題を防ぐため、オフィスなどでは次のような場所に防音対策を施すのが効果的です。原因によっては、複数の種類の防音材を使用します。

・床

・壁

・天井

・扉

・窓

・パーテーション


オフィスでの音漏れは、機密情報の漏洩などにもつながります。会議室や応接室の会話などが外に漏れると、企業の生産性が失われる原因にもなります。そのため、気付かない場所の防音対策もしっかりと行なうことが重要です。

さまざまな場所で防音対策として活用されるゴム

ゴムは、家庭用や工業用機械の防振ゴムといった身近なものから、電車のレールと車輪間の騒音を軽減するための防振材まで、防音対策に幅広く使用されている材料です。  


またゴムは種類によって性質が異なるため、音の性質や用途に適したゴム材料を使った防音材を選べば、より高い防音効果を得ることができるでしょう。そのため防音材としてのゴム選びは、ゴムのプロに相談することをおすすめします。

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