ものづくりプレス
2024-01-11
樹脂成形の基礎知識
樹脂成形とは、加熱して溶かした樹脂を金型へ流し込んだり、そのほかの方法で加工したりして、目的とする形状へ成形することです。天然樹脂よりも、量産・加工に向いている合成樹脂(≒プラスチック)を主に用います。
当記事では合成樹脂の概要や樹脂成形の方法などを解説します。
樹脂成形で使用されるのは主に「合成樹脂」
樹脂成形で使用するのは主に合成樹脂です。合成樹脂とは、石油を原料として人工的に生み出された物質のことです。
松脂(まつやに)や漆(うるし)などの「樹液を固めて作った天然樹脂」と似た性質を持つことから、「樹脂」の名前が取られました。
つまり天然樹脂とはまったくの別物です。
合成樹脂は天然樹脂の代替品として作られた背景もあり、加工性や費用の面で天然樹脂より優れたメリットを持ちます。具体的には物質としての軽さや優れた絶縁性、耐水性、耐薬品性などです。ただし熱や衝撃などに弱い点がデメリットです。
合成樹脂はさらに「熱可塑性プラスチック」と「熱硬化性プラスチック」の2種類に大別できます。
◇熱可塑性プラスチック
熱可塑性プラスチック(熱可塑性樹脂)は、熱を加えると流動性(溶融)を持ち、冷却すると再び硬化する性質を持った樹脂です。
私たちの日常生活の中で用いられているものは、ほとんどが熱可塑性プラスチックです。
低コストかつ高いリサイクル性を持っており、生産効率に優れているのが特徴として挙げられます。
反面、熱や機械的強度(摩耗など)に弱い傾向がありますが、耐熱温度が100℃以上や優れた機械的強度を持つタイプも存在します。
熱可塑性プラスチックはさらに以下2つに分類可能です。
・汎用プラスチック:変形温度が低く、成形が簡単な樹脂
・エンジニアリングプラスチック(エンプラ):汎用プラスチックよりも耐熱性や機械的強度を高めた樹脂
いわゆる5大プラスチック(ポリエチレン・ポリ塩化ビニル・ポリプロピレン・ポリスチレン・ABS樹脂)を含む、主な熱可塑性プラスチックの種類は次のとおりです。
熱可塑性プラスチックの種類 |
特徴や用途 |
ポリエチレン(PE) |
・高密度、低密度、エチレン・酢酸ビニルアルコール共重合体などがある ・フィルムやシート、ラミネート、絶縁材料などに用いられる |
ポリ塩化ビニル(PVC) |
・耐薬品性や耐湿性などに優れる ・水道用パイプや電線被覆、雨樋などに用いられる |
ポリプロピレン(PP) |
・耐熱性や強度に優れ、加工もしやすい ・包装や容器関係に加え、自動車部品などにも用いられる |
ポリスチレン(PS) |
・電気絶縁性に優れ、加工もしやすい ・台所用品や食品容器関係、文房具関係に用いられる |
ABS樹脂(ABS) |
・機械強度や耐衝撃性に優れ、加工性も良好 ・PCやプリンタなどのOA機器や自動車部品などに用いられる |
ポリエチレンテレフタレート(PET) |
・耐熱性や耐薬品、耐摩耗性などに優れるが少し加工しにくい ・ペットボトルや電気絶縁材、磁気テープなどに用いられる |
ポリアミド |
・耐熱性や機械的強度に優れるエンプラ ・ベアリングやローラー、ラジエータタンクなどの工業製品や自動車用品に用いられる |
フッ素樹脂 |
・エンプラよりさらに耐熱性や機械的強度に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックの1つ ・軸受やガスケットに加え、フライパンコーティングなどに用いられる |
なお、熱可塑性プラスチックをより細かく分類した場合、プラスチックとゴムの特性をあわせ持つ「熱可塑性エストラマー」などがあります。
また汎用とエンプラではなく、「結晶性プラスチック」と「非結晶性プラスチック」と分類するケースもあります。
◇熱硬化性プラスチック
熱硬化性プラスチック(熱硬化性樹脂)は、一度冷却して固めると、溶かしても冷やしても流動性が戻らないタイプの樹脂です。成形してしまうと再利用ができません。
リサイクル性とコスト面の悪さや成形に時間がかかる点、仕上げ工程の手間などが、熱可塑性プラスチックと比較した場合のデメリットです。
しかし高温でも溶解しにくいという特性上、耐熱性や耐薬品性、機械的強度は熱硬化性プラスチックのほうが優れている傾向があります。
熱硬化性プラスチックの主な種類は次のとおりです。
熱硬化性プラスチックの種類 |
特徴や用途 |
ユリア樹脂(UF) |
・優れた耐熱性かつ安価 ・ボタンやキャップ、配線関係の電気製品などに用いられる |
メラミン樹脂(MF) |
・ユリア樹脂よりさらに優れた耐熱性や、耐水性、機械的強度に優れる ・合板接着剤や電気・電子部品などに用いられる |
フェノール樹脂(PF) |
・電気絶縁性と耐熱性、難燃性に優れる ・電子部品や半導体などに用いられる |
・優れた電気絶縁性 ・電気製品の絶縁材や塗料、プリント配線基板などに用いられる |
|
シリコーン樹脂(SI) |
・優れた耐熱性や耐寒性、低毒性を持ち、汎用性が高い ・耐熱・耐寒が必要な容器やコーディング材などに用いられる |
ポリウレタン樹脂(PUR) |
・成形時に発泡されるフォームタイプと、発泡させない非フォームタイプがある ・フォームはクッションや自動車シート、非フォームはパッキンや塗料などに用いられる |
◇合成樹脂とプラスチックは同じもの?
よく合成樹脂とプラスチックは同じものと例えられますが、定義次第では「合成樹脂は原料」で「プラスチックは成形品(合成樹脂を加工したもの)」と区別するケースもあります。とはいえ実質的にはほぼ同じといって差し支えないでしょう。
合成樹脂はさらに「熱可塑性プラスチック」と「熱硬化性プラスチック」の2種類に大別できます。
樹脂の主な成形方法
ひと口に樹脂成形といっても、これまで多くの成形方法が確立されてきました。
当記事では、主な樹脂の成形方法として以下のタイプをご紹介します。
・射出(インジェクション成形)
・押出成形
・トランスファー成形
・圧縮成形
・真空成形・圧空成形
・その他の樹脂成形方法
成形工程中に「マスターバッチ」と呼ばれるプラスチック着色剤を投入し、一緒に練り込むことで着色することも可能です。
なお、扱う合成樹脂が熱可塑性プラスチックか熱硬化性プラスチックかで若干取り扱い方法が変わりますが、成形方法自体は大きく変わりません。
◇射出(インジェクション)成形
射出(インジェクション)成形とは、加熱して溶かした樹脂を金型に射出して流し込み、その後に冷却によって固めることで成形する方法です。
最初に、ペレットと呼ばれる粒状の樹脂を射出成形機のホッパーに投入します。するとペレットはシリンダへと送られ、シリンダ内で加熱溶解されて液状になります。
その後は注射するイメージで液状の樹脂が金型へ射出され、その状態で冷却(放熱)した後に金型から取り出します。
射出成形は金型さえあれば連続で使用できるため、コストを抑えた大量生産に向いています。また金型の形状に応じた柔軟な成形も可能です。
ただし設備や金型にかかる初期費用が高い点や、成形後の仕上げが手作業になる手間がデメリットです。
◇押出成形
押出成形は、溶かした樹脂を文字どおり金型へ押し出し、押し出した成形物をさらに冷却・カットすることで成形する方法です。
ホッパーから入れたペレットをシリンダ内で溶解させるまでは、射出成形と類似しています。ペレットの溶解後に、液状の樹脂をダイと呼ばれる金型にスクリューを使って押し出すことで、金型どおりの形状で出てきます。
押し出された樹脂は冷却装置(冷却ローラ)を通して固めた後、最後にカットして指定した大きさに切断します。
押出成形のメリットは、パイプやチューブ、丸棒、アンクルなどの棒状や丸棒型のものが生産しやすい点です。
しかし射出成形のように金型で固めて放置するのではなく、工場のラインのように常に連続で製造されます。そのため冷却装置の不良やその日の気温・湿度によって品質が安定しないことがあり、製造環境のチェックが重要になります。
◇トランスファー成形
トランスファー成形(移送成形)とは、射出や押出成形でいうシリンダ部分のトランスファー室(トランスファーポット)で樹脂を加熱し、そこからキャビティと呼ばれる凹型の成形型へプランジャを用いて圧入(移動)して硬化させる成形方法です。主に熱硬化性プラスチックの成形で用いられます。
射出成形と同じように、「液状の樹脂を一旦溜める」「成形する箇所へ移動する」という流れで成形します。しかしトランスファー成形と比べると、樹脂を加熱して溶かす工程をトランスファー室が独立して行なう点と、圧入する樹脂は1回分だけで、なおかつ残留した樹脂は硬化物(カル)として取り出す点が異なります。
トランスファー成形のメリットは、精密成形が可能でバリが少なく薄い成形ができる点や、硬化時間が短い点です。
デメリットとしては、材料の無駄ができる、高い型締力が必要になる。通常と比べ圧縮成形の3倍程度の型締力が必要となるため同じ大きさの製品の成形に対して、大型の成形装置が必要となってしまいます。
◇圧縮成形
圧縮成形は、トランスファー成形と同じくキャビティに樹脂材料を流し込んだ後、圧縮成形機で加圧して硬化させる方法です。主に熱硬化性プラスチックの成形に用いられます。
まず、目的の形状になるように凹凸を噛み合せたキャピティの下側に、樹脂材料を行き渡らせます。その後、上側のキャピティでプレスを行ない、樹脂材料を固めるという非常にシンプルな仕組みです。
圧縮型成形では、事前に樹脂材料を加熱する「予備加熱」を行なうことで、成形の短縮や均一な圧縮が可能です。射出やトランスファーと同じくペレットを用いますが、扱いやすくするためにあらかじめ樹脂材料をタブレット型にしておくケースもあります。
その成形方法のシンプルさから設備も単純な構造であるため、設置のための費用が低めの傾向があります。また高密度の成形品を製造できる点もメリットです。
ただし、投入前には樹脂材料の正確な秤量作業が必要です。量が適切でないと、成形後にもろくなったりバリが多くなったりと、品質が落ちてしまいます。
また大量生産を目的とした成形にも向いていません。
◇真空成形・圧空成形
真空成形とは、金型と金型の上に置いた樹脂材料の間を真空状態にし、金型に吸いつけることで成形する方法です。
まず金樹脂材料を加熱して成形しやすくした後、事前に押出成形でシートやフィルム状にして金型の上に乗せます。その後、金型の内部から真空吸引することで、金型に沿って樹脂材料が張り付く形になります。最後は冷却して固め、仕上げます。
低コストかつ小ロット生産に向いています。
一方、圧空成形は、金型の上に置いたシートやフィルム状の樹脂材料を圧縮空気によって加圧し、金型に密着させて成形する方法です。真空成形よりも高い圧力での成形ができます。
◇その他の樹脂成形方法
樹脂成形には、さらに次のような方法もあります。
・注型成形:液状の樹脂材料やモノマーを型に流し込んだ後、圧縮せずに硬化させて成形する方法
・粉末成形:粉末の樹脂材料を用いる成形方法で、加熱しながら回転させる「回転成形」や加熱した金属部品を溶融状態にした粉末の樹脂材料に浸す「流動侵漬法」がある
・カレンダー成形:加熱したロールの間で樹脂材料を練りながら溶かし、決められた厚さまで引き伸ばす成形方法
・ブロー成形:ビンやペットボトルのような空洞状にする加工方法で、中に空気を吹き込むことで中空状態を作り出す
樹脂成形は適切な合成樹脂と成形方法を選択して実施しよう
樹脂成形には、加工性に優れた合成樹脂を用います。種類によっても加工性や特徴が変わるので、目的に応じた合成樹脂を選ぶようにしましょう。
樹脂成形の方法にも、射出成形やトランスファー成形、圧縮成形などさまざまな種類があります。こちらも最終的な成形品に合った方法を選ぶことをおすすめします。
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