ものづくりプレス

2023-12-15

衝撃に強いプラスチック素材「ABS樹脂」

ABS樹脂は、ポリスチレンと呼ばれるプラスチックの強度や耐熱性を改善するために開発されました。
3種類の樹脂を合成してつくられていることから、それぞれの特性を備えた優れた性能と汎用性の高さが特徴です。
当記事では、ABS樹脂の特徴や用途などについて詳しく解説します。

ABS樹脂

ABS樹脂の特徴

発泡スチロールの原料でもあるポリスチレン(スチロール樹脂)は、安価で加工が容易なため、食品用容器や家電製品・自動車用品の部品などに幅広く利用されています。


しかしその一方で、機械的特性(引張り、圧力、曲げなどの外力に対する変形抵抗)の点で問題があり、さまざまな品質改善が行なわれてきました。そのひとつがABS樹脂です。


ABS樹脂は、それぞれに特性を持つ3種類の樹脂を合成してつくられています。
アクリロニトリル:耐熱性、耐油性、機械的強度
ブタジエン:耐衝撃性
スチレン:加工性、光沢


スチレンが持つ加工性の高さはそのままに、衝撃性や剛性が強化されたほか、メッキも可能なため、外観として金属の代替品として家具や建材、家電製品の材料として使われることもあります。
また近年では3Dプリンタの造形材料として使用されるなど、用途の幅もさらに広がりました。

ABS樹脂の強度と耐熱性

ABS樹脂の強度と耐熱性についての特徴は、以下のとおりです。

耐衝撃性、機械的特性

ABS樹脂は、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン樹脂)の中にゴム成分であるブタジエンが均一に分布された構造を持っています。


これにより力学的エネルギーを吸収することから、耐衝撃性はポリスチレンの約40倍とも言われ、アクリルと比較しても優れています。
さらに、引張り、圧力など外力に対する抵抗である機械的特性についても、ポリプロピレンやポリエチレンより高いとされています。

耐熱性

衝撃に対する強度を高めたABS樹脂ですが、耐熱性においてもポリスチレンやポリ塩化ビニルより優れています。
その理由として、AS樹脂がブタジエンの分散状態を固定しており、加熱時でもその安定性を維持できるため、と考えられています。

ABS樹脂の安全性は?

その物性や表面に光沢を持つという特徴から、ABS樹脂は日用品、工業用部品などのほか、家電などのボディなどにも使用されます。


割れにくく、変形しにくい反面で、耐熱温度は一般に70~100度程度とされており、熱に対してはあまり強くありません。
また原料のスチレンやブタジエンには、発がん性や毒性物質があるとされています。


しかしABS樹脂自体は、食品衛生法の「食品器具・食品包装ポジティブリスト(安全性を評価した物質のみを使用する制度)」に入っており、この規格に合致している食器や食品包装を正しく使用している限り、安全性に心配はないと考えられます。


ABS樹脂には、「耐熱ABS樹脂」という種類もあります。110度程度の熱にも耐えられるため、例えば自動車部品や家電製品など、高温状況下の使用においても溶融や有害物質発生などの心配はありません。

ABS樹脂の特徴のまとめ

ABS樹脂が、強度や耐熱性を改質して開発されたことを解説しましたが、ここでその長所と短所を一覧でご紹介します。


長所

短所

・耐衝撃性、機械的特性が高い

・耐熱性、耐寒性が高い

・加工性が高い

・酸、アルカリへの耐薬品性が高い

・優れた表面光沢性

・成形収縮率が低い

・着色が可能

・リサイクルが可能

・耐光性が低く、紫外線などで劣化する

・耐候性が低く、屋外での使用には不適

・燃焼時に独特の臭気を発する

・アルコール類、鉱物油など一般的な薬品や有機溶剤に弱い

 

 

特性を生かした幅広い用途

剛性や加工の容易さなどに加え、表面の光沢の美しさ、さらにメッキや着色、印刷以外にも、切削・接着溶接といった後加工がしやすいのがABS樹脂の特長です。

光沢感を生かした用途

ABS樹脂が持つ光沢感を最大限に引き出す加工方法のひとつに射出成形があります。
溶かした材料を金型に注入し、冷却して固める方法ですが、鏡面仕上げをした金型を使用することで、美しい光沢のある製品が生まれます。
またABS樹脂は滑らかな表面を持つため、研磨や塗装などの二次加工が不要です。


主な用途

家電製品(テレビ、洗濯機、冷蔵庫、掃除機など)、パソコン、プリンター、カメラなどの筐体、自動車・工業部品、自動車内装(コンソールボックス、メーターケース、ラジエーターグリル)、スーツケース、おもちゃ、スポーツ用品、文具など

メッキを生かした用途

プラスチックは電気を通さない性質のため、一般的なメッキ加工ができません。
そこで薬品を使用して物質の一部を腐食させるエッチング加工を行ない、不均等になった表面に金属イオン核を吸着させます。


ABS樹脂の場合、ブタジエンが腐食対象になります。
この方法によりアンカー効果(接着力が高まる効果)が生まれ、樹脂でありながら密着性の高いメッキが可能になります。


近年は装飾目的以外に、耐水性や耐候性など機能性向上のために利用されることもあります。


主な用途

・装飾メッキ:シャワーの取っ手、水洗金具、パソコン・携帯電話、家電用品、鏡、ドアノブなどの住宅関連用品、自動車内装・外装部品など
・機能メッキ:電磁波シールド、剛性・摺動性・耐摩擦性向上、耐熱性・耐候性向上など

ABS樹脂の種類

ゴム成分であるブタジエンをほかの成分に変えることにより、その特性が変化します。
機能なども異なるため、用途に合わせて最適な素材を選択することができます。


名称

変更後の成分

特徴

長所

短所

ACS樹脂

塩素化ポリエチレン

弾性が高まることで、耐衝撃性や耐熱性、耐候性が向上。その反面、引張り強度は低下。

・耐光性

・耐熱性

・耐衝撃性

・外観

・印刷性

・難燃性

・引張り強度の低下

・耐薬品性

AES樹脂

エチレンプロピレンゴム(EPDM)

ABS樹脂と同等の基本特性でありながら、光劣化に対する安定性が向上。バランスの取れた剛性を持つが、熱に弱い。

・耐光性

・機械的特性

・耐熱性、耐寒性

・電気的性質

・成形加工性

・成形収縮率が小さい

・表面光沢

・耐熱性

・有機溶剤に弱い

・燃焼により臭いと煤が発生


ASA樹脂

(AAS樹脂)

アクリレート

ABS樹脂と同等の基本特性でありながら、耐光性や耐候性が向上。また見た目の美しさにも優れている。

・耐光性

・耐候性

・耐薬品性

・耐有機溶剤性

・耐アルコール、耐鉱物油

ブタジエンを差し替える以外にも、ABS樹脂の基本成分に繊維素材を加えて剛性を高めた「強化ABS樹脂」、難燃剤を配合した「難燃ABS樹脂(FR-ABS)」のほか、耐熱性を強化した「α‐メチルスチレン系ABS樹脂」「フェニルマレイミド系ABS樹脂」などもあります。

さらなる需要が期待されるABS樹脂

昨今、長所の強化や短所の改善した材料の開発が行なわれているABS樹脂。
中でも難燃ABS樹脂や木材の代用にも使用される発泡ABS樹脂、さらにポリカーボネートの特徴を兼ね備えたPC/ABSなどは、今後ますます市場の拡大が予測されています。


強い耐衝撃性と高い加工性、そして優れたコストパフォーマンスで、ABS樹脂は今後が大いに期待されている樹脂のひとつと考えられています。

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