ものづくりプレス

2023-12-10

ゴムの耐摩耗性について

歯車やベアリングなど機械部品の摺動部や自動車のタイヤは、摩擦により起きる摩耗での破損に注意する必要があります。摩耗のメカニズムは非常に複雑ですが、解明されているいくつかの要因から対策を講じることも可能です。

ゴム素材にとっても摩耗を防ぐことは重要な課題のひとつです。この記事では、ゴムの摩耗メカニズムや耐摩耗性を向上させる方法、摩耗しにくいゴムの種類について解説します。

ゴムの耐摩耗性について

摩耗とは

摩耗は、「摩擦による固体表面の逐次減量現象」と定義されています。

つまり、摩擦により固体の表面が徐々にすり減る現象であり、プラスチックや金属など、ほとんどの素材で起こり得ます。  


また、荷重や温度環境、摩擦速度などの外的要因のほか、形状や弾力性、潤滑性などの工学的要因が複数合わさり、それぞれ影響し合っているため、メカニズムの解明が非常に難しい課題でもあります。  


摩耗は、故障や事故を招く可能性が特に高く、危険因子として注意しておく必要があります。

弾性・収縮復元性を有し、ベアリング部品やタイヤなどさまざまな用途で使用されるゴムにとっても、これは対処すべき大きな問題のひとつです。

◇摩擦と摩耗の違い

先程、摩耗は摩擦により起きる現象だと説明しましたが、ここで改めて「摩擦」と「摩耗」について解説します。  


まず摩擦とは、表面が触れあっている2つの固体のどちらかが動く際に生まれる、その動きを妨げ、抵抗する力(摩擦力)です。  


一方の摩耗は、その摩擦力や影響により、固体表面が削れて消耗することです。

身近な例で言うと、消しゴムで字を消す際に手に伝わる力は摩擦力で、消しゴムから消しカスが出て徐々に小さくなるのが摩耗です。  


工業的な観点では、摩擦はエネルギーの損失や熱の発生の原因であり、摩耗は故障や劣化の原因となります。

ゴムが摩耗するメカニズム

ゴムの摩耗は、ゴム材料と接する物との間に起こる摩擦により、ゴム材料が擦り減ることで起こります。

ゴム材料の摩耗のメカニズムは非常に複雑であり、未だ充分な研究結果は得られていないのが実情です。  


しかし、ゴムの摩耗を引き起こす主な要因から摩耗をいくつかの形態に分け、原因を追求することは可能です。

◇摩耗の形態

摩耗は複合的な要因の組み合わせにより引き起こされる複雑な現象ですが、以下のように、その要因別にいくつかの種類に分類することができます。


▼アブレシブ摩耗

アブレシブとは、英語で擦りむくことや引っ掻くこと、研磨剤などの意味を持つ単語です。

この言葉を持つアブレッシブ摩耗は、摩擦が生じる物体間において、硬い方が柔らかい方の表面を傷付け、破壊することで起きる摩耗現象です。

物体間に細かい粒子が入り込むことにより生じる場合もあります。


▼粘着摩耗

粘着摩耗とは、摩擦によって生じた摩耗粉が、ゴム自身と他方に付着することで起こります。

この摩耗では、アブレシブ摩耗により削り取られたような摩耗粉のほか、削り取られた低分子量のゴム粒子が酸素と反応し、粘着性の高い粒子に変化した摩耗粉が確認されています。

その一方で粘着性の高い粒子は、その油分やベタつき特性から、時にゴムの摩耗を減少させる可能性があり、現在その研究が進められています。


▼パターン摩耗

摩擦方向と垂直の方向に、アブレーションパターンと言われる帯状の摩耗痕がゴムの表面に出るものを、パターン摩耗と言います。

このパターンに沿って亀裂が生じることで、摩耗が進むと考えられています。

 

▼凝着摩耗

凝着摩耗とは、摩擦により削り取られた摩耗粉がそれぞれに付着し、その部分が再び摩擦により剥がれることを繰り返す摩耗形態です。 接触面に係る荷重が大き過ぎたり、摩擦力が強い材質同士の摩擦面が高温になったりすると起きやすくなる現象です。


▼疲労摩耗

疲労摩耗は、一部分に繰り返し摩擦が生じることで応力が働いてゴム表面が硬化し、破損しながら劣化する現象です。

タイヤや軸受けなどで頻繁に見られる摩耗形態のひとつです。


▼ころ状摩耗粉生成による摩耗

その名のとおり、摩擦によりボールのような「ころ状」の摩耗粉を生成し、摩耗する現象です。消しゴムの原理の応用と言っても良いでしょう。

ゴムのほか、塩化ビニルやナイロンなどの高分子材料が摩耗した時にも同じ現象が見られることがあります。

充填剤や添加剤で耐摩耗性が向上?!

ゴムの種類によっては、製造時に充填剤(フィラー)や添加剤を加えることによって、耐摩耗性を向上させることが期待できます。


主な充填材や添加剤と、その効果について解説します。

◇カーボンブラック

タイヤに使用されるゴムフィラーとして有名なカーボンブラックも、ゴムの耐摩耗性を向上させることが可能です。  


天然ゴム(NR)は、伸ばすと分子が結晶化する延伸結晶性という性質を持っており、その性質により、耐久・耐摩耗性のどちらも高まるという特徴があります。 そのためカーボンブラックを配合しても目立った変化は望めません。  


しかし、スチレンブタジエンゴム(SBR)やニトリルゴム(NBR)などの合成ゴムに配合して架橋した場合、5〜10倍の補強性を確保できます。

その理由として、ゴムとカーボンブラックを混練した時に生じるラウンドラバーという高分子が、補強性をアップさせるためと考えられています。

◇シリカ

カーボンブラックと同様に、近年ではメジャーなゴムフィラーとして定着しているシリカは、二酸化ケイ素からできています。  


引裂強度を高めることで亀裂の発生を防止するため、パターン摩耗の低減が期待できます。また反発弾性にも優れており、摩擦力を抑えることも可能です。 特に、ニトリルゴム(NBR)には有効な方法とされています。  


なおシリカは、カーボンブラックと合わせて配合されることもあります。

◇酸化防止剤 

酸化による劣化や変質は摩耗に大きな影響を与えます。摩耗により生じた微細なゴム分子が酸素に触れることで酸化し、さまざまな摩耗形態を引き起こす要因になります。  


中でも天然ゴム(NR)は酸素の影響を受けやすいため、酸化劣化しやすく、摩耗が起こりやすい性質を持っています。  


酸化防止剤を添加することで、酸化による摩耗の進行を防ぐことが可能です。

摩耗・摩擦に強いゴムと主な用途

ゴム素材の中には、比較的摩耗や摩擦に強いゴムがあります。  


そのゴムの主な種類と用途について解説します。

◇フッ素ゴム(FKM)

ゴム素材の中で、最高の耐熱性と耐薬品性を誇るフッ素ゴムは、耐摩耗性にも優れています。

FKMの代表的な商品である「バイトン」の名で呼ばれることも多いです。  


過酷な環境下で使用されるミサイルやロケット関連製品・部品をはじめ、身近な例では、車のエンジンのクランクシャフトシールにも使用されています。

◇ウレタンゴム(U)

ウレタンゴムは分子構造にウレタン配合を持つポリエステル樹脂ですが、ゴムに負けない弾性を有することから合成ゴムの一種に分類されます。

機械的強度、耐摩耗性も非常に優れています。  


工業用ロールやベルト部品、タイヤパーツなどに採用されている素材です。

◇天然ゴム(NR)

ゴムの木から採取される樹液を原料とするゴムが天然ゴムです。

弾性が強く、最もゴムらしい特性を持ちます。安価で機械的強度も充分なので、汎用的にさまざまな用途で使用されています。  


また、強度に優れ、発熱しにくいという特徴を持つため、バスやトラック、作業車などの大型車両用タイヤの原料にも適しています。

◇ニトリルゴム(NBR)

ニトリルゴムは耐油性が高く、自動車部品や油圧パッキン部品に重宝される合成ゴムです。

耐老化性にも優れ、摩耗もしにくい素材です。  


ベルトコンベアーのベルトや印刷用ロール部品などに用いられています。

◇ブタジエンゴム(BR)

ブタジエンゴムは天然ゴムを凌ぐゴム弾性を有する合成ゴムです。

耐摩耗性も天然ゴムより優れているため、自動車タイヤの側面部分などにも使用されています。

◇イソプレンゴム(IR)

優れた耐摩耗性を有するイソプレンゴムは、天然ゴムと分子構造が近い合成ゴムで、天然ゴムより純度が高いという特徴があります。  

自動車のタイヤに用いられるほか、卓球用ラケットのラバー部分などに使われています。


◇スチレンブタジエンゴム(SBR)

天然ゴムの代用品として開発されたスチレンブタジエンゴムは、現在世界で最も多く生産されている合成ゴムです。  


耐摩耗性が高く、機械的強度も優れていることから、タイヤや軸受け、靴底まで幅広い用途で使用されています。

ゴムは用途により耐摩耗性を考慮すると安心!

摩耗は、多くの物質に見られる現象です。中でもゴムの摩耗は、そのメカニズムが完全には解明しておらず、完璧な対応策はありません。

しかしながら、製品用途の環境を考慮したゴム選びや、加硫の際に特定の充填剤や添加剤を配合することで、摩擦や摩耗に強いゴムをつくることは可能です。  


ゴムの摩耗は製品の品質や安全性に大きく影響します。

そのためにも、用途に応じた種類のゴムを使用するのはもちろん、耐摩耗性も考慮するようにしましょう。  


ゴムの摩耗などについて不明な点があれば、ゴムに詳しい当社に以下のお問合せフォームからお気軽にご相談ください。

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