ものづくりプレス

2023-10-15

医療の現場で活躍するゴム

日用品から業務用途まで、ゴムは幅広い分野で活用されている素材です。医療現場も例外ではありません。近年は新型コロナウイルスの影響により、医療現場で使用するゴムの需要が増えています。 この記事では、医療現場におけるゴム不足の現状や、使用されているゴム製品の種類について解説します。

医療の現場で活躍するゴム

医療現場でもゴム不足?

医療現場で多く使われているゴム製品が、ニトリル手袋です。ニトリルは伸縮性と強度が高い合成ゴムであり、医療用ゴム手袋として活用されています。かつては天然ゴムを使用したラテックス手袋が主流でしたが、ラテックスアレルギーのリスクがあるなどの背景から、より供給しやすいニトリル手袋が開発されました。 しかし数年前、医療現場でのゴム手袋が不足したことがありました。その理由として主に以下のような状況が挙げられます。


・新型コロナウイルスによる需要高

・生産拠点が集中

・大手工場でクラスターが発生

・人件費などのコスト面の問題により国内生産が難しい

・医療現場以外での需要増加


新型コロナウイルスの影響により、医療現場での感染予防の防護具であるニトリル手袋やマスク、ガウンなどが不足するようになりました。ほかの衣料用防護具の品薄状態は比較的早く緩和されましたが、ニトリル手袋は長期にわたって品薄の状況が続きました。


ニトリル手袋が不足した理由の背景に、生産拠点の集中が挙げられます。従来、ラテックス手袋を生産していた工場が、そのままニトリル手袋生産を担っていたためです。現在でも、天然ゴムの農園が広がるマレーシアなどの国に、ニトリル手袋の工場が集中しています。


医療用ニトリル手袋の世界的な不足は、限られた拠点でしか生産していないこともあって手袋の争奪戦にまで及びました。さらに、コロナのクラスターの発生により、操業を停止した工場も多くあります。その結果、ニトリル手袋の生産拠点が減少し、供給が間に合わなくなりました。


不足しているニトリル手袋を日本国内で製造しようと動いているメーカーもあります。しかしニトリル手袋を生産するためには大規模な工場設備が必要であり、海外の安い労働賃金で製造されていたものを日本国内に切り替えるのは、コストの面からも簡単な話ではありません。


この状況に加え、ゴム手袋を使用する現場が増えたことも、ニトリル手袋不足に拍車をかけています。

例えば、今まで素手で行なっていたレジ業務や陳列、飲食店のサービスなどでも、従業員と利用客の感染防止対策にゴム手袋が用いられるようになりました。セルフ式の総菜やビュッフェなどでも使い捨て手袋が使われています。

医療現場で使用されるゴム製品

医療現場で使用されるゴム製品は、以下のものがあります。

それぞれの用途や使用されているゴム材質について解説します。

ゴム手袋

医療用ゴム手袋は、主に以下の目的で用いられています。


・医療従事者を感染から防護

・針刺し事故による汚染の防護

・患者への感染を防止

・医療機器や器具への汚染を防ぐ


患者の血液や体液、飛沫による感染、注射や手術時の針刺し事故などによる汚染から医療従事者を保護するだけでなく、患者や医療機器への交差感染や汚染を防ぐためにも、医療用ゴム手袋が使われています。


医療用ゴム手袋には、「天然ゴム手袋」と「合成ゴム手袋」があります。


▼天然ゴム手袋

天然ゴムからつくられた医療用ゴム手袋です。弾力に優れているためフィット感があり、隙間なく手先を保護できます。しかし、ラテックスアレルギーを持つ人は使用できません。


▼合成ゴム手袋

ニトリルゴム、イソプレンゴムなど、天然ゴムと似た性質を持つ合成ゴムでつくられています。天然ゴムには劣るものの弾性やフィット感に優れ、耐久性も備えています。また、ラテックスアレルギーの心配もないので安心して使用できます。天然ゴム手袋よりは、ややコストが高くなります。

ゴムチューブ

医療では、主に以下のようなゴムチューブが使われます。


・血管造影用チューブ

・気管内チューブ

・栄養チューブ

・泌尿器用チューブ など


これらのチューブの素材として使用されているのが、シリコーンゴムです。シリコーンゴムには以下の特性があります。

・マイナス50℃から150℃の温度条件でも使用可能

・人体に無害

・化学的に安定

・気体を透過


以上のような特性から、医療用チューブ以外にも、人工心肺膜などの用途にも使用されています。さらに、引裂強度、耐熱性など、用途に応じてさまざまな特性を高めた、メディカルグレードのシリコーンゴムも多くあります。

ゴム栓

ゴムの弾性を利用して、ゴム栓にも採用されています。


・点滴輸液バッグ用ゴム栓

・真空採血管ゴム栓

・薬液混注ゴム栓 など


医療用ゴム栓の素材には、天然ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどがあります。いずれも弾性に優れており、輸液や薬液の漏れなどを防ぐためのゴム栓は、最適な用途のひとつとも言えます。

その他ゴム製品

そのほか、医療用として以下のような製品に使われています。


・注射器のガスケット

・インプラント用

・ワクチン栓

・点滴キャップ など


いずれの場合も使用する用途や場所に応じて、適切なグレードのゴム素材が選定され、製品化されています。

介護の現場でも手袋が不足

医療以外に、ゴム手袋が必須なのが介護の現場です。排泄物の処理や入浴の介助など、介助者と利用者を感染と汚染から守るために使い捨てゴム手袋が使われています。 しかし前述のとおり、全世界的にニトリルゴム手袋が不足していること、医療現場やほかの現場でも使い捨てゴム手袋の需要が増加していることで、介護の現場でも使い捨てゴム手袋不足の問題に直面しています。


本当にこれらのゴム手袋を必要としている現場に供給が行き渡るようにするためには、以下のような対策が考えられます。


・代用できる場合は、ほかの使い捨て手袋を使用

・こまめな手洗いをして感染防止に努める


例えば、第三者の血液や体液に触れるなど、感染リスクが高い状況以外では、ニトリル手袋以外の使い捨て手袋でも代用できる場合があります。また、片手はニトリルゴム手袋、もう一方の手はほかの使い捨て手袋にするなど、必要以外ではニトリルゴム手袋をできるだけ使わないようにするだけでも、無駄な使用を抑えることができます。


このほか、感染予防目的でニトリルゴム手袋を使用している場合、こまめな手洗いを組み合わせるようにしましょう。ゴム手袋の表面にも、ウイルスは付着しています。

ゴム手袋をはじめ医療現場でもゴム製品は活躍している

医療用ゴム手袋が不足した背景や、医療用品として使用されているゴム製品の用途と特性、そして介護現場でもゴム手袋が不足している現状を解説しました。

一般的なゴムとは異なり、医療現場で使用するゴム用品は、ほとんどの場合で特別な条件が求められます。そのため、状況に応じて医療用グレードとして認められたゴムを使用することが重要です。


新型コロナウイルスの影響による、医療現場や介護現場での手袋不足は、今後も再び起こるかもしれません。代用できる場合はほかの素材の手袋を使用するなどの行動を取るなど、本当に必要としている現場に充分に行き渡るよう協力することが大切です。

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