ものづくりプレス
2024-01-13
ゴムの弾性
ゴムが持つ伸び縮みする力、いわゆる「弾性」は、ゴムを象徴すると言ってもよい性質です。ゴムの弾性は非常に汎用性が高く、今日の実生活の中でも欠かせないものとして普及しています。では、なぜゴムはこのような弾性を示しているのでしょうか。
当記事では、ゴムの弾性の概要や弾性が生まれる仕組みについて解説します。
ゴム弾性について
ゴム弾性とは、外部から加えられた力が起因となって変形した固体物質が、高い内部応力によってすぐに原形に戻ろうとする性質を意味します。
弾性はすべての物質に多少なりとも存在していますが、ゴムの場合はやや特殊です。
まず弾性と同じく、すべての物質には「弾性限界」が存在しています。弾性限界とは、外部から力が加えられたときに、弾性を保てる限界の応力のことです。この弾性限界内であれば変形させても元の形状に復元しますが、これを超えた力が加えられると、その物質は破壊します。例えばガラスの弾性限界は非常に低く、力が加えられて変形するとすぐに破壊し、永久に元の形には戻りません。
しかしその一方で、ゴムの弾性限界は100パーセント以上を有しており、外部から力が加わっても、力を取り除けば多くの場合で元の形に戻ります。ここまでの弾性を持つ物質はほぼ皆無のため、ゴムは大きく異なる弾性を持つ固定物質であると言えます。
ゴムの粘弾性
ではなぜ、ゴムにはこのような弾性があるのでしょうか。それを説明する前に、まず「粘弾性」について理解しておきましょう。
粘弾性とは、粘性と弾性を合わせた性質のことで、それぞれの言葉の意味は次のとおりです。
● 粘性:物質の流れる性質のことで、主に液体にみられます。形状は変形すると元に戻りません。例えば、スープのようにサラサラ状の場合は粘性が低く、溶けたチョコレートのようなドロドロ状態は粘性が高いと言えます。
● 弾性: 元の形に戻ろうとする力のことです。弾性が100%の場合、加えた力を取り除くと元の形状に戻ります。
一般的に、粘弾性を持つ物質は外力を加えると変形し、取り除くと原形近くまで回復する反面で、ひずみが残ることがあります。また、粘性と弾性のいずれかに偏っていることが多いようです。しかしゴムは、液体のように分子がある程度自由に動くことができる固体であり、この性質がゴム特有の粘弾性を生み出しています。
ゴムが伸び縮みする理由
ゴムが粘弾性の性質を示す理由は、独自の分子構造を持つことに関係しています。専門的な解説となると難しくなるのですが、今回は主要因となる「エントロピー弾性」についてみていきましょう。
エントロピー弾性
例えば鉄は、分子が上下左右にがっちりとくっ付いて則正しく並んだ構造で、特有の硬さを示します。しかし天然ゴムの分子は無数の紐が絡まったような状態で、それぞれが結びついていないので自由に動き回ることができます。そのため、天然ゴムは引っ張ると伸び、力を加えるのをやめると伸びたままの状態で元に戻らない粘性の性質を示します。
一方、天然ゴムを原料としてつくられる合成ゴムは、粘性だけでなく、原形に戻ろうとする弾性の力が働きます。この性質を付与するために行なわれる工程が、後述する加硫です。加硫したゴムの分子は、乱雑な状態のまま部分的に結合して紐状から網目状になり、一定以上伸びないようになります。この乱雑さの度合いをエントロピーと言い、大きい(分子が乱雑な状態)ほど、安定するという特徴があります。
加硫したゴムを引っ張ると、網目が伸びて分子は乱雑な状態から規則正しく並んだ状態、つまりエントロピーが小さくなります。そのため、引っ張る力を弱めると不安定な状態から安定した状態に戻ろうと弾性の力が働きます。これがゴム特有の性質である「エントロピー弾性」です。
なお、金属などゴム以外の物質の場合、外から加えられた力により変化した分子間の距離や角度などを元の間隔に戻そうとする力のことを「エネルギー弾性」と言います。
ゴム弾性と温度の関係
ゴム弾性と温度とは深い関わりがあり、ほかの物質とは反対の性質を持っています。その違いについて説明します。
ゴムを伸ばすとゴムの温度が上昇
一般に固体は通常の状態では分子同士が規則正しく並んでおり、その結合エネルギーは最小です。しかしここに外部からの力が加わると、分子間の距離が変化してエネルギー上昇が起こり、物質の温度が上がります。また反対にその力がなくなると、分子間の距離が元に戻り、エネルギーも低い状態になります。
通常は、「圧縮」がこの外部力に相当します。
ところが、普段から分子が運動状態にあるゴムの場合はこれとは反対の状況が起こり、引き伸ばすと分子や原子が規則正しく並び、低エネルギー状態になります。その際、減少した分のエネルギーが熱エネルギーに変化し、ゴムの温度が上昇します。
実際に確かめてみたい場合は、皮膚や唇に輪ゴムなどのゴム製品を当てながら、引き伸ばしてみてください。わずかではありますが、引き伸ばしたときは温かくなり、元に戻したとき(縮めたとき)は冷たくなっているはずです。
高温環境下ではゴム弾性が上昇
物質に熱が加わると、分子運動が激しくなって振動幅が大きくなり、物質全体の体積が増加します。つまり、物質が温まると膨張する原理です。
ゴムの場合は、熱が加わることで分子運動が活発になるのは同じですが、さらにゴムの弾性も上昇します。なぜなら、先述のとおりゴムの弾性は「乱雑に戻ろうとする力」であり、この力は分子運動が活発になるほど強くなるためです。
詳細な原理は複雑な解説が必要になります。単純に「ゴムの弾性は高温だと上がり、低温だと下がる」との認識で問題ありません。
ゴムに弾性を付与する加硫(架橋)
加硫とは、特定の物質を加えて高分子鎖を科学的に結合させ、ゴムに弾性を与えるための工程です。この加硫を実施しなければ、ゴムは引っ張ればすぐにちぎれ、変形すれば元に戻らなくなるなど、ゴム特有の性質を得ることができません。
なお、加硫と架橋は同義で使用されることが多いですが、慣例的に、硫黄を使用したものを「加硫」、それ以外の場合を「架橋」と区別することもあります。
加硫は、成形したゴムに加硫剤(架橋剤)を加えた後に加熱・加圧して化学反応させ、ゴムの分子構造を変化させます。 ゴムの主な加硫・架橋の種類には、以下の方法が挙げられます。
硫黄加硫
ゴムの加硫でもっとも一般的な方法です。ゴム原料に硫黄を加えて加硫を引き起こします。
ゴムの伸びが良くなること、成形性が高くコスト的にも安価で済むのが特徴です。ただし、二重結合を持つジエン系ゴムに対してのみ有効な方法です。
パーオキサイド(有機過酸化物)加硫
有機過酸化物を利用して行なう加硫で、あらゆるゴム原料の加硫に使用できます。
この方法でつくられたゴムは、一般的に耐熱性や成形スピード、透明性などに優れます。また硫黄を使用しないため安全衛生性が高く、食品向けに使用することもありますが、成形時に独特のにおいを発します。
ポリオール(ビスフェノールAF)加硫
多くの場合、1次加硫のみで完了できるため効率のよい加硫方法で、耐熱性に優れたゴムを生成できます。
ただし、一般的にフッ素ゴム、HNBR(水素化ニトリルゴム)、シリコンは2次加硫を必要とします。
アミン架橋
アミン誘導体や鉛化合物を用いて行なう架橋です。
フッ素ゴムやアクリルゴムなどの製造で用いられていましたが、現在はほとんど使用されていません
金属架橋
金属酸化物を媒介として行ないます。
ただし、金属加硫は歪みやすくなるなどの欠点があるため実施されることは少なく、また、ゴムの分子鎖に官能基がなければ、加硫は不可となります。
樹脂架橋
アルキル置換フェノール樹脂に塩素系触媒を使用し、耐熱性の高いC-C結合(炭素-炭素結合)での架橋となります。
ブチルゴムやスチレンブタジエンゴムなどの製造で用いられます。
ゴムの弾性は製品に欠かせないもの!
ゴムの弾性は、ほかの物質には見られない特有のものです。その特異な性質のおかげで、ゴム製品はさまざまな産業で活用される素材になりました。
ゴム素材ごとの弾性を活かした製品の製造についてのご相談は、経験と実績が豊富な当社にお任せください。
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