ものづくりプレス
2023-12-05
生産管理指標AQLとは
AQLとは、工場の製造ライン・製品についての品質管理における重要な指標です。生産管理担当にとっては必須ともいえる用語です。
当記事ではAQLの概要や意味、AQLと抜き取り検査の関係、抜き取り検査の概要、AQLの決め方などを解説します。専門用語も多いですが、生産管理ではよく使われるため、定義を押さえておきましょう。
AQLとは
AQLは生産管理の指標の1つで、英語の「Acceptance Quality Limit」の頭文字を取ったものです。製造ラインでは、主に抜き取り検査を行なうときに使われます。
日本産業規格JISZ9015-1では、「継続して連続のロットが抜き取り検査に提出されるとき、許容される工程平均の上限の品質水準」と定義されています。
AQLを指標として主に使用するのは、製品の大量生産が行われる工場です。
例えば1日に何千・何万個もの製造を行なう工場では、すべての製品を検査するのは実質的に不可能です。そこで大量の製品のうち数個のみをサンプリングし、AQLの指標で評価することで、検査にかかる工数を大幅に減らすことが可能になります。
AQLは「合格品質水準」のこと
AQLは日本語で「合格品質水準」や「合格品質限界」を意味します。
具体的には、抜き取り検査によって一旦抜き取った製品をチェックする際に、「この製品は出荷に値する製品であるのか?」を判断する基準に使います。
製品品質がバラつく工程でない限り、連続生産中に他製品との品質のズレが致命的に大きくなることは、基本的には考えられません(重大なトラブルや人的ミスが発生した場合は除きます)。
つまり、検査でサンプリングした製品をAQLと照らし合わせ、その合格基準に達していれば、その製造ラインの製品の品質が保証できることを意味します。
AQLに基づく抜き取り検査
AQLの指標を用いるのは主に「抜き取り検査」です。この検査方法は、製品すべてを検査する全数検査と並んで、日本の生産現場でよく用いられます。
以下に、抜き取り検査の概要や具体的な内容、抜き取り検査のAQL設定などを解説します。
抜き取り検査とは
抜き取り検査とは、対象とするロットから1個以上のサンプリングを行ない、その製品が品質水準に達しているか否かを確認する検査方法です。ロットではなく、製造工程の特定の場所でサンプリングする抜き取り検査もあります。
例えばペットボトル飲料を製造する工場において、ボトルに入れる前の液体のサンプリングを行なう場合、
■液体の原料受入時、殺菌工程の前後、液体タンク、充填直前などの場所で行なう
■個別のペットボトルに充填された後の製品を抜き取る
方法があります。
このような検査方法での分類以外にも、抜き取り検査には合格水準の決め方による分類もあります。具体的には「調整型」「規準型」「選別型」「連続生産型」の4種類です。
AQLを用いた抜き取り検査は、このうち「調整型抜き取り検査」に分類されます。これは、過去に実施した検査の品質実績と照らし合わせ、検査をより厳しく、または緩くすることで、品質基準を合理的に調整する検査方法です。
調整型におけるサンプルの抜き取りは、ロットごとに行ないます。
抜き取り検査の水準分類
日本産業規格JISZ9015-1によると、AQLを用いた抜き取り検査システムは以下3つに分けられます。
・なみ検査
・きつい検査
・ゆるい検査
上記の水準の中から、実施する検査を事前に選択します。
「なみ検査」とは、ロットの工程平均(決まった期間や生産量に対しての不良率)がAQLをクリアしたとき、生産者に高い合格の確率を保証するようにした方式を使用する検査です。
この検査の前提は「製造ラインの工程平均が合格水準に問題なく達していること」です。もし事前に決めていた連続ロットの検査結果が悪かった場合は、より厳しい合否判定を設けた「きつい検査」を実施します。
逆によい結果が続いたときは、合否規準を緩める(減らす)「ゆるい検査」にして、コストや負担を削減することが可能です。ゆるい検査への切り替えを「切替スコア」といいます。
もし「ゆるい検査中」に1ロットでも不合格になったり生産が不規則または停滞したりした場合は、再び「なみ検査」に戻します。
抜き取り検査の内容
抜き取り検査の内容を簡単にいえば、「サンプリングを行ない、その製品を検査する」だけです。
具体的な検査項目については、製品や企業ごとのルールで変わります。食品関係であれば味や微生物、機械部品であれば重要寸法や形状などになるでしょう。
抜き取り検査でのAQL設定
「どのくらいのサンプルを抜き取るのか」、「抜き取ったうち何個合格すればよいか」の規準は、JISZ9015-1の抜き取り検査表を参考に決定します。
まず企業ごとに定義されるロットサイズを確認しましょう。その後は上記の表に該当するロットサイズと、「特別検査水準」(S-1~4の4種類)または「通常検査水準」(I~IIIの3種類)のうち、自社工程に当てはまる水準を選択します。一般的に用いられるのは「通常検査水準II」です。
例えばロットサイズが5,000であれば、アルファベットの「L」が該当します。このLはサンプル文字と呼ばれ、いくつ抜き取ればよいのかを決める際に必要になります。
サンプル文字が決まったら、次に抜き取り検査表を参照にサンプル数を確認しましょう。抜き取り検査表にはいくつか種類があり、「なみ検査・きつい検査・ゆるい検査」の違い、抜き取り方式などによって使用する表が異なります。
例えば「きつい検査・1回抜き取り」に使うのは以下の表です。
もしサンプル文字が「L」で、設定の不良率が「1.5%」の場合、抜き取りサンプル数は200個、合格判定数(Ac)が5個、不合格判定数(Re)が6個になります。この場合は、「200個のうち不良が5個までなら合格、6個以上は不合格」になります。
AQLをどう設定するかについては、JISにて以下の指標が定められています。
・品質の指標
・生産者の要求
・消費者の立場から見た妥当な品質
・問題の製品の仕様や、不具合の結果についての考慮
AQLに基づく検査の落とし穴
先述のとおり、AQLはあくまで「合格品質限界」であり、完全な品質を保証する指標ではありません。
AQLに基づく検査の落とし穴とは、具体的には次のとおりです。
・製品のすべての品質を保証する検査ではない
・不良品があっても合格してしまうケースがある
AQL指標を使用するのは、あくまでもサンプリング用に抜き取られた一部の製品であり、全てではありません。そのため、場合によっては上記のような問題が起こる可能性があることも、覚えておく必要があります。
■OC曲線を活用してAQLリスクを減らす
サンプリングにより製品の一部だけの品質検査を行なう抜き取り検査では、不良品が合格してしまうケースがあることは既に説明したとおりです。その確率を知る上で役に立つのが、「OC曲線」です。
OC曲線とは、「一定の不良率のあるロットが抜き打ち検査で合格してしまう確率」を示したグラフです。
OC曲線は、サンプル数、合格判定個数、ロットの不良率から算出した数値から作成します。
例えば上記の場合、不良率3%のロットが合格する確率の目安は約77%となります。
また同様に、不良率15%のロットの場合でも、合格率が約5%あることを示します。
製品づくりにおいて、不良品率ゼロを目指すことは大切です。しかしこれは難しい課題であり、実現するには作業員の増員や費用の増加は避けられません。むしろ、「不良率をどこまで許容するか」を考えることの方が、現実的だと言えます。
そのためにAQLの指標やOC曲線を上手に活用し、傾向と対策を検討するのもひとつの方法と言えるでしょう。
AQLは抜き取り検査を行なうときに使う指標
特に生産管理やAQLに関しての経験、ノウハウなどがない場合、自社判断だけで決めてしまうと、製造ラインの品質管理が適切に行えなくなることがあります。そのためにもAQLは、抜き取り検査の際の大切な指標になります。
生産管理の専門家、取引先や消費者側の受け入れ規準などを確認し、慎重に数値を検討するようにしましょう。
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