ものづくりプレス
2024-01-17
ゴムの劣化の原因と防止方法
どんなに優れた性能を持つゴムであっても、劣化は起こります。そのため、この問題といかに向き合うかが、ゴム製品の活用のポイントとなるでしょう。
当記事ではゴムの劣化の概要や原因のほか、劣化による影響とその対策などについて解説します。
ゴムの劣化とは
劣化とは、本来持つ材料や製品などの性能や品質が、何らかの原因により少しずつ低下することを意味します。ゴムも例外ではありません。
合成ゴムは、その構造に二重結合の主鎖を持つ「ジエン系」と、持たない「非ジエン系」に分けられます。中でもジエン系は非ジエン系と比較して周囲の環境に影響されやすく、酸化や化学変化による劣化が起こりやすいとされています。
これ以外にも、製造方法や成形の際に配合される薬品に起因するゴム製品そのものの不安定さも、ゴムを劣化させる原因です。
しかしゴムに劣化が起こる原因を理解し、事前に対策を行なうことで、劣化の防止や進行を遅らせることができます。
劣化の要因と与える影響
ゴムが劣化する理由は大きく分けて、ゴムの成分そのものによる「内的要因」と、外からの作用による「外的因子作用」の2つがあります。しかし実際は、それぞれ別々に作用するというよりは、両者が相互に影響し合って劣化させるケースが多いと考えられます。
内的要因による劣化
合成ゴムは化学的につくられるため、製造過程でさまざまな薬剤が使用されます。しかし使用環境などによりこれらの薬剤に変化が起こり、内部から劣化を促進します。
▼充填剤、添加剤など
加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤、滑剤などの充填剤や添加剤は、本来であればゴム製品に耐性や特性などを付与するためのものであり、合成ゴムには欠かすことができません。ところが、さまざまな条件によりこれらがゴム内部で反応や変化を起こし、表面に物質が浮き出たり、ゴムの構造を破壊したりすることがあります。
【充填剤、添加剤が及ぼす影響】
・加硫剤や老化防止剤(特にCR/クロロブレンゴムなど)がゴムの表面に白い粉として浮き出るブルーム(ブルーミング)の発生
・充填剤や添加剤がゴム表面に染み出し、濡れたような状態になるブリードの発生
上記に挙げたものは外観上の問題であり、物性的な劣化とは言えないものの、場合によっては性能などを低下させることもあります。
しかしその一方で、保護やオゾンなどによる老化防止目的など、敢えて機能としてオイルブリードやブルームを表面に出す場合もあります。そのため、必ずしも悪い現象とは言えません。
▼アウトガス(揮発成分)
アウトガスとは、主に合成ゴム製品から出る揮発(蒸発)成分のことです。合成ゴムの中にある添加剤やポリマーが揮発して生み出されます。
【アウトガスが及ぼす影響】
半導体などの生産工場では、アウトガスが原因による製品汚染が問題視されています。
例えばアウトガスによって光化学機器の外部が汚れると、精度や画像の品質が低下することがあります。また、電子機器や電子部品の場合では、電気の導通不良や光学レンズの曇りなどのトラブルにつながります。
外的因子作用による劣化
温度や光、水などがある環境下に長期間にわたってゴムが置かれた場合、ゴムの分子に影響を与え、劣化を進行させる原因になることがあります。その主な要因には、以下のものが考えられます。
ただし合成ゴムの物性もさまざまであり、各要因に対する耐性が強化された種類もあります。そのためこれらの要因は、すべての合成ゴムに当てはまるわけではありません。
▼酸素(酸化)
ゴムに限らず、劣化の原因の多くは酸素による酸化反応が関わっていると言われています。さらに熱や光、オゾンなどの条件が加わるとゴムの分子が分断され、弾性などの物性が変化して劣化反応が促進します。
▼熱(熱酸化劣化)
合成ゴムの分子は熱により運動が活発化し、やがて分子全体が振動するようになります。この状態に酸素が加わると、さらに動きが激しくなって分子鎖などが断裂し、硬化劣化へと進行します。
【熱が及ぼす影響】
硬化したゴムは、弾性を失うことでクラック(き裂)などが発生しやすくなります。
▼紫外線、放射線など(光酸化劣化)
紫外線や放射線は、ゴムの分子に化学変化をもたらすことで劣化を引き起こすと考えられています。特に明色や単色などのゴムは、光の影響をより強く受ける傾向にあり、またジエン系ゴムに起こりやすいという特徴があります。
【光が及ぼす影響】
分子の化学変化による劣化は、硬化して表面にクラック(き裂)などが発生する場合と、反対に分解による軟化で粘着性が生じる場合があります。
▼オゾン
オゾンは紫外線などから生成される気体です。このオゾンが持つ強力な酸化作用がゴムの分子鎖をせん断し、劣化を促進します。また湿度が高い環境下においては、オゾンの吸収量が増え、劣化も速くなると言われています。
特に二重結合を持つジエン系ゴムは酸化しやすく、オゾンによる影響を受けやすい傾向があります。
【オゾンが及ぼす影響】
応力がかかっている部分に対して、規則性のある垂直かつ無数のクラック(き裂)が発生しやすくなります。
▼金属イオンによる劣化(銅害)
ゴムとの接触面と金属が反応して発生する劣化現象です。金属イオンがゴムポリマーの酸化を促進させることで起こります。
【金属イオンが及ぼす影響】
金属の中でも、特に銅(Cu)やマンガン(Mn)は、ごくわずかな量でもゴムに破壊的かつ致命的な影響を及ぼすことがあります。
▼水、湿気、蒸気による劣化
ゴムは比較的水分に強い素材だと言われていますが、中には耐水性に劣る種類もあります。このような合成ゴムでは、水分にさらされることで、劣化を引き起こしやすくなります。その理由として、ゴムに配合されている酸化防止剤などの溶出、加水分解など、いくつか考えられます。
【水が及ぼす影響】
例えば加水分解が起こった場合ではゴムが脆弱になります。また、吸水によってゴムが膨潤(ぼうじゅん)して体積が増加し、トラブルが発生するケースもあります。
▼残留塩素
食品工場における殺菌や家庭の水道水に用いられる塩素ですが、配管などに残る少量の残留塩素が原因で、ゴムの劣化が発生する可能性があります。水道配管や水回りのパッキンなどがよく影響を受けます。
【残留塩素が及ぼす影響】
残留塩素による影響として、濃度が高い場合は硬化によるひび割れなど、反対に低い場合はゴムが軟化してボロボロになり、そのカスが水に混ざる黒粉現象が見られます。
▼疲労(屈曲、き裂、摩擦など)
長期間にわたる外的力や圧力、応力、度重なる形状変化(曲げなど)をゴムに与えた場合、その摩擦や接触が原因となって塑性流動や「へたり」などの現象が現れます。これがゴムにおける疲労劣化です。
特にゴム製品は、機械やドア・窓部分などの摩擦が発生しやすい箇所での利用が多いため、このような用途では疲労が起こりやすくなります。
【疲労が及ぼす影響】
ゴムの疲労は、その材料が目的とする機能を徐々に低下させ、物性や耐性の減少にもつながります。また状況によっては、クラック(き裂)などが発生することもあります。
ゴムの劣化防止対策
ゴムの劣化は、さまざまな要因で起こるため、ほぼ避けることはできないと言えます。しかしながら、対策を講じることによって劣化をある程度防止したり、劣化速度を遅らせたりすることが可能です。
そのための主な劣化防止策をご紹介します。
原料ゴムの種類と選択
合成ゴムは、耐性や性能、機能など、それぞれに特性があります。それを考慮してゴムの種類を選択することで、劣化対策にもつながります。
主な使用環境と、それに適した合成ゴムは以下のとおりです。
・高温環境下:耐熱性の高いシリコーンゴム
・外力や摩擦が頻繁にかかる箇所や場所:機械的性質を持つウレタンゴム
・屋外:耐候性に優れるエチレンプロピレンゴム
・さまざまな環境:耐性・性能のバランスがよいクロロプレンゴム
・高い性能や耐性が求められる箇所・場所:圧倒的なバランスの良さを持つフッ素ゴム
ただし、すべての希望条件をクリアする万能なゴムはほぼ皆無と言えます。例えば、用途に合った条件を備える一方で、適さない特性を有することも多々あります。そのためゴムを選ぶ際は、用途に適したバランスを見ることが大切です。
充填剤や配合剤の添加
加硫の際に特別な薬品を加えることで、特定の性能を強化させた種類の合成ゴムもあります。例えば、酸化、老化、オゾン劣化、き裂などは、配合剤の添加である程度防止することができます。また充填剤を使用すれば、強度、耐熱性、耐薬品性、耐油性などが向上します。
ただし、配合の組み合わせにより特性も変化するため、それらのバランスや経験が非常に重要になることを覚えておきましょう。
カーボンブラックの相乗効果
カーボンブラックは、ゴムの強度などの性能を向上させる目的で広く使用されている充填剤です。さらに、非常に優れた酸化抑制作用を持つことが知られているほか、紫外光の吸収性にも優れています。そのため、カーボンブラックを配合した製品は、これらに対して耐性を示します。
この現象はゴムの劣化が原因?
ゴム製品を使用していると、特有の現象が現れることがあります。ここではその理由や、それが劣化によるものかどうかなどについて、解説します。
白い粉を吹く
ゴム製品は使用していると、表面に白い粉のようなものが吹くことがあります。これは劣化現象でしょうか?
▼ブルームやブルーミングと呼ばれる現象です
ゴム表面に白い粉が吹き出すのは、ブルーム(ブルーミング)と呼ばれる現象で、加硫に必要な加硫促進剤などのゴムの添加剤が表面に出てくることで起こります。劣化とは異なります。
原因は主に「加硫不足」「ゴム練りの不足」「老化防止剤や加硫剤などの過剰使用」と言われていますが、はっきりとした原因はわかっていません。また外観不良以外にゴムの物性や耐性に影響することはほとんどなく、表面の保護やオゾンなどによる老化防止などの目的で敢えて発生させる場合もあります。
ブルーム発生時の対策としては、「恒温槽での熱処理」「蒸気釜での熱処理」などが挙げられます。しかし解決するかは未知数であるため、新しいものを購入する、または製造し直すなどの対処が必要となるでしょう。
表面がベタベタになる、黒い水や異物が出る
表面がいつの間にかベタベタになっており、しかも黒い水のようなものや異物が浮き出ています。これは劣化でしょうか?
▼劣化による加水分解が原因です
ベタベタな場合は加水分解、表面が濡れたような状態であればブリードが原因だと考えられます。
加水分解は、耐水性の低いゴムと水分が化学的に反応し、新しく別の化合物が発生する現象です。家庭用のゴム製品であれば、重曹やエタノールなどで一時的に対応できますが、工場での製造工程で発生している場合は異物混入のおそれがあります。耐水性の高いゴムに交換するなど恒久的な措置を施してください。
一方のブリードは、ゴムに配合されている薬剤が表面に浸出した状態です。ゴムの練り不足や配合、材質などにより起こることが多いため、原因を調査して改善することで解決できます。
硬くなる、縮む、ボロボロになる
しばらく使っていたゴム製品が、硬くなったり縮んだりしています。ボロボロになっていることも珍しくありません。これは劣化でしょうか?
▼酸化によりゴムが硬化したと考えられます
ゴムはさまざまな要因により酸化します。それにより分子の結合が分断されるため、弾性を失います。この状態になると、それ以上ゴム製品としての機能を果たすのは難しいと思われます。直ちに交換してください。
ゴムの酸化を避けることは難しいですが、耐酸化性能を持つゴムの使用や、酸化しにくい環境をつくるなどの対策を施すことで、このような現象の進行を遅らせることが可能です。
劣化を考慮したゴム製品の活用を
ゴムの劣化は、必ず付きまとう問題と言っても過言ではありません。しかし劣化しにくいグレードを使用したり、環境をつくったりすることで、ある程度、取り換え頻度を改善することができます。
ゴム素材ごとの劣化への耐性や適切な使用環境など、ゴム劣化に関するご相談がある場合は当社にご相談ください。
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