ものづくりプレス

2024-04-24

ウォータージェット加工の仕組みとメリットデメリット

さまざまな加工方法がある中で、ウォータージェット加工は水の噴射を用いた比較的新しい方法です。環境にもやさしく、硬軟を問わず幅広い素材に対応できることから、今後のさらなる活用が期待されています。


この記事では、ウォータージェット加工の仕組み、メリットとデメリット、種類などについて解説します。

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ウォータージェット加工とは?どんな仕組み?

超高圧ポンプを使って噴射した水の力を利用して、素材と非接触で切断できる加工方法です。その噴射速度は音速の約3倍に達するとも言われ、厚さ300mm以上の極厚材の切断できるほどの破壊力を持ちますが、水圧を調節することでやわらかい素材の切断も可能です。


金属、樹脂、木材などほとんどの素材に使用できるのに加え、ワークへの熱影響や、加工時に粉塵や火花などが発生する心配もありません。さらに切削油などを使用しないため、環境にもやさしい加工方法と言えます。

ウォータージェット加工の歴史

ウォータージェット加工の元でもある水を使った切断事例は古くからありましたが、本格的に高圧水噴射を固形材料の加工に利用する試みとして研究が始まったのは1960年代です。ウォータージェットによる最初の切断装置は1970年初期にアメリカで開発に成功し、当初は、主に航空宇宙産業や自動車産業における複合材料やプラスチック材料の切断に用いられていました。日本では、1980年代から使用されています。


ウォータージェット加工の歴史は比較的浅いですが、現在では、幅広い素材に対してできる加工方法として、さまざまな業界で用いられています。

ウォータージェット加工の特徴

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加工には、ウォータージェットマシンやウォータージェット切断機と呼ばれる、コンピュータ制御(NC制御)の機械を使用します。ウォータージェット加工機は、以下3つの装置で構成されています。


●超高圧水発生装置
水を圧縮してウォータージェットを作り出す、ウォータージェット加工の要とも言える装置です。その水圧は約300~600MPaで、これは大気圧の数千倍に及びます。


●加工ノズル
圧縮された水が押し出される部分です。ウォータージェットによるすり減りを防ぐために、加工ノズルはダイヤモンドや超硬合金などの材質でつくられています。


●研磨材供給装置
アブレシブジェット切断加工を行なう際の装置です。この加工では、水以外に研磨材を使用するため、これらを混合する役割をします。

ウォータージェット加工機は単純な切断だけでなく、3次元加工や5軸制御を使った複雑加工も可能です。

ウォータージェット加工の種類

ウォータージェット加工には、「ウォータージェット切断」と「アブレシブジェット切断」の2種類の方法があります。


それぞれ、どのような特徴の違いがあるのかを解説します。

ウォータージェット切断加工

水だけの噴射で素材を切断する加工方法で、アクアジェット切断加工とも呼ばれています。樹脂や木材、紙、ゴムシート、樹脂、布などのやわらかい素材の加工に向いており、またその環境性の高さから食品の切断や手術用のメスとしての用途にも採用されています。


主な切断用途には、以下のようなものがあります。
・樹脂
・複合材料(FRP)
・住宅建材、住宅内装材、住宅外装材
・段ボール、紙おむつ
・自動車内装材
・プリント基板
・ビデオテープ
・ゴムタイヤ、靴底
・皮革
・ケーキ、お菓子、冷凍食品
・人体臓器 など

アブレシブジェット切断加工

水に粒子状の研磨剤(アブレシブ)を混ぜて素材を切断する加工方法です。そのため、ウォータージェット切断加工では不可能なアルミやステンレス、チタン、セラミックス、ガラスなど、硬質な素材を切断することができるのが特徴です。しかし、ランニングコストと研磨剤の処理コストがかかるほか、切断面が広くなりやすい、加工機の稼働時の騒音が大きいなどのデメリットもあります。

主な切断用途や目的には、以下のようなものがあります。
・鉄板
・ステンレス板
・アルミ板
・チタン板
・銅板
・超合金板
・コンクリート
・岩、土壌、石材
・ガラス
・セラミックス
・タンク類の解体
・トンネル掘削
・大型廃材の処理
・ビルの拡張工事
・水中切断工事 など

ウォータージェット加工のメリット

ウォータージェット切断加工、アブレシブジェット加工を含めたウォータージェット加工には、以下のようなメリットがあります。

製品への熱影響がほとんどない

水の噴射を利用した非接触加工のため、ワークに対して熱による影響をほとんど与えず、以下のような問題が起こりにくいというメリットがあります。


●熱による素材の変質
●熱による歪みや反り
●発熱による化学反応や火花の発生


レーザーやプラズマ、ガスなどを使う加工では、熱によるワークの変形が起こりやすいため難しいとされている細長い形状、切断面同士が密接した加工なども、ウォータージェット加工なら切断が可能です。また発火のおそれがないことから火災現場や事故現場での救助活動に安心して使用できるのもウォータージェット加工の特徴です。

素材・材質を選ばない

水溶性、水に弱いなど、水に濡れても問題なければ、どのような素材でも加工できるのが大きなメリットです。さらに2種類の加工方法を使い分けることで、以下のように、幅広い素材の加工に活用することができます。


【ウォータージェット加工が可能な素材・材質】
・熱に弱い素材
・軟らかい素材
・変形しやすい素材
・反射率の高い素材
・硬い素材
・難削材
・厚みのある素材 など


ウォータージェット加工機で加工可能な主な素材を以下にまとめました。

金属 ステンレス、アルミ、ニッケル鉄鋼、チタン、タングステンインコネルなど
セラミックス フェライト、窒化ケイ素、SIC(炭化ケイ素)、ボロンカーバイト、高純度アルミナなど
樹脂 ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル、ナイロン、ウレタン、ABSなど
複合材 GFRP(ガラエポ)、CFRP(カーボン繊維複合材)など
その他 ゴム、ガラス、タイル、石、レンガ、携帯電話部品、家電部品、各種アッセンブリー品など


近年、航空宇宙産業などで難削材や熱に弱い素材の加工需要が高まっているため、今後はウォータージェット加工の需要がさらに高まっていくことが期待されています。

自由な形状の加工が可能

ウォータージェット加工による切断幅は比較的狭いため、小穴や微細・複雑形状の加工も可能できるほか、素材の無駄を減らせるため、材料費などのコスト削減にも貢献します。


さらに、レーザーなどの機械加工とは異なりワークと非接触で加工できることから、位置や形状にとらわれることなく自由な切断や切り抜きが可能で、平面だけでなく立体形状の加工にも対応できます。またバリ取り、研磨、剥離などの用途でも使用できます。

環境に優しい

加工は水と研磨剤で行なうため切削油などは不要です。また作業中に粉塵などの有害な物質が発生しないことから、作業員や環境にも安全な加工方法だと言えます。


さらに汎用の切削機などでは、切削の際に出る切粉や切りくずが散乱し、まとめる作業が必要になりますが、ウォータージェット加工は塊の状態で回収できます。アブレシブジェット切断で研磨剤として使用する高価なガーネットも、近年ではリサイクルして再利用できる技術が開発され、資源を有効に活用できるようになっています。


このほか、ウォータージェットはゴムの金型の洗浄方法としても近年注目されています。溶剤を使用せずに付着した酸化膜を除去できるだけでなく、金型も傷つけることがありません。

ウォータージェット加工のデメリット

多くのメリットを持つウォータージェット加工ですが、いくつかデメリットがあります。
どのような問題があるかについて解説します。

一部の素材や材質には不向き

水で変質する材質を持つ素材への加工はできません。また、薄いガラスなど水圧で破損するおそれのある素材に対しても、ウォータージェット加工は不向きです。

切断面にテーパーが発生する

テーパーとは、径や幅、厚みなどが、先細りになっている状態を指します。ウォータージェット加工は、切断時に水流の力が弱まります。そのため、厚みのある素材ではノズルから遠くなるに従って切断面傾に傾斜がつきやすくなります。しかしながら、ワークの厚みや材質に合わせてノズルの角度や切断速度を調節することで、ある程度の対応が可能です。

高コストになることもある

アブレシブジェット加工切断で用いるガーネット(研磨剤)は大変高価です。先述のとおり、リサイクルシステムが開発されましたが、まだ一般的ではありません。そのため、ほかの加工と比べてコストが高くつくのが現状です。


ウォータージェット切断加工や熱切断などで対応できる場合は、コストを抑えるために加工方法の検討をするのがいいでしょう。

機械加工機と比較すると加工精度が劣ることも

比較的精度の高いウォータージェット加工ですが、それでもレーザー加工やワイヤーカット加工よりも劣ります。ワークや用途に合わせて、使用する加工方法を考慮してください。

将来性が高いウォータージェット加工

水と研磨剤のみで加工ができるウォータージェット加工は、ワークに熱の影響を与えることなく切断できるだけでなく、バリ取りや研磨など幅広く応用できる加工方法です。また切断の際に有害物質や火花などが発生する心配がないことから、工業的用途以外にも、食品業界や医療業界、救助現場でも使用されています。さらに宇宙産業など新しい分野でも有効は加工方法であることから、将来性の高い加工方法として今後が大いに期待されています。

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