ものづくりプレス

2024-04-26

硬質ゴム加工に使用する素材の硬度と測定方法

硬質ゴムの加工や硬質ゴムを使用した工業用品の導入の際には、ゴムの「硬度」を確認する担当者も多いのではないでしょうか。しかし、実際のところ硬質ゴムの硬度はどのように測定されるのでしょうか。
当記事では、硬質ゴムの硬度の概要や硬度の測定方法などを解説します。

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硬質ゴムとは

ゴムは、目的に沿った弾性や特性を付加するために架橋という工程を行ないますが、その際、原料と架橋剤、様々な添加剤との組み合わせにより、異なる硬さの製品をつくることができます。
例えば、ゴム原料100に対して、一般的な架橋剤である硫黄を30~50程度の割合で加えた場合、ゴムの特性である弾性の多くが失われる一方で、硬度の高いゴムになります。これを硬質ゴム(硬化ゴム)といいます。色が黒く、光沢を備えていることから、黒檀を意味するエボナイトと呼ばれることもあります。なお軟質ゴムは、硫黄を15程度配合したゴムです。


硬質ゴムは約60℃で軟化しますが、形状変化(流動性)は示しません。プラスチックに近い固体であり、高い機械加工性に加え、電気絶縁性や耐酸性・耐アルカリ性、耐薬品性などに優れているため、主に以下の用途に使用されています。


・パッキン(食品工場の配管、製造器具など)
・自動車部品
・電線ケーブル
・そのほかの工業用品 など


しかし、近年では硬質ゴムの代わりにプラスチックが使用されるケースが増えているのが現状です。

硬質ゴムの硬度と測定方法

ゴムの硬さは人の感覚ごとに異なるため、測定器を使用して数値化したものを基準とし、相対的に比較します。日本では、デュロメータと呼ばれる機械を使用し、スプリングの力でゴムの試験片に針を押し込んで硬さを測定する方法が多く用いられています。
デュロメータは測定する物質の性質により複数のタイプを使い分けます。ゴムの場合では、標準的なタイプAをはじめ、硬い試料向きのタイプD、低硬度用のタイプEのほか、薄い試料にはタイプAMの4種類が主に使われ、どのタイプを選択するかについてはJIS規格で以下のように定められています。


− タイプDデュロメータで硬さが20未満の値を示す場合 ⇒ タイプAを選択
− タイプAデュロメータで硬さが20未満の値を示す場合 ⇒ タイプEを選択
− タイプAデュロメータで硬さが90を超える値を示す場合 ⇒ タイプDを選択
− 薄い試験片(厚さ6.0mm未満)の場合 ⇒ タイプAMを選択


測定結果は0から100で表され、数値が高くなるほど硬度が高いことを示します。しかし結果の数値が同じであっても、使用する測定器のタイプによって実際の硬さが異なる点に注意が必要です。例えばタイプEで測定した30とタイプDの30では、タイプDで計測したゴムの方がはるかに軟らかいことを意味します。

硬質ゴムの測定方法

デュロメータで硬質ゴムの硬度を測定する場合はタイプA、または硬めのゴムであればタイプDを使用するのが一般的です。
具体的な測定方法は、上部にスプリングが付いた押針をゴムの試験片に押し込んだ後、そこからゴムの反発力を受けて押し戻された針の深さを、等間隔の目盛りを見て判断します。


押針を最大に押し込めた場合は「0」、反対にまったく押し込めなかった場合を「100」とし、「どれくらい変形したのか」を「〇°(〇度)」として読みます。サンプルによる測定結果のばらつきを防ぐため、測定で使用する試験片の形状や寸法については、デュロメータのタイプと同様にJIS規格で定められています。


しかし、デュロメータの測定値には決まった単位がありません。「80°だったから硬度80°」ではなく、測定試験の規格や使用する測定器などによって表記方法が変わります。


デュロメータが用いられる主な規格 は次のとおりです。


・JIS K 6253:加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法
・JIS K 7215:プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法
・ASTM D 2240:ゴムのデュロメータ硬さ標準試験方法(米国規格)
・ISO 868:プラスチックのデュロメータ試験方法
・SRIS 0101:スポンジ製品のデュロメータ試験方法(日本ゴム協会規格)


上記のうち、規格「JIS K 6253のタイプAデュロメータ」を使った場合の表記の例を見ていきましょう。

概要
表記
1秒以内に50°に到達した場合 A 50°
15秒後に50°に到達した場合 A 50°/15/S


使用したデュロメータが「ASTM D 2240」の「タイプD」だった場合は、表記は以下のようになります。

概要
表記
1秒以内に50°に到達した場合硬度が50°の場合 D 50°/1
15秒後に50°に到達した場合硬度が50°の場合 D 50°/15


このように、使用する規格や測定器のタイプ(AやDなど)によって表記方法は微妙に異なります。また硬度は、ゴムだけではなくスポンジなどの硬さを表現する場合でも使います。同じ数値であったとしてもゴムの50°とスポンジの50°では硬さも違う ため、数値だけではなく、どのタイプの測定器を使用したかを忘れずに記載することが重要です。

デュロメータでゴムの硬さを測る際の注意点

ゴムの硬さを正確に測定する上で、次の点に注意が必要です。


・一般に、ゴムは温度や湿度で物性が変化する特性がある
・一般に、ゴムは劣化により硬化する物性がある
・試験片の表面に凹凸や反りなどがないことを確認する
・ゴムの試験片の厚さは、タイプAとタイプDデュロメータの場合は6ミリ以上、タイプEは10ミリ以上、タイプAMでは1.5ミリ以上にする
・デュロメータの押し付けは一定の速度で行なう など


ゴム本来が持つ物性などの要因により、ゴム硬度の測定には必ずと言っていいほど誤差が発生します。そのため±5°程度の公差は、一般的に許容範囲とされています 。

ゴムの硬さをほかの素材に例えた場合

ゴムの硬さを数値で表しても、実際にはどの程度の硬さなのかをイメージしにくいと思います。以下はJIS K 6253のAタイプのデュロメータを使用して測定した場合の、硬度のイメージ例になります。

ゴムの硬度
硬さのイメージ例
硬度90~95° ゴルフボール
硬度65°前後 タイヤ
硬度30°前後 消しゴム
硬度10°前後 人の肌

ゴム素材によっても硬度はいろいろ

ゴム素材には硬さが統一されているものもありますが、多くの場合では、同じ素材であっても硬度が異なる種類が存在します。また、合成ゴムはほかのゴム素材などが混合されているケースも多く 、その割合によっても硬度は変わります。そのため、「ウレタンゴムは硬度○°」のように、ひと言で断言はすることはできません。

硬度は同じでもゴム素材の特性によって差が出る

「十分に硬いゴム素材だから、加工したり現場に使ったりしても大丈夫」とは限りません。例え同じ硬度を持つゴム素材だったとしても、それぞれの素材が持つ特性の違いで、適した環境や生産ラインが存在します。特性を見極めることが大切になります。


以下では、それぞれのゴム素材の特性を見ていきましょう。

素材名
特性の概要
天然ゴム(NR) 機械的強度や伸縮性に優れたゴムらしい特性
耐熱性や耐油性、耐候性などが低め
天然合成ゴム(IR) 天然ゴムとほぼ同等の性質
品質は天然ゴムより安定
ウレタン(U) 機械的強度や耐油性に優れる(エステルタイプ)
耐薬性や耐熱性、耐水性は低め
ニトリル(NBR) 耐摩耗や耐油性に優れる
日光やオゾン、熱など環境の変化には弱め
クロロプレン(CR) 多くの耐性を備え、バランスが取れた性能
エチレンプロピレン
(EPM・EPDM)
耐候性や電気的性質に優れる
耐油性が少し低め
ブチル(IIR) 耐候性や衝撃吸収性、電気絶縁性に優れる
耐油性、加工性が低い
フッ素(FKM) あらゆる環境に対して優れた耐性を持つ
特に耐熱性、耐薬品性が高い
シリコン(SI) 耐寒性や耐熱性、耐候性に優れる
機械的強度が少し低め

ゴム素材の硬度の測定方法や特性を理解して加工しよう!

硬質ゴムの硬さは硬度で表されます。タイプAのデュロメータを使った測定が一般的ですが、測定値はあくまで目安として使用するのがよいでしょう。自身で測定する場合は、温度やゴムの状態に注意してください。
またゴムの加工やゴム製品の導入の際には、硬度だけでなくそれぞれの特性にも注目し、使用する現場に合ったゴム素材を選ぶことが大切です。