ものづくりプレス
2025-02-05
機械特性に優れたエンプラ「ポリアセタール樹脂(POM)」
ジュラコン・デルリンの名で知られるポリアセタール樹脂(POM)は5大汎用エンプラのひとつです。
耐熱性や耐摩耗性に優れ、金属の代替素材として長年重宝されている素材です。
ジュラコンとデルリン、ポリアセタールの違いやポリアセタール樹脂の特性、成形・加工方法などを詳しく解説します。
目次
5大汎用エンプラのひとつ ポリアセタール樹脂(POM)とは
プラスチックの中でも、特に優れた機械特性を持つものをエンジニアリング・プラスチック、通称「エンプラ」と呼びます。一般的なプラスチックに比べ耐熱性に優れ、強度・耐摩耗性など優れた特性を備えています。
軽量で比較的安価なプラスチックの特性と、金属に迫る強度を兼ね備えたエンプラは、工業部品の素材として重宝されています。
その中でも、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテルの5つを『5大汎用エンプラ』と言います。
今回はその中のひとつ、ポリアセタール樹脂(POM))について詳しく解説します。
ポリアセタールの特性
5大エンプラの中でも、最も汎用性があるポリアセタール(POM)は耐熱性や耐摩耗性に優れているため、金属部品の代替素材として広く使用されています。
また、温度安定性も高いので、リコーダーや木管・金管楽器などのパーツとしても重宝されています。
ポリアセタール樹脂は商品グレードにより特性や用途が異なり、摺動性や耐候性が向上されているもの、VOC(揮発性有機化合物)が低く、環境に優しいものなどがあります。
▼長所
耐熱性や機械的強度に優れた結晶性プラスチックであるポリアセタール樹脂には、以下のような長所があります。
・プラスチックの中でいちばん高い耐摩耗性
・摩擦係数が低く、摺動性に優れる
・水や湿度に対する寸法変化が起こりにくい
・耐疲労性、引張強度、耐衝撃性などが高い
・金属と比較して軽量、安価
▼短所
・透明性がない
・酸素を含む分子構造のため、耐候性や難燃性が低い
・屋外での安定した使用には安定剤などの添加が必要
・アルカリや有機溶剤に耐性を持つ反面、強酸に侵される
・接着剤による接着が困難(溶接は可能)
食に対する安全性
ポリアセタール樹脂は日本の食品衛生法のポジティブリストに入っており、なおかつカドミウム、鉛、六価クロム、鉛、水銀などの有害物質の減少を目的としたEU(欧州連合)のRoHS指令(有害物質使用制限指令)にも適合しています。
そのため、食品の製造ラインや包装容器に使用されているポリアセタール樹脂は、安全であると考えられます。
■ポリアセタール樹脂(POM)を劣化させる要因
耐久性が高く劣化や変性しにくいポリアセタール樹脂ですが、以下のような環境下の使用では劣化する場合もあります。
ポリアセタール樹脂(POM)を劣化させる要因
耐久性が高く劣化や変性しにくいポリアセタール樹脂ですが、以下のような環境下の使用では劣化する場合もあります。
酸
ポリアセタール樹脂はアルカリ性に対しては強い一方で、無機酸・有機酸のいずれにも侵される耐酸性の低さが挙げられます。酸と反応すると加水分解が起こり、腐食が進展するという欠点を持っています。
現在、各社が耐酸性グレードのポリアセタール樹脂を開発中ですが、現時点ではまだ実用化はされていません。
光(紫外線)
ポリアセタール樹脂は耐候性が低いので、屋外での使用や直射日光に晒されていると色の変化や強度の低下をもたらします。吸収された光エネルギーが、分子同士の化学結合を切断することがその理由です。
屋外で使用する場合は、安定剤やUV吸着剤を添加した耐候性の高いグレードの商品を使用することで対処できます。
ポリアセタール樹脂(POM)の成形・加工方法
ポリアセタール樹脂は5大汎用エンプラのひとつだけあって、工業用の部品や建設資材など、専門性の高い製品に用いられることが多い素材です。
比較的加工しやすい熱可塑性樹脂ではありますが、ポリアセタール樹脂は結晶化が速く、結晶性が高いので、加工に技術を要します。
主な成形・加工方法
熱収縮率の高さと、金型への密着性の低さにより、ポリアセタール樹脂は加工が難しい素材と言えます。工業部品などには適していますが、製品表面に意匠などをつけるデザイン性の高い加工には不向きです。
▼射出成形
ポリアセタール樹脂の加工法として主流なのが射出成形です。原料を加熱溶融し、高圧力で金型内に射出した後、冷却固化します。
ベアリングの成形のように、金属の周囲をポリアセタール樹脂で成形するインサート成形もこの方法で行ないます。パソコンのキーボードや電源プラグなどの製造に適しています。
▼ブロー成形
ブロー成形はタンクやダクトなどの成形に適しています。加熱溶融したポリアセタール樹脂の内部に空気を入れて成形します。
▼押出成形
ポリアセタール樹脂は結晶性が高く、結晶化が速いため、一般的には押出成形に向いていません。しかし近年、押出成形に対応した高粘土グレードのポリアセタール樹脂原料が開発され、実用化されています。
押出成形は、射出成形では難しい厚肉製品や不織布用の繊維の製造に用いられています。
▼切削加工・レーザー加工
ポリアセタール樹脂は硬度や弾力性があるため、フライス加工などの切削加工やレーザー加工に向いている素材です。
ポリアセタール樹脂の接着
ポリアセタール樹脂は水分を弾く疎水性を持つため、一般的な接着剤を使用しての接着は不可能と言えます。
この問題を解決するには、主に2種類の方法があります。
▼表面加工と専用接着剤による接着
クロム酸でポリアセタール樹脂の表面にエッチング加工を施すことで、エポキシ樹脂やポリウレタン製の接着剤で接着できるようになります。
▼溶着
ポリアセタール樹脂は熱可塑性樹脂のため、溶着が可能です。ポリアセタール樹脂を融点まで加熱し、圧力を加え結合させます。 レーザー溶着、超音波溶着などの方法を用いることで、強度のある接着を実現することができます。
ポリアセタール樹脂(POM)の主な用途
先述したように、ポリアセタール樹脂はプラスチック随一の耐摩耗性と自己潤滑性を持つエンプラです。耐疲労性に優れ、寸法も安定していることから、金属の代替として多用されています。
以下は、ポリアセタール樹脂の主な用途です。
▼電気・電子
扇風機ネックピース、電子レンジ部品、CDチェンジャー/CDプレーヤー、洗濯機内部部品、湯沸かしポット部品、炊飯器内部部品など
▼自動車
パワースライドドア部品、ワイパーモータシステム部品、ドアロック部品、サイドカバー、フューエル関連部品、タンク部品、ラジエーター、スピードメーターフレーム、シートチェンジレバー、コントロールケーブル部品など
▼機械部品
カム軸、ローラー、ATMや自動券売機のトルクリミッター、プリンタ/複写機のギア、コピー機ベアリング、ミシン・時計内部部品など
▼住宅関連部品
ブラインド部品、カーテンランナー/カーテンフック、アルミサッシ固定板、水道メーター、トイレットペーパーホルダー、ガスホースジョイント、キャスターなど
▼その他
ファスナー、カメラ部品、スキー部品、エアゾールバルブ、戸車、マーキングペン、輸血ジョイントなど
金属の代わりになるポリアセタール樹脂(POM)
軽量で安価なプラスチックの特性と、金属に迫る耐久性や耐摩耗性を兼ね備えたポリアセタール樹脂。その特性から、従来、金属が使われていた部品を置き換えることができるだけでなく、さらに軽量化や耐久性の向上が期待できます。
また、ポリアセタール樹脂には、耐候性や柔軟性、摺動性などをより高めたグレードがあり、必要に応じて選択することができます。そのための参考として、この記事をぜひ活用してください。
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