ものづくりプレス

2025-02-20

工業材料における金属の分類と種類

工業材料には金属と非金属(ゴム、プラスチック、ガラスなど)の大きく2種類があります。

ものづくりにおいて金属の用途は幅広く、工業材料に欠かせない存在です。

しかし、一口に金属と言っても、いったいどんな種類があるのでしょうか。

この記事では、工業材料における金属の分類と種類、またその特性や用途についてわかりやすく解説します。

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金属の分類

元素の約4分の3は金属に分類されます。水銀(Hg)を除くと、金属はすべて常温において個体で存在する物質です。


金属の主な性質は以下の通りです。


・展延性(圧縮したり引っ張ったりしても壊れず柔軟に変形する)
・強度(強度が高く壊れにくい)
・電気伝導性・熱伝導性(電気や熱を伝えやすい)
・溶融性(高温下で溶融するため加工しやすい)
・光沢(可視光のほとんどを反射して輝く)


上記のような性質を持つ物質の総称が金属と定義されます。


金属と言えば、金(Au)や銀(Ag)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)などを連想することが多いですが、工業材料における金属は大きく次の2つに分類されます。


・鉄鋼:鉄(Fe)が主成分であるもの
・非鉄金属:鉄(Fe)以外の金属が主成分であるもの


ここで、鉄鋼と非鉄金属にはそれぞれどのような金属が含まれるのか、また金属の種類によってどう特性が異なるのかについて、次に解説します。

金属の種類と性質 ~鉄鋼と非鉄金属~

鉄鋼と非鉄金属には、それぞれ次のような金属が含まれます。


鉄鋼:鉄(Fe)が主成分であるもの


・炭素鋼…鉄鋼のうち基本的な元素のみからなるもの
・合金鋼…さまざまな元素を加えて機能を付加したもの
・鋳鉄…通常の鉄鋼よりも炭素を多く含んでいるもの


非鉄金属:鉄(Fe)以外の金属が主成分であるもの


・ベースメタル(卑金属)…産出量が多い基本的な金属
・レアメタル(希少金属)…産出量が少ない希少金属
・貴金属(プレシャスメタル、ノーブルメタル)…希少性があり化合物を作りにくい金属


金属の種類によって特性や加工方法、用途なども異なります。ここでは、それぞれの金属の主成分や特性などを詳しく解説します。

◇鉄鋼

鉄(Fe)を主成分とし、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5元素を含む金属を鉄鋼と呼びます。鉄鋼は含有する炭素量によって炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の3種類に分類され、炭素量が増えるほど硬度が増します。工業材料における金属の中でも最も多く使用されており、金属製品の約90%を占めているとも言われています。


▼炭素鋼
鉄(Fe)を主成分とし、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5元素のみからなる鉄鋼を炭素鋼と呼びます。炭素鋼に含まれる炭素量は通常、2%程度以下です。炭素含有量によって以下のように分類されます。


炭素含有量

分類

JIS呼称

0.10

低炭素鋼

SPC

冷間圧延鋼板

0.100.25

SS

一般構造用圧延鋼材

SC

機械構造用炭素鋼鋼材

0.250.30

中炭素鋼

0.300.60

-

0.602.14

高炭素鋼

SK

炭素工具鋼鋼材

一般的に炭素含有量が高くなると硬度が上がります。しかし、鉄は硬度が上がると、靭性(粘り強さ)が低下し、壊れやすくなります。そのため、加工して使うためには硬度と靭性を兼ね備える必要があります。炭素鋼は硬度と靭性をほどよく併せ持つことから、加工しやすく、安価に生産できる鉄鋼です。



炭素鋼の中でも、最も多く利用されているのがSS材(一般構造用圧延鋼材)です。SSとはSteel Structureの略で、JIS規格ではSS330、SS400、SS490、SS540の4種類があります。


一見すると暗号のようですが、SSと数字を分けてみるとわかりやすいでしょう。数字は大きくなればなるほど引っ張り強さがより大きいことを示します。たとえばSS330なら330MPa(圧力の単位パスカル)分は引っ張り強さがあることになります。現在、最も普及しているのがSS400です。


炭素鋼は、低い温度で変形できる低炭素鋼から、硬度の高い高炭素鋼までさまざまな種類があるため、用途によって幅広く使い分けが可能です。


▼合金鋼
鉄(Fe)と5元素のみで構成される炭素鋼に、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)などの元素を加えることで、さまざまな特性を付加したものを合金鋼と呼びます。炭素鋼よりも必要な元素が多くなるため、一般的にはやや高価になりますが、その特性の高さから、さまざまな環境下で利用価値の高い鉄鋼です。


主な合金鋼は、次の6種類があります。


▽ステンレス鋼
炭素鋼にクロム(Cr)とニッケル(Ni)を加えた合金鋼がステンレス鋼です。その名の通り、Stainless(汚れにくく、さびにくい)という性質を持ち、耐久性にも優れています。台所用品や調理器具などの日用品をはじめ、船舶や建築物にも幅広く利用されています。


▽クロムモリブデン鋼
炭素鋼にクロム(Cr)を1%程度、モリブデン(Mo)を0.15~0.45%加えた合金鋼がクロムモリブデン鋼です。クロムモリブデン鋼は強度、靭性、耐熱性に優れていて、溶接や焼入れなどの加工を行いやすいのが特徴です。レンチやスパナなどの工具のほか、エンジン部品や自転車のフレームなどにもよく使われています。


▽合金工具鋼
炭素鋼にクロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)などを加えて硬度、耐摩耗性、耐熱性を付加した合金鋼が合金工具鋼です。通常の高炭素鋼では摩擦や高温といった条件下に耐えられない場合に使用されます。たがねやポンチといった工具やドリルなど、耐摩耗性や耐熱性が求められる道具に使われています。


▽機械構造用合金鋼
炭素鋼にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などを加えて焼入れ性を改良した合金鋼が機械構造用合金鋼です。炭素鋼よりも高い強度や靭性が必要とされる場合に利用されます。自動車や建設機械のギア、シャフトなどの素材として使われています。


▽超硬合金
炭素鋼にクロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などさまざまな元素を組み合わせることで、極めて高い硬度を付加した合金鋼が超硬合金です。高精度の切削用工具や研磨板の素材として使われています。


▽ハイテン鋼
炭素鋼にクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ホウ素(B)などを少量加えることで、非常に高い靭性や引っ張り強さを付加した合金鋼がハイテン鋼です。


最も多く使用されている炭素鋼(SS400)の2倍以上の引っ張り強さを持ち、溶接も可能であることから、長大橋や船舶などの大型構造物や天然ガスのパイプライン、水圧鉄管などに使われています。


▼鋳鉄
鉄(Fe)を主成分とし、炭素含有量が2.14~6.67%の鉄鋼を鋳鉄と呼びます。鋳鉄は他の鉄鋼に比べて炭素含有量が高いため、硬くてもろい性質がありますが、比較的低い温度で溶融するため成形しやすいのが特徴です。鋳鉄には大きく次の3種類があります。


▽白鋳鉄
鋳鉄に含まれる炭素(C)やシリコン(Si)が少ないと、炭素が黒鉛(グラファイト)ではなく化合物のセメンタイト(Fe3C)になるため、その結晶の破面が白くなります。これを白鋳鉄と呼びます。白鋳鉄は耐摩耗性に優れますが、もろくて壊れやすく切削加工も困難なため、工業材料にはあまり適していません。


▽ねずみ鋳鉄
鋳鉄に十分な炭素が含まれていると、炭素が黒鉛として結晶化し、破面がねずみ色に見えるようになります。これを、ねずみ鋳鉄または普通鋳鉄と呼びます。ねずみ鋳鉄は耐摩耗性に優れ、鋳造や切削加工もしやすいことから、機械の摺動面やマンホールの蓋、ブレーキディスクなどに幅広く利用されています。


▽球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)
鋳鉄にマグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)などを加え、組織中の黒鉛の形を球状にしたものが球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)です。球状化することにより、引っ張り強さや延性を上げ、ねずみ鋳鉄の数倍の強度にまで高めることが可能になります。強度や耐摩耗性、耐熱性などに優れ、鉄道や自動車の部品に使われています。

◇非鉄金属

非鉄金属とは、一言で言えば、鉄以外の金属のことです。非鉄金属とは学術的な分類ではなく、工業材料における習慣的な分類とされています。これは、金属の総生産量に占める鉄の生産量が圧倒的に多いため、鉄とそれ以外を分けた方が便利で取り扱いやすいという理由からです。非鉄金属には、大きく次の3種類があります。


▼ベースメタル(卑金属)
ベースメタルには本来鉄も含まれますが、非鉄金属の場合は鉄を除いた銅(Cu)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)などの基本的な金属のことを指します。また、ベースメタルのうち、比重が4~5以下であるアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)などのことを軽金属とも呼びます。


ベースメタルは産出量が多く、産業用品だけでなく、硬貨(1円玉はアルミニウム、10円玉は銅が主成分)や日用品にも多く利用されています。工業材料としては、アルミニウム(Al)は航空機や自動車の部品、亜鉛(Zn)は鉄鋼のめっきコーティングなどによく使用されています。


▼レアメタル(希少金属)
レアメタルとは、希土類元素を含む47元素からなる希少金属のことを指します。例えば、リチウム(Li)やコバルト(Co)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などがあげられます。


レアメタルは産出量が少なく、採掘するのも技術的に困難が多いことから、希少性が高く「産業のビタミン」とも呼ばれています。工業材料としては、発光ダイオードやリチウム電池などの電子材料、光触媒やニューガラス(高精度・高機能なガラス)などの機能性材料として用いられ、ハイテク製品の小型化・軽量化にも寄与している材料です。


▼貴金属(プレシャスメタル、ノーブルメタル)
貴金属(プレシャスメタル、ノーブルメタル)は、希少性が高く、化合物を作りにくい金属のことを指します。プレシャスメタルは「希少な金属」、ノーブルメタルは「酸化しにくい金属」という意味で、金(Au)や銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などがこれに当たります。


貴金属は、非常に安定性が高く美しく輝くため、宝飾品として使用されるほか、通電性の高さから電子部品などにも多く利用されています。

主な用途別金属

工業材料として金属を使うときは、用途や特性などをよく理解し、ふさわしい素材を選ぶことが大切です。以下に、工業材料における金属を用途別にまとめてみました。ぜひ目的や用途にあった金属材料をぜひお探しください。


用途

金属

宝飾品、装飾品

金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd

歯科医療

金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、インジウム(In

医療

チタン(Ti)、ボロン(B

電気部品

銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd

電子機器

金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pb)、チタン(Ti)、ルビジウム(Rb

半導体

銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、インジウム(In

電線

銅(Cu)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb

超硬工具、超硬合金

タングステン(W)、コバルト(Co)、タンタル(Ta

鋼材

ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn

めっき

亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr

電池・バッテリー

鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、リチウム(Li

自動車部品

亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg

航空機部品

アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、コバルト(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg

触媒

ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ビスマス(Bi

日用品

銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al

ステンレス鋼

ニッケル(Ni)、クロム(Ni)、モリブデン(Mo

耐熱合金

レニウム(Re)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf

ダイカスト

亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al


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