ものづくりプレス
2025-02-25
PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂の基本情報
PBT(ポリブチレンテレフタレート)は、日本のみならず世界中で使用されているエンジニアリング・プラスチックの1つです。高いレベルでのバランスが取れた特性を持っており、あらゆる場面で活躍できる素材として長年愛用されてきました。
当記事ではPBTの概要や長所・短所のほか、PBTが用いられている製品やその用途について解説します。
目次
PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂とは
PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂とは、石油由来の化学繊維であるポリエステルの一種です。熱を加えると溶融し、冷やすと固まるなど「熱可塑性樹脂」に分類されます。
◇需要の多いエンプラ素材
PBTは、汎用プラスチックよりも高い性能や耐久性などの性質を持つ「エンジニアリング・プラスチック(以下、エンプラ)」で、その中でも5大汎用エンプラの1つに数えられるほど多用されています。ほかにポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)が5大汎用エンプラとして挙げられます。
古くからその名が知られていたPBTですが、工業用として普及し始めたのは1970年。ほかの汎用エンプラの中では、もっとも歴史の浅い樹脂となっています。しかし、現在では日常的に使用されるプラスチックとして飛躍的に普及しています。
その理由として、非常に優れた耐熱性や耐薬品性、電気特性があります。またほかのエンプラと比較してもコストと性能のバランスがよいため、市場需要も多く、自動車業界や電気・電子分野などで、幅広く使われています。
常温の状態では、同じくポリエステルの一種であるPET(ポリエチレンテレフタレート)と同じような特性と組成を持っています。PETは透明度が高いことから、ペットボトルやフィルムなどに多く使用されている素材です。
◇繊維素材としてのPBT
PBTは、プラスチックとしてだけではなく、繊維としての一面も持っています。
紫外線や塩素に強く、また伸縮性も備えているのに加え、着色性にも優れていることから、機能性の高いスポーツウェアの材料などに使用されています。そのほか、吸水性の低さを生かして、歯ブラシなどにも活用されています。
PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂の特徴
PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂の長所と短所をそれぞれみていきましょう。
◇長所
PBTは主に以下のような長所があります。
・耐熱性や、優れた耐熱劣化性
・温度による電気抵抗や誘電率の変化の小ささなど、熱可塑性樹脂中で屈指の電気的特性
・優れた耐衝撃性や靭性
・吸水率が低く、寸法安定性が良好
・強アルカリ、濃塩酸、濃硫酸以外の薬品全般に強い耐薬品性
・有機溶剤や油全般に強い耐油性
・結晶化速度が速く、成形サイクルが短い
・優れた耐候性
・腐食性がない
・難燃化が容易
また、PBTにガラス繊維をプラスすると強靭さや摩擦特性がさらに向上するなど、さまざまな強化充填剤を配合することにより、機械特性や熱特性などの向上が容易に行なえるのも長所です。
基本的には非常に安定性の高い樹脂であり、毒性も確認されていません。高いレベルでバランスが取れていることから、比較的扱いやすい素材であると言えます。
◇短所
PBTの主な短所は、次のとおりです。
・強アルカリやフェノール類、塩素系炭化水素などに弱い
・非強化グレードの場合は荷重たわみ温度が低く、高温荷重下の使用に不適
・加水分解が起こる可能性がある
優れた特性を持つPBTですが、上記に挙げた特定の状況下での使用には適していません。製造ラインや製品の用途には、十分な注意が必要になるでしょう。また、消防法では、指定可燃物の合成樹脂類に該当しています。
PBTの成形方法
PBTの主な成形方法は射出成形です。射出成形とは、加熱して溶かした樹脂ペレットを金型に射出した後、冷却・固化して成形する方法です。
ただし、PBTは加水分解を起こす可能性があるため、射出成形前には樹脂ペレットの予備乾燥が必要になります。
PBT樹脂を使用した主な製品・用途
PBTは自動車や電子・電気部品産業の成長や人口増加に比例して、需要が増加していくと予想されます。また、さまざまなグレードも登場しており、業界や用途を問わず、活躍の場はさらに広がることでしょう。
以下の項目でPBT樹脂を使用した主な製品・用途について、カテゴリ別に紹介します。
◇自動車用部品
耐熱性や耐衝撃性、靭性などに優れるPBTは、熱や摩擦などが発生する自動車用部品の素材としてよく用いられます。特に欧州では、自動車の軽量化規制や燃費・CO2排出量の削減などの課題をクリアするために、PBT製材料の使用が進んでいます。
PBTが使われる主な自動車部品は次のとおりです。
・ATギヤボックス
・ディストリビュータキャップ類
・リム
・ドアハンドルバルブ
・ドアミラーのステー
・ワイヤーハーネスコネクタ
・ワイパー部品
・アウターハンドル
・ABSユニットケース
・ワイヤーハーネスコネクタ
・イグニッションコイル
・駆動部の部品など
◇電子・電気部品
熱可塑性樹脂の中でも特に優れた電気的特性を持つことから、電子・電気部品の素材にも多用されています。
・コネクタ
・電動工具
・クーリングファン
・蛍光灯口筋
・ソケット
・電話機
・電池BOX
・キーボードのキートップ
・ヘアードライヤ
・コピー機部品 など
◇機器
自動車や電子・電気部品分野以外でも、さまざまな部品の材料として使用されています。
・マジックキャップ
・空圧機器
・冷却ファン
・光ファイバーケーブルの鞘
・シーケンサーハウジング
・キートップ
・時計部品
・カメラ部品
・パイプ継手 など
◇その他
繊維素材としてのPBTは、主に以下のような用途に使用されています。
・スポーツウェア
・スポーツ用品
・水着
・用ブラシ
・歯ブラシ
・お箸
・漬物用フィルムなどの 食品用フィルム など
PBTとPET(ポリエチレンテレフタレート)の違い
PBTと同じくポリエステルであるPET(ポリエチレンテレフタレート)も、優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などを持っています。
またその高い透明性から、ペットボトルを中心とした食品用容器全般やフィルムなどに主に使用されるほか、磁気テープの機材、衣料用の繊維(フリース)など幅広く用いられています。
PBTと比較した場合のPETの特徴は、次のとおりです。
・PBTより優れた耐熱性
・PBTより優れた強度や剛性(特に低温下での衝撃強度)
・ガスバリア性はPBTと同等程度
・加工性はPBTに劣る(PETは吸水性が高め)
・ガラス転移温度がわずかに低い
またPETは、リサイクルができるポリエステルとして注目されています。SDGs(「持続可能な開発目標」)といった環境保全に関する活動が進む中、PETも今後注目される材料だと言えるでしょう。
PBTはバランスが取れた高性能なエンプラ!
同じくポリエステルであるPETとともに、さまざまな業界や製品のニーズに沿った材料として用いられているPBT。株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによると、PBT樹脂の市場規模は2020年の約31億ドルから2026年には約53億ドルに、PETに関しては、約281億ドルから約522億円まで上昇すると予想されています。
PBTは5大汎用エンプラに分類され、耐薬品性や電気的特性など、工業と相性の良い特性をバランスよく備えた素材です。PBTを利用した製品開発やご相談があれば、お気軽に当社までお問合せください。
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