ものづくりプレス
2025-02-10
耐熱性に優れた熱硬化性樹脂ポリイミド
ポリイミドは、樹脂の中でも高いレベルの耐性・性能を備えている素材です。
さまざまな業界の製品として利用されており、製品の高機能化や小型化などのクオリティアップに貢献しています。
当記事では、ポリイミドの概要や特性、主な製品や用途について解説します。
ポリイミド(PI)とは
強度や耐熱性を向上させた高性能のエンジニアリング・プラスチックの中で、さらに優れた特性を持つものを「スーパー・エンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ)」と言います。ポリイミド(PI、芳香族ポリイミド)は、米国デュポン社が開発したスーパーエンプラの一種です。
基本的に加熱によって硬化する「熱硬化性樹脂」に分類されますが、近年は、熱すると溶け、冷やすと固まる性質を持つ熱可塑性のポリイミドも開発されています。
ポリイミドは、圧倒的な耐熱性に加えて優れた機械特性や耐薬品性、電気絶縁性などを備えた樹脂です。1965年に実用化されて以来、特に電気・電子機器などの小型化や高性能化、高信頼性化などの進歩に大きく貢献してきました。それから50年以上たった今でも、宇宙航空から自動車、民生機器などの広い分野で現役として使用されています。
ポリイミドが利用されている業界は主に次のとおりです。
・工業・電力インフラ
・電鉄・自動車
・家電品
・情報インフラ
・通信機器
・航空宇宙・軍事用 など
ポリイミドは、その化学構造の違いによりいくつかの種類があり、また物性も異なります。しかし、いずれも高温環境下で長期間耐えることができる突出した耐熱性や、高い絶縁性を持つことには変わりありません。
ポリイミド(PI)の特性
スーパーエンプラであるポリイミド(PI)は、多くの特性を備えています。
優れた性質を持つ分、値段が高いため、導入に際しては製造する製品の要求性能と製造コストを充分に考慮するのがいいでしょう。
続いて、ポリイミドの特性について詳しく説明します。
◇耐熱性・耐寒性
約500℃まで耐えられる耐熱性と、マイナス200℃まで対応できる耐寒性を持っています。非常に熱に強い樹脂で、長期耐熱性も200~250℃程度となっています。これは高分子の中では最高レベルの耐熱性です。
また、クリープ特性(歪みに耐える性質)に優れており、高温環境下においても高荷重を支持できます。そのため、業界や用途に関わらず、さまざまな温度環境で活躍できる製品に用いられています。
◇電気特性
高温から低温まで、広範囲の温度帯や周波数の中でも優れた電気特性を発揮することができるため、高熱になる新幹線や電車などの車両モーターなどにも使用されています。
このほかにも、誘電率が3.0前後と低く、熱膨張係数を基材に合わせて制御ができることから、回路基板や機械部品に使われるなど、幅広い用途で活躍しています。
◇寸法安定性
ポリイミドは寸法安定性がよく、外的要因などによる寸法の変化が起こりにくい樹脂素材として知られています。熱膨張性の小ささと熱収縮率の低さも特徴です。
ただし水や湿気などの水分に対しては、特性や寸法変化が発生する傾向が見られます。
◇耐薬品性
ポリイミドは薬品にも強く、ほとんどの有機溶剤に侵されません。またグリースやオイルに対しても強い耐性を持っています。
全体的に非常に優れた耐薬品性・耐溶剤性を有するものの、強酸や強アルカリにはあまり強くありません。またポリイミドの種類によっては、n-メチル-2-ピロリドンや1,4-ジオキサンなどに溶けるものがあります。
◇難燃性
ポリイミドは燃えにくい難燃性の樹脂です。酸素指数(材料の燃えやすさの指標)が低く、非延焼性を備えているほか、燃焼時の発煙量も少ないなどの特性は、ポリエステルといったほかの高分子樹脂と比べても優れています。
先述した耐熱性と合わせて考えると、ポリイミドは熱に対する強さが非常に優れている樹脂と言えます。
◇耐摩耗性
無潤滑でも非常に優れた耐摩耗性を発揮するため、機械的な動きのある箇所や圧力がかかる場所などでも問題なく使用できます。
特に無潤滑下におけるPV限界値(加重圧力×速度で、材料の摺動表面が摩擦発熱によって変形または溶融する限界のこと)は、一般的なエンプラの10倍以上とされています。
◇絶縁性
電気特性に優れたポリイミドは、高い電気絶縁性を備えています。また熱膨張係数が低いという特徴を持ち、樹脂としては比較的金属に近い特性があります。そのため、電子回路や電線、コイルなどの絶縁素材として使用されています。
ポリイミド(PI)の主な製品と用途
ポリイミドが用いられる製品は、主に次のとおりです。
・フィルム・シート
・コーティング剤・ワニス
・接着剤・接着シート
・成形材料
・発泡体
・基盤
・バインダー など
以下では、主な製品の概要や用途などを解説します。
◇フィルム、シート
ポリイミドは、「ポリイミドフィルム(ポリイミドシート)」として製品化されており、またこの形状で使用されるケースが多いようです。優れた耐熱性、絶縁性、電気特性、耐薬品性などを持っているため、幅広い分野におけるカバーやマスキングにも使用可能です。
▼ポリイミドフィルムの主な用途
ポリイミドフィルムの用途は次のとおりです。
・精密フレキシブルプリント配線の基盤
・実装プリント基板のマスキング用フィルム
・フラットケーブル
・モーターコイルの絶縁体
・ノートパソコンや携帯電話
・その他の高温下で使用する仮止め用 など
◇コーティング剤、ワニス
ポリイミドは、さまざまな製品の表面の保護膜を形成するためのコーティング剤(ワニス)としても使用されます。
▼ポリイミドコーティング剤の主な用途
ポリイミドコーティング剤の主な用途は次のとおりです。
・半導体の層間絶縁膜
・バッファーコート
・電線ケーブルの被覆材
・フレキシブルプリント基板
・人工衛星などの重要な機器をカバーする絶縁保護フィルム
・その他耐熱・絶縁が必要な箇所のコーティング用 など
◇接着剤、接着シート
絶縁性や耐熱性を兼ね備えたポリイミドを接着剤や接着シート化して使いやすくすることで、さまざまな環境で使用されています。中でも、作業環境や作業効率、品質安定性などを踏まえて、接着シートとして使われることが多いようです。
シートには2種類のタイプがありますが、熱硬化型のタイプは作業性がよい反面、耐熱性がやや劣ります。一方で熱可塑性のタイプは、耐熱性に優れていますが、作業性や接着性強度に関しては課題が残ります。
▼ポリイミド接着剤の主な用途
ポリイミド接着剤の主な用途は次のとおりです。
・LOC(リード・オン・チップ)
・ヒートスプレッダー
・ダイボンディング
・層間絶縁
・パワーデバイス
・車載部品
・LED
・半導体製造装置部材 など
◇成形材料
ポリイミドは、射出成形など、金型を使って成形する材料としても利用されています。金型の形状に合わせて、以下のようなさまざまな形のポリイミド製品が製造されています。
▼ポリイミド成形材料の主な用途
ポリイミド成形材料の主な用途は次のとおりです。
・ワッシャー
・シーリング
・ブッシング
・ベアリング
・コピー機の加熱ローラー軸受け・断熱軸
・半導体製造装置用耐熱トレイ
・航空機部品
・人工衛星部品
・その他の自動車部品や電子部品 など
◇発泡体
発泡体とは、成形時に気泡を充填させることによって、細かい孔が多数あいている製品のことです。この孔が、断熱性や保温性、防音性などの性能を付加します。
発泡体は非常に軽量であるという特徴があるため、ほかの製品とは違った用途が期待できます。
▼ポリイミド発泡体の主な用途
ポリイミド発泡体の主な用途は次のとおりです。
・自動車部品・電気製品の軽量化や高機能化
・吸音材
・防振材
・断熱材 など
◇基板
優れた電気特性や電気絶縁性、耐熱性を持つため、ポリイミドの電気・電子分野での用途が拡大しています。
中でも電子部品の基板などに使われることが多く、主に金属層の界面に接着剤が介在したタイプと、金属層とポリイミドを接合させたタイプが存在します。
▼ポリイミド基板の主な用途
ポリイミド基板の主な用途は次のとおりです。
・電子機器の高密度化・多機能化・省スペース化
・スマートフォン
・配線
・自動車部品 など
◇バインダー
電池などにおいて、電気を起こすための物質を活物質と言いますが、その物質同士を結合する役目をするのがバインダーです。
中でもポリイミドバインダーは、膨張や収縮による電極の変形の抑制や、サイクル時の電池容量維持などの効果があり、リチウムイオン電池の高容量化に寄与できます。
▼ポリイミドバインダーの主な用途
ポリイミドバインダーの主な用途は次のとおりです。
・リチウムイオン電池の接着部分全般
・携帯電話
・ノートパソコン
・電動工具
・リチウムイオン電池の低コスト化 など
ポリイミドは耐熱性・電気特性などに優れたスーパー・エンジニアリング・プラスチック
ポリイミドは非常に優れた耐熱性、電気特性、寸法安定性、耐薬品性、耐摩耗性などを持つ樹脂です。エンジニアプラスチックより高性能なスーパー・エンジニアリング・プラスチックに分類されており、産業製品の中でも半導体や航空宇宙などの、重要な箇所の部品に多く使われています。
ただし非常に高価な樹脂であり、また水分に弱いという性質を持ちます。自社製品として取り入れる場合は、特性を考慮した製品設計を行ないましょう。
ポリイミドの特徴や加工方法などについてのご相談は、お気軽に当社までお問合せください。
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