ものづくりプレス
2024-04-17
ポリカーボネート(PC)とはどんな素材?
汎用エンプラの中で唯一透明性が高く、さらに機動隊のライオットシールドなど軍用品にも使用されるほどの耐衝撃性を持つポリカーボネート。耐熱性にも優れ、安価で自在な形に成形できることから文房具やカーポートの屋根材や波板など幅広い分野で使用されています。
この記事では、ポリカーボネートの特徴や安全性、加工時の注意点などについて詳しく解説します。
目次
ポリカーボネート(PC)の特徴
ポリカーボネートは耐熱性や耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂です。機械的性質の高さから、ポリアミド(PA)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)と並んで『5大汎用エンプラ』と称されている代表的なエンジニアリングプラスチックのひとつです。特に強度は同じ厚みのガラスの約200倍、ポリ塩化ビニル(PVC)の約10倍、ポリエチレンやアクリル樹脂の約50倍とも言われ、ほかのエンプラと比べても非常に高い耐衝撃性を誇っています。
これらの性質に加え、汎用エンプラの中では唯一透明性があり、アクリル樹脂と同等であることから、有機ガラス(プラスチック製のガラス)として窓ガラスや軍用飛行機のキャノピーなどにも使用されています。
◇長所
高い透明性を持つ合成樹脂の中で、ポリカーボネートは最も衝撃に強く、耐熱性にも優れた素材です。また、高い耐火性や自己消化性を有するため、自動車部品や工業部品の素材としても重宝されています。
以下は、ポリカーボネート樹脂の長所です。
▼高い透明度
アクリル樹脂同様に、有機ガラスに分類されるほど優れた透明性を有しています。その光線透過率は、プラスチックの中で最高とされるアクリル樹脂が93パーセントなのに対し、ポリカーボネートは85〜90パーセントと少々劣るものの、一般的なガラスと遜色ない透明性を持っています。
▼耐寒性・耐熱性
連続使用可能温度帯はマイナス100℃から140℃程度と幅広く、電子レンジでの加熱から冷凍庫のような低温環境まで問題なく使用できます。
▼耐衝撃性
先述したように、アクリル樹脂の約40倍、普通ガラスの約400倍、衝撃に強いABS樹脂と比べても約5倍の強度を誇り、透明プラスチックの中で最高クラスの耐衝撃性を有しています。
さらに軽量で靭性(粘り気)が高いといった特性も兼ね備えており、特殊車両の防弾ガラス窓や機動隊の防弾シールドにも生かされています。
▼耐候性
ほかのプラスチックと比べても、比較的高い耐候性を有します。紫外線に強く、屋外使用でも劣化しにくいため、加水分解や退色の心配もほとんどありません。
290nm前後の紫外線で劣化・黄変するとの報告もありますが、それでもPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)に比べると、屋外での使用に充分耐えうる耐候性を持つといえるでしょう。
▼自己消火性
透明性の高いアクリル樹脂が可燃性なのに対し、ポリカーボネートは自己消化性を持つ合成樹脂です。火元から離れると自然に消火する性質を備えているため、建築資材や車の内装部品など、難燃性の要求が高く、火災時のまん延を防ぐ箇所にも使用できます。
▼寸法精度
吸水率や成形収縮率が低いため変形しにくく、寸法安定性に優れています。高い精度が求められる精密機器や医療分野でも重宝されている素材です。
▼軽量
比重は約1.2で、ガラスや金属に比べてはるかに軽量です。その上、耐衝撃性や透明性に秀でているため、金属やガラスの代替素材として有力な候補になり得ます。
◇短所
ポリカーボネートは強度に優れた樹脂ですが、エステル結合を持つため、アルカリ性薬品や有機溶媒で劣化する性質を持っています。また、同じ理由から高温多湿にも弱いなど、ポリカーボネートが持ついくつかの短所について、以下に説明します。
▼有機溶剤・界面活性剤に弱い
エステル結合を持つポリカーボネートは、汎用エンプラの中で最も強アルカリ性に弱いという性質を持っています。強アルカリ性の物質と接触した場合、加水分解が起き、強度や透明性の低下などの劣化を招きます。
この弱点をカバーするため、現在では、アクリル耐性を強めたポリカーボネートも開発されています。
▼キズがつきやすい
衝撃などには強いポリカーボネートですが、アクリル樹脂と比べて表面硬度が低く、キズがつきやすいという欠点があります。硬めのブラシでこするとキズが残る可能性が高くなります。
コーティング剤やキズがつきにくいグレードのポリカーボネートを使用することで、この問題は解決できます。
▼高温高湿環境下で加水分解が起こる
高温多湿環境でポリカーボネートを長時間使用すると、水の分子がポリカーボネートのエステル結合を分断し、加水分解を引き起こします。これにより物性が低下することで、ポリカーボネートは劣化します。
ポリカーボネートの成形
ポリカーボネートは成形収縮率が低く、寸法安定性に優れた素材です。加工性も高いため、熱可塑性プラスチックの主要な成形方法の多くに対応しています。複雑な形状だけでなく、フィルムインサートや表面加工によるデコレーションなど、デザイン性の高い製品の製造にも適しています。
ポリカーボネートの主な成形方法と特徴は、以下のとおりです。
◇射出成形
大量生産に適しており、汎用的に用いられる成形方法です。しかしポリカーボネートは流動性が良くないため、ランナーのサイズや製品レイアウトを考慮する必要があります。さらに、金型温度がほかの汎用エンプラよりも高めに設定されていることから、製品の要求値によっては、射出圧や射出速度も極端に振った設定になる可能性もあります。
成形温度は一般的に260〜320℃程度とされています。温度が高いと流動性が上がり、金型への充填性が良くなります。しかし、シリンダー内での滞留時間が長くなることによるポリカーボネートの熱劣化に注意する必要があり、後に記載する金型温度とも密接に関係しているため、成形サイクルの短縮化も品質の優劣を決める一助になることを明記しておきます。
標準的な金型温度の設定は70〜120℃です。温度が低過ぎると、充填不足による外観不良や成形歪み発生の原因となります。反対に高めに設定した場合では、流動性が良くなるため光沢性が増し、歪みの少ない成形が可能な一方で、金型表面と過度に密着しやすくなります。これが原因で、離型不良や離型後の変形が起こることがあります。
このほか、射出圧力や保持圧力の度合いはヒケやボイドに、また射出速度は成形品の厚みやフローマーク、バリなどの発生などに影響を与えます。このように各種設定は、製品の品質を左右する重要なポイントです。
◇圧縮成形
主に熱硬化プラスチックの成形に用いられる圧縮成形ですが、まれにポリカーボネートの成形時に用いることもあります。厚肉品の製造や小規模生産に適しています。
◇押出成形
主にポリカーボネート板やパイプの製造に用いられる成形方法です。ほかの素材と合わせて成形することで多層化も可能です。
◇真空成形
ポリカーボネートは熱変形温度が130〜140℃と高いため、高温で素早く成形する必要があります。真空成形も可能ではありますが、成形条件の幅が狭く、形状を選ぶため、あまり向いているとは言えません。
◇ブロー成形
アクリル樹脂より平滑性は劣りますが、型を使った成形法より外観が美しく仕上がります。照明カバーや展示ケース、ウォーターボトルなど、耐衝撃性が求められる製品の成形に使用されることがあります。ただし真空成形と同じく、ブロー成形には比較的難しい素材であり、成形できる寸法などに限りがあります。
ポリカーボネートの主な加工法と注意点
ポリカーボネートはさまざまな加工方法に対応しています。しかしその性質から、注意しなければならない点もあります。
以下に、ポリカーボネートの主な加工法と注意点を説明します。
◇切断加工
アクリルカッターを用いた切断ができます。切断するのに充分な溝が入っていない場合、折る際に割れが生じることがあるため注意してください。なお、通常のカッターを使用すると、溝が真っ直ぐに入れられないことが多く、最後に亀裂が入る可能性が高くなります。
◇面取り
ポリカーボネートの切断面は非常に鋭利な状態になっています。必要に応じて面取り加工を施してください。
◇曲げ加工
ヒートガンや棒ヒーターを使った曲げ加工にも対応していますが、一般的には不向きとされています。またポリカーボネートは吸水性が高く、発泡や熱収縮などの問題が発生しやすいため、加工の際は慎重な温度調節が求められる点に注意が必要です。
◇接着
ポリカーボネートは溶剤系接着剤と相性が悪く、仮に接着できたとしても強度を損なう可能性があります。また仕上がり状態も良好とは言えないため、避けた方が無難です。
◇ボルト固定
ボルトやビスで固定する場合は、ポリカーボネートの伸縮を考慮する必要があります。ボルト径に対して2〜4mm大きいルーズホールを設けましょう。
また締め付けすぎに注意し、ゆるみ止めなどの薬剤はポリカーボネート劣化の原因となりますので使用しないでください。
◇シーリング
ポリカーボネートは、オキシム型シリコーンシーラント(脱オキシム型シリコーンシーラント)を使うとクラックが発生する可能性があります。アルコール型シリコーンや変成シリコーンであれば物性に影響を与えないため、これらの使用が推奨されています。
ポリカーボネートとアクリルの違い
ポリカーボネート板とアクリル板はどちらもガラスの代替素材として非常によく用いられる合成樹脂製品です。
▼ポリカーボネートの特徴
・耐衝撃性はアクリル板の約40倍
・自己消火性を有する
・透明性はアクリルよりわずかに劣る
・表面がキズ付きやすい
▼アクリルの特徴
・ポリカーボネートより優れた透明性
・粘り気が低く、加工が容易
・接着加工が容易
・耐熱性が低い
これらの性質を生かし、ポリカーボネートは屋根やヘルメット、比較的高温になりやすい機械部品などに、またアクリルは水槽や曲面ディスプレイなどに使用されています。
ポリカーボネートの人体への安全性
ポリカーボネートはホスゲンと、ビスフェノールA(BPA)を重合反応させて作る合成樹脂です。ポリカーボネート自体は環境ホルモンとしての問題はありませんが、ビスフェノールAが体内に入った場合、環境ホルモンとして毒性が懸念されており、ポリカーボネート製品全体の安全性を疑問視する声も聞かれます。
ビスフェノールAが漏出する原因として、ポリカーボネートの劣化や、強アルカリ性の洗剤や薬剤の使用、タワシなど硬いものでのこすり洗い、また高温多湿状態が続く食器乾燥器を使用した場合などが考えられます。しかしその量は食品衛生法の規格基準よりもはるかに少なく、人体に影響を及ぼさないと言われています。
この微量のビスフェノールAが健康に与える影響の可能性については、改めて実験が行なわれている状況です。そのため現時点において、ビスフェノールAを無毒化できる代謝能力が備わっていない胎児や乳幼児などに対しては、ポリカーボネート製の哺乳瓶などの食器類の使用は避けた方が良いとされています。
ポリカーボネートの主な用途
高い透明性を有しつつ、非常に優れた耐衝撃性を持つポリカーボネートは、ほかの汎用エンプラと比べても成形しやすく比較的安価なことから、軍事用品から文房具まで幅広い分野で使用されています。
◇電機・電子・光学機器
ポリカーボネートが持つ強度や寸法安定性、耐熱性、透明性などを生かし、電気・電子・光学機器などに使われています。
■主な用途
スマートフォン筐体、メモリースティック、CD/DVDディスク、カメラ(筐体、レンズ)、プリズム など
◇航空機、自動車、電車など
高い透明度を備えながらも圧倒的な耐衝撃性を持つため、強度や透明性が求められる部分にガラスの代替品として使用されています。
■主な用途
航空機のキャノピー/窓、自動車ランプ、鉄道車両の窓/フロント部分、ドアハンドル、サンルーフ など
◇その他機器
一部の有機溶剤に弱く、使用環境によっては加水分解を起こす可能性のある環境など以外では、ポリカーボネートが持つ性質は、以下の製品にも適しています。
■主な用途
機械の油面/液面確認用の窓、医療機器、建築材料 など
◇雑貨・家庭用品
低温から高温まで幅広い温度耐性に加え、耐久性にも優れていることから、身近な製品にも多く使用されています。
■主な用途
筆記用具、文房具、カーポート屋根、スーツケース、サングラス、除雪用スコップ など
◇武器・防具
透明度の高い樹脂の中でもポリカーボネートが持つ最高レベルの耐衝撃性は、身の安全を守るための武器や防具にも役立っています。
■主な用途
防弾ガラス、ヘルメット、ライオットシールド、トンファーバトン、ゴーグル、スロートガード など
透明で耐衝撃性の高いエンプラ、ポリカーボネート
ポリカーボネート樹脂は非常に高い耐衝撃性を有し、成形が容易なことから、工業製品や日用品まで幅広い分野で使用されている汎用エンプラです。この性質を理解し、生かすことで、優れた製品づくりに役立てることができます。
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