ものづくりプレス

2025-02-20

温水に溶ける合成樹脂ポリビニルアルコール(PVA/ポバール)

親水性が非常に高く、温水に可溶する特性を有するポリビニルアルコール。乾燥させると膜を形成するなど、ユニークな特性を持つため、幅広い分野で重宝されている素材です。
この記事では、ポリビニルアルコールの特徴や用途、安全性について解説します。

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ポリビニルアルコール(PVA/ポバール)とは

ポリビニルアルコールは親水性が非常に高く、温水に溶けるというかなり特殊な性質を有する熱可塑性合成樹脂です。一般にPVAの略号が使用されますが、同じ略号を持つポリ酢酸ビニルとの混合を避けるためにPVALやPVOHが使用されることもあります。また、日本国内ではポバールの名称でも知られています。

◇ポリビニルアルコールの特徴

ドイツで1924年に発明されたポリビニルアルコールですが、世界で初めて量産化技術の確立に成功したのは日本です。1950年当初は、ナイロンに継ぐ世界で2番目の合成繊維『ビニロン』の原材料としての使用だけでしたが、その後はポリビニルアルコール単体(粉末および顆粒)での販売が開始され、現在に至るまで日本が世界一の生産国として知られています。合成樹脂としては珍しく非常に高い親水性という特性を有し、また安定した高分子であるため変質・劣化しにくいというメリットがあります。


以下、ポリビニルアルコールの主な特徴です。


▼溶解性(水溶性)、耐薬品性、耐溶剤性
ポリビニルアルコールの最もユニークな特徴として挙げられるのが、親水性の高さです。加熱攪拌することで、完全に水に溶ける性質を持っています。また水温が高いほど溶けやすくなります。
水以外では、強酸や強アルカリに対して溶解または軟化しますが、一般的な動植物油、有機溶剤、グリースなどには溶解しません。


▼機械強度
粘度が高いため、引き裂き強度や伸張性に優れています。また、ポリビニルアルコールを原料として使用することで、耐摩耗性の向上も期待できます。


▼耐薬品性
弱酸性や弱アルカリ性に対してはほとんど影響を受けません。ただし、強酸、強アルカリには溶解・軟化します。


▼吸湿性
親水性が高いため、優れた吸湿性を有します。重合度やけん化(鹸化)度が低ければ低いほど高い吸湿性を発揮します。


▼造膜性
機械的強度に優れた強靭な膜やフィルムを形成するため、溶剤や気体などに対してバリヤー性が必要な場合などに最適です。また、水に溶かしたポリビニルアルコールを塗装し、乾燥させることで皮膜形成することも可能です。


▼界面活性能
親水性の強い水酸基と疎水性の酢酸基の両方を分子構造に持つため、界面活性能を示します。また乳化・分散性に優れており、アクリル樹脂系接着剤の乳化剤や、化粧品の乳化剤・安定剤などに使用されます。

◇ポリビニルアルコールのつくり方(合成方法)

ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルモノマーを付加重合させたポリ酢酸ビニルを、塩基で加水分解(けん化/鹸化)してつくられます。けん化は、分子中のヒドロキシ基 (−OH) を増加させ、水に溶ける特性を付与しますが、その度合いにより溶解性や皮膜の耐水性が異なります。

ポリビニルアルコール(PVA/ポバール)の人への影響

ポリビニルアルコールは、食品や医療品、化粧品の添加物としても認められています。実験データに基づいた、人体に対する毒性や危険性・刺激性について解説します。

◇毒性

動物実験の試験データによると、皮下注射においてある程度の急性毒性が、また経口摂取では中程度の毒性が認められています。しかし人体に対しては、添加物として認められている範囲内であれば影響は少ないと考えられます。
40年近く世界中で食品・医療品の添加物として使用実績もあり、問題の報告はされていません。むしろ、近年ではがん治療薬にポリビニルアルコールを添加することで治療薬の効果が劇的に向上することも発見されるなど、今後は応用的な用途での使用効果が期待されています。

◇危険性・刺激性

ポリビニルアルコールは、化粧品の乳化安定剤や点眼薬の増粘剤にも使用されています。動物実験やヒト臨床試験も数多く実施されており、その試験データからは皮膚や眼などに対する刺激性はほとんど報告されていません。さらに、アレルギーや皮膚炎の報告例もないことから、添加物として認められている範囲内であれば問題はないと考えられます。

ポリビニルアルコール(PVA/ポバール)の用途

水溶性や耐溶剤性、皮膜形成性、界面活性性能などに加え、添加剤として認められている安全性など、ポリビニルアルコールならではの特性を生かし、多くの業界でさまざまな用途に使用されています。

◇食品関係

乾燥した状態では、合成樹脂の中でもっともガス・酸素遮断性に優れています。そのため、スナック菓子やふりかけ類、かつおぶしなどの食品包装用フィルムのほか、酸化・変色防止包装やガス充てん包装、真空包装などに適しています。ただし、水に弱い性質であることから防湿包装には向いておらず、また食品用フィルムとして使用する際は、多くの場合で両面に耐水加工を施します。

◇繊維

日本で最初の合成繊維として誕生以来、繊維だけでなく織物、不織布、紡績糸などの形態で今でも工業・産業分野を中心に活用されています。主な用途には、網やロープ、産業用縫い糸、建築材の補強、などがあります。

◇化粧品

優れた造膜性や親水性、増粘作用などを生かし、マスカラやファンデーション、ヘアスタイリング剤、パックなどに使用されています。また、多様な油脂成分を乳化・安定させるための高分子乳化剤とし配合されていることもあります。

◇日用品

水酸基を有するため、木材や紙など表面に親水性を持つ物質に対して接着性を示すため、接着剤や液体のり、切手の裏のりなどのほか、洗濯のりの原料としても知られています。このほかコンタクトレンズの原料や装着薬、スポンジなどにも使用されています。

◇医薬品

点眼薬や点鼻薬の添加剤として使用されるほか、錠剤・外用剤などの安定化、可溶化、結合に加え、糖衣・コーティングの粘着といった目的でも用いられています。その範囲は眼科、歯科、耳鼻科など多岐にわたります。

まだまだ未知の可能性があるポリビニルアルコール

日本での生産が盛んなポリビニルアルコールはユニークな性質を持ち、比較的安価で使用しやすい素材であることから、さまざまな業界で活躍しています。さらに水溶性という特性のため、海洋プラスチック問題解決の糸口として研究されているなど、今後もさらに活用の幅が広がることが期待されています。

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