ものづくりプレス

2025-09-20

エンプラ(エンジニアリングプラスチック/EP)の物性と用途

エンプラは、一般的に用いられる汎用プラスチックより、さまざまな面での物性が優れているプラスチック樹脂です。汎用プラスチック製品では耐えられない環境でも、エンプラであれば問題なく対応できるケースも多いです。 当記事ではエンプラと汎用プラスチックの違いやエンプラの種類、エンプラの将来性などについて解説します。

AdobeStock_330165262

エンプラと汎用プラスチックの物性の違い

エンプラ(エンジニアリング・プラスチック)とは、汎用プラスチックでは耐えられない衝撃や熱に対応するため、機械的強度や耐熱性を向上させた高性能プラスチック樹脂です。汎用プラスチックと同じく、熱を加えると溶け、冷やすと固まる性質をもつ熱可塑性樹脂に分類されます。


もともと優れた加工性・軽量性を持っていたプラスチックは、1950年代より生産が盛んとなりました。当初から熱に弱く壊れやすいという弱点を持っていましたが、それらの弱点を克服し金属の代替用として開発されたのがエンプラです。


汎用プラスチックと比較したときの、エンプラの物性は次のとおりです(参考:エンプラ技術連合会


・100℃超でも熱変形を起こさない耐熱性

・強度50MPa以上、曲げ弾性2.4GPa以上の機械的強度

・金属よりも大量生産

・大量消費が容易  


さらに1980年代には、150℃以上にも対応できる耐熱性やエンプラ以上の機械的強度など、エンプラより優れた性能を持つスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリング・プラスチック)も登場しました。  


エンプラ・スーパーエンプラともに、2022年現在もさまざまな工業用品や機械部品に使用されています。  


なお、エンプラおよびスーパーエンプラの定義は明確でないとの説もありますが、当記事では一般的に広まっているエンプラの定義や分類を解説しています。

◇エンプラ

工業用としてよく使用される「5大エンプラ」として、「ポリアミド(PA)」「ポリカーボネート(PC)」「ポリアセタール(POM)」「変性ポリフェニレンエーテル(m=PPE)」「ポリブチレンテレフタレート(PBT)」が挙げられます。


以下では5大エンプラとその他のエンプラについて解説します。  


▼ポリアミド(PA)(ナイロン)

ポリアミド(PA)とは、多数のモノマーがアミド結合によって結合し合っているモノマーのことです。別名でナイロン(ナイロン6、ナイロン66など)を表します。  


ポリアミドの物性は次のとおりです。  


・他の樹脂より融点が高く(200℃以上)耐熱性に優れる

・耐摩耗性の高さや、摩耗係数の低さによる自己潤滑性を持つ

・耐油性、耐薬品性、耐溶剤性に優れる

・酸や塩化カルシウムなどには弱い

・耐トラッキング性や耐アーク性に優れる

・吸性性が高く水分を含むと強度や電気絶縁性が減少、耐衝撃性や柔軟性が向上する

・耐振動性に優れる

・自己消火性(難燃性)がある

・ガス透過性が小さい など  


耐熱性の高さや油への強さから、ポリアミドは自動車のエンジン周辺のパーツや薬品の実験器具に使われます。また、ポリアミドをベースとしたホットメルト樹脂は、電気部品のポッティングやモールディングにも使用されます。


▼ポリカーボネート(PC)

ポリカーボネート(PC)とは、二価のヒドロキシ化合物と炭酸の縮合でつくられるポリエステルの1つです。  


ポリカーボネートの物性は次のとおりです。  


・プラスチック樹脂中、最高レベルの耐衝撃性を持つ(ポリエチレンやアクリルの50倍、ガラスの200倍とも言われる)

・アクリル(PMMA)に次ぐ透明性を持つ ・射出成形や押出成形、真空成形、ブロー成形などのほとんどの成形に対応できる加工性を持つ

・低温下・高温下のどちらでも優れた機械的強度を発揮する

・水分によるひずみや寸法変更が起こりづらい

・直鎖日光や雨風、気温の変化に対応できる耐候性を持つ

・水や弱酸に強い ・自己消火性(難燃性)がある

・非晶性であるため、耐摩擦性や耐摩耗性は少し劣る など  


ポリカーボネートは耐衝撃性・加工性・透明性の高さから、家電・日用品などの一般向けの製品から、メガネ・ゴーグルなどの透明性が必要な製品、保育所・学校などの安全性が重要な開口部など、あらゆる製品に用いられています。  


▼ポリアセタール(POM)

ポリアセタール(POM)には、「ホルムアルデヒド単体の主鎖のホモポリマー」と、「オキシメチレンモノマーと少量のコモノマーが共重合したもの」の2種類があります。  


ポリアセタールの物性は次のとおりです。  


・耐有機溶剤性、耐油性、耐グリース性などに優れている

・強い機械的強度と耐衝撃性を持つ

・自己潤滑性や摩耗特性に優れている

・水分による形状変化が少ない

・他のものとの結合や接着を行うには特殊な方法が必要になる

・寸法安定性が高く、小さな部品にも用いられる

・酸化指数が15%[A4] であるため燃えやすい

・酸性に弱い

・耐候性が低い(添加剤によって実用レベルに引き上げ可能)


摩耗特性や自己潤滑性が高いことから、ギアやベアリング、軸受などの摺動部の部品によく用いられます。また、強度や耐久性が必要な楽器や日用品などにも使用されます。  


▼変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)

変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)とは、ポリフェニレンエーテル(PPE)にスチレン系樹脂などを混ぜたエンプラです。ブレンド比によって、さまざまなグレードを生産できます。  


変性ポリフェニレンエーテルの物性は次のとおりです。  


・荷重たわみ温度はブレンド比によって170℃まで耐性あり、低温での耐衝撃性が高いなど、広い温度帯の現場に対応できる

・引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さなどの機械的強度が高水準である

・電気的特性が非常に高く、エンプラの中でも最高レベルにある

・水分による形状変化が少ない

・酸やアルカリに強い

・対有機溶剤性は低い

・耐紫外線性が低い

・酸素指数が約22.5%であるため燃えやすい(難燃剤添加で対応可能)  


変性ポリフェニレンエーテルは寸法安定性や高温下での剛性を持つことから、自動車部品から電気電子機器部、家庭用機器など、業界や用途問わず幅広い製品に使用されています。  


▼ポリブチレンテレフタレート(PBT)

ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは、ジメチルテレフタレートまたはテレフタル酸と、ブタンジオール(ブチレングリコール)の重縮合によってつくられるエンプラです。  


ポリブチレンテレフタレートの物性は次のとおりです。  


・融点が約225℃と非常に高い

・熱劣化特性に優れている

・耐溶剤性や耐油性などに優れている

・結晶性プラスチックのなかでは耐候性に優れている

・吸水率が低く、寸法安定性が高い

・酸素指数が約21%であるため燃えやすい(難燃グレードなら約29%で燃えにくい)

・加水分解による劣化が起こる

・強アルカリや塩素系炭化水素などに弱い

・結晶化速度が速いので早めの成形が必要になる  


ポリブチレンテレフタレートは加工性が良好であることから、自動車部品や電気電子部品のほか、釣具やスキー用具などにも使用されています。  


▼その他エンプラ

5大エンプラ以外の主なエンプラは次のとおりです。  


・ガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート(GF-PET):ポリブチレンテレフタレートをガラス繊維で強化することで、機械的強度や耐熱性の向上を達成したエンプラ

・シンジオタクチックポリスチレン(SPS) :エンプラの中でももっとも軽く、耐熱性(約250℃)や融点(約270℃)などの熱の強さといった、優れた性能を持つエンプラ

◇スーパーエンプラ(特殊エンジニアプラスチック)

スーパーエンプラ(特殊エンジニアリングプラスチック)とは、エンプラのなかでもさらに高い耐熱性や機械的強度などの性能が優れている樹脂です。


当記事では「ポリフェニレンサルファイド(PPS)」「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」「ポリメチルペンテン(PMP)」「フッ素樹脂(FR)」の4つを解説します。


 ▼ポリフェニレンサルファイド(PPS)

ポリフェニレンサルファイド(PPS)とは、パラジクロルベンゼンと硫化アルカリを高温・高圧下で反応させることで得られる結晶性スーパーエンプラです。  


ポリフェニレンサルファイドの特性は次のとおりです。  


・融点約280℃、荷重たわみ温度約260℃、連続使用温度約240℃など、非常に優れた耐熱性を持つ

・強度・剛性ともに非常に高い

・耐薬品性や耐有機溶剤性などが高い

・吸水性が非常に低く、寸法安定性もすぐれている

・耐摩耗性が高く、かつ非粘着性がある

・難燃性が高い

・電気的特性が高い  

ポリフェニレンサルファイドは、自動車部品のイグニッションやディストリビュータ、OA機器のコンピュータ部品、機械部品のピストンリングなど、さまざまな製品に利用されています。  


▼ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とは、ジハロゲノベンゾフェノンとハイドロキノンとの重縮合系のポリマーです。基本グレードの他に、摺動グレードやガラス繊維グレード、カーボン繊維強化・導電グレードなどが存在します。  


ポリエーテルエーテルケトンの物性は次のとおりです。  


・融点約330℃、荷重たわみ温度約300℃、連続使用温度約240℃など、非常に優れた耐熱性を持つ

・UL温度指数が250℃と熱可塑性樹脂の中で最高レベルとなっている

・強靭なプラスチックであり、機械的強度や耐疲労性、耐衝撃性、耐クリープ性などに優れている

・耐摩耗性や摺動特性が高く、250℃の高温や高加重下でもこの特性を発揮する

・耐放射線性がポリマー中でも非常に優れている

・非常に燃えにくい

・耐吸水性が少ない  


ポリエーテルエーテルケトンは金属の代替品として利用されることも多いスーパーエンプラです。優れた耐摩耗性や耐薬品性などから、自動車部品のギアやワッシャー、ベアリングなどの金属からの代替えにも使われます。  


▼ポリメチルペンテン(PMP)

ポリメチルペンテン(PMP)とは、メチルペンテンをチーグラー触媒で重合した結晶性ポリマーです。  


ポリメチルペンテンの物性は次のとおりです。  


・結晶体であるものの、屈折率の関係で透明性を持つ

・比重が約0.83とプラスチック中最小の値である

・融点が約235℃、荷重たわみ温度約100℃と高温で使用できるうえ、高温では柔軟性・耐衝撃性

・破断伸び強さなどが向上する

・UL温度指数が115℃と耐熱劣化特性も良好である

・加水分解を起こさず、耐水性や耐スチーム性に優れる

・電気的特性に優れている

・酸やアルカリには強いが、耐有機溶剤性には弱い   ポリメチルペンテンは、医療・理化学用の注射器や実験容器、食品調理用器具やラップフィルム、化粧品容器などに用いられています。  


▼フッ素樹脂(FR)

フッ素樹脂(FR)とは、分子中にフッ素を含んだスーパーエンプラのことです。フッ素樹脂にはPTFEやPFA、FEPなど、2022年現在で8種類が市場に出回っています。


フッ素樹脂の物性は次のとおりです。  


・耐熱性・耐低温性のどちらも優れている(PTFEは常用260℃、-268℃まで使用可能)

・耐薬品性に非常に優れており、薬品や有機溶剤にはほとんど侵されない

・低摩擦・摩耗性を持つ

・耐候性、電気絶縁性、難燃性などさまざまな物性を持つ

・フッ素含有量が少ないと加工性や機械的強度が向上する

・PTFE以外は溶融成形が可能である

・撥水・撥油性を持つ  


フッ素樹脂は種類によって用途は異なるものの、半導体製品や電気電子機器、食品、医療、建設などあらゆる産業の製品に利用されています。

エンプラとスーパーエンプラの加工

エンプラとスーパーエンプラは優れた耐性を持つ分、加工時にはさまざまな留意点が存在します。とくにスーパーエンプラは耐熱性・耐薬品性・硬度などが非常に優れている反面、成形加工には高度な技術が必要です。  


たとえば、金属の代替品として使うポリエーテルエーテルケトンは、樹脂部品の中でも要求水準が高いものです。金属と比較して収縮率が高い分、加工条件や加工温度、収縮量を見越した金型の仕上げ寸法などを検討しなければなりません。  


また、加水分解性があるものの加工は、予備乾燥の実施や水分対策が重要です。  


エンプラ類は材料費自体が高額なので、コスト面でも注意が必要です。スーパーエンプラは一般的に、エンプラの数倍~数十倍を要するため、加工ミスや発注ミスなどがないようにしましょう。  


エンプラ類を加工する際は射出成形や押出成形などを用いますが、それぞれで適した成形方法があるので注意しましょう。レーザー加工であれば、スーパーエンプラの切削や彫刻、マーキング加工に対応できます。


エンプラの需要と課題、そして将来の展望

エンプラの需要と課題、将来の展望について、さまざまな研究機関や市場状況、持続的開発の観点から考察します。

◇今後の需要予測

矢野経済研究所の2019年の予測では、エンプラの需要は2018年から2023年にかけて、右肩上がりとなっていると発表しています。また株式会社富士経済の2021年の予想では、2020年に縮小したエンプラ市場も、2021年以降には経済回復や自動車電装化の進展などによって、需要が拡大すると予想されています。  


しかし2022年1月時点では、新たな新型コロナウイルスの感染拡大や中国経済成長の停滞などの要因で、正確な予測が難しい状況です。   


とはいえエンプラ市場は、コロナ禍前は将来的に大きくなると予想されていた、成長市場であったことも事実です。現状も、生産量が不安定ではあるものの、技術の進歩や新しい製品の誕生などの要因のおかげでエンプラの需要の減少はあまり見られません。  


今後もエンプラの需要は更に高まっていくと予想できます。

◇エンプラが抱えている問題点と課題

エンプラが抱えている問題点と課題として、疲労耐久性の向上が挙げられます。エンプラはガラス繊維等を組み込んで強化することで硬さを増すものの、脆くなって強い衝撃や繰り返しの折り曲げに弱くなることがあります。  


また、エンプラは材料費がもともと高いうえに、加工費も割高の傾向が見られます。生産現場においては、コスト面に注意が必要です。  


スーパーエンプラに関しては、成形加工難易度も問題となっています。従来の多数小個取りでは成形品にバラつきが大きいため、人手による検査などの後工程に工数がかかるケースが多いです。また成形温度が高い為1サイクルにかかる時間や材料コスト、歩留まりも課題となるでしょう。

◇環境にやさしいエンプラの開発と実用

エンプラの短所の1つとして、再利用性の低さが挙げられます。たとえばスーパーエンプラは原則として、非再生可能資源である石油を原料として合成されていますが、持続的開発(SDGs)の観点で考えると、再生資源であるバイオマスからのスーパーエンプラ合成も重要です。  


プラスチックはもともと生分解性が低く、人間の手による焼却を行わない限りは分解されず残存します。多くのプラスチックは埋め立てで処理されています、リサイクル性も金属に劣るため、運用について賛否が出ていました。  


そこで近年では、バイオマス材料を利用したプラスチック製品が注目されています。バイオマス材料を使うと、石油燃料の使用料低下や二酸化炭素の排出量の減少などにつながるため、地球温暖化防止に寄与します。  


実際にマツダと三菱ケミカルが共同開発したバイオエンジニアリングプラスチックが実用されました。植物由来のイソソルバイドを利用したこの製品は、植物由来原料使用によるカーボンニュートラル効果(石油資源の使用料削減や二酸化炭素排出量の抑制)や無塗料によるVOCの削減により、環境負荷を提言することに成功しています。  


今後も、持続的開発の流れが世界的に続く限り、環境に配慮したさまざまなエンプラが登場すると考えられます。

エンプラ・スーパーエンプラを用いて高品質の製品を!

エンプラ・スーパーエンプラは汎用プラスチックと比較すると、より耐熱性や機械的強度などの性能が優れているプラスチック樹脂です。汎用プラスチックでは難しい状況下での使用も対応できます。  


再利用性やコスト面での課題はありますが、バイオマス材料を利用したスーパーエンプラが開発されている背景もあり、今後も技術革新によって課題を克服したエンプラが登場するのではないでしょうか。