ものづくりプレス

2025-08-25

ゴムと樹脂の性質を兼ね備えた「熱可塑性エラストマー(TPE、TPR)」

エラストマー(elastomer)は、その語源である『elastic(弾力性のある)』と『polymer(重合性)』が

示すとおり、ゴムのような弾力性を持つ高分子の樹脂素材です。加工が容易であり、また、ほかの材料を

配合することで硬度などの物性を調整できるのも特徴です。

エラストマーの種類の中から、当記事では「熱可塑性エラストマー」に焦点を当てて解説します。

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■熱可塑性エラストマーの特性と欠点、安全性

常温では変形しにくい物質が加熱により軟化し、形状を変えることのできる性質を「熱可塑性」と言いま

す。「熱可塑性エラストマー」は、高温ではプラスチック、常温ではゴムの物性を持つ熱可塑性の樹脂で

す。

◇押出成形や射出成形など、加工が容易

熱可塑性エラストマーの特性のひとつとして、加工の容易さが挙げられます。熱可塑性プラスチックと同

様の方法で加工できるため、製作時間が短時間で済むだけでなく、ゴム加工で必要な加硫(ゴムの分子同

士の結合させ、弾性を高めるための工程)が不要です。

◇熱可塑性エラストマーの用途

特性や加工のしやすさ以外にも、熱可塑性エラストマーはゴムやプラスチックと比較して、品質やコス

ト、安全性などの点に加え、リサイクル性にも優れています。

そのため、幅広い分野で、さまざまな製品に利用されています。

 

・日用品

・食品包装

・自動車製品

・電子機器製品

・建築材料

・医療用製品

・スポーツ用品、靴

など

◇熱可塑性エラストマーの種類とその性質

熱可塑性エラストマーは、ゴム弾性を与えるソフトセグメントと、樹脂成分高い剛性を持つ分子拘束成

分であるハードセグメントで構成されており、使用する原料の組み合わせにより、それぞれに特性が変化

します。

                         <主な熱可塑性エラストマーの種類>

分類

特徴

主な用途

スチレン系

TPS)

加硫ゴムに近い弾性率を持ち、硬度範囲の大幅な変更も可能。

耐熱性、耐候性、耐油性、耐摩耗性などは劣る

靴底、自動車部品、筆記具のグリップ、スポーツ用品、内装材など

オレフィン系

TPO)

 

比重の軽さ、優れた耐熱性・耐候性・耐オゾン性に加え、エステル系に次ぐ耐熱性が特長。

耐摩耗性や常温での耐屈曲性、耐油性などは低い。

自動車部品、包装フィルム、家電用部品、ホース類、遮音材、建築部品など

塩化ビニル系

TPVC)

耐オゾン性、耐寒性、耐候性などのほか、熱老化性や耐薬品性にも優れる。

高温時の形状保持や、常温での弾力性などに問題あり。

電線の被覆、自動車部品、ホース、土木シートなど

ポリアミド系

TPATPAE

耐薬品性や耐摩耗性など、強靭性に優れ、高い消音特性を持つが、ゴム弾性に劣る。

消音性ギヤ、人工芝、難燃電線、ウェットスーツ、スキーブーツなど

ポリエステル系

TPEETPC

機械的な強度が大きく、耐薬品性や耐水性、耐油性、耐久性、耐疲労性に優れ、低温柔軟性も高い。耐候性や耐熱老化性は劣る。

チューブ、ホース、自動車部品、電気部品など

ポリウレタン系

TPU)

機械的な強度や耐摩耗性、耐屈折性、耐屈曲性能のほか、耐油性や耐薬品性が高い。

耐熱性が低く、圧縮永久歪みも不足。時間経過による黄変あり。

自動車の内装部品、スポーツシューズ、ゴルフグリップ、靴底など

◇欠点は耐熱性・耐油性・耐久性など

加工の自由度が高い熱可塑性エラストマーですが、あらゆる製品づくりに適しているわけではありませ

ん。また種類によって短所も異なるため、生産する製品に合わせた材料を選択することが大切です。

全般的な熱可塑性エラストマーの欠点は、以下のとおりです。


耐熱性

加熱や温度上昇による物性低下が大きいため、熱により変形しやすい性質を持っています。一般的に60

度以上になると軟化する傾向がありますが、オレフィン系、ポリエステル系、エステル系は比較的高い温

度にも耐えることができます。

 

耐油性

ウレタン系、ポリエステル系、アミド系などの耐油性は良好とされていますが、一般的にはその分子構造

上から油の影響を受けやすく、場合によっては浸み出すこともあります。

 

耐久性・耐摩耗性

エラストマーは分子間が繋がっていない未架橋構造のため、耐久性が劣っています。また耐摩耗性も低い

とされていますが、ポリエステル系、ポリウレタン系などは比較的良好です。


◇熱可塑性エラストマーの安全性

生活に身近な製品の多くに使用されている熱可塑性エラストマーは、果たして安全な素材なのでしょう

か。

結論から言えば、毒性やアレルギー性もなく、燃やしても有害物質が発生しません。医療用チューブや輸

液バッグ、おむつ、生理用カップなどにも使用されていることから、その安全性は保証されています。

また種類によっては耐薬品性、耐UV性や電気特性に優れた熱可塑性エラストマーもあります。

 

中でも食品に接触する製品については、アメリカ、ヨーロッパ、中国などでは厳しい基準が設けられてお

り、日本においても、食品衛生法の「 食品用器具および容器包装におけるポジティブ制度(安全性を評価

した物質のみを使用する制度)[A1] 」の対象になっています。


■熱可塑性エラストマーとゴム(合成ゴム)、樹脂との違い

エラストマーには熱可塑性エラストマー以外にも、熱を加えても軟化しない比較的耐熱性の高い「熱硬化

性エラストマー」があります。例えばシリコン(シリコーン)ゴムやフッ素ゴムなど、一般に合成ゴムと

呼ばれている素材が含まれます。

また樹脂(合成樹脂)はプラスチックの原料で、熱可塑性ではありますが、弾力性を持たない点でエラス

トマーとは異なります。

熱可塑性エラストマー、合成ゴム、合成樹脂は配合する材料により性質は変わりますが、一般的な特徴の

違いは以下の表を参照してください。



 


熱可塑性エラストマー

合成ゴム

合成樹脂

性質

熱可塑性

熱硬化性

熱可塑性

弾性

あり

あり

なし

硬さ

柔らかい

柔らかい

硬い

加工

容易

難しい

容易

再利用

可能

不可

可能

耐候性

耐熱性

低~中

中~高

中~高

コスト

安い

高い

安い


◇加工方法別に見る熱可塑性エラストマーとゴムの違い

押出成形

加熱溶融した材料を型から押し出し、連続して成形する加工です。ゴムの場合よりも、押出速度を速く

ることが可能です。

通常の生ゴムの加硫ゴムでは、押出成形はできません。

 

射出成形

加熱して溶かした材料を金型の中に注入して成形した後、冷却して固める方法です。金型さえあれば複雑

な形状の成形も可能です。

通常のゴムでも射出成形による加硫は可能ですが、熱可塑性エラストマーの場合では成形サイクルの大幅

な短縮が可能です。

 

ブロー成形(中空成形)

加熱溶融した材料をパイプ状に金型内に押し出し、内側から空気を吹き込みます。その圧力で金型の内面

に押しつけ、中が空洞な状態に仕上げる加工です。

通常の生ゴムの加硫ゴムでは、ブロー成形はできません。

■加工の自由度や安全性に優れ、低コストな素材

熱可塑性エラストマーには、それぞれに特性の異なる種類が多数あり、生産する製品の用途に合わせて選

択できるのもメリットのひとつです。また塩化ビニルやシリコーンゴムの代用として使用できる場合もあ

ります。

生産性とコストの見直しを検討しているなら、ぜひ候補に入れてみてください。