ものづくりプレス
2025-06-15
樹脂材料はどう選定する?選定の流れやポイントを解説
製造したプラスチック製品の不具合を防ぐには、設計や加工時よりも樹脂材料の選定プロ
セスが重要な役割を担います。樹脂材料ごとの物性や選定のプロセスの理解や、選び方の
ポイントを押さえておきましょう。
当記事ではプラスチック製品の製造には欠かせない、樹脂材料の失敗しない選び方につい
て解説します。
■プラスチック製品に不具合が起こる原因
プラスチック製品における不具合とは、当該製品の実用面で必要な機能を有しないこと
で、製品不良が発生したり外観が損なわれたりすることです。
プラスチック製品における主な不具合の原因は次のとおりです。
l 相性の悪い材料の選定、代替
l 設計不良
l 加工不良
l 誤用および乱用
l 金型設計や製品構造、成形機の能力不足などの設備的要因
自社製品に不具合が発生すると、製品や企業のブランド力・信用力が大きく低下します。
人のケガや死亡につながった場合は、莫大な損害賠償が発生する可能性もあるでしょう。
不具合の原因で多くを占めるのは、製品の設計や加工段階で発生するもの以上に、樹脂材
料の選定時の誤解や材料への不理解が原因となるケースが多いと言われています。適切な
樹脂材料を選定できず、製品に必要な強度・耐性が足りないまま製品化され、不具合を起
こしてしまうのです。
プラスチック製品の製造において、樹脂の選定は非常に重要な要素といえるでしょう。
■材料選定から決定までの主な流れ
材料選定から決定までの主な流れは次のとおりです。
l 製品の要求事項を調べる
l 候補材料を選定する
l 類似用途での使用実績を調べる
l 実用試験によって候補材料を絞り込む
順番にみていきましょう。
◇製品の要求項目を調べる
製品の要求項目とは、当該のプラスチック製品に求める機能・必要な耐性などのことで
す。詳しくは後述しますが、製品の要求項目には機械的性質、物理的性質、化学的性質、
耐劣化性、材料コストなどが挙げられます。
◇候補材料を選定する
要求項目を調べた後は、要求項目を満たせる樹脂材料を選定しましょう。樹脂が持つ性質
は、各メーカーが公表している物性表を基にして選定できます。より細かい情報を知りた
い場合は、樹脂メーカーから関連技術資料をもらったり、直接問い合わせたりする必要が
あります。
◇類似用途での使用実績を調べる
選定し絞り込んだ材料について、自社製品・製造現場と類似した用途での使用実績を確認
しましょう。類似用途で適切な実績があれば、自社でも使用できると判断できます。
◇実用試験によって候補材料を絞り込む
使用する樹脂材料を決定した後は、実用試験にて材料の最終的な絞り込みを行います。
「試験片を使って使用条件に即した試験を実施」「試作品を用いて実装試験を実施」など
を進め、実用化ができるかどうかを検討します。
この時点で要求事項をクリアできない場合は、一度樹脂メーカーへの相談・依頼を行いま
しょう。
■こんなにある樹脂の種類
「樹脂」と一口に言っても、原料や特性などの違いによって、さまざまな種類に分類でき
ます。たとえば大分類として、以下2つの特性の違いが存在します。
l 熱可塑性樹脂(熱可塑性プラスチック):加熱するとチョコレートのように溶けて変
形する樹脂
l 熱硬化性樹脂(熱硬化性プラスチック):加熱しても溶融せず硬化したまま形を維持
する樹脂
以下では主な樹脂の種類を表形式で簡単にまとめました。
分類 |
特徴 |
主な用途 |
|
ポリ塩化ビニル(PVC) |
熱可塑性樹脂 |
耐水性や耐熱性、耐アルカリ性、耐溶剤性などに優れる、硬質・軟質の両方が存在する樹脂 |
上水道管、下水道管、パイプ、継手、雨樋など |
高密度ポリエチレン(HDPE) |
熱可塑性樹脂 |
電位絶縁性や耐水性、耐薬品性などに優れている、白系統の樹脂 |
フィルム、食品容器、シャンプー・リンス容器、ガソリンタンクなど |
低密度ポリエチレン(LDPE) |
熱可塑性樹脂 |
ポリプロピレンと同等の比重の小さい樹脂 |
フィルム、ラミネート、電線被覆、ゴミ袋、衛生手袋など |
ポリスチレン(PS) |
熱可塑性樹脂 |
優れた透明性や光透過率や、ポリプロピレン、低密度ポリエチレンに次ぐ比重の小さい樹脂 |
OA機器、CDケース、食品容器、おもちゃ類、断熱材など |
ポリプロピレン(PP) |
熱可塑性樹脂 |
樹脂のなかでももっとも比重が小さい樹脂 |
包装フィルム、食品容器、家電部品、スポーツ用品、実験器具、医療器具、玩具 など |
ABC樹脂(ABS) |
熱可塑性樹脂 |
剛性や硬度、耐衝撃性などの機械的特性がある樹脂 |
OA機器、自動車部品、電機製品、ゲーム機など |
フェノール樹脂(PF) |
熱硬化性樹脂 |
耐熱性や断熱性、難燃性、電気絶縁性に優れる樹脂 |
配電盤ブレーカー、キッチン用品、合成接着剤、砥石、アイロンハンドルなど |
ユリア樹脂(UF) |
熱硬化性樹脂 |
難燃性や耐熱性、電気絶縁性、耐溶剤性などに優れる樹脂 |
ボタン、キャップ、電気製品・部品、繊維加工、食器、雑貨など |
メラミン樹脂(MF) |
熱硬化性樹脂 |
耐熱性や耐水性、耐酸・アルカリ性などに優れるなど、ユリア樹脂に似た性質を持つ樹脂 |
建設材料や食器、化粧板、塗料、コネクター、食器洗い用スポンジなど |
シリコン樹脂(SI) |
熱硬化性樹脂 |
非常に高い耐熱性と耐寒性を持ち、温度変化する現場で活躍する樹脂 |
耐熱・耐寒容器、シール、コーティング剤、医療部品など |
エポキシ樹脂(EP) |
熱硬化性樹脂 |
寸法安定性や耐水性、耐熱性、耐薬品性などに優れる樹脂 |
塗料、電気絶縁材料、接着剤、プリント配線基板など |
ウレタン樹脂・ポリウレタン(PUR) |
熱硬化性樹脂 |
耐摩耗性や弾性、耐油性などに優れており、発泡体か非発泡体かで特性が変化する樹脂 |
|
上記以外にも、耐熱性や機械的強度を高めた「エンジニアリングプラスチック(エンプ
ラ)」「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」に分類される樹
脂も存在しています。
■最適な材料選びの重要ポイント
間違った材料やグレードの選択で起きる不具合は、樹脂の製造関係で頻発する問題です。
樹脂材料の選定を成功させるには、材料の特性やコストについてしっかりと理解する必要
があるでしょう。選定の際の重要ポイントとして挙げられるのは次のとおりです。
l 製品の要求項目のリサーチ
l 機械的性質
l 物理的性質
l 化学的性質
l 耐劣化性
l コスト
上記に加えて、製品のデザイン性・リサイクル性・加工方法を加味した選定も必要です。
もし材料選定者が樹脂・プラスチックに関する知識や専門性を持っていないと、以下の問
題が発生する可能性があります。
l 安価な材料で代替して製品の品質が落ちる
l 誤ったグレードの材料を使用して要求項目を満たせない
l 相性の悪い顔料、充填剤を使用する など
材料を選定する際は、各樹脂メーカーが出している樹脂の物性をまとめた表などを参考に
してください。以下では最適な材料選びの重要ポイントを解説します。
◇製品の要求項目を調べる
製造予定の製品にどのような性質や機能を求めるかで、材料を選定します。たとえば外部
からの摩擦や衝撃強さを求めるなら機械的性質に優れた樹脂を、高熱が発生する現場で使
用するときは耐熱性・その他物理的性質が優れているものを選びましょう。
また、要求項目を設定する際は「絶対条件」と「希望条件」に分けておくのもポイントで
す。
ある機械部品の製品Aを製造する際、製品Aが「必ず絶縁性を確保しなければならない」
という製品だと、「電気絶縁性を持つ樹脂を用いる」「導電性が高い樹脂はNG」が絶対
条件になります。
一方、「なくても問題ないが、機械的性質に優れているとなおよい」といった、「なくて
も必要な要求項目はクリアできるが、あれば品質が上がる」レベルの条件は希望条件で
す。
この場合だと、電気絶縁性+機械的性質を持ち合わせた樹脂が1番の候補になります。し
かし、すべての条件をクリアする樹脂が見つからないことも珍しくありません。そのとき
は希望条件を妥協し、絶対条件をクリアする樹脂を選定しましょう。
◇機械的性質(剛性・弾性率・衝撃強さなど)
機械的性質とは力学的特性、つまり外部からの力への耐性のことです。
プラスチック製品にかかる外力には、「引張」「圧縮」「せん断」「ねじれ」「曲げ」な
どが存在します。機械的性質はこれらの外力に対して、以下の耐性があるかどうかの指標
になります。
l 強度:どのくらいの大きさの力まで耐えられるか
l 剛性:力が加わったときの樹脂の変形のしにくさ
l 弾性:加わった力が取り除かれたときに樹脂が変形せずに戻るかどうか
l 靭性(じんせい):力が加わったときどれくらいまで破壊されずに踏ん張れるか、粘り強いか
l 硬度:樹脂の表面はどれくらい硬いのか
上記の他には、疲労特性やクリープ特性、耐摩耗性などが挙げられます。
◇物理的性質(比重・耐熱性・電気抵抗性・誘電率など)
物理的性質とは、熱や電気、重さ、その他環境などに対する特性のことです。物理的性質
には主に次の要素が挙げられます。
l 熱的性質:融点や熱膨張率、熱伝導率など熱に関する特性
l 光学的性質:光の屈折率や吸収率、反射率、透過率など光に関する特性
l 電機低性質:電気抵抗性や誘電率、電気絶縁性など電機に関する特性
l その他:密度や比重など
◇化学的性質(ガス透過性)/h3>
化学的性質とは、材料の化学反応や化学変化に対する特性のことです。化学反応や化学変
化によって、膨張・溶融・反応などを示さないかについて示します。化学的性質には主に
次の要素が挙げられます。
l 耐薬品性:耐アルカリ性や耐酸性、耐溶剤性など薬品関係に関する特性
l 耐油性:油との接触による膨潤や劣化など油に関する特性
l 燃焼性(難燃性):燃えやすさといった炎に対する特性
l ガス透過性:気体の通過しやすさを表す性質 など
◇耐劣化性(寿命・耐摩耗性・寸法安定性など)
耐劣化性とは、樹脂の劣化関係に対する特性のことです。耐劣化性には次の要素が挙げら
れます。
l 寿命:時間経過による劣化や耐久性の低下への耐性
l 耐摩耗性:繰り返しの摩擦や研磨などに対する特性
l 耐腐食性:環境やその他の化学的要因による樹脂表面の耐久性・信頼性
l 寸法安定性:環境や化学的要因による樹脂の寸法変化に対する耐性
◇コスト(材料・成形・組み立て・検査・設備など)
材料が持つ特性以外にも、材料そのものや加工関係でかかるコストも材料選定において重
要なポイントです。
「材料の購入費」「成形・組み立てにかかる人件費や設備のランニングコスト」「製品検
査にかかる人件費」などが挙げられます。加工が難しい材料ほどコストがかかると考慮し
ておきましょう。
◇材料の入手しやすさも考慮すべきポイント
用途や特性が万全の樹脂材料を見つけたとしても、入手に時間がかかってしまい思うよう
な製造計画が立てられない可能性があります。とくに2022年2月現在は、新型コロナウ
イルスの影響や米国の寒波などの影響で各国の製造工場・生産プラントが停止したこと
で、半導体とともに樹脂原料の不足が深刻な問題になっています。
また2022年現在、樹脂を含むさまざまな原材料の価格が高騰していることから、調達コ
ストについても一層考慮する必要が出てきました。
上記の要因から、必要な樹脂材料が希望する価格・量で調達できない可能性が考えられま
す。材料調達については、材料メーカーや商社の相談も利用しながら、慎重に検討するの
がよいでしょう。
■樹脂材料の最終決定
樹脂材料は成形加工を経て、プラスチック製品になります。高品質なプラスチック製品を
作るには、材料選定を適切に行い、成形工程における品質低下を防止する必要がありま
す。
樹脂材料の選定においては、材料メーカーの物性表や技術資料を参考にすることが大切で
す。
以上のことから樹脂の選定には、専門的な知識と、複雑な条件の考慮が必要になるでしょ
う。
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