ものづくりプレス
2025-05-25
フィルム成形の方法と知識
工業製品だけでなく、一般家庭でも使用されるフィルムは、利用する樹脂や用途に応じて
さまざまな成形方法が用いられています。フィルムを成形する上では、各成形方法の特徴
を把握し、適切に製造していくことが重要です。
本記事では、フィルム成形方法の種類と特徴をまとめた後、フィルムの性能追加方法や成
形不良について、解説していきます。
目次
■フィルムとシートの違い
フィルムの成形方法を解説していく前に、知っておきたいのがフィルムとシートの違いで
す。ともに樹脂を溶かし、要求された仕様の形状に成形していきますが、違いとしては厚
さが挙げられます。
厳格な規定は存在しないものの、JISの包装用語規格によると、厚さ0.25mm未満の膜状
のプラスチックがフィルム、厚さ0.25mm以上の薄い板状のプラスチックがシートと定
義されています。フィルムとシートは成形する際、同様の製法が利用されるケースもあり
ますが、厚さに違いがあるという点を覚えておきましょう。
■フィルム成形(製膜)の主な種類と特徴
プラスチック樹脂の製膜方法には、押出成形法・カレンダー法・溶液流延法などさまざま
な種類が存在します。ここでは、各成形方法の特徴を見ていきましょう。
◇押出成形法
押出成形法とは、溶融した樹脂を押出金型の吐出口から押し出し、冷却して成形する方法
です。成形方法は、樹脂の押し出し方や冷却方法により、さらにインフレーション法・T
ダイ法に分けられます。
▼インフレーション法
インフレーション法とは、押出機の先端にリング状の吐出口をもつ金型を設置し、チュー
ブ状・袋状にフィルムを成形する方法です。リング状の金型の中央部には空気孔が設置さ
れており、フィルム状となった樹脂に空気を吹き込み、膨張させていきます。
一定の大きさまで膨張させ、フィルムを成形するのと同時に、冷却リングを経由した冷た
い空気が吹き込まれ、樹脂を空冷・固化する仕組みです。フィルムの幅は金型の径や吹き
込む空気圧などで調整し、フィルムの厚みは材料の吐出量などで加減します。
インフレーション法では、フィルムの厚みが不均一となる「偏肉」の発生に注意が必要で
あり、利用可能な樹脂も後述のTダイ法に比べ、オレフィン系など限定されます。ただ
し、フィルム生産立ち上げ時のロスは、Tダイ法より少ないのが特徴です。
▼Tダイ(Tダイキャスト/ハンガーダイ)法
Tダイ法とは、押出機の先端にT字型の金型「Tダイ」を設置し、溶融した樹脂を押し出
して成形する方法です。樹脂の吐出口の開き具合により、フィルムの厚みは制御されま
す。
その後、冷却ロールで樹脂を急冷・固化させ、成形品の引取り・巻取り・切断を行う流れ
です。
フィルムの偏肉に関しては、先述のインフレーション法に比べ、ばらつきが少ない傾向に
あります。また、利用可能な樹脂はオレフィン系・エンプラ系と多種多様ですが、単価の
高い樹脂を採用すると生産コストが高額となる点には注意が必要です。
◇カレンダー法
カレンダー法とは、塩化ビニル樹脂をフィルム化する際、主として採用される方法です。
複数のローラーで構成されるカレンダーロールに、溶融樹脂を挟み込んでフィルム状に圧
延し、成形していきます。
圧延途中にはいくつかのローラーを配置し、加熱・冷却を行い、最終的にフィルムが巻き
取られる流れです。カレンダー法を利用した製造では、大型の生産設備を必要とし、複雑
な加工技術が要求されます。その一方で、製造能力の高さが大きな利点です。
◇溶液流延(溶液キャスティング)法
溶液流延法では、材料を溶媒に溶融して高い流動性をもたせ、平滑な表面のキャスティン
グドラムやベルト上に流し込んでいきます。その後、加熱して溶媒を蒸発させることで、
フィルムを成形していく方法であり、高温で融解する樹脂に対して有用です。
また、物理的な圧力が加わらないため、高精度な厚みのフィルムに仕上がるだけでなく、
キズも付きにくく、透明性の高いフィルムの成形にも適しています。ただし、溶剤回収な
ど必要な工程も多いので、生産コストが高額となる点にはご注意ください。
■フィルム強度を高める「延伸」
樹脂を加熱しながら、一軸方向もしくは二軸方向へ引っ張り、分子配列を整えることで強
度を高めることを延伸と言います。延伸加工を施すことで、引張強度・透明性・耐熱性な
どの向上を見込めるのが特徴です。
◇無延伸フィルムと延伸フィルム
フィルムの中には、大きく分けると無延伸フィルムと延伸フィルムが存在します。さら
に、延伸フィルムは細分化すると、一軸延伸フィルムと、二軸延伸フィルムに分けられま
す。
それぞれの性質を見ていきましょう。
▼無延伸フィルムの特徴
無延伸フィルムとは文字通り、機械的にフィルムを引き延ばさず、そのまま熱可塑性樹脂
をフィルム状に加工したものを言います。延伸フィルムより引張強度が低いのが特徴で
す。
▼一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムの特徴
押し出し直後のフィルムは、分子の鎖が電気的に引き合い、束状・帯状の球体結晶状態と
なっています。そこで、機械的にフィルムを引き延ばすことで、束状・帯状であった分子
の鎖が密に整列させ、フィルムの強度を向上させることが可能です。
一軸延伸フィルムと二軸延伸フィルムでは、フィルムを引き延ばす際の方向に違いがあり
ます。縦方向に引き延ばし、分子を整列させるのが一軸延伸フィルムで、縦方向と横方向
に引き延ばし、強度を高めるのが二軸延伸フィルムです。
延伸フィルムはPPバンドやOPP袋にも採用され、幅広く活用されています。
■フィルムにプラスアルファの性能を追加
フィルムを延伸することで、強度の向上を図れますが、他にもプラスアルファの性能をも
たせられます。ここでは、フィルムの加工について、見ていきましょう。
◇P多層化
フィルムに他の素材を貼り付け、性能を向上させる方法があります。例えば、熱圧着で貼
り合わせるドライラミネートは、接着強度が強く、高い耐熱性が必要なレトルト食品の容
器などでも利用されている製法です。
多層化でフィルムの性能を向上可能ですが、サーマルラミネートや押し出しラミネートな
ど、多種多様な貼り付け方法が存在します。特徴も異なっているため、貼り付け方法の選
定も重要と言えます。
◇繊維複合化
ポリプロピレンやポリアミドなどの樹脂に対して、ガラス繊維・炭素繊維などを複合し、
高剛性・高靱性を図るのが繊維複合化です。予備加熱を行い、金型でプレスして形状を付
与するスタンピング成型とあわせ、自動車天井材の芯材としても利用されています。
◇表面光沢化
フィルムにラミネート加工などを施し、表面を光沢化することには、強度を与えるだけで
なく製品の付加価値を高める効果もあります。さらに、塗装工程の省力化に繋がるため、
コスト削減を図りたい場合にもおすすめです。
◇表面加飾(インサート成形)
樹脂の射出成形方法のひとつが、フィルムインサート成形です。
インサート成形では、高圧成形などでフィルムを加工し、射出成形型に加飾フィルムを固
定します。そして、軟化したフィルムに射出圧を加えて樹脂を充填することで、成形を行
う製法です。
光沢加工・艶消し加工などの表面加飾が可能であり、スマホケースや家電の操作パネルで
も採用されています。
◇その他
ここまでご紹介しました加工法以外にも、フィルムを加熱軟化させ、オスメス型で加圧す
る熱高圧成形や、フィルムを型の上で固定して加熱軟化し、圧縮空気で成形する圧空成形
なども存在します。いずれも、用途に応じて加工法を選ぶことが大切です。
■フィルム成形で起こり得る不良と対策
フィルムやシート成形の過程では、製品不良が発生する場合もあります。ここでは、主な
不良の種類と対策を見ていきましょう。
◇ピンホール
ピンホールとは、フィルムに針で刺したような小さい穴が空く現象を言います。フィルム
は非常に薄いため、梱包する商品や出荷輸送中の摩擦、屈曲疲労などが原因でピンホール
は発生します。
対処法としては、フィルムを突き刺してしまうようなものに注意して梱包する、突き刺し
強度の高いナイロンを使用する、輸送中はクッションを入れて摩擦を防ぐなどさまざまで
す。ピンホールが発生しうるシチュエーションを想定し、対策を講じるようにしましょ
う。
◇フィッシュアイ、ゲル、気泡(ボイド)
フィルムの成形中に発生する不良としては、下記のようなものが挙げられます。
フィッシュアイ:原料の未溶融などで混合し切らず、発生する球状の塊
ゲル:熱可塑性樹脂が製造途中でゼリー状になる現象
気泡:内部に空気が混入した状態で成形されたフィルム
順番に対処法を解説すると、フィッシュアイは溶液流延法を用いることで、製造中に溶液
をろ過して防止可能です。ゲルに関しては、押出温度を上げることで未溶融ゲルを液体化
する、気泡はスクリュー回転数や射出速度を遅くするなどの対処法が挙げられます。
◇異物、汚れ
フィルムの製造過程・輸送中などに、異物の混入や汚れが付着するケースもあります。異
物・汚れによる成形不良が発生する要因はさまざまであるため、まずは原因を特定するこ
とが重要です。
例えば、1つの成形機で複数の製品を製造している場合、シリンダー内に残留した原料が
次の製品に練り込まれる可能性もあります。本ケースでは、パージを適切に実施しシリン
ダー内を洗浄し、異物混入を防ぐことが大切です。
◇ムラ、スジ、シワ、キズ
先述の異物混入や輸送中の衝撃などに起因し、フィルムにムラ・スジ・シワ・キズが発生
するケースもあります。異物・汚れと同様に、成形不良となった原因を特定し、輸送中の
衝撃が問題であれば、緩衝材を利用するなど対策を取るようにしましょう。
■【原料樹脂別】最適な成形方法と用途
フィルムは原料となる樹脂ごとに、最適な成形方法や製品用途が異なります。一部の樹脂
に関して、成形方法と用途例を示した表は下記の通りです。
樹脂 |
成形方法 |
用途 |
ポリエチレン |
押出成形法(Tダイ法) |
レジ袋・ラップなど |
ポリプロピレン |
押出成形法(Tダイ法) |
食品包装フィルムなど |
ポリ塩化ビニリデン |
押出成形法(インフレーション法) |
ラップ・食品包装フィルムなど |
ポリビニルアルコール |
溶液流延法 |
ビニールハウスの素材など |
フッ素樹脂 |
カレンダー法 |
太陽電池の材料など |
フィルムの用途を明確にした上で、樹脂・成形方法を選びましょう。
■フィルム成形方法のまとめ
フィルム成形方法は大別すると、押出成形法・溶液流延法・カレンダー法に分かれます。成
形方法によって、最適な樹脂が変わるのはもちろん、必要な設備や生産性なども大きく異な
るのが特徴です。
また、フィルム製造後に延伸や光沢化といった加工を行えば、さらに製品の付加価値を高め
てくれます。各成形方法の性質を踏まえ、フィルム製品の製造計画を立ててみましょう。
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