ものづくりプレス

2025-05-15

鉄道で使われているゴムの種類と用途

鉄道(電車)とゴムはパッと聞いただけでは関連性がほとんど皆無と思われがちです。しかし実は、鉄道が関係するいたるところで工業用ゴムが使用されています。

当記事では鉄道周りでゴム使われている箇所や、鉄道用ゴムの役割について解説します。

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■路線に使用されるゴム

線路に使用されるゴムには、線路や踏切にあるすき間を防ぐものや、鉄道の停止位置目標に使われるものがあります。具体的には次のとおりです。
・輪縁路パッキン
・線路と枕木の間に敷くゴム
・線路の停止位置目標(目標版)

◇輪縁路パッキン

輪縁路(わぶち)パッキンとは、踏切内にあるレールのすき間を埋めるためのゴム製品のことです。歩行者が踏切内を安全に移動するために設置します。


輪縁路パッキンを設置することで、踏切内を通行する歩行者の足が挟まったり、車椅子の脱線につながったりなどの重大な事故を防げます。


また同時に、レールのすき間に侵入する障害物を防ぎ、鉄道の走行妨害を起こさないことも設置目的の1つです。

◇線路と枕木の間に敷くゴム

鉄道に使用するゴム製品には、線路のレールと枕木(まくらぎ、線路のレール部分の下に横向きで敷き並べる部材)に敷いて設置するものがあります。軌道パッドや絶縁版などです。


たとえば締め付けボルトをゴム弾性によって緩ませにくくしたり、絶縁性の高さを利用して電食を抑えたりできる、ゴム製の締結装置があります。


またゴム弾性を利用したレール支持や騒音防止、電食の抑制を担うプレートタイプのゴム製品なども存在します。


線路と枕木の間に敷くゴムは、振動や音の防止、その他の保全に大きな役割を持つことから、鉄道の安全かつ快適な走行のためには欠かせないものといえるでしょう。

◇線路の停止位置目標(目標板)

線路の停止位置目標(目標板)とは、いわゆる鉄道が停止するときに運転手が目安にする目印のことです。鉄道駅の線路周辺に設置しています。


停止位置目標に使われるゴムは、耐熱性や耐候性、耐オゾン性に優れたタイプが使用されます。

■鉄道車両用防振ゴム

鉄道車両用防振ゴムとは、路面や線路で発生する振動を吸収・軽減することで、走行する車両の支持を行う製品です。主に鉄道の台車部分に取り付けます。


鉄道の台車とは、輪軸や軸受、軸箱、駆動装置、基礎ブレーキ装置などを収め、車両の下に取り付けられる走行装置のことです。巨大な車両が線路のカーブやアップダウン、ねじれによって脱線するのを防ぎます。


主な鉄道車両用防振ゴムとして挙げられるのは「円筒積層ゴム」です。円筒積層ゴムを鉄道台車の箱軸両側に設置することで、上下の動きに対しては柔らかくなり、左右の動きに対しては強固さを維持できます。


また鉄道車両用防振ゴムは1つの車両に対し、他にもシェブロン型やコニカル型などの5種類以上が取り付けられています。


鉄道車両用防振ゴムは、国内の新幹線・在来線だけでなく、海外の鉄道にも使われています。世界中で鉄道の走行をサポートしているのです。

■車両に使用されているゴム

鉄道の車両本体にもさまざまな形状のゴムが使用されています。


とはいえ細かいOリングや防振ゴム、バスケット、パッキン、ゴムキャップなどを挙げるとキリがありません。車両はそれほど多くのゴム製品によって構成されています。


以下では、主に乗客の目に見える範囲のゴムに絞って紹介します。具体的には次のとおりです。


・鉄道車両のドア(自動ドア用)のゴム
・鉄道車両の窓ガラス押さえ用のゴム
・転落防止幌(てんらくぼうしほろ)用のゴム
・空気ホース
・圧電ゴム
・鉄道車両用のタイヤ
・サスペンションカバー

◇鉄道車両のドア(自動ドア用)のゴム

鉄道車両のドアのゴムは、鉄道車両の引き戸先端部に装着されています。乗降客は電車に乗るときに自動ドアを通って中へ入りますが、その自動ドア付いているゴムのことです。戸先ゴムとも呼びます。


ドアの先端に弾性を持つゴムを付けることで、自動ドアによる挟まれの衝撃を緩和したり、ドアに触れた乗客の手が切れてケガするのを防止したりなどが可能です。小さなすき間を防ぐ役割もあります。


メーカーによっては、ゴムの本体の中を空洞にすることでより弾性を活かし、挟まれの力をさらに弱める工夫が施されています。


もし自動ドアの先端部にゴムがなければ、乗客の荷物や手が挟まったときに、重大な事故につながるでしょう。最悪の場合、ドアに服やカバンのヒモが挟まったまま鉄道が発進することで、引きずり事故に発展するかもしれません。


そこで引きずり事故の対応策として、鉄道車両のドアについているゴムの内圧の変化を捉えることで、ドアの挟まれを感知する装置も開発されました。

◇鉄道車両の窓ガラス押さえ用ゴム

鉄道車両にある窓ガラスの窓枠用ゴム製品の種類は、あるメーカーによると1,000以上の形状があるといわれています。


たとえばH型のゴムや指を保護するゴム、ガラスフチゴム、戸袋添えゴム、側引戸風止ゴムなどです。

◇転落防止幌用のゴム

転落防止幌(てんらくぼうしほろ、転落防止ホロ)とは、主に鉄道車両の連結部分の車体外側面に合わせて付いている、転落防止のための部品です。


簡単に言えば、鉄道車両と車両の間にあるすき間に対し、板やロープのような遮りを施す役割を持ちます。デザインや構造は鉄道事業者によってさまざまです。


車両の間は意外にも広く空いており、視界が狭まる夜間中の不注意や酩酊によって転落するリスクがあります。転落防止幌によって転落を防ぐことが可能です。


この転落防止幌にもゴム素材が使用されているタイプがあります。


ゴム素材が使われているタイプはより強度や寿命を上げるために、カーボンへ材質変更したり、フッ素コートをコーディングしたりなどの取り組みが、JR西日本などで行われています。


なお、鉄道に装着する転落防止幌の代わりに、駅にホームドアを設置するケースも多く見られるようになりました。


◇空気ホース

鉄道車両の内部には、さまざまなゴム製ホースが使われています。例えば次のとおりです。


・電線保護や絶縁を目的としたホース
・排気用の真空ホース
・エンジン周りの流体や気体の通り道となる耐油性ホース
など

◇圧電ゴム

圧電ゴムとは、圧電材料をゴム素材に混合したゴムのことです。圧力をかけることで電圧が生じます。


そこで鉄道車両では圧電ゴムの特性を活かし、ドアに挟まった異物の検知や、軸受の損傷の検知などを行えるセンサ関係の開発・研究が進んでいます。


今後は圧電ゴムの技術を生かした、まったく新しい鉄道関係の技術が誕生するかも知れません。

◇鉄道車両用のタイヤ

車両に使用するゴム製品の王道といえば、車両用のタイヤです。鉄道車両用のタイヤにはグリップ性能や耐摩擦性だけでなく、何十トンもの車両の重みに耐えられる強度が必要になります。


鉄道のような大型車両に使われるのは、優れた弾性や強度を持つ天然ゴムと、多種多様な耐性・特性を持つ合成ゴムを混合したものが一般的です。

■ホームにも使用されているゴム

鉄道車両だけでなく、鉄道が停止するプラットホームにもゴム製品が使用されています。なかでも重要視されているのは「プラットホームと鉄道のすき間を縮小するためのゴム」です。


鉄道に乗り込むときは足元に注意しなければ、ホームと鉄道の間に落ちる可能性があることは多くの人が知っていると思われます。また車椅子の人の場合だと、すき間に車椅子のタイヤが引っかかるため、駅員の手助けがなければ乗り込みが難しいのも周知の事実です。


そこで国土交通省やJRなどでは問題に対応するため、くし状ゴムをすき間に設置する措置を進めています。



(出典:国土交通省)


くし状ゴムとは、その名のとおり先端部がくし状になっているゴムのことです。なぜくし状かというと、乗降客と鉄道の移動方向が関係しています。


くし状にすることで、電車の進行方向である横向きの力に対しては、簡単に倒れやすい形状になります。万が一電車と接触しても、ゴムが損傷したり車両が傷ついたりなどの不具合を防ぐことが可能です。


一方でくし状ゴムは、乗降客の進行方向である垂直の力に対して堅固さを持っています。ゴムの上を人が歩いても問題ありません。


実際にくし状ゴムを取り入れた駅では、転落の予防に加えて、車椅子の人が1人で不自由なく乗り降りが可能になるなどの効果が出ました。



(出典:国土交通省)


2021年9月現在では、東京・大阪の地下鉄や、阪急電鉄の駅などで取り入れられています。


ただし導入するには、プラットホームの形状や軌道の構造、運行状況などの駅ごとの条件を考慮しつつ、起こり得るさまざまへの対処についても検討しなければなりません。


「プラットホームと鉄道のすき間を埋める」という単純な発想と思えても、実際には条件に適したゴム製品を開発する必要があるため、多くの技術や検証が必要になることがわかります。

■進化を続ける鉄道用のゴム

鉄道に使用されているゴム製品は、日々研究や開発が続けられています。


先述したゴム国土交通省や東京都で行われているプラットホームに使うくし状ゴムや、各メーカーの企業努力による研究・開発などもその一環です。


また日本では、公益社団法人「鉄道総合技術研究所」という組織が存在しています。


鉄道総合技術研究所とは、JR各社の発足と同時にスタートした、鉄道の安全性や技術向上・ダイナミックな研究開発活動、技術良識に基づく中立な活動などを行うことを目的する組織です。


2021年4月時点では、博士約200人と技術士約100名の有資格者を迎えています。


実際に鉄道総合技術研究所では、圧電ゴムの研究や鉄道車両用の長寿命空気ホースなどの、鉄道関係のゴム製品について研究・開発が進められています。


このように日本の鉄道用のゴムは多くの大・小組織の中で、多種多様な関連部品や工夫が誕生しているのです。

■鉄道とゴム製品には非常に深い関係性がある

鉄道とゴムは一見そこまでつながりがないように思われますが、実際には鉄道車両の部品や駅の転落防止、安全かつ快適な走行を支える支持用など、あらゆる箇所でゴム製品が使用されてきました。想像以上に深い関係性があります。


とくに車両の構造まで踏み込むと、防振性能や耐油性といったゴムの性能に応じて、適切な種類が利用されていることもわかります。


もし自社で鉄道用部品の製造を請け負う担当者様がいらっしゃれば、使用するゴムの種類や加工について、ぜひ弊社富士ゴム化成株式会社へご相談ください。