ものづくりプレス
2024-12-30
プラスチックの真空整形
プラスチックの加工方法のひとつに真空成形があります。メリットも多い一方で、特定の形状の成形ができないなどのデメリットもあります。そのため真空成形を選択する場合は、製品や材料などを考慮した上で検討することが重要です。 この記事では、プラスチックの真空成形の概要やメリットとデメリット、真空成形でできる製品や用途について解説します。
▪️真空成形とは
◇真空成形方法の種類
真空成形には、使用する型の形状に合わせて複数の方法があります。いずれも材料を加熱して軟化させ、真空成型機にセットするまでの工程は共通しています。
▼ドレープ成形(フォーミング)とエアースリップ法
どちらも雄型(凸型)の型を使用した方法です。ドレープ成形は、材料のセット後に型内を真空にして型に密着させて成形する、もっとも基本的な方法です。エアースリップ法の場合は、セットした材料を圧縮空気で膨らませた状態にし、下から型を押し当てた後に真空吸引します。
▼ストレート成形(フォーミング)とプラグアシスト法
型に雌型(凹型)を使用します。ストレート成形はドレープ成形と同様に、型に密着させて真空吸引する方法です。プラグアシスト法は、材料を真空吸引すると同時に、プラグ(補助型)を使ってさらに上から押し付け、隙間なく型に密着させて成形します。
いずれの方法も成形後は冷却し、離型します。この状態では成形品にバリが付着しているため、これを取り除くためのトリミング加工を経て、作業が完了します。
◇プラスチック真空成形の特徴
プラスチック真空成形には、以下の主なメリットとデメリットがあります。
▼真空成形のメリット
・設備が小型
・型の形状が簡易(型製作が比較的安価で短期間)
・型に使用できる素材が豊富(金型、樹脂型、木型など)
・肉薄、大型、長尺の成形も可能
・小~中ロットの成形に最適
・高い成形効率と生産性
・プリント、エンボスなどの装飾仕上げが可能
・型を変えることで、1台で異なるサイズの成形が可能
▼真空成形のデメリット
・全体の肉厚が不均等、部分的な肉厚の変更が不可能
・シート状に加工した素材が必要
・トリミングなどの後加工が必要
・複雑形状やビン型形状には不向き
・大ロットの成形には不向き
▪️プラスチック真空成形の材料
プラスチックの素材の性質には、加熱すると軟化し、冷却すると硬くなる熱可塑性と、反対に熱を加えると硬くなる熱硬化性の2種類があります。プラスチック真空成形は、このうち主に熱可塑性樹脂の加工に用いられます。
真空成形に適した主な素材と特徴は以下のとおりです。
◇ABS樹脂
アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3種のモノマーから構成される樹脂で、耐衝撃性、硬度、機械的性質に優れています。加工性にも優れ、印刷や塗装、メッキなどもできます。
◇AES樹脂
ABSとほぼ同じ特性を持つプラスチック素材です。ABSのブタジエンの代わりにエチレンプロピレンゴムを用いていることで、耐候性が向上しています。
HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)
ゴムの配合により汎用ポリスチレンの短所を改良した、耐衝撃性に優れたポリスチレンです。家電の外枠や食品用容器などに採用されています。
PC
衝撃に強く、約120℃までの温度にも耐える耐熱性も備えています。さらにマイナス100℃の環境でも特性を維持できるほか、耐候性や光透過率なども優れているため、日用品から自動車・工業部品など幅広い用途に使用されています。
◇PE(ポリエチレン)
PP(ポリプロピレン)と多くの共通点を持っていますが、PPよりPEの方が軟らかく、また耐候性にも優れています。しかし耐熱温度や透明度ではPEの方が劣っています。主にビニール袋や食品容器などの用途で使用されています。
◇PMMA(アクリル)
プラスチック素材の中でも、高い透明度を誇るのが特徴です。加工性が良く、耐候性にも優れています。また耐薬品性も優秀なため、建築資材やカバーのほか、装飾品などにも採用されています。
◇PP(ポロプロピレン)
比重が軽く、安価な素材です。耐熱・耐寒性や耐薬品性に優れ、割れにくい性質を持つため、食品用容器や部品搬送用トレーなどに多く使用されています。
◇PVC(塩化ビニル樹脂)
塩ビ系のプラスチック素材で、耐衝撃性や耐薬性、難燃性が高く加工性も良好です。また難燃性に優れ、自己消火性を備えているため、建築資材や家電部品などに適しています。
▪️プラスチック真空成形でできる製品・用途
プラスチック真空成形は、以下の製品や用途に用いられています。
・薄肉の樹脂容器
卵のパック、食品トレー、コンビニの弁当ケース、プラスチックパーツトレー、部品トレー など
・精密機器
ゲーム機や液晶ディスプレイ など ・業務用機器 配送トレー、パレット、自動販売機のパネル など
・大型製品
バスタブ など
・自動車の部品
ダッシュボード、バンパー、ヘッドライト、インパネ など
・印刷製品
パチンコ、パチスロ、カジノ、ゲーム機、カジノなどのアミューズメント関係の成型品、特殊シート など
▪️真空成形と中空(ブロー)成形の違い
中空(ブロー)成形は真空成形とは異なり、加熱して溶解したパイプ状のプラスチック材料の内側から空気やガスを吹き込み、膨らませて型に押し付けることで成形します。そのため、吹込み成形とも呼ばれています。真空成形ではつくれないビン型の成形が可能なのも、この方法の特徴です。
主な用途として、ペットボトル、マヨネーズなどの食品容器、液体化粧品や液体洗剤の容器、自動車のガソリンタンクなどがあります。
▪️真空成形はさまざまな製品制作に向いている加工方法
プラスチックの真空成形の特徴や用途、使用に適したプラスチック材料、中空成形との違いについて解説しました。真空成形は型の製作費用が比較的安く、製作日数が短めであるため、製造コストの低減や納期短縮など、メリットが多い成形方法です。大量生産には向いていませんが、使用する素材の性質を生かして、幅広い製品の成形に利用できます。 しかしその一方で条件に制約があり、すべての素材に適しているわけではありません。そのため、製造を希望する製品が真空成形に適しているかどうかについては、確かな経験と知識を持つ業者に相談することをおすすめします。
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