ものづくりプレス
2025-07-25
高性能なプラスチック「PEEK樹脂」とは
PEEK樹脂は、プラスチックの中でも特に優れた耐熱性と耐薬品性を有する熱可塑性樹脂です。引
張強度や引張弾性など、機械特性の面から見ても非常に優秀で、エンプラよりもさらに秀でたス
ーパーエンプラに分類されています。
この記事では、PEEK樹脂の特性、成形・加工方法などを詳しく解説します。
■peek樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)とは
PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)は、ベンゼン環を「エーテル+エーテル+ケトン」の
順で結合したポリエーテルエーテルケトン(Poly Ether Ether Ketone)という種類の芳香族重合
ポリマー樹脂で、その頭文字を取って「PEEK(ピーク)樹脂」と略して称されます。機械部品の
原料として最も信頼性の高いスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)のひ
とつであり、金属代替原料として重宝されています。
1978年にイギリスのICI社によって開発されたPEEK樹脂は、1981年に生産が開始され、今では
複数のメーカーが開発・販売しています。なお、メーカーごとにその物性や特徴は異なり、また
グレードによっても機能面が異なる点に留意してください。
■PEEK樹脂の物性と特徴
PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)は、分子構造にケトン基を有するケトン系プラスチッ
クの代表的な存在です。押出成形や射出成形が可能な熱可塑性樹脂としては最高クラスの耐熱性
を持っているだけでなく、耐熱変形性に優れ、高い難燃性を有するなど、金属に劣らない機械特
性を有しています。その特性から自動車や航空機の部品から電線被覆、医療用機器などでも使用
されています。
しかし金属の代替素材になるほどの強度と耐熱性が災いし、「硬いが脆い」という言葉が出るほ
ど切削加工や切断加工がしにくい「難削材」であるというデメリットもあります。
◇PEEK樹脂の利点
▼耐熱性
一般にスーパーエンプラは、エンプラよりさらに高温の150℃以上の環境で長期間の使用に耐え
られるものと定義されていますが、PEEK樹脂は約250℃の環境でも連続使用できます。さら
に融点は約334℃とかなりの高温で、短時間であれば300℃前後でも問題なく、また熱老朽の心配
もありません。
▼耐加水分解性
熱水や高温のスチームに長時間さらされても、加水分解が起こりません。そのためスチーム滅菌
を行なう用途での使用も問題ありません。また腐食などの影響も受けません。
▼高温特性
加熱時の安定性が良く溶融粘度が低いため、流動性も優れています。射出成形も可能です。
▼機械的強度
引張強度、引張弾性率、伸び率など、全般的に優れた機械的強度を有しています。また高温化で
も強度が保たれるのが特徴です。
▼電気的特性
ガラスやダイヤモンドを凌ぐほどの絶縁性を有しています。基盤の絶縁コーティングとして使用
することも可能です。
▼耐薬品性
酸やアルカリに優れた耐性があり、高温下でも変色や溶解の心配がありません。しかし濃硫酸や
硝酸など、一部の強酸には侵されるため、注意が必要です。
▼耐放射線性
分子構造が安定しており、電磁波や放射線の影響を受けにくいという特性があります。ほかの樹
脂とは異なり、硬化やクラックなどの劣化が起こりにくいため、原子力発電所でも使用されてい
ます。
▼難燃性
高い難燃性を有し、燃焼時の発煙や有毒ガスや腐食性ガスの発生も少量です。難燃剤を添加しな
くとも、ほかの合成樹脂より優れた難燃性を示します。
▼劣化しにくい
熱や放射線の影響を受けにくく、高温多湿環境にも耐えられます。耐薬品性もエンプラ内で最高
クラスと、劣化要因が極めて少ない樹脂と言えるでしょう。
◇PEEK樹脂の接着
PEEK樹脂はエポキシ系、シアノアクリレート系、シリコーン系接着剤などの汎用接着剤で接着可
能です。接着面に汚れ(油脂やグリース、ホコリなど)がある場合は、接着強度が落ちるので注
意してください。また、一般的な合成樹脂と同様に、エッチングやレーザー処理、粗面化などの
表面処理をすることで接着強度が向上します。
このほか、溶融温度が高いPEEK樹脂ですが、超音波やホットプレートなどでの溶着加工も可能で
す。
■PEEK樹脂の成形・加工方法
射出成形や押出成形が可能な合成樹脂の中でも、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)の耐
熱性は最高クラスを有しています。吸水性は低いですが、ペレット材料時に150〜160℃で2〜4
時間乾燥させることで、より寸法安定性が向上します。
また切削加工や穴あけ、コーティング加工も可能です。
◇PEEK樹脂の成形(射出成形、押出成形など)
PEEK樹脂は先述のとおり、射出成形や押出成形などの成形加工が可能です。ただし、耐熱温度が
高いスーパーエンプラであるため、最大加熱温度が450℃の加工機やホットランナーなどの成形
機器を用意する必要があります。
また、PEEK樹脂の靭性の高さを活かすためには、200MPa以上の高圧力で射出する必要がありま
す。しかしこの場合、高い靭性や剛性を十分に引き出せる一方で、柔軟性や粘りに乏しくなり、
衝撃により破損などが生じる可能性が高くなります。
ある程度の柔軟性や粘り、弾性を確保することは今後の課題であり、改良が進められています。
◇PEEK樹脂の加工(切削加工、穴あけ加工など)
PEEK樹脂は難削剤ですが、旋盤やマシニングによる切削加工、穴あけ加工が可能です。しかし非
常に強度が高いため、細穴はドリルが折れる可能性もあります。高硬度のドリルを使用する、あ
るいは回転数を調整するなどして、慎重に加工することが必要です。
◇PEEK樹脂の成形(射出成形、押出成形など)
PEEK樹脂は、コーティング剤としても優れた機能性を発揮します。強靭な被膜を形成するため、
フッ素コーティングと比べ、耐熱性や耐摩耗性、耐引っ掻き性に優れた製品に仕上がりだけでな
く、耐薬品性や耐スチーム性なども強化されます。
■PEEK樹脂の主なグレードと種類
優れた性質を持つPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)ですが、各種繊維や充填剤などを添
加して配合することにより、機能面でさらなる改良を施された多数のグレードがあります。メー
カーによっても性質や物性が異なってくることに留意しましょう。
◇性能や目的によるグレード
PEEK樹脂を製造するメーカーでは、多くの場合で性能や機能によりいくつかの種類があり、主に
以下のようなグレードに分けています。
▼基本グレード(ナチュラルグレード)
一般的なPEEK樹脂です。先述したPEEK樹脂の特性や物性はこのグレードを基準としています。
▼摺動グレード
カーボン繊維やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などを充填することにより、潤滑性を向上
させたグレードです。軸受けやライナーなどに使用されます。
▼ガラス繊維強化グレード
ガラス繊維を配合し、強度をさらに高めたグレードです。剛性や耐クリープ性が向上します。
▼導電グレード(カーボン繊維強化グレード)
より強化させたカーボン繊維を配合することで、さらに剛性を高めたグレードです。熱伝導率が
高く、放熱にかかる時間が短縮されます。また、静電気を防ぐことが可能です。
▼医療グレード
生体適合性を考慮したPEEK樹脂を指します。軽量化などを目的とし、医療器具や手術器具に使用
されています。
◇PPEK樹脂の形状
原料樹脂はペレットやパウダー状で提供されます。切削加工の場合は丸棒や角材、プレート材か
ら加工することも可能です。
■PEEK樹脂の主な用途
耐熱・耐薬品性に特に優れたPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)は、自動車産業や航空宇宙分
野、軍事産業など幅広い分野で使用されています。性能向上や軽量化、製造コスト削減のほか、
金属やほかの樹脂の代替素材として用いられることもあります。
◇自動車
燃費向上のための軽量化や性能向上、製造コスト削減のため、金属からの代替が進んでいます。
ギアやワッシャー、ベアリングやクラッチリングなど多数の部品で使用されています。
◇航空宇宙・原子力産業分野
放射線の影響を受けにくく耐熱性・耐加水分解性も有するため、特殊な環境下でも劣化がほとん
ど起こりません。この特性を活かし、航空宇宙産業や原子力発電所などでも使用されています。
◇医療
優れた耐薬品性を有することから、医療用器具にも使用されています。チューブジョイントや内
視鏡の先端部品、歯科用器具にも用いられています。
◇3Dプリンタ用造形材料
近年では3Dプリンタ用造形材料(フィラメント)としてもPEEK樹脂は利用されています。切削
では難しかった造形も3Dプリンタなら印刷可能です。
■高機能のスーパーエンプラPEEK
現在は高価で安易に使用することが難しいPEEK樹脂ですが、さらなる開発により身近な原料とな
ることが期待されています。またPEEK樹脂市場は2030年までに10億ドルに達すると推定される
など将来性も高く、世界各国から注目を集めています。
市場激化による価格の変化など、PEEK樹脂の今後の展開から目が離せません。
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