ものづくりプレス

2025-03-05

ニトリルゴム(NBR)の特徴と用途・他のゴム素材との違い

ニトリルゴムは高い耐油性に加えて優れた加工性を持つだけでなく、さまざまな特性を付与できる合成ゴムです。

用途に応じた最適な合成ゴム選びができるよう、ニトリルゴムの概要や特徴、メリットとデメリット、ほかの合成ゴムとの物性の違い、用途などを詳しく解説します。

ゴム手袋

■ニトリルゴム(NBR)とは


ニトリルゴム(NBR)とは、ブタジエン・アクリロニトリルランダム共重合体の構造を持つ合成ゴムで、正式名称をアクリロニトリルブタジエンゴムと言います。

含有するアクリルニトリルの比率によって低ニトリルから極高(高)ニトリルまでに分類され、それぞれで特性が変化します。この特徴を生かし、ニトリルゴムは工業用品をはじめ、主に耐油性が求められる用途で使用されています。

◇ニトリルゴムの特徴


ニトリルゴムが持つ強みは、何と言ってもその耐油性です。これ以外にニトリルゴムが持つ長所や、短所について解説します。

 

▼ニトリルゴムの長所

▽耐摩耗性、耐油性、引き裂き強度が優れている

耐油性に関しては、100度以下の環境においてはシリコーンゴムよりも優れています。また機械的強度が高いのに加え、ニトリルの含有量が多くなるほど耐油性、強度、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性が高くなるという特徴があります。


▽新しい特性を付与することができる

ニトリルゴムの構造体はランダム共重合性のため、ブタジエンやアクリルニトリルの比重の調整や第3モノマーの導入により、特性の変更や付与が可能です。


それにより、以下のような、特性を高めた合成ゴムを製造することができます。

■カルボキシル化アクリロニトリルゴム(XNBR

メタクリル酸を導入。耐摩耗性のほか、高硬度品における加工性が向上。


■アクリロニトリルイソプレンゴム(NBIR

ブタジエンの一部をイソプレンに置換。強度と伸びが向上。


■水素化アクリロニトリルゴム(HNBR

ブタジエンの水素化により、耐熱性や耐候性、耐薬品性が向上。ただし、一般的なニトリルゴムよりも高価。


PVCブレンドアクリロニトリルゴム(ポリブレンド)

 PVC(塩化ビニル)を混合したニトリルゴム。耐オゾン性や耐候性が向上。


▽優れた加工性

成形性や接着性が良好で、硫黄による加硫など天然ゴムと同様の加工ができます。また安定した生産が可能なことから、大量生産向きとも言えます。


▼ニトリルゴムの短所

▽耐候性・耐オゾン性が劣る

ニトリルゴムは耐オゾン性が低いという物性を持つため、直射日光下や大気に長時間さらされると劣化し、ひび割れが生じます。

オゾン亀裂防止剤や老化防止剤や、PVC(ポリ塩化ビニル)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)などとブレンドすることで、改善が可能です。


▽耐寒性が劣る

ニトリルゴムは耐寒性に劣るため、-10~-20℃程度で脆くなる性質があります。

ブタジエンとアクリルニトリルの比率の調整や可塑剤などの添加により、この弱点を補うことができます。


▽極性溶剤に弱い

ケトン、エステルなど、電気的な偏りが大きい溶剤に対して膨潤する性質があります。


▽電気特性が悪い

分子中に極性基(ニトリル基)を持つため、電気特性が低く、絶縁性に劣ります。

 

このほか、屈曲亀裂(ゴムが変形する力を加えることで発生する表面の亀裂)に対する抵抗が弱い、加硫(架橋)していないゴムシートの粘着性が充分でないなどの短所があります。

◇ニトリルゴムの用途


ニトリルゴムが持つ耐油性、耐摩耗性、耐老性などの物性を利用し、主に以下の用途で使用されています。

・Oリング

・ガスケット(液漏れ防止シール)、オイルシールなどのシール材

・使い捨てゴム手袋(医療用、作業用など)

・自動車用部品

・工業用部品(特にパッキンなど)

・製鉄・製紙ロ-ル

・履物

・ヨガマット

・樹脂改質剤、接着剤

■ニトリルゴムと他のゴム素材との違い


ニトリルゴムとよく比較される、ほかのゴム素材との違いについて解説します。

◇ニトリルゴムと天然ゴム(ラテックス)との違い


ゴムの木の樹液から作られる天然ゴム(NR)の特長は、優れた弾性と耐摩耗性です。特に弾性はゴムの中では突出しており、自動車タイヤの原料として重要な位置を占めています。またニトリルゴムと同じく機械的特性が高いことから、使い捨て手袋にも使用されています。

しかし、天然ゴムにはタンパク質であるラテックスが含まれており、重篤なアレルギー症状を引き起こすリスクがあります。さらに耐寒性はニトリルゴムよりも高い一方で、耐油性や耐薬性が低いのが短所です。

◇二トリルゴムとウレタンゴムの違い



ゴムの柔軟性と樹脂の硬さの両方を兼ね備えた合成ゴムがウレタンゴム(U)は、合成ゴムの中では圧倒的な機械的強度を誇ります。ニトリルゴムと同じく耐油性にも優れており、また耐薬品性については同等またはそれ以下です。しかし、ニトリルゴムの弱点である耐候性が高いことから、屋外環境でも使用できる点が大きく異なります。  


ウレタンゴムは分子結合の違いにより、エステル系とエーテル系の2つのタイプがあります。

両者の特性を比較した場合、一般に引張強度や引裂強度などの機械的強度のほか、耐油性や耐溶剤性、耐摩耗性に優れているのはエステル系で、高い耐水性や耐加水分解性を持つのがエーテル系です。しかし、いずれも高温・高湿の環境下での使用には適しておらず、ニトリルゴムよりも劣ります。

◇ニトリルゴムと塩化ビニルの違い


塩化ビニル(PVC)は合成樹脂素材です。ほかの樹脂とは異なり、燃えにくい難燃性で、また可塑剤に環境ホルモンの疑いがあるとされているフタル酸エステルを使用していません。さらに安定した強度を保ち、耐久性や接着性にも優れています。  


全般的に耐油性と耐薬性が高いため、ニトリルゴムや天然ゴムと同様に使い捨て手袋の素材としても使用されていますが、両者と比較して価格が安いというメリットがあります。ただし人体への影響が懸念されることから、食品に直接触れる用途には不向きです。

◇ニトリルゴムとシリコーンゴムの違い


シリコーンゴム(SI、Q)は、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れた特殊ゴムです。-80~180℃の幅広い温度下で使用できるため、耐熱や耐寒用のパッキン材にも適しています。さらに電気絶縁性に優れるなど、ニトリルゴムでは不向きな用途で使用する際に、選択肢に入る合成ゴムです。

しかし機械的強度や引き裂き強度に関しては、ニトリルゴムやほかの合成ゴムの中では劣っています。

◇ニトリルゴムとフッ素ゴムの違い


フッ素ゴム(FKM)は、合成ゴムの中で最も高い耐熱性を持つ特殊ゴムで、200℃以上の環境下に耐えることができます。ニトリルゴムと比較した場合、耐薬性や耐油性は同様に高く、また耐候性と耐オゾン性に関しては、はるかに優れています。  


フッ素ゴムは、ニトリルゴムが補える用途にも使用することができます。しかし弱点として、耐溶剤性と耐寒性が低いことに加え、価格がほかの合成ゴムよりも高く、大量生産には不向きな点が挙げられます。

■ニトリルゴムは使用用途が広く、大量生産も可能


ニトリルゴムは耐油性や機械強度が高く、また天然ゴムのような強度やフィット感も備えているため、使い捨て手袋から自動車や工業用など幅広い用途で使用されています。さらに価格も安いため、大量生産が必要な製品の素材として最適な合成ゴムのひとつです。  


ほかの合成ゴムと性質を比較し、それぞれのメリットやデメリットを理解することが、用途に応じた最適な合成ゴム選びのポイントです。

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