ものづくりプレス
2025-03-15
架橋ゴムとは?加硫ゴムとの違いと種類
ゴムを製品として完成させるために必要な工程が、架橋や加硫です。この工程を行なってはじめて、ゴムの最大の特徴である弾性が備わります。
この記事では、ゴム製品製造に欠かせない架橋や加硫について、架橋と加硫の違い、ゴムに架橋や加硫が必要な理由、そして架橋の種類を解説します。
■架橋ゴムとは
一般に「ゴム」と言えば、”製品”と “原料”の両方を指します。このうち原料としてのゴムは製品ゴムとは異なり、圧力を加えて変形させた場合は元には戻りません。これはゴムの持つ分子がバラバラな状態のためです。この分子同士を結び付けることによって、ゴム特有の性質である弾性が生まれます。そのための工程が加硫(架橋)です。加硫ゴムは、この工程を経てできたゴムのことを言います。
それでは加硫とはどのような工程なのでしょうか。次に詳しく解説します。
◇「加硫」とは
分子同士を結合させることを架橋といいます。ゴムの場合、この工程を「加硫」と言い、主に「“硫”黄」を「“加”えて」架橋を行なうことに由来します。しかし硫黄は、二重結合を分子鎖に持つジエン系ゴムには有効ですが、それ以外のゴムの加硫には適していません。そのため、ゴムの種類によっては有機過酸化物、金属酸化物、ジアミンなどを加硫剤(架橋剤)として使用します。硫黄以外の物質を使用した分子結合は「架橋(パーオキサイド加硫)」と表現しますが、この場合も「加硫」と呼ばれることもあります。
加硫を行なう際は、時間の短縮や使用する加硫剤の減量などを目的として、加硫促進剤を併用するのが一般的です。加硫促進剤には何種類かあり、またそれぞれに効果が異なることから、両剤を組み合わせる際は特徴を踏まえて選ぶことが重要です。
こうして完成したゴムが「加硫ゴム」です。加硫を経たゴムは、弾性以外にもさまざまな特性が付与されたゴム製品として使用できるようになる一方で、熱や寒さ、水や油、溶剤などによって劣化しやすくなります。例えば、そのゴムが耐熱温度を超えると溶融や粘着などの現象を起こし、反対に耐寒温度を上回ると硬化し、亀裂や耐久性低下などの原因になります。そのため加硫を行なったゴムの保存には、適切な温度や環境が求められます。
また、長時間加硫ゴムを使用する場合に生じる水やオゾン、直射日光、薬剤などによる劣化についても考慮する必要があります。
◇架橋ゴムと加硫ゴムの違い
前述のとおり、ゴムの分子同士の結合を硫黄以外の加硫剤を使用して行なうことを「架橋」、そして硫黄を使用した場合を「加硫」と言います。そして、これらの工程により完成したゴムが「架橋ゴム」と「加硫ゴム」です。
ただし、ゴムメーカーによっては硫黄、硫黄以外の物質を問わず「ゴムの分子同士を結び付ける作業」そのものを「加硫」と呼ぶ場合があります。その場合、ゴムの分子同士が結びついている状態、またはその箇所を「架橋」と呼び、区別しています。
◇架橋ゴム、加硫ゴムの種類
架橋ゴム、加硫ゴムには以下のような種類があります。
▼架橋ゴムの種類
・シリコーンゴム(SI)
・フッ素ゴム(FKM)※架橋剤:過酸化物、アミン、ポリオールなど
・エチレンプロピレンゴム(EPDM)※架橋剤:過酸化物、キノイド、アミンなど
・ニトリルゴム(HNBR)
・ブタジエンゴム(BR)※架橋剤:過酸化物、キノイド、樹脂など
・スチレンブタジエンゴム(SBR) ※架橋剤:過酸化物、キノイド、樹脂など など
▼加硫ゴムの種類
・天然ゴム(NR)
・イソプレンゴム(IR)
・ブチルゴム(IIR)
・エチレンプロピレンゴム(EPDM)
・ブタジエンゴム(BR)
・スチレンブタジエンゴム(SBR)
・クロロプレンゴム(CR)
・ニトリルゴム(NBR)
硫黄は二重結合を持つ不飽和ゴムの架橋に対してのみ有効ですが、酸化物は二重結合の有無にかかわらず使用できます。そのため、架橋ゴム、加硫ゴムにおいて重複する種類のゴムが存在します。
◇架橋と加硫の特徴の違い
架橋と加硫では、以下のようにそれぞれ特徴が異なります。
・架橋の特徴
架橋による一般的な特徴は、以下のとおりです。
・優れた耐熱性
・優れた耐圧縮永久歪性
・汚染が少ない
・作業の安全衛生性が高い
・劣化スピードが遅い
・成形時間が短い
これらの特徴は、使用する架橋剤や材料ゴムとの組み合わせなどで異なります。また架橋によりゴムにさまざまなゴム特性を付与できるため、特殊ゴム製造にも用いられています。
・加硫の特徴
硫黄を用いる加硫には、以下の特徴があります
・機械物性(ゴムの弾性、引張強度など)が飛躍的に向上
・成形が容易
・生産性が高い
・コストが安い
・二重結合を持つ不飽和ゴムのみ使用可能
・耐熱酸化性、耐熱性、耐圧縮永久歪性などが劣る
加硫はゴムの弾性を上げることが可能なため、多くの汎用ゴム製造に用いられています。
生産性が高く、コストが安いのもメリットです。
次に、ゴム製品を作る上で架橋(加硫)が必要な理由について解説します。
■ゴムに架橋(加硫)が必要な理由
硫黄やほかの物質を媒介にしてゴムに架橋(加硫)を行なうと多重結合部が反応を起こし、ゴムの内部にある分子同士が結合します。これによりゴムの分子量が増大するため、ゴムの弾性限界が飛躍的に上がり、変形しても元の形に戻ろうとする性質を持ちます。これが弾性です。
ゴムは、弾性を持ってはじめて製品として使用できるようになります。そのため、ゴムに弾性を付与する目的で行なう架橋や加硫は、ゴムづくりに欠かせない工程です。
■ゴムの架橋方法
ゴムの架橋は、硫黄以外の有機過酸化物、有機アミン化合物、金属酸化物などを用いて行ないます。媒介にする物質によって以下の種類があり、特徴もそれぞれに異なります。
◇過酸化物架橋
過酸化物架橋は、分子中に「酸素-酸素結合(C-C結合)」を有する有機過酸化物を媒介にして行なう架橋で、パーオキサイド加硫や無硫黄加硫とも呼ばれています。ブチルゴム(IIR)以外の二重結合部を持たない飽和ゴムを含め、ほぼ全てのゴム材料の架橋方法として使用可能です。
耐熱性や耐酸化性などの特性を付加できるほか、金属やプラスチックなど、硫黄系化合物では汚染の可能性のある物質に対しても、過酸化物架橋が用いられることがあります。その一方で、硫黄加硫に比べて機械特性が低くなる傾向があり、またコストも高くつきます。
有機過酸化物だけでも架橋を形成できますが、架橋の作業時間を短縮させるために架橋助剤を使用するのが一般的です。架橋助剤には、トリアリルイソシアネートや、トリメチロールプロパントリアクリレートなどを使用します。
◇樹脂架橋
樹脂架橋は、アルキルフェノール樹脂オリゴマーを触媒にした架橋です。ブチルゴム(IIR)に対してもっとも効果を発揮しますが、スチレンブタジエンゴム(SBR)にも用いられます。
過酸化物架橋と同じく「酸素-酸素結合(C-C結合)」の分子構造となるため、耐熱性や耐酸化性に優れた架橋ゴムの製造が可能です。
◇ポリオール 加硫(ビスフェノール加硫)
ポリオール加硫とは、架橋剤にビスフェノールAFを使用した方法で、ビスフェノール加硫と呼ばれることもあります。架橋部が酸素-酸素結合(C-C結合)のため、耐熱性などに優れた性質を持ち、主にフッ素ゴム(FKM)の製造に用いられています。
なお、架橋反応により排出されるフッ化水素(HF)を吸収し、架橋剤としてビスフェノールAFを作用させるため、受酸剤(金属酸化物)と水酸化物を架橋助剤として使用する必要があります。
◇アミン架橋
ポリオール加硫のビスフェノールAFの代用としてアミン誘導体(ヘキサメチレンジアミンカーバメート)を用いた架橋方法で、フッ素ゴム(FKM)やアクリルゴム(ACM)の製造に用いられます。分子構造はポリオール加硫と似ており、また架橋時には受酸剤として鉛化合物が必要になります。
材料の保管が難しく、物性面で劣るなどの理由から、現在は架橋方法としてほとんど用いられていません。
◇⾦属架橋
金属架橋は、酸化亜鉛(ZnO)などの金属酸化物を媒介とした架橋方法です。分子鎖に官能基があるゴム原料に対して用いられ、官能基をイオン結合させることにより架橋構造を構築します。
ただし、官能基を持つゴム原料であるクルロスフォン化ポリエチレン(CSM)などは、金属架橋をするとゆがみやすくなるというデメリットがあります。
◇付加加硫
プラチナ(白金化合物)を使用し、シリコーンゴム(付加型液状シリコーンおよびミラブル型シリコーン)の架橋に用いられます。圧縮永久歪が小さく、臭いや不純物や分解生成物が少ないほか、引裂強度が向上します。
硬化に要する時間が短い反面、窒素や硫黄、リンなどの化合物が接触・混入した場合はその部分の硬化遅延やべたつきなどが起こることがあります。また製造コストが高く、材料管理など取り扱いも難しいため、食品や衣料品などの人体への安全性を重視したいとき以外は、ほかの架橋方法が選択される傾向にあります。
■用途や目的に合わせて架橋・加硫ゴムの選択を
ゴムの分子同士を結び付けるための架橋や加硫は、ゴム製品をつくる上で欠かせない工程です。一般的な硫黄を使用した加硫のほか、いろいろな物質を用いた架橋の種類があり、その方法によりゴムの性能も異なります。そのためそれぞれのゴムの特徴を理解し、目的や用途に合った適切な架橋・加硫ゴムを選ぶことが大切です。
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