ものづくりプレス

2024-12-28

耐寒性ゴムの特徴と温度の限界

ゴム製品は高温に強いとされる一方で、製品が多種多様化する製造現場では、低温への強さを持つゴムも重宝されるようになりました。  


低温に強いゴムとは、すなわち「耐寒性に優れたゴム」のことです。当記事では耐寒性に強いゴムの特徴や低温による変化、工業用ゴムの体感温度の目安などを解説します。

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耐寒性ゴムの特徴

耐寒性ゴムとは、文字どおり寒さに対して耐性を持つゴムのことです。


まずゴムの特性の1つとして、自身の温度によって物性が変化するというものがあります。


高分子物質であるゴムは、分子量の小さいモノマーと呼ばれる化合物が、鎖のように連結して構成されています。この分子鎖はゴムの温度によって柔らかさが変化するのですが、簡単に言えば、温度の高低で以下のようになります。  


  • 温度が高い:分子の運動量が活発になり、ゴムの弾性が出る(高すぎると軟化して液状化or劣化して硬化)
  • 温度が低い:分子の運動量が抑えられ、弾性が失われて硬化する


すなわちゴムは温度が低くなるほど、力を加えられた後に元の形状に戻るのに時間を要するようになります。


硬化して弾性が失われるというのは、ゴムとして致命的です。つまり耐寒性が強いゴムとは、「どれだけ温度が低くても硬化が特にしにくく、弾性を保ち続けるゴム」と言えます。


なおゴムの耐寒性は「どのような分子で構成されているか」や「ゴムの極性(電荷の偏り)がそれくらいか」などの要因が、複雑に絡み合って決まっています。


人工的に耐寒性を上げるための方法として、可塑剤(柔軟性や弾性を与える物質のこと)を添加し、分子運動を活発させる方法が一般的です。


低温によるゴムの特性変化3つの原因

ゴムが硬化する具体的な原因としては、以下3つが挙げられます。


  • ガラス転移点を下回り硬化
  • 単純な温度効果による硬化
  • ゴムの結晶化
  • ゴムの劣化による硬化

ガラス転移点を下回り硬化


ゴム素材におけるガラス転移点(硝子化温度)とは、物質がゴム状態を保つか、分子が完全に停止してゴムがガラス状態として硬化するかの境目になる温度です。


もしゴムの温度がガラス転移点下がってしまうと、ゴムが持つ弾性、いわゆる「元の形に戻ろうとする力」や「跳ね返す力」がなくなり、ガラスのような硬さと脆さを持つ物質に変化します。急激な固化脆化が発生すると、ゴム製品としての役割を果たせなくなるでしょう。  


ガラス転移点の例としてよく挙げられるのはガムです。ガムは硬い状態(いわゆるガラス状態のようなもの)から温度を加えることで、液体にならずに柔らかくなる性質があります。


ガラス転移点を下回るゴムとは、この柔らかくなったガムが急激に固まり、力を加えるとパリパリするようになるイメージです。   ガラス転移点は原料ゴムそれぞれが特有に持っています。ゴムの耐寒性強さを図るには非常に重要な要素だと言えるでしょう。  


なおこのガラス転移点による変化は2次転移とも呼びます。

ゴムの結晶化


ゴムの中には低温下によってガラス状態にならず、結晶化するタイプもあります。結晶化するゴムとして有名なのは天然ゴム(NR)です。  


たとえば天然ゴムを低温度の場所に長時間保存すると、部分的に白く凍ります。この状態が結晶化です。  


結晶化と先述したガラス化(2次転移)の大まかな違いは次のとおりです。    


結晶化 二次転移
物性の変化 硬化するが必ずしも脆くなるわけではない 硬化し脆くなる
容積 減少する 変化しないが熱膨張係数が変化する
変化の速度 数分、数時間、数日、数ヶ月と必要 一般に早い
発生する温度 重合体によって決まる 組成によって決まり、広範囲に渡る


単純な温度効果による硬化


単純な温度効果による硬化とは、ガラス転移点や結晶化には至らずとも、ゴムが低温にあることで硬化している状態のことです。  


ゴムは低温下にあるだけで分子運動が不活性気味になり、弾性が減少して硬度が上がります。たとえば寒い日にダイヤフラムのゴムが固くなったり、製造現場のポンプOリングが寒さで縮んではめにくくなったりなどは、日常生活や業務中でもたまに見かける光景ではないでしょうか。  


そのため極端な低温度帯でゴムを使用する場合は、使用する環境の温度域に見合った物性のゴム部品をメーカーに問い合わせてください。

耐寒性ゴムの温度の限界や耐寒性の強いゴム


工場にてよく使用されるゴム素材それぞれの耐寒温度の限界について、目安の値を表にまとめました。


ゴム素材の種類 耐寒温度
天然ゴム(NR) -50~-70
ブチルゴム(IIR) -30~-55
ブタジエンゴム(BR) -70
クロロプレンゴム(CR) -35~-55
ニトリルゴム(NBR) -10~-20
シリコーンゴム(Q) -70~-120
エチレンプロピレンゴム(EPDM) -40~-60
ウレタンゴム(U) -30~-60
フッ素ゴム(FKM) -10~-50


あくまで目安になります。 製品やメーカーの環境などによって値は前後するため、詳細な情報を知りたい場合はメーカーに問い合わせてください。


寒さに強い工業用ゴムとして有名なのはシリコーンゴム(Q)です。-100℃以下の低い温度にも対応できるものもあります。耐熱性にも優れているため、温度変化に対して強みを持つゴムといえます。


またブタジエンゴム(BR)やブチルゴム(IIR)も耐寒性に優れたゴムです。

温度が低い現場では耐寒性の優れたゴムを使おう!


耐寒性の強いゴムは、温度の低い現場や気温が低い日であっても硬化・劣化しづらい特徴を持っています。


ガラスのように脆くなったり、結晶化で固くなったりすると、ゴム製品としての性能がなくなるので、低温下での作業になる現場で使用するゴムは、必ず耐寒性に注目しましょう。シリコーンゴムやブタジエンゴム、ブチルゴムなどがおすすめです。


もし耐寒性に強いゴムの選定や加工、その他のご相談がありましたら、ぜひ富士ゴム化成株式会社へ気軽にお問い合わせください。

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