ものづくりプレス
2025-02-25
ゴムの耐油性とは
ゴムパッキンやゴムシートなどの工業製品には、用途によって耐油性に優れたゴム素材が利用されています。ゴム素材はさまざまな指標で評価されますが、耐油性も重要な性能指標のひとつです。本記事では、ゴムの耐油性の基本情報から試験方法、高耐油性のゴム素材など、網羅的に解説していきます。
■ゴムの「耐油性」とは
油状物質にゴムが接触し続けた際の、性状に対する変化の及ぼしにくさを意味するのが、ゴムの耐油性です。油はゴムと接触すると、ゴムの分子間に油が入り込んで膨潤し、劣化を引き起こしてしまいます。しかし、ゴム分子と油がもつ極性に差異があると、物質同士が混ざりにくくなるため、膨潤の発生も防止することが可能です。
◇耐油性の「油」が示すもの
ゴムに耐油性があれば、どのような油に対しても膨潤を引き起こしにくくなるというわけではありません。耐油性の「油」は、車のエンジンオイルやガソリン、潤滑油などで使用される非極性油の鉱物油を指します。
また、一般的に耐油性の評価対象は油に限らず、有機溶剤や工業製品など多様な対象物質があることも覚えておきましょう。
■ゴムの耐油性の試験方法
ゴムに対する信頼性評価は一例
として、下記のような流れで行われています。
1. ゴムの材質・使用環境など劣化要因の把握
2. 評価方針の策定
3. 耐久性試験の実施
4. 寿命評価
耐久性試験において、熱老化試験や耐候性試験などさまざまな評価が行われますが、耐油性・耐薬品性は浸漬試験にて評価されます。耐薬品性に比べ、耐油性の試験方法は規格化も進んでおり、定量的な試験が実施しやすいのが特徴です。
ゴムの耐油性に関する試験方法
としては、下記例が挙げられます。
1. 試験前のゴムの体積・寸法・質量などを計測する
2. ゴムを油状物質に室温、もしくは加熱下で規定時間浸漬する
3. 浸漬後のゴムの物性変化値や変化率を計測する
耐油性が低ければ、油が入り込んでゴムの体積が増加するだけでなく、軟化も起き得ます。ゴムは膨潤すると、強度も低下するため、正しい浸漬実験で耐油性を評価しましょう。
また、現象としてはゴムに配合される物質が浸漬液に引っ張られ、抽出される場合もあります。その場合、膨潤とは逆に体積が減少し、”痩せる”といった表現をします。
日本では広くJIS規格(日本工業規格)のK6258で試験が行われますが、それ以外にもASTM規格(国際標準化・規格認定機関)のD471など様々な試験方法が存在します。
■耐油性に優れたゴムの種類
一般的に、耐油性に優れているとされるゴムは複数存在します。ここでは、具体的なゴムの種類を見ていきましょう。
◇ニトリルゴム (NBR)
耐油性以外に、耐摩耗性・耐老化性にも優れているのが、ニトリルゴムです。ニトリルゴムは自動車部品をはじめ、Oリング・オイルホース・オイルシールなど、工業製品を中心に利用されています。加工性や機械的強度にも定評があるだけでなく、価格のバランスも良好です。
ただし、ニトリルゴムの構造中に不飽和結合を含む関係で、耐候性に劣る他、耐オゾン性も低い点がデメリットとして挙げられます。ニトリルゴム素材の製品は、直射日光が当たらない場所やオゾン発生装置が近くにない場所へ保管することが大切です。
◇水素化ニトリルゴム (HNBR)
ニトリルゴムの不飽和結合部分を水素化し、化学的安定性の高い飽和結合へ変化させたゴムが、水素化ニトリルゴムです。耐油性に関しては、ニトリルゴムと大きく変わりません。しかし、耐候性・耐オゾン性・耐熱性などの性能は向上しています。
ニトリルゴムと同様に、Oリングやオイルシールでも利用される水素化ニトリルゴムですが、耐候性に優れているため太陽光の影響を大きくは受けず、屋外で使用する工業用品にも活用されているのが特徴です。また、熱にも強い性質をもつので、耐熱ホースや高圧ホースの素材としても採用されています。
◇アクリルゴム (ACM)
アクリル酸エステルを主成分とし、高温での耐油性に優れている合成ゴムが、アクリルゴムです。主鎖に二重結合を含んでいないため、耐候性・耐オゾン性に優れた特性をもちます。コストに対する性能も良く、市場における価値も伸ばしているゴムです。
ただし、アクリルゴムは寒さに対する耐性が弱く、使用可能温度は-15℃までとされています。加えて、耐薬品性・耐溶剤性も劣るため、浸漬実験を実施して性能を評価することが重要です。
◇フッ素ゴム (FKM)
耐油性に限らず、耐熱性や耐薬品性など、全般的に突出した耐性をもつのがフッ素ゴムです。フッ素含有モノマーを含むゴム状弾性体の総称であり、もともとは宇宙開発や航空機といった厳しい条件下でも耐えられるゴムとして、開発されました。
現在はエネルギー関連装置や自動車部品など、厳たる使用条件のゴム製品にも、活用されています。また、ガス透過性が低い(ガスが透過しにくい)など高品質なゴムである一方、伸びが悪いなど万能な材料ではなく、高価である点には注意が必要です。
■耐油性に優れたゴムの用途例
耐油性に優れたゴムは、下記のような用途で利用されています。
· Oリング
· Vリング
· オイルシール
· オイルホース
· 燃料タンクの内張
· パッキン類
· ロール
あくまで一例ですが、自動車部品・交通機関部品・工業用品・改質用などを主として、高耐油性のゴムが利用されるケースも多いです。
耐油性の優れたゴムは、各製品の性能を最大限に発揮するだけでなく、オイル漏れやゴムの劣化なども防止します。よって、油状物質に接触する場合は、長期に渡りゴム製品を高い品質で利用するためにも、耐油性は重要です。
■まとめ
ゴムの耐油性は製品のパフォーマンスや寿命にも関わる、極めて重要な性能指標です。昨今においては、ニトリルゴムやフッ素ゴムなど多種多様な高耐油性のゴム素材が、自動車部品・工業用品といった製品に利用されています。
油脂類に接触する製品には、耐油性に優れたゴム素材の導入を検討してみましょう。
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