ものづくりプレス

2024-10-03

射出成型の金型におけるスライド構造とは?

製品の設計や射出成形において、金型の開閉だけでは取り出せない複雑な形状やアンダーカット(製品が引っ掛かり取り出せない部分)は大きな課題となります。こうしたアンダーカットを処理し、製品を金型からスムーズに取り出すための機構が「スライド」です。アンダーカットは製品の内側や外側にある場合が多く、この処理をどう行うかが金型設計の重要なポイントとなります。この記事では、スライドの基本的な役割から種類、導入時のコストや活用方法に至るまでを詳しく解説します。


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スライド機構で解決するアンダーカットの問題

射出成型におけるアンダーカットは、金型の開閉だけでは製品を取り出すことができない形状のことを指します。これに対処するため、スライド機構が導入されます。スライドは金型内で水平方向や斜め方向に動き、成形時には閉じられた金型内のアンダーカット部分を開放し、製品をスムーズに取り出す手助けをします。これにより、複雑な形状や内部に凹凸がある製品も金型から容易に取り外すことが可能になります。
スライド機構の導入により、アンダーカットを含むデザインの製品でも、形状の制約を受けることなく成形が可能となります。たとえば、製品の外側に突起や内部に複雑な凹みがある場合でも、通常の金型では対応できない部分をスライドによって成形することができます。このように、スライド機構は成形品の形状に対する柔軟性を大幅に向上させます。


スライドの種類

スライド機構にはいくつかの種類があり、製品の形状やアンダーカットの位置に応じて最適な方法が選ばれます。以下では、代表的なスライド機構の種類について詳しく説明します。


横スライド(アンギュラスライド)

金型の外側にあるアンダーカットを処理するために用いるスライドです。金型の開閉時に斜めのピンで力を加え、駒を横方向に動かすことで製品を取り出します。製品の外側に突起などのアンダーカットがある場合、この方法が最も適しています。


傾斜スライド

傾斜スライドは、製品の内側にあるアンダーカットを処理するために使用されます。金型が開いた際の押し出し力を活用し、斜めの面を動かして製品をスムーズに離型させます。内側に複雑な構造がある場合でも、このスライドを用いることで対応が可能です。


油圧スライド

油圧を利用してスライド駒を動かす方法です。金型の開閉力では対応しきれない場合や、大きな力が必要な場合に油圧スライドが用いられます。特に、大型の製品や複雑な形状の製品で高精度なスライド動作が求められる場合に最適です。


ネジ抜き(サーボモーター)

キャップなどの内部にネジ構造がある製品では、サーボモーターを使用して駒を回転させながらアンダーカットを処理します。この機構により、ネジ構造を持つ製品を金型からスムーズに取り出すことが可能です。特に、ネジの精密な成形が求められる製品で活躍します。


無理抜き

製品の弾性を利用して、アンダーカットを強制的に変形させて離型する方法です。この方法は追加の機構を必要としないため、コストダウンが可能ですが、製品や金型に負荷がかかる場合があるため、使用には慎重な判断が必要です。耐久性の高い材料を用いる場合に有効です。


スライドの活用方法

スライド機構は、製品の離型だけでなく、転写不良を防ぐためにも有効です。複雑な形状や細かいディテール、文字などを精密に転写するためには、スライドが適切に動作することが重要です。特に、三次元ブロー成形金型など、外観が重視される製品においては、スライド機構の活用が不可欠です。
また、潰し形状や幅が狭い部分の成形には、後からスライドコアを押し出して樹脂を流し込む手法が使用されます。これにより、通常の成形では難しい部分にも樹脂を均一に充填できるため、製品の品質が向上します。さらに、エジェクターピンやブローピン(エアー針)を併用することで、スムーズな離型や樹脂の流れを補助し、全体的な成形プロセスの効率を高めることができます。


スライドの導入が金型コストに与える影響

スライド機構を導入することで、製品の成形が可能になりますが、金型の製作コストに大きな影響を与えることも事実です。スライドを設置することで、金型の構造が複雑化し、製作にかかる工数や部品数が増加するため、コストは上昇します。特に、アンダーカットの位置や数が増えるほど、スライド機構の数も増えるため、金型全体のコストが数十万円以上変動する可能性があります。
しかし、製品の品質や成形効率を考慮すると、スライド機構の導入は長期的に見てコストパフォーマンスが良いと言えます。適切なスライド機構を導入することで、成形不良が減少し、生産性が向上するため、結果的にコストの削減につながることが多いです。


まとめ

スライド機構は、アンダーカットを含む製品の成形に不可欠な要素です。その種類や特徴を理解し、製品の形状に応じた最適なスライド機構を選択することで、成形工程の効率化と製品品質の向上が期待できます。金型設計においては、スライド機構の導入が製品の完成度に直結するため、製品ごとの要件に応じて慎重に検討することが重要です。また、スライド導入によるコスト増加の影響を考慮しながら、長期的な視点での投資効果を見込むことが、成功する製品設計のカギとなります。