ものづくりプレス
2024-12-13
アンチモンの輸出規制により価格が上昇?今後の展望について徹底解説
希少金属であるアンチモンは、その高い化学的安定性と耐酸性から、ゴムや樹脂、金属加工業界において重要な素材として広く利用されています。
しかし、2024年9月15日、中国政府は国家安全保障や資源保護を目的にアンチモンの輸出規制を開始しました。
この措置により、日本国内では三酸化アンチモンの供給減少や価格上昇が懸念され、企業は代替素材の検討や新たな供給源の確保を迫られています。
本記事では、アンチモンの特性や中国の規制背景、さらには日本企業が直面する課題と解決策について詳しく解説します。
アンチモンとは?その特徴と用途
アンチモン(Sb)は銀白色の希少金属で、化学的安定性と耐酸性に優れた特性を持っています。
この特性により、ゴム、樹脂、金属加工業界では重要な素材として幅広く利用されています。
特に三酸化アンチモン(Sb2O3)は、難燃剤として非常に重要であり、プラスチックやゴム製品に防火性能を付与するために使用されます。
また、三酸化アンチモンは半導体製造や蓄電池の材料としても需要が高まっており、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー市場の拡大とともに、その重要性は増加しています。
このような特性から、アンチモンは現代産業において欠かせない希少金属とされており、価格の上昇は産業に大きく影響するといえます。
中国の輸出規制とその背景
2024年8月15日、中国政府はアンチモンおよびその関連品目の輸出規制を実施するとの公告を発表し、9月15日から実施されました。
中国商務部と税関総署は、「輸出管理法」「対外貿易法」および「税関法」に基づき、国家の安全と利益を守るためとする方針を明らかにしました。
この規制により、アンチモンやその化合物を輸出する企業には、最終利用者や用途を明確に提示し、政府の審査を受けた上で許可を取得することが義務付けられました。
この厳しい規制は、以下のような要因に基づいていると考えられます。
1. 希少資源の保護と管理
中国は、世界のアンチモン生産量や埋蔵量ともにトップであり、米地質調査所(USGS)によると、2023年の世界におけるアンチモン生産量は中国が48%を占めています。
しかし、国内需要の増加や埋蔵量の限界を背景に、資源の管理と国内優先供給の必要性が高まっています。
この輸出規制は、アンチモンの過剰輸出を抑制、価格が上がらないようにし、国内産業への安定供給を確保することを目的としています。
2. 地政学的な対抗措置
輸出規制には地政学的な意図も見え隠れしています。
米国商務省産業安全保障局(BIS)は、2024年12月2日に中国向けの半導体関連輸出規制を強化する新たな措置を発表しました。
このような状況下で、中国は今後もアンチモンを含む希少金属を戦略的な武器として利用していくと考えられます。
経済産業省をはじめとする国際的な機関も、この動きを注視しています。
よって、アンチモンの価格上昇は今後も継続する可能性があります。
3. 高付加価値製品への転換
中国は、アンチモンそのものを輸出するのではなく、これを使用した高付加価値製品(例:難燃剤や電子部品)の輸出を増やすことで、国内産業の収益性を向上させようとしています。
これにより、中国経済の成長を持続的に支える狙いがあります。
4. 環境保護
アンチモンの採掘や精製過程は環境負荷が大きいため、中国政府は環境保護政策の一環として、採掘および輸出に対する規制を強化しています。
日本国内への影響と対応策
日本においては、アンチモン供給のほとんどを中国に依存しており、この輸出規制の影響は深刻です。
特に三酸化アンチモンの供給は厳しく制限される一方、輸出規制の例外措置として一部の輸入が許可されている状況にあります。
しかし、輸入量は徐々に減少しており、日本国内の在庫は圧迫されています。
この影響で、アンチモン価格は上昇傾向にあり、製造業界ではコストの増加や供給不安への対応が急務となっています。
代替供給源として注目されるのが、ベルギーのCampine社製品です。
同社の製品はすでに日本市場に流通しており、総代理店を通じた安定的な調達が可能です。
また、経済産業省もアンチモン供給の安定化による価格変動の抑制に向けた情報提供や代替供給源の模索を進めています。
三酸化アンチモンの代替品とその課題
日本国内では、中国からの三酸化アンチモンの輸入減少に対応するため、以下のような代替難燃剤が検討されています。
1.リン系難燃剤
赤リンや有機リン化合物(例:ポリフェニルホスフェートやホスフィンオキシド)
環境負荷が低く、無毒性のものが多いため注目されていますが、アンチモンに比べて価格が高いことが課題です。
2.ハロゲン系難燃剤
臭素化難燃剤(例:デカブロモジフェニルエーテル)
三酸化アンチモンと組み合わせることなく単独で使用することが可能であり、優れた難燃性を持ちますが、環境規制や毒性問題が将来的な懸念材料となっています。
3.水酸化物系難燃剤
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム
安価で無毒ですが、大量添加が必要であるため、製品の物性に影響を与える可能性があります。
4.窒素系難燃剤
メラミン誘導体(例:メラミンポリホスフェート)
ゴムやプラスチックに適しており、低煙量や高温安定性が特徴ですが、用途は限定的です。
5.ナノコンポジット
ナノシリカやナノクレイを利用した難燃剤
少量で高い効果を発揮しますが、価格が高く、製造コストがかかる点が課題です。
今後の展望と企業の対応策
アンチモン輸出規制による価格上昇や供給不足に対し、日本の企業は以下のような対応策を講じることが求められます。
1. 供給源の多様化
ベルギーをはじめとする他国の製品への依存を増やし、中国からの供給リスクを分散する必要があります。
2. 代替技術の導入
環境負荷の少ない代替難燃剤の研究開発を進め、持続可能な製造体制を構築することが重要です。
3. サプライチェーンの再構築
輸入元の多様化や国内在庫の適正管理を行い、供給リスクを最小限に抑える体制を整備する必要があります。
まとめ
中国のアンチモン輸出規制は、日本の製造業界に大きな影響を与えています。
三酸化アンチモンの供給減少と価格上昇に対応するためには、供給源の多様化、代替品の採用、そしてサプライチェーンの強化が不可欠です。
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