ものづくりプレス

2025-02-18

アンチモンの価格が上昇。難燃剤との関係とは?

最近、アンチモンの価格がぐんぐん上昇し、注目を集めています。 火災を防ぐ難燃剤や産業の幅広い分野で活躍するアンチモン。 特に新年に入ってからは、供給が不足している影響もあり、価格が12年ぶりの高値を記録しました。 この動きの背景には、供給と需要のバランスが崩れていることがあります。 この記事では、アンチモンがどのように使われ、価格高騰が私たちの暮らしや産業にどんな影響を与えるのか、一緒に見ていきましょう。


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1. 需要と供給のバランスの変化

アンチモンの価格が急上昇している背景には、供給と需要のバランスが崩れていることが大きく関係しています。


供給側の課題

短期的には、季節的な要因により採掘や精錬が一時的に制限され、供給が減少しています。特に中国では、冬季の厳しい気候や旧正月期間中の生産停止が影響を及ぼし、流通量が減る傾向にあります。
また、中長期的には、アンチモン鉱床が限られていることが供給不足の要因です。アンチモンの主要な産出国である中国やミャンマーでは、環境規制の強化や鉱山の枯渇が進んでおり、新たな鉱山開発も容易ではありません。特に中国政府は、環境負荷の高い採掘活動に対して厳しい規制を課しており、これが供給の抑制につながっています。


需要の拡大

一方で、需要は急増しています。特に、難燃剤や電子機器、再生可能エネルギー関連の分野での使用が拡大しています。


・難燃剤用途の増加:プラスチックや繊維製品に使用される難燃剤としての需要が高まっています。特に、航空機や自動車産業では、火災リスクを軽減するために難燃処理が不可欠です。

・電子機器産業の成長:半導体や電池の製造においても、アンチモンが重要な役割を果たしています。特に電気自動車(EV)市場の拡大に伴い、バッテリーの生産量が増加しているため、アンチモンの消費が増えています。

・太陽光発電の普及:太陽光パネルの製造においても、アンチモンが使用されており、再生可能エネルギーの推進に伴って需要が高まっています。


これらの要因が重なり、供給が追いつかず、アンチモンの価格は過去12年で最高値を記録しました。


2. アンチモンと難燃剤の関係

アンチモンは、私たちの生活に密接に関わる難燃剤の主要成分として広く利用されています。

難燃剤としての特性

アンチモン自体が直接燃えにくいわけではありませんが、他の化学物質と組み合わせることで高い難燃効果を発揮します。特に、三酸化アンチモン(Sb2O3)は難燃剤として極めて重要です。


・ハロゲン化合物との相乗効果:三酸化アンチモンは、ハロゲン含有ポリマー難燃剤と併用されることが多く、燃焼時にハロゲン化アンチモンを生成し、これが水素や酸素と反応して燃焼を抑制します。

・自己消火機能の向上:アンチモンを含むポリエステル樹脂やガラス繊維強化プラスチック(FRP)は、一度火がついても火源がなくなると燃焼が自然に止まる性質があります。


主な使用例

・子供服や玩具:火災のリスクを低減するため、難燃加工が施されています。
・自動車・航空機のシートカバー:火災発生時の延焼防止のために使用。
・電気製品のプラスチック部品:テレビやパソコンの筐体にも難燃処理が施されています。


このように、アンチモンは私たちの生活の安全を守る「見えない盾」として機能しています。


3. 中国におけるアンチモンの主要用途

中国は世界最大のアンチモン消費国であり、その用途は以下のように分かれています。


・難燃剤(50%以上):プラスチック、繊維、電気機器などの火災防止に使用。
・電池合金(約17%):鉛蓄電池の強度向上や耐久性向上に寄与。
・プラスチック安定剤(15%):樹脂の熱安定性や耐候性を向上。
・触媒(10%):化学反応の促進材として使用。
・その他(6〜8%):半導体、ガラス製品など。


特に、中国の産業発展と環境規制の厳格化により、難燃剤用途の需要が増加しています。


4. アンチモン価格の最新動向と産業への影響

価格の高騰


2024年1月22日の市場データによると、アンチモンインゴットの価格は以下のように急騰しました。
・一般グレード(#1アンチモンインゴット):1トンあたり約88,368元(約150万円)。
・高品質グレード(0#アンチモンインゴット):1トンあたり90,560元(約155万円)。


この価格上昇は、供給不足と需要増加が同時に進行した結果です。


産業チェーンへの影響


・上流(採掘・精錬企業):価格上昇により収益が増加。ただし、採掘コストや環境規制の影響を受けやすい。
・中流(加工業者):原材料コストの上昇により製造コストが増加。
・下流(最終製品メーカー):価格転嫁の影響で、消費者向け製品の値上がりが懸念される。


この状況が続けば、電子機器、自動車、建築業界など幅広い分野でコスト上昇が避けられず、消費者への影響も拡大する可能性があります。


まとめ

アンチモンの価格上昇は、単なる資源価格の変動ではなく、供給不足や需要増加、環境規制の厳格化など複数の要因が絡み合った結果です。 私たちの身の回りには、火災を防ぐ難燃剤としてのアンチモンが多く使われており、その安定供給は生活や産業の安全に直結しています。 今後の市場動向を注視しつつ、新たな代替技術の開発やリサイクルの促進が求められる時代になってきているのかもしれません。


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