ものづくりプレス
2025-04-07
水素化ニトリルゴム(HNBR)の化学的耐久性
ゴムという素材は、私たちの日常生活に広く浸透しており、身近な存在として知られています。しかし、その中には高機能で特殊な性質を備えたプロフェッショナル向けのゴムも存在します。その代表例が「ニトリルゴム(NBR)」と「水素化ニトリルゴム(HNBR)」です。これらのゴムは、自動車産業や機械・化学プラント、医療機器など、過酷な条件が求められる現場で高い性能を発揮します。
この記事では、まず水素化ニトリルゴムの基本から、その製造プロセス、特性、用途について詳しく解説します。続いて、ニトリルゴムの化学耐久性や他素材との比較、さらに耐薬品性の仕組みにも踏み込んで、素材選定の参考になる知識をご紹介します。
目次
水素化ニトリルゴム(HNBR)とは
水素化ニトリルゴム(HNBR)は、ニトリルゴム(NBR)を改良した合成ゴムの一種です。もともとNBRは耐油性に優れたゴムとして知られていますが、HNBRはさらにその性能を高め、耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐摩耗性を向上させた高機能素材です。
HNBRは、NBRの構造の中でブタジエン部分に存在する二重結合を水素化することで作られます。この水素化処理により、分子構造がより安定し、熱や酸素による劣化を抑えることができます。そのため、極端な温度変化や紫外線、酸化環境下においても、物理的特性を長期間維持することが可能です。
HNBRの加硫方法とその影響
HNBRの加硫方法には、硫黄加硫と有機過酸化物加硫の2種類がありますが、水素化率によって適した加硫方法が異なります。
一般的なNBRでは硫黄加硫が主流ですが、HNBRの場合、水素化率が95%を超えると分子内の二重結合がほとんどなくなるため、硫黄加硫による架橋が難しくなります。このため、有機過酸化物を用いた加硫が一般的になります。有機過酸化物加硫では、熱安定性や耐薬品性に優れた架橋構造が得られるため、過酷な条件下での使用にも適しています。
HNBRの特徴と用途
HNBRの最大の特長は、優れた耐油性を維持しつつ、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性においても高い性能を発揮する点です。これは、エンジンの高温部品、油圧機器のシール材、冷却装置のガスケットなど、特に耐久性が求められる部品に最適です。
また、HNBRはゴムの中では比較的高価な部類に入りますが、フッ素ゴム(FKM)などの高級ゴムよりはコストが抑えられており、性能とコストのバランスを重視する現場で重宝されています。唯一の欠点として、NBRよりも耐寒性がやや劣るため、低温環境下での使用には注意が必要です。
ニトリルゴムの化学耐久性
ニトリルゴム(NBR)は、その分子構造にアクリロニトリルを含んでいることから、特に油や溶剤に対して高い耐性を持ちます。この特性により、オイルシールやパッキン、ガスケットなど、油が常時接触する部品に広く使用されています。
化学耐久性という点でも、NBRは優れた特性を発揮します。酸、アルカリ、有機溶剤など、さまざまな化学薬品に対して膨潤や劣化が起こりにくく、長期間の使用でも物性の変化が少ないため、化学プラントや薬品輸送用の機器にも適しています。
他のゴム素材との比較
ニトリルゴムは、他の一般的なゴム素材と比較しても、耐薬品性と耐油性において非常に優秀です。
・シリコーンゴムは、耐熱性や耐寒性に優れていますが、油や多くの有機溶剤には弱いという欠点があります。
・天然ゴムは柔軟性と加工性に優れていますが、化学薬品や油に対する耐性が低く、長期使用には不向きです。
・フッ素ゴム(FKM)はほとんどの薬品に対して高い耐性を示しますが、価格が高いためコスト面で制約が生じることがあります。
このように、ニトリルゴムは性能とコストのバランスが取れた素材として、多様な用途に対応できます。
化学耐久性をもつ薬品の種類
ニトリルゴムは、特に石油系オイルやグリース、有機溶剤(トルエン、ベンゼンなど)に対して強い耐性を示します。これにより、自動車産業、化学プラント、油圧機器などでの使用が広がっています。
また、エチルアクリル酸やブチルアクリル酸といった特定のアクリル系化合物に対しても、アクリロニトリル含有量を調整することで、優れた耐性を得ることが可能です。含有量が多いほど耐油性や耐薬品性が高まりますが、逆に柔軟性や低温特性は低下するため、用途に応じた最適な設計が必要です。
化学耐久性の秘密
ニトリルゴムの耐油性や耐薬品性の秘密は、その分子構造にあります。主成分であるアクリロニトリルが持つシアノ基(-CN)は、極性の高い構造を持ち、非極性の油や有機溶剤に対して非常に高い耐性を示します。
さらに、共重合されるブタジエンが柔軟性や弾力性を担うことで、耐久性としなやかさを両立しています。これにより、ゴム素材でありながら長時間の使用や圧力変動に耐えることができ、厳しい環境でも信頼性を損なわない素材となっているのです。
まとめ:適材適所で活かすゴムの選び方
ニトリルゴム(NBR)と水素化ニトリルゴム(HNBR)は、その卓越した耐油性や耐薬品性、さらに高温・過酷環境への適応力によって、現代の産業に欠かせない存在となっています。
それぞれの特性を正しく理解し、使用環境や要求性能に応じて適切な素材を選定することが、製品の寿命延長やメンテナンスコストの削減、安全性向上にもつながります。高性能ゴムの特性を活かすことで、製品全体の品質も飛躍的に向上するでしょう。
今後も進化が期待されるこれらの合成ゴムは、より高度化・多様化するニーズに応え、私たちの生活と産業をしっかりと支えてくれる素材であり続けるはずです。
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