ものづくりプレス

2025-04-18

金属加工:エレクトロフォーム技術で作る微細金属パーツ

ものづくりの現場では、年々高まる製品の小型化・軽量化・高性能化の要求に応えるため、加工技術も進化を遂げています。その中でも注目されているのが「エレクトロフォーミング」という金属加工技術です。 エレクトロフォーミングは、金属を精密に成形できる技術で、電気めっきの原理を応用することで、極薄で複雑な形状の金属部品を高精度で作り出すことができます。欧米ではすでに幅広く使われている技術ですが、日本では2021年にエレクトロフォーミングジュエリー協会(EFJ協会)が設立されたことで、徐々にその認知が広がり始めました。 本記事では、エレクトロフォーミング技術の基本的な仕組みや加工プロセス、利点、さらに幅広い応用分野について詳しく解説します。

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エレクトロフォーム加工の概要

エレクトロフォーミング(Electroforming)は、導電性を持つ型(テンプレート)に対して電気めっきの手法を用いて金属を堆積させることで、目的の形状を持つ金属製品を作り出す加工方法です。大まかなプロセスは以下のようになります。
まず、原型となるテンプレートに導電性の薄膜(例えば導電性の塗料や金属薄膜)をコーティングします。このテンプレートには、金属を堆積させたい形状があらかじめ造形されています。次に、テンプレートを電解槽に沈め、電気めっきにより金属を1層ずつ堆積させていきます。目的の厚さまで金属が積層された後、テンプレートを慎重に取り外すことで、精密な金属製品が完成します。
この技術の特徴は、非常に細かい形状や薄い金属層を再現できる点にあります。高精度なパーツが求められる分野では特に有効です。
また、欧米では古くから産業用途で活用されていますが、日本では特殊な設備や薬品を使用する必要があるうえ、電気や化学の知識も求められるため、これまでは一部の技術者にしか扱えない特殊技術とされてきました。
しかし、2021年にEFJ協会が発足し、初心者でも学べる講座やワークショップが提供されるようになったことで、アクセサリー制作やアートの分野を中心に一般層にも徐々に普及し始めています。

使用できる素材と特長

エレクトロフォーミングで使用される金属は主に「銅」です。銅は電気めっき性が高く、細部まで正確に形状を再現できるため、精密加工に最適です。
さらに、加工できる素材のバリエーションも豊富です。例えば、本物の葉っぱや木の実、天然石、貝殻、シーグラス、鳥の羽など、自然物に導電性を持たせて金属コーティングすることで、それらの形状をそのまま金属作品として表現できます。繊細でありながら耐久性のある金属作品に仕上げることができ、工芸・美術の分野でも高い評価を受けています。
これにより、アクセサリー、オブジェ、アート作品などの制作においても、新たな表現の可能性が広がっています。

エレクトロフォーミングのメリット

エレクトロフォーミングには、他の加工技術にはない数多くのメリットがあります。


・高精度な再現性
微細な形状や複雑な構造も正確に金属化することが可能で、マイクロレベルの精度が求められる部品製造に適しています。


・極薄かつ軽量な製品が可能
厚みをミクロン単位で制御できるため、薄くて軽い金属パーツの製造に適しており、小型機器やポータブルデバイスに有利です。


・素材の選択肢が豊富
自然素材や樹脂など、形状を保持できるあらゆるものに応用でき、従来では困難だった加工も可能になります。


・環境負荷が比較的低い
精密加工でありながら、材料の無駄が少なく、必要最小限の金属のみを使用して成形できます。

応用分野

エレクトロフォーミングは、その精密性と汎用性から、さまざまな業界で活用されています。


・半導体・マイクロエレクトロニクス
半導体や電子デバイスの分野では、微細な導体パターンや構造体の形成に利用されます。ナノレベルの精度が必要な部品製造において、再現性の高いエレクトロフォーミングは不可欠な技術です。


・光学機器
レンズや反射鏡など、光学機器には極めて滑らかな表面と精密な形状が求められます。エレクトロフォーミングにより、波長単位の精度で金属表面を成形することができ、製品性能の向上に貢献します。


・医療機器・バイオテクノロジー
カテーテル部品やマイクロニードル、センサーなど、微小かつ高精度が求められる医療・バイオ機器の部品製造にも活用されています。生体適合性の高い金属を使用することで、安全性も確保されます。


・音響機器・楽器
音響機器においては、振動板などの薄く軽い部品の精度が音質に直結します。エレクトロフォーミングは、均一で薄い金属膜を成形できるため、クリアな音響性能の実現に寄与します。また、管楽器や弦楽器の一部パーツとしても応用されることがあります。

今後の可能性と展望

エレクトロフォーミングは、今後さらに多くの分野での活用が期待される技術です。精密加工が求められる産業分野のみならず、ジュエリーやインテリア、アートなど、クリエイティブな分野への応用も進んでいます。
さらに、樹脂加工や3Dプリントといった他の製造技術と組み合わせることで、これまでにない構造やデザインが実現可能になります。製品設計の自由度が飛躍的に高まることで、新たな市場や製品の創出が見込まれています。
今後もこの革新的な技術に注目し、ものづくりの未来を切り開いていくために、エレクトロフォーミングの理解と応用の幅を広げていくことが求められています。