ものづくりプレス

2025-04-22

樹脂の射出成形:耐衝撃性を高める加工方法と材料選定

製品の品質や信頼性を高める上で、耐衝撃性は非常に重要な性能です。特に樹脂成形製品においては、落下や衝突といった日常的な衝撃に耐えることが求められます。割れや破損を防ぐには、素材自体の物性に加え、加工時の条件や検証方法も最適化する必要があります。
本記事では、樹脂成形における耐衝撃性を高めるための代表的な加工手法や設定項目、そして材料選定のポイントについて詳しく解説します。製品設計や製造現場での参考としてご活用ください。

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耐衝撃性を高める樹脂の射出成形のポイント

射出成形は、複雑な形状の部品を効率よく製造できる代表的な樹脂加工方法です。耐衝撃性を確保するためには、成形条件の調整、適切な試作と検証、品質管理体制の確立が不可欠です。


加工方法
射出成形機の設定

耐衝撃性の高い製品を実現するには、射出成形機の細かなパラメータ調整がカギとなります。樹脂の種類ごとに最適な温度帯や圧力条件が存在するため、材料特性を理解したうえでの設定が求められます。
例えば、ポリカーボネート(PC)を成形する際は、溶融温度が高いため、加熱筒温度を300℃前後に設定します。また、成形品内部の応力を低減するために、金型温度は80℃以上が推奨されます。こうした適正条件により、クラック(ひび割れ)や変形の発生を防ぎ、耐衝撃性を向上させることが可能です。


試作プロセス
量産前に試作を行い、評価試験を繰り返すことで、実際の使用環境に近い性能を確認できます。特に、落下衝撃試験や引張試験、曲げ試験などの機械的強度試験を通じて、使用条件に適した設計かどうかを検証します。
試作段階で発生した不具合を早期にフィードバックとして反映することで、無駄な量産コストを抑えつつ、製品の信頼性を高めることができます。


品質管理
高い耐衝撃性を保証するには、製品内部の欠陥を正確に検出する検査体制が重要です。X線透過検査や超音波検査などの非破壊検査を導入することで、目視では確認できない内部の気泡や溶着不良を発見できます。
また、製造工程中のトレーサビリティを確保し、不良発生時には迅速に原因を特定できる体制を整えておくことも大切です。

材料選定

適切な材料を選定することは、耐衝撃性を確保する上での基礎となります。以下では、実用性の高い耐衝撃性樹脂素材をいくつか紹介します。


ポリカーボネート (PC)
ポリカーボネートは、非常に高い透明性と衝撃強度を兼ね備えたエンジニアリングプラスチックです。特にガラスの代替材料としても使われるほど、その耐衝撃性は群を抜いています。
・衝撃強度:ハンマーで強く叩いても割れにくい。
・耐熱性:130℃前後までの使用が可能。
・加工性:成形時の寸法安定性が良く、複雑な形状にも対応可能。
そのため、PCはヘルメット、光学レンズ、自動車のランプカバー、防弾ガラス代替品など、高い耐衝撃性が求められる用途に広く使用されています。


アクリロニトリルブタジエンスチレン (ABS)
ABS樹脂は、剛性・靭性・耐衝撃性のバランスに優れた汎用エンプラです。3つのモノマー(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン)それぞれの特性が融合することで、以下のような特長が得られます。
・アクリロニトリル:耐薬品性、耐熱性を付与。
・ブタジエン:ゴム的性質により、衝撃吸収性を強化。
・スチレン:外観の光沢性と成形性を向上。
コストパフォーマンスにも優れており、自動車内装部品、プリンタカバー、キッチン家電の外装部品など幅広い分野で採用されています。


ポリエチレン (PE)
ポリエチレンは、軽量かつ耐薬品性に優れる汎用樹脂です。特に高密度ポリエチレン(HDPE)は、耐衝撃性や剛性に優れており、容器類やパイプ材として利用されています。
・安価で量産向き:大規模な製造に適している。
・浮力性:比重が1未満のため水に浮く。
・衝撃吸収性:低温環境下でも割れにくい。
PEは、アウトドア用品や工業用タンク、耐久性が重視されるケースなどで活躍しています。


ポリプロピレン (PP)
ポリプロピレンは、軽量で剛性が高く、耐疲労性にも優れた材料です。分子構造における高結晶化度によって、物理的強度が高まり、衝撃や摩擦に対しても強いという特長があります。
・耐薬品性が高い:酸・アルカリにも強く、化学分野にも適用可能。
・繰り返し曲げに強い:ヒンジ部材などに最適。
・成形性が良い:複雑形状への対応も可能。
そのため、家庭用品、梱包材、車両部品、ブルーシートなどの耐久部材に多用されています。


まとめ

耐衝撃性の高い樹脂製品を作るためには、適切な材料の選定と高度な成形技術の両立が必要不可欠です。材料にはそれぞれ特徴があり、使用する場面や環境に応じた選択が重要です。
また、成形条件や検証・管理体制を徹底することで、より信頼性の高い製品の量産が実現できます。これらの技術や知識を駆使し、より高性能な樹脂製品を開発していくことが、今後の市場競争力を高める鍵となるでしょう。