ものづくりプレス

2025-04-24

ゴムと金属の複合加工:強度と柔軟性を兼ね備えた新素材開発

近年、素材開発の分野では、ゴムと金属という相反する特性を持つ材料を組み合わせた“複合素材”が注目を集めています。柔らかさやしなやかさを持つゴムと、剛性や耐熱性を持つ金属。この2つの特長を併せ持つ新素材の誕生は、これまで素材選びに悩んでいたさまざまな産業に革新をもたらそうとしています。
特に、産業技術総合研究所と東京大学が開発した「金属並みの熱伝導性を持つゴム複合材料」や、三菱マテリアル株式会社が開発した「金属ゴム」は、従来の限界を大きく超える機能性を実現。放熱性や高温耐性、柔軟性を求める多様な現場での活用が期待されています。
本記事では、それぞれの技術がどのような発想で生まれ、どのような応用が可能になるのかを詳しくご紹介します。


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産業技術総合研究所と東京大学:金属並みの熱伝導性を持つゴム複合材料を開発

産業技術総合研究所(産総研)と東京大学の研究チームは、柔らかさを維持しつつ金属に匹敵する熱伝導性能を持つゴム複合材料の開発に成功しました。この革新的な素材は、「カーボンナノファイバー(CNF)」と「カーボンナノチューブ(CNT)」という2種類の繊維状カーボン素材に、「ポリロタキサン」という特殊な分子構造を持つ高分子(ポリマー)を組み合わせて作られています。
通常、カーボン素材をゴムに均一に分散させるのは難しく、特に熱伝導性を高めながらゴムの弾力を保つことは非常に困難でした。しかし、研究チームは水中プラズマ処理という革新的な手法を用いて、CNFとCNTの表面を親和性の高い状態に改質。さらに、電界によってCNFの配列を制御する技術を取り入れ、熱の通り道となるネットワーク構造を形成することに成功しました。
この素材は、従来のゴムでは考えられなかった14 W/mKという高い熱伝導率を実現しています。これはアルミニウムの熱伝導率(約200 W/mK)には及ばないものの、従来のゴム素材(0.2〜0.4 W/mK)と比較すると桁違いの性能です。


応用が期待される分野
この新素材は、放熱性と柔軟性が求められる分野での応用が期待されています。たとえば:
・フレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイスの放熱シート
・高密度集積回路における熱拡散材
・ロボットの関節部など、熱がこもりやすいが柔軟性も必要な部分


今後、モバイル機器や医療用機器、自動車の電装部品など、高機能かつ軽量化を求める業界にとって、重要な熱管理材料となる可能性を秘めています。


三菱マテリアル株式会社:「金属ゴム」の開発に成功

三菱マテリアル株式会社は、これまでにない発想から新素材「金属ゴム」を開発しました。この素材は、その名のとおり金属のような高温耐性と、ゴムのような柔軟性という、従来では両立が難しいとされていた性質を兼ね備えています。
背景には、既存素材の持つ課題がありました。たとえば、ゴムなどの有機材料は柔軟である反面、高温環境では性能が著しく低下するという欠点があります。一方、金属は耐熱性に優れるものの、曲げたり伸ばしたりするような柔軟性に乏しいという課題がありました。
この壁を乗り越えるために、三菱マテリアルは自然界の構造からヒントを得ました。注目したのはヤモリの足裏にある微細な毛構造です。この構造が表面に密着する力を生み出すことに着目し、金属の表面にナノ〜マイクロメートルの微細構造を人工的に形成。さらに、金属材料の設計を工夫することで、柔らかさと高温耐性を併せ持つ新しい物性を実現しました。


実用化が期待される用途
「金属ゴム」は、以下のような高温環境下での柔軟性や形状追従性が求められる用途に適しています。
・航空機や宇宙機器における耐熱・耐振動部材
・半導体製造装置の高温シール材や仮固定パーツ
・医療機器における高圧・高温下での接触部品


従来は適用が困難だった極限環境での使用も視野に入れた、まさに次世代の機能素材といえるでしょう。


ゴムと金属の融合が切り拓く未来のものづくり

これらの新素材の登場は、今後の製造業や先端技術開発において大きなインパクトを与えると予想されます。柔らかさや加工のしやすさに加え、高い熱伝導性や高温耐性をも兼ね備えた素材が開発されたことにより、従来では相反する要求を受けてきた現場で、設計の自由度が飛躍的に向上することが期待されます。
電子機器や自動車、航空宇宙、医療など、多くの分野での製品性能の向上や軽量化、信頼性強化が可能になり、これまで不可能だった製品設計が現実のものとなるでしょう。
今後もゴムと金属の複合加工における研究開発は進み、さらなる新素材の登場によって、技術革新のスピードは一層加速していくと考えられます。未来のものづくりの鍵を握るこれらの素材に、今後も注目が集まります。