ものづくりプレス
2025-06-21
高温・高圧環境でのオイルシールの性能維持とトラブル防止策
オイルシールは、機械内部の潤滑油や作動油を外部へ漏らさず、また外部から異物が侵入しないように密封するための極めて重要な部品です。特に回転軸を有する機械や装置において、オイルシールの機能が損なわれると、潤滑不良や異常摩耗、さらには設備の損傷や停止といった深刻なトラブルにつながります。
とくに高温や高圧の過酷な環境では、シール材の物性劣化が早まり、想定よりも早期に性能が失われるケースも少なくありません。しかし、適切な製品選定と日常的な点検・保守を行うことで、こうしたリスクを大幅に低減することができます。
本記事では、オイルシールの耐圧性能の見極め方や、高温環境に対応したシール材の選定ポイント、さらにトラブルを未然に防ぐためのメンテナンス方法について詳しく解説します。
オイルシールの耐圧性について
オイルシールがどれだけの圧力に耐えられるかは、シールの構造や使用するゴム材質、取付精度など、複数の要因によって決まります。
■ シール構造とJIS規格
日本国内で広く用いられているJIS規格では、代表的なオイルシールのタイプとして以下が挙げられます。
・タイプ1(SC型など)…片唇構造、シンプルな構造で一般用途向け
・タイプ2(SB型など)…リップ部の補強あり、やや高い耐圧性
・タイプ4(TC型など)…ダブルリップ構造で防塵性・耐圧性に優れる
・タイプ5(TB型など)…金属補強付きで高耐久、過酷環境向け
これらの標準型では、常用耐圧が約0.03MPa(0.3kgf/cm²)程度とされていますが、取り付け条件によっては0.05~0.1MPa程度までの圧力に対応可能です。ただし、この数値は軸径が25mm以下、周速が2m/s以下といった条件を満たしている場合に限ります。
■ 精度と組付けが耐圧性に与える影響
オイルシールの性能を最大限に発揮するには、軸およびハウジングの加工精度と組付け精度が非常に重要です。たとえば、軸の振れや芯ずれがあると、シール面との接触圧力が均等でなくなり、油漏れや早期摩耗の原因になります。また、ハウジングの圧入精度や押さえリングの適切な締結が不十分な場合も、シール性が確保できません。
耐圧性を考慮する際には、部品設計と製造精度、組み立て技術の三位一体での最適化が求められます。
高温対応のオイルシールを選ぶときのポイント
高温下で使用されるオイルシールは、通常の使用条件よりも厳しい環境下にさらされるため、材質選定の正確さがその寿命と性能を大きく左右します。
■ 流体の特性を正確に把握する
オイルシールが接する流体(潤滑油や冷却液など)の物理化学的性質に応じて、適した材料を選ぶ必要があります。例えば:
・腐食性液体:フッ素ゴム(FKM)や全フッ素ゴム(FFKM)が有効
・蒸発性の高い液体:蒸気バリアを考慮した設計が必要
・研磨性がある液体:摩耗に強いシール材(シリコンカーバイドなど)を選定
■ 耐熱性の高いシール材の選定
高温条件下では、ゴムや樹脂(エラストマー)が熱で劣化しやすく、弾性を失ってシール性が低下します。そのため、以下のような高耐熱材料の使用が推奨されます。
エラストマー材料
・FKM(フッ素ゴム):150~200℃程度に対応
・FFKM(全フッ素ゴム):250~300℃超の高温でも安定
・PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):300℃以上にも耐えるが弾性は低い
シール面材料
・シリコンカーバイド(SiC):耐摩耗性・耐熱性に優れ、化学的安定性も高い
・タングステンカーバイド(WC):高荷重・高圧環境に強く、寿命が長い
これらの材料を用途に応じて組み合わせることで、シールの信頼性と長寿命化を図ることが可能です。
オイルシールのトラブル防止法
オイルシールの性能を長期間にわたって維持するには、事前の設計・材料選定に加えて、運用中のメンテナンスも欠かせません。
■ 定期的な点検・交換の実施
高温・高圧環境では、シール材が通常よりも早く劣化します。外観のひび割れ、リップ部の摩耗、変形などが見られる場合は、早めの交換が必要です。メンテナンス周期の設定や定期点検のルーチン化を行うことで、突発的な故障のリスクを減らすことができます。
■ 適切な潤滑剤の使用
潤滑不良による摩擦熱の上昇やドライランニングは、オイルシールの劣化を著しく早めます。使用環境に応じて、適切な粘度・耐熱性の潤滑油を選定し、必要に応じて添加剤による保護性向上を図ることが効果的です。
■ 圧力・温度のモニタリング体制
常時監視が可能な温度・圧力センサーを設置し、異常を早期に検知することで、シール部のトラブルを未然に回避できます。特に急激な温度上昇や圧力変動は、シール材に大きな負荷をかけるため、早期警告が重要です。
まとめ:適切な選定とメンテナンスでオイルシールの寿命を延ばそう
オイルシールは、選定ミスやメンテナンス不足により早期に機能を失うことがある一方で、適切な対策を講じれば大きく寿命を伸ばすことができる部品です。
とくに高温・高圧のような厳しい環境下では、流体の性質、耐熱性、材質の選定がトラブル回避のカギとなります。また、運用中も温度・圧力の管理、定期点検、潤滑の最適化を行うことで、装置全体の信頼性を高めることが可能です。
「まだ大丈夫」と油断せず、定期的なチェックと早めの対処を心がけましょう。安定した機械運転のために、シールの見直しは最もコスト効率の良い予防策の一つです。
記事検索
NEW
-
2025/07/10ゴムに似た弾性持つ樹脂「エチレン酢酸ビニル(EVA)」ゴムに似た弾力性を持つエチ...
-
2025/07/05ゴム焼付とは?金属との接着技術とその応用分野ゴムの焼付成形(加硫接着)...
-
2025/07/05オレフィン系とは? 樹脂やエラストマーについて炭素と水素が結合したオレフ...
-
2025/07/04シッピングプラグの最新技術|耐圧・耐薬品性の向上と応用事例物流や製造業において、シッ...
CATEGORY
ARCHIVE
-
2025
お知らせ 210 -
2025
ゴム 210 -
2025
その他ものづくり 210 -
2025
成形・加工方法 210 -
2025
樹脂・プラスチック 210 -
2024
お知らせ 244 -
2024
ゴム 244 -
2024
その他ものづくり 244 -
2024
成形・加工方法 244 -
2024
樹脂・プラスチック 244 -
2023
お知らせ 41 -
2023
ゴム 41 -
2023
その他ものづくり 41 -
2023
成形・加工方法 41 -
2023
樹脂・プラスチック 41 -
2022
お知らせ 7 -
2022
ゴム 7 -
2022
その他ものづくり 7 -
2022
成形・加工方法 7 -
2022
樹脂・プラスチック 7 -
2021
お知らせ 18 -
2021
ゴム 18 -
2021
その他ものづくり 18 -
2021
成形・加工方法 18 -
2021
樹脂・プラスチック 18