ものづくりプレス
2025-06-22
オイルシールの最新技術動向|低フリクション・高耐久化の進化
オイルシールは、潤滑油や作動液の漏れを防ぎ、機械内部への異物混入を防止するために不可欠な部品です。従来は「漏れ防止」という単機能が主な役割でしたが、近年はより多機能かつ高性能な技術へと進化を遂げており、機械の効率や寿命、環境性能にまで関わる重要な要素となっています。
特に自動車産業では、低燃費化や排出ガス削減、安全性の向上といった要求に応えるため、エンジンや駆動系、燃料系におけるシールの高度化が急務となっています。また、その技術は建設機械や情報機器、さらには医療分野など、幅広い分野へと応用の幅を広げつつあります。
本記事では、近年進化するオイルシール技術の最新動向やその特長、材料の革新、応用分野の拡大、そして将来の展望について詳しく解説します。
低フリクションシールと耐環境性シールの開発動向
近年のオイルシール技術では、摩擦抵抗を低減する「低フリクションシール」と、化学的・温度的に過酷な環境に対応する「耐環境性シール」の開発が急速に進んでいます。
■ 低フリクションシールの役割
摩擦が少ないという特長は、燃費向上やエネルギー損失の削減に直結します。特に内燃機関やハイブリッド車においては、エンジン内部のフリクションロスをいかに抑えるかが重要な課題です。そこで登場した低フリクションシールは、リップ部に低摩擦材(PTFEなど)を用いることで、潤滑油との摺動時に発生する摩擦を大幅に軽減しています。
■ 耐環境性の向上
一方で、最新の作動油やバイオ燃料は従来よりも化学的に過酷であるため、これらに対応したシール材の必要性も高まっています。耐環境性シールは、酸化や腐食に強い材料を採用することで、劣化を防ぎ、長期間にわたり性能を維持します。これにより、保守頻度の低減や信頼性の向上が期待されています。
材料技術の革新:高性能素材の登場
オイルシールの性能向上を支えるもう一つの柱が、材料技術の進化です。従来は主にNBR(ニトリルゴム)や革などが用いられてきましたが、現在ではより高性能な合成材料が多数登場しています。
■ 耐熱・耐油材料の普及
・FKM(フッ素ゴム):耐熱性・耐薬品性に優れ、200℃近い高温にも対応可能。エンジンルームなどの過酷環境に最適です。
・HNBR(水素添加ニトリルゴム):従来のNBRに比べて耐熱性・耐酸化性・耐油性が向上。自動車のエアコンコンプレッサーやパワーステアリングシステムで広く使われています。
■ 低摩擦化と滑り性の向上
さらに、リップ部分にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用することで、摩擦係数を大幅に低減。これは高回転機器やエネルギー効率の向上が求められる分野において非常に有効で、シール寿命の延長にも貢献します。
これらの新素材により、オイルシールは従来よりも高温・低温、高圧・低圧といった極端な条件下でも安定した性能を発揮できるようになりました。
応用分野の拡大:多様な業界での活用
オイルシール技術は、自動車だけでなく、情報機器や建設機械、産業用機器など、多くの産業分野で必要とされています。
■ 情報機器分野でのニーズ
プリンターやコピー機のトナーカートリッジなど、粉体を封じ込める機構では、微細な粉塵を確実に遮断する高精度シールが必要です。また、防塵性能や静音性も求められ、より繊細なシール設計が不可欠です。
■ 建設機械での高耐久性
油圧ショベルやブルドーザーなどの建設機械では、泥、砂塵、水分といった過酷な外部環境からの保護が重要です。このような環境では、耐摩耗性・耐水性・高密封性を兼ね備えたシールが必要となり、専用のリップ設計や多重構造が採用されています。
これらの分野では、標準的なオイルシールでは対応しきれないため、用途に応じたカスタム設計や材料選定が求められるようになっています。
これからのシール技術の展望
今後のオイルシール技術は、さらなる環境性能の向上と異業種への応用展開がキーポイントになると見られています。
■ 温度範囲対応の拡大
EV(電気自動車)や次世代パワートレインでは、極端な温度変化に耐えることが求められるため、より広範な温度対応能力を持つシール材の開発が進められています。
■ 環境対応素材の採用
環境負荷を低減するために、リサイクル可能素材やバイオベースポリマーを使用した環境対応型シール材の研究も進展しています。持続可能な開発を目指す社会において、こうした技術の採用は今後のスタンダードになる可能性があります。
■ 異業種展開の加速
今後は、医療機器や食品機械、再生可能エネルギー設備など、従来とは異なる業界にもオイルシール技術が応用されていくことが期待されています。それぞれの業界で求められる特性は異なるため、用途特化型の開発がますます重要になります。
まとめ:オイルシールの進化が機械の未来を支える
オイルシール技術は、単なる「漏れ止め部品」から、機械性能と信頼性を支える戦略的要素部品へと進化しています。低フリクションシールによる燃費向上、高耐久シールによるトラブル抑制、新素材による環境対応など、その進化はさまざまな分野に恩恵をもたらしています。
今後は、より過酷な条件下でも耐えうる性能と、より高効率で持続可能な設計を両立したシールの開発が進み、幅広い産業の未来を支える基盤技術となっていくでしょう。
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