ものづくりプレス
2026-02-13
圧縮永久ひずみで選ばないと漏れる:シール寿命を決める“へたり”評価と設計の勘所
圧縮永久ひずみとは?Oリングのへたりで漏れる原因と、シール寿命を伸ばす選び方
Oリングやパッキンの漏れトラブルは、「硬度が足りない」「材質が合っていない」と捉えられがちです。
しかし実務で“再発”する漏れの多くは、硬度そのものよりも、長時間の締結・温度・媒体の影響で進むへたり(圧縮永久ひずみ)が主因です。
同じ材質名(NBR、FKMなど)でも、グレードや配合・試験条件・設計条件でへたりの進み方は変わります。この記事では、圧縮永久ひずみを「数字として」正しく扱い、漏れ原因の切り分け→設計の打ち手→材料選定→RFQ(見積依頼)まで、Do→Buyの流れで整理します。
先に結論|漏れの主因は「硬度」ではなく“圧縮永久ひずみ(へたり)”
へたりが進むと何が起きる?(締め付け力低下→密封線が消える)
Oリングの密封は、相手面に押し付けて作る「面圧(接触圧)」で成立します。ところが、締結しているうちにゴムが永久変形して戻らなくなると、初期に確保していた面圧が下がり、密封が成立しなくなります。
典型的には、次の順で進みます。
- 初期:圧縮率(スクイーズ)により十分な面圧がある
- 経時:材料が“戻らない”方向に変形(圧縮永久ひずみが進む)
- 結果:面圧が不足し、微小な漏れ→脈動や熱サイクルで漏れが顕在化
- さらに:媒体・温度で劣化が加速し、漏れが安定して止まらない
つまり、漏れの本質は「硬い/柔らかい」ではなく、時間の経過で面圧を維持できるか(へたりにくいか)です。
「硬度が高い=漏れない」が危険な理由(硬いほど追従しないケース)
硬度を上げると初期の押し付けは強くなりやすい一方、次のリスクが増えます。
- 相手面の微小なうねり・傷に追従しにくい(初期から漏れる)
- 低温でさらに硬くなり、追従性が落ちる
- 圧縮率を上げないと面圧が出ず、溝設計が苦しくなる
- 条件によっては「硬いのにへたる」ケースもある(高温・長時間・媒体)
硬度は重要な指標ですが、漏れ寿命を決める支配因子になりやすいのは圧縮永久ひずみです。硬度は“入口”、圧縮永久ひずみは“寿命”と捉えると判断がブレません。
圧縮永久ひずみとは?Oリングの“へたり”を数値化する指標
定義を一言で(どれだけ戻らないか=永久変形)
圧縮永久ひずみは、簡単に言えば一定条件で圧縮した後、解放しても元に戻らない変形の割合です。
数字が大きいほど「戻らない=へたりが大きい」ため、締結面圧が落ちやすく、シール寿命が短くなりやすい――という読み方になります。
圧縮永久ひずみが大きいと、シール寿命はどう縮む?
圧縮永久ひずみが大きいと、初期に確保した面圧が時間とともに低下し、次の問題が起きます。
- 低圧では問題が出ないのに、圧力脈動で漏れが出る
- 熱サイクル(温度の上がり下がり)で漏れが出る
- 組付け直後は止まるが、数日〜数ヶ月で再発する
- 同じ設計でも、ロット・サプライヤー変更で寿命が変わる
現場では「なぜか止まらない微漏れ」「再発する漏れ」が多く、ここに圧縮永久ひずみが絡んでいるケースが非常に多いです。
圧縮永久ひずみと「圧縮率(スクイーズ)」の関係
圧縮率(スクイーズ)は、Oリングをどれだけ潰して使うかです。圧縮率は初期面圧の源泉ですが、同時にへたりの進行にも影響します。
- 圧縮率が高いほど、初期は漏れにくくなりやすい
- しかし圧縮率が高いほど、材料への負担が増え、へたりが進みやすい条件にもなりやすい
- 結果として「初期は止まるが寿命が短い」というトラブルが起きる
ここが設計の核心で、初期密封と寿命のトレードオフをどう取るかが勝負になります。
ここでズレる|測定条件が違うと数値が変わる(比較不能の落とし穴)
温度×時間×圧縮率で結果が変わる(同じ材料名でも違う)
圧縮永久ひずみは、測定条件が変わると結果が大きく変わります。特に影響が大きいのは次の3つです。
- 温度:高いほど劣化やへたりが進みやすい
- 時間:短時間では差が出ず、長時間で差が顕在化する
- 圧縮率:潰し量が違えば当然、戻り方も変わる
つまり、カタログ上の数値だけで「A社が良い」「B社が悪い」とは言えません。同じ条件で比較できていないデータは、比較対象にならないのが実務の鉄則です。
試験片と実部品で差が出る理由(形状・熱履歴・表面)
データシートは多くの場合、標準試験片で取られています。しかし実部品は以下が違います。
- 形状:断面形状・寸法・表面積が違う
- 熱履歴:成形条件や二次加硫、後工程で履歴が変わる
- 表面:離型剤・洗浄・保管の影響が出ることがある
- 組付:締結面・溝・クリアランスの影響を受ける
結果、実機では「数値は良いのに漏れる」「数値は普通でも長持ちする」ことが起きます。ここを埋めるには、条件定義(RFQ)と短期評価が必要です。
メーカー資料の見方(“条件付きデータ”として読む)
メーカー資料は貴重ですが、読み方を間違えると危険です。
- 数値は「その条件での結果」でしかない
- 温度・時間・圧縮率の前提を必ず確認する
- “同等品”比較は、同条件で評価したデータが無いと成立しない
- 自社条件に寄せた試験条件で、最低限の比較を取る
失敗パターン3つ|温度・媒体・圧力(隙間)を落とすと漏れる
温度だけ見て選ぶ(ピーク温度ではなく“累積時間”が支配する)
「ピーク200℃だからFKM」など、ピーク温度だけで決めると失敗します。実際のへたりは、ピークよりも「常用温度×累積時間」で効くことが多いからです。
- 高温が短時間なら耐えるが、常用が高いとへたりが進む
- 熱サイクルがあると、へたりと漏れが顕在化しやすい
- 低温でも硬化して追従できず、別の漏れモードが出る
温度は「常用・ピーク・サイクル」に分解し、寿命目標(何時間/何年)とセットで考えるのが必須です。
媒体無視(膨潤→軟化→押し出し→へたり加速の流れ)
媒体(油、溶剤、冷媒、ガスなど)を曖昧にすると、へたりを加速させる現象が起きます。典型的な流れはこうです。
- 媒体で膨潤(体積が増える)
- 軟化・硬度低下(面圧の維持が難しくなる)
- 圧力があると押し出し(エクストルージョン)
- 欠け・変形が進み、漏れが止まらない
- さらに、へたりが加速して寿命が縮む
「材料名は合っているのに漏れる」原因の多くが、ここにあります。媒体は“油”ではなく、油種・添加剤・濃度・温度・接触形態まで落とす必要があります。
圧力・隙間無視(エクストルージョンで欠け→漏れ)
圧力条件だけでなく、隙間(クリアランス)があると、押し出し(エクストルージョン)が起きます。押し出しは、へたりとは別ルートで漏れに直結します。
- 圧力でゴムが隙間に流れ出す
- 欠け・ささくれが発生する
- 微小欠陥が成長し、漏れが顕在化する
この場合、材料選定よりも先に溝設計・隙間管理・バックアップリングが重要になります。条件が揃っていれば、へたりリスクは一次診断できます。
設計で効くポイント|へたりを遅らせ、漏れを防ぐ5つの勘所
圧縮率を「やり過ぎない」(初期密封と寿命のトレードオフ)
圧縮率は高いほど初期漏れに強い一方、寿命には不利になりやすい。ここを設計で“適正化”するのが基本です。
- 初期面圧が足りないなら圧縮率だけでなく溝設計も見る
- 圧縮率を上げるほど、へたりや発熱のリスクも増える
- 「初期OK・寿命NG」を避けるため、寿命目標とセットで最適化する
溝設計(隙間管理・バックアップリングの使いどころ)
高圧・脈動・隙間がある条件では、押し出し対策が必須です。設計で効く代表打ち手は以下です。
- 隙間(クリアランス)の最悪値を把握する(温度変化も含む)
- 溝形状・面粗度・エッジ処理で損傷を抑える
- バックアップリングを適切に使う(材質・配置・厚み)
熱サイクル対策(温度変動でへたりが進む条件)
熱サイクルがあると、膨張収縮で面圧が変動する、繰返し変形でへたりが進む、低温側で追従不足が出るなど、漏れが顕在化しやすくなります。温度条件を「常用・ピーク・サイクル」で定義し、寿命目標と合わせて評価するのが最短です。
表面状態・外観不良(ベタつき等)が密封に与える影響(必要なら軽く)
外観不良(ベタつき・粉・変色)自体が直ちに漏れに繋がるとは限りません。ただし次のケースでは影響が出ます。
- 密封面に付着物が残り、面圧が局所的に抜ける
- 異物吸着で微小なリークパスができる
- 洗浄・離型剤の残留が摩擦や密着性に影響する
外観異常が出ている場合は、材料だけでなく工程・保管も含めて切り分けるべきです。
検査条件(初期は厚く→安定後に抜取へ)
へたり寿命に関わる部品は、立上げ初期に検査を厚くし、安定後に抜取へ移行するのが現実解です。
- 初期:CTQ(重要寸法)と外観を厚めに見る
- 安定後:AQLなど抜取で運用し、コストを抑える
重要なのは、測定方法・タイミングを揃えて比較可能にすることです。
材料選定の見方|“時間×温度×媒体×圧力”でへたり速度を見積もる
FKM/EPDM/NBR/VMQなど「材料名だけ」では決まらない
材料名は大枠の性格を示すだけで、実際の寿命は配合・グレードで変わります。さらに、使用条件(媒体・温度・圧力・時間)で“効く弱点”が変わるため、材料名だけで決めると外れます。
- 高温に強くても媒体で膨潤する
- 低温で硬化して追従できない
- 圧力と隙間で押し出しが出る
- 熱サイクルでへたりが進む
だからこそ、T(温度)×t(時間)×M(媒体)×P(圧力)で選定します。
同等材切替で寿命が変わる理由(配合差・グレード差)
「材料名が同じ」「硬度が同じ」でも、寿命が変わるのは珍しくありません。理由は、へたりに効く要素が材料名の外側にあるからです。
- 充填材・可塑剤・添加剤の違い
- 加硫系・架橋密度の違い
- 二次加硫や工程条件の違い
- 表面状態(離型剤、洗浄、保管)の違い
同等品は“探す”のではなく、同等の定義(必要物性・評価条件)を作ることが重要です。
代替候補の絞り方(要求仕様→候補→評価の順)
最短ルートはこの順番です。
- 要求仕様を整理(漏れNG条件、寿命、媒体、温度、圧力、隙間)
- 候補材を広めに出す(材料名は仮置き)
- へたりに効く物性を重視して絞る(圧縮永久ひずみ、硬度変化、膨潤など)
- 自社条件に寄せた短期評価で比較する
- 量産条件(検査・変更管理)をセットで固める
実務チェックリスト|RFQに必ず入れるべき項目(見積比較が成立する)
使用条件:温度(常用/ピーク/サイクル)×時間×媒体×圧力
RFQにここが無いと、サプライヤーは前提を置いて見積・選定するしかありません。
- 温度:常用/ピーク/サイクル(回数・ΔT)
- 時間:連続運転/累積運転/寿命目標
- 媒体:具体名、濃度、添加剤、接触形態(浸漬/蒸気等)
- 圧力:最大圧、脈動の有無、差圧
重要寸法と溝条件(圧縮率、隙間、バックアップ有無)
へたり・押し出しは設計条件で支配されます。最低限、次を共有すると比較可能になります。
- 圧縮率(目標値)
- クリアランス(最悪値)
- バックアップリングの有無
- 溝形状の前提(図面添付でも可)
品質・検査(初回品・成績表・AQL/抜取)
立上げ初期の比較を成立させるために必要です。
- 初回品:提出物(材料証明、成績表、外観基準)
- 測定方法:治具・押し付け圧・測定タイミング
- 検査方式:全数/抜取(AQL)
- 変更管理:材料・工程・拠点の変更通知
受入後の保管・梱包(変形・へたりを増やさない)
意外と見落とされるのが、受入後の保管や梱包条件です。
- 変形が出ない梱包(過積載・圧縮を避ける)
- 温湿度・直射日光・オゾン源を避ける
- ロット管理・ラベル(トレース可能に)
- 長期保管の条件(期限、先入先出)
まとめ|寿命の見積り→評価→量産条件へ(Do→Buyの最短ルート)
最短で失敗を減らす進め方(条件整理→候補→短期評価→量産)
圧縮永久ひずみで失敗しないための最短手順はこれです。
- 使用条件をT×t×M×Pで整理(常用・ピーク・サイクルまで)
- 溝・隙間・圧縮率をセットで確認(押し出し対策含む)
- 候補材を出し、へたりに効く物性で絞る
- 条件を寄せた短期評価で比較(“同条件比較”を作る)
- RFQと検査・変更管理まで固めて量産に乗せる
この流れを踏むだけで、「止まらない微漏れ」「数ヶ月後の再発」の確率が大きく下がります。
次の一手:無料一次診断(マイクロCTA)
圧縮永久ひずみは、材料名だけでは判断できません。ただし、条件(温度・時間・媒体・圧力・溝条件)が揃えば、へたりリスクの一次診断は可能です。
「圧縮永久ひずみを含む材料候補の一次診断(無料)/シール寿命の簡易見積り相談」
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