ものづくりプレス
2025-12-13
「水素社会」実装に向けたシール・ガスケットの国際規格動向
水素ステーションやFCV、水素発電の実装が進む中で、実はボトルネックになりやすいのが「シール・ガスケット」です。
70MPa級の高圧、低温〜高温の温度変動、透過しやすい水素という難しい条件に対して、“漏らさない・劣化させない”設計が求められます。
こうした背景から、ISO 14687・ISO 19880シリーズ・ISO 19880-7・ISO 15848-1 など、水素関連の国際規格が次々整備・改訂されています。
本記事では、それらの規格を「水素用シール・ガスケット」という視点で整理し、設計・調達・品質保証が実務でどう活かすべきかを分かりやすく解説します。
- 水素社会とシール・ガスケットに何が求められているのか
- 水素関連の代表的な国際規格マップ(ISO 19880シリーズ等)
- 設計・調達・品質保証の実務ポイント
目次
1. 水素社会とシール・ガスケットに何が求められているのか
「水素社会」と言うと、FCV・水素ステーション・水素発電など華やかなキーワードが先に立ちますが、実装フェーズでボトルネックになりやすいのは“シール・ガスケット”です。
- 70 MPa クラスの高圧ガス
- −40 ℃近辺から 80 ℃超までの温度変動
- 高い拡散性による透過・漏えいリスク
- 急速な加圧・減圧による RGD(急激ガス膨張)
こうした条件下で「水素を漏らさない」「長期的に性能を維持する」ことが、バルブ・継手・ホース・圧力容器・コンプレッサなどあらゆる機器に求められています。
その結果、ISO/TC 197(水素技術専門委員会)を中心に、燃料品質・水素ステーション・バルブ・Oリング等を対象とした国際規格が急速に整備されているのが現在のトレンドです。ISO
2. 水素関連の代表的な国際規格マップ
2-1 ISO/TC 197 がつくる“水素規格エコシステム”
水素技術に関する多くの規格は、ISO/TC 197 が策定しています。この中で、シール・ガスケットに強く関係するのが以下の領域です。
- 水素燃料そのものの品質:ISO 14687
- 水素ステーション(機器・バルブ・Oリング):ISO 19880 シリーズ シンガポール基準Eショップ
- 充てんノズル・車両側レセプタクル:ISO 17268 Svenska institutet för standarder, SIS
設計・調達側は、「どの機器がどの規格の守備範囲に入っているか」をざっくり掴んでおくだけでも、仕様書・サプライヤー評価がかなりやりやすくなります。
2-2 水素燃料の品質規格:ISO 14687:2025
ISO 14687:2025 「Hydrogen fuel quality — Product specification」 は、水素燃料の最低品質(不純物濃度等)を規定する国際規格です。住宅・産業・車両・定置用など幅広い用途に対して、燃料品質の要求を整理しています。ISO
シール・ガスケットとの関係で重要なのは次の2点です。
- 不純物上限値が厳格化されているため、「シール材からの汚染(オイルミスト・可塑剤・金属イオンなど)」を避ける必要がある
- 用途別にグレードが分かれており、それに応じてシール材料の要求も変わる
つまり、「ただ水素に耐える」だけでなく、「水素の清浄度を悪化させない材料・構造か?」が問われるようになっています。
2-3 水素ステーション・高圧機器:ISO 19880 シリーズ & ISO 17268
ISO 19880-3:2018 は、水素ステーションで使用される高圧バルブの安全性能要求・試験方法を規定した規格です。チェックバルブ・手動弁・安全弁・ホースブレーカなどが対象で、H70 相当(約 70 MPa)の水素圧力を想定した試験が定義されています。シンガポール基準Eショップ
その周辺には以下のような規格が並び、「ステーション全体 → 機器 → シール」と階層的に整備されているイメージです。intertekinform.com
- ISO 19880-1:水素ステーション全体の設計・安全要求
- ISO 19880-3:高圧バルブ
- ISO 19880-7:2025:Oリング(後述)
一方、ISO 17268-1:2025 は、FCV 等の「車両への充てんコネクタ」を対象にした規格で、コネクタ内部のOリングやシール設計もこの影響を受けます。Svenska institutet för standarder, SIS
つまり、水素ステーション周りのシール設計は「ISO 19880 + ISO 17268」に沿うことが“暗黙の前提”になりつつあります。
2-4 漏えい規制とフュージティブエミッション:ISO 15848-1 など
水素は微小な漏えいも問題になるため、「バルブからの漏えい」を評価する規格として ISO 15848-1(フュージティブエミッション試験) が幅広く使われています。Fugitive Emissions Journal
多くのパッキン・ガスケットメーカーが「ISO 15848-1 クラス AH 取得」などの形で性能を訴求しています。Fugitive Emissions Journal
「ISO 19880/17268 で水素システムとしての安全を確認し、シール単体は ISO 15848-1 や各社の H₂試験で裏付ける」という組み合わせが実務上のスタンダードです。
2-5 日本国内の技術基準:高圧ガス保安法・JPEC-S
日本国内では、高圧ガス保安法を補完する形で、JPECの「圧縮水素充塡技術基準(JPEC-S 0003)」などの自主基準が整備されています。一般財団法人 カーボンニュートラル燃料技術センター(JPEC)
これらは充てん圧力・温度・昇圧率といった“システム条件”を与えるため、結果的にシール・ガスケットに必要な性能を決める基礎となります。
3. 水素用 Oリングの国際規格:ISO 19880-7:2025 のポイント
2025 年に発行された ISO 19880-7:2025「Gaseous hydrogen — Fuelling stations — Part 7: O-rings」 は、水素ステーション向け高圧機器で使われる Oリングの要求事項とハウジング寸法を規定した新しい規格です。intertekinform.com
- 対象:水素ステーション内の高圧水素機器に用いるゴム Oリング
- 圧力条件:名目作動圧力 最大 70 MPa(H70 相当)
- 温度条件:一般に −40 ℃〜 +65 ℃ 程度の範囲をカバー
- 内容:Oリング材料への要求、ハウジング(溝)寸法の許容値、水素中での設計・試験の考え方
ざっくり言えば、「ISO 3601 で一般論として決めていた Oリング寸法・設計」を、水素 70 MPa 向けにチューニングしたバージョンだと捉えるとわかりやすいです。ISO
設計・調達側としては、「水素ステーション用機器の Oリングは ISO 19880-7 準拠」「ハウジング設計も同規格に基づく」という方針にしておくと、将来の対応がスムーズになります。
4. シール・ガスケット設計で押さえておきたい実務ポイント
4-1 材料選定:EPDM・FKM・PTFE・PEEK・金属シールの役割
水素向けシールでは、Trelleborg の H2Pro™ シリーズに代表されるように、EPDM/FKM/PTFE/PEEK/メタルシールなどを組み合わせて条件に合わせるのが一般的です。trelleborg.com
- EPDM:低温〜中温・酸化環境・電解槽・配管などに適した汎用エラストマー
- FKM:高温寄りのガスライン・コンプレッサ周辺など
- PTFE・PEEK:極低温(液体水素)や高圧・高温の動的部位、バックアップリング
- メタルシール:極低温・高真空・高圧の静的シール
ここに「水素透過性」「RGD 耐性」「燃料汚染リスク」を加味して、材料を組み合わせていくイメージです。trelleborg.com
4-2 RGD(急激ガス膨張)対策
高圧水素を急速に減圧すると、Oリング内部に溶け込んだガスが一気に膨張し、内部にクラックが入る RGD(Rapid Gas Decompression) が問題になります。
大手シールメーカーは、ISO 17268 などをベースに独自の試験を行い、過酷条件での評価を行っています。trelleborg.com
設計・調達の観点では、「RGD 試験済みコンパウンドか?」「試験条件が自社想定と近いか?」をサプライヤーに必ず確認しておくのがポイントです。
4-3 溝設計・ガスケット設計の注意点
水素は分子が小さいため、「材料内部の透過」だけでなく「接触面の僅かなギャップ」からも漏れやすいのが特徴です。
- Oリング溝のクリアランスは、一般ガス仕様よりシビアに設定(ISO 19880-7 の寸法表を参考)
- 高圧側では Oリング+バックアップリングで“ギャップ押し出し”を防止 H2Tools | Hydrogen Tools Portal
- フランジガスケットは、表面粗さ(Ra)・面圧条件・締結ボルト管理まで含めて設計
5. 調達・品質保証でできること:規格の「仕様書への落とし込み」
最後に、設計だけでなく調達・品質保証の実務で何をすべきかを整理します。
- 仕様書に規格番号を明記する
例:「水素ステーション用高圧バルブ:ISO 19880-3 準拠」シンガポール基準Eショップ
「バルブパッキン:ISO 15848-1 クラス BH 以上」Fugitive Emissions Journal - サプライヤーに試験成績書・認証を要求する
水素互換性試験(H₂/He透過)、RGD試験結果 trelleborg.com、フュージティブエミッション試験(ISO 15848-1 等) Fugitive Emissions Journal - 日本国内基準との整合性を確認する
高圧ガス保安法・JPEC-S 0003 などが要求する条件に対し、選定している国際規格・材料が十分かどうかをチェックする。一般財団法人 カーボンニュートラル燃料技術センター(JPEC) - 「H₂ Ready」などのメーカーブランドの意味を理解する
どの規格をベースに、どの条件で試験済みなのかを確認し、単なるマーケティングラベルで終わらせない。trelleborg.com
6. まとめ──「規格マップ」を持った上で、個別設計に落とす
水素社会の実装は、ISO 14687 や ISO 19880 シリーズといった国際規格を前提に、「どんなシール・ガスケットを、どんな条件で使うのか」を明確にするところから始まります。
規格を“知識”として知っているだけでなく、図面・仕様書・サプライヤー選定の基準に落とし込めるかどうかが、今後の水素案件での競争力を分けるポイントです。
国際規格の動向を押さえつつ、水素用シール・ガスケットの“標準仕様”を社内で早めに固めておくことが、水素ビジネスを安定的に伸ばすための土台になります。
水素用シール・ガスケットの選定・規格対応でお悩みの方へ
富士ゴム化成では、ISO規格や水素環境特有の課題(高圧・透過・RGD)を踏まえた最適なシール材のご提案が可能です。
「水素ステーション機器のシール選定を相談したい」「RGD対応材を探している」など、お気軽にお問い合わせください。
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