ものづくりプレス

2026-03-19

韓国LG Chemのクラッカー停止は対岸の火事ではない?アジアの樹脂・ゴム調達への影響を読む


韓国LG Chemのクラッカー停止は対岸の火事ではない?アジアの樹脂・ゴム調達への影響を読む

原油や中東情勢のニュースを見ると、「エネルギーコストの話」と受け止められがちである。 しかし製造業にとって本当に重要なのは、その先にあるナフサと、さらにその先にあるプラスチック・ゴム原料の供給である。

その意味で、2026年3月に報じられた韓国LG Chemのナフサクラッカー停止は、単なる海外ニュースではない。ロイターによると、LG Chemは麗水コンプレックスの第2ナフサクラッカーを一時停止した。対象設備のエチレン生産能力は年80万トンで、会社側は原料ナフサの確保が難しくなっていると説明している。 (Reuters)

エチレンは、各種プラスチックや合成繊維、溶剤などの基礎原料である。つまりクラッカー停止は、単に韓国内の石化設備が止まったという話ではなく、アジアの樹脂・ゴム原料の需給が締まりやすくなるシグナルとして読むべきである。LG Chemはその後、供給不安への対応としてロシア産ナフサの調達にも動いたとロイターが報じていることからも、足元のナフサ調達環境が平時ではないことが分かる。 (Reuters)

なぜLG Chemの停止が日本の調達にも関係するのか

日本の製造業で使われる材料は、
原油 → ナフサ → エチレン・プロピレンなどの基礎化学品 → 樹脂・ゴム原料 → 部品・製品
という流れの上にある。

そのため、アジアの大手石化メーカーのクラッカーが止まると、直接その材料を買っていなくても、次のような影響が出やすい。

  • ・周辺市場でナフサ・石化原料の争奪が強まる
  • ・汎用樹脂の価格が上がる
  • ・特定グレードの納期が不安定になる
  • ・合成ゴムやコンパウンドの見積条件が厳しくなる
  • ・代替材提案や材料変更の必要性が高まる

日本政府は2026年3月、ナフサについて国内消費約4か月分相当を確保できる見通しを示しつつ、ナフサ利用企業が中東以外からの調達を進めていると説明している。これは、日本国内でもナフサ調達が経済安全保障上の論点になっていることを意味する。 (経済産業省)

今回の停止は、単独のトラブルではなく「中東リスクの表れ」

今回のLG Chem停止は、設備老朽化や定修の話ではなく、イラン情勢に伴うナフサ供給混乱と結びついて報じられている点が重要である。ロイターは、イラン戦争によってホルムズ海峡経由の石油化学品供給が詰まり、世界のプラスチック価格が約4年ぶり高値圏にあると報じている。中東は2025年の世界ポリエチレン輸出の4割超を占めており、アジアではナフサマージンも急上昇した。 (Reuters)

つまり、今回のLG Chem停止は「韓国企業1社の問題」ではなく、
中東発の供給不安が、アジアの石化設備稼働にまで波及し始めた象徴的な事例と見るべきである。

そもそもナフサクラッカーが止まると何が起きるのか

ナフサクラッカーは、ナフサを熱分解して、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品を生み出す中核設備である。ここが止まると、その先のプラスチックやゴム原料の供給に影響が出やすい。

プラスチック側

  • ポリエチレン系 / ポリプロピレン系
  • 一部汎用樹脂
  • フィルム、包装、成形部品向けの材料群

ゴム側

  • ブタジエン由来を含む合成ゴム系
  • 工業用ゴム部品向けの一部原料
  • コンパウンド調達条件 / ゴムと樹脂の複合部材

ロイターは今回の需給混乱について、世界の石油化学供給が締まり、DowやLanxessなど各社が値上げを進めていると報じています。上流で原料が詰まると、川下のプラスチック, ゴム, 添加剤まで順に価格と納期へ波及しやすい。 (Reuters)

日本の製造業にとって、なぜ「対岸の火事」ではないのか

韓国は日本にとって、地理的にもサプライチェーン的にも近い石化拠点のひとつである。その韓国で大手クラッカーが止まるということは、アジア圏の供給バランスに影響しやすい。

さらに、足元では中国でもホルムズ海峡経由の供給不安が意識されており、ロイターは中国最大手のPetroChinaが同海峡経由の原油・ガス依存について言及したと報じています。アジア全体で中東由来原料の代替確保が課題になれば、結果として日本企業も同じマーケットで原料を取り合う構図になりやすい。 (Reuters)

要するに、韓国のクラッカー停止 → アジア全体で原料争奪 → 日本の樹脂・ゴム調達条件悪化 という流れは十分にあり得る。

調達現場では、具体的に何が起きやすいのか

LG Chemのような大手設備停止が出たとき、実務では次のような変化が起きやすい。

1. 汎用樹脂から先に価格が上がる
ニュースになりやすいのは原油価格だが、現場で先に効くのはナフサと汎用樹脂である。ロイターはポリエチレンやポリプロピレン価格が急騰したと報じている。 (Reuters)
2. 特殊材・小ロット材の納期が読みにくくなる
需給が逼迫すると、まず大量消費される標準材が優先されやすい。その結果、小ロットのゴム材や専用配合、特定グレードのプラスチックが後回しになりやすい。
3. 見積有効期限が短くなる
原料相場が荒れる局面では、ゴムやプラスチックの見積が短期間で変わる。これは川上のナフサや石化原料が落ち着かないためである。
4. 代替材の検討が一気に増える
TPE化、樹脂化、グレード変更、複合設計など、設計と調達をまたぐ見直しが必要になる。これは価格対策でもあるが、同時に供給継続対策でもある。

今、調達担当と設計担当が見るべきポイント

こうした局面で重要なのは、「安く買える先を探す」だけではない。以下のような順番で見ると整理しやすい。

  • 1 原油ではなく、その次のナフサを見る: まずはナフサの需給とアジアの石化原料の動きを見るべきである。日本政府がナフサ確保を明示的に説明していること自体、今はナフサが重要管理項目であることを示している。 (経済産業省)
  • 2 クラッカー稼働を確認する: 設備停止は「今の価格」よりも、「次の納期」を読む材料になる。LG Chemの停止はまさにその典型例である。 (Reuters)
  • 3 自社が使う樹脂・ゴム材の在庫週数を確認する: マクロで在庫があることと、自社の品番が安心であることは別問題である。専用配合や特注材ほど、個別管理が必要になる。
  • 4 代替材の候補を平時のうちに持つ: 供給逼迫が顕在化してから代替材を探すのでは遅い。特に、ゴムからTPE、ゴムから樹脂、一部だけ複合化といった代替余地は、今のうちに洗い出したい。
  • 5 1社依存・1国依存を減らす: 供給不安局面では、単価差よりも切替可能性が価値を持つ。国内と海外、商社と加工先、標準材と代替材を組み合わせて、調達ポートフォリオを持つ発想が必要である。

富士ゴム化成のような「技術×調達」が生きる局面

今回のような局面では、材料の知識だけでも、購買力だけでも足りない。必要なのは、材料選定・工法・調達条件を一緒に見られることである。

・このゴム材は別グレードに振れるのか
・TPEや樹脂で一部代替できるのか
・国内調達に戻したときのコストと納期はどう変わるのか
・量産と試作で材料を分けるべきか
・仕様を少し緩めれば供給先を増やせるか
こうした判断は、単なる相場情報ではできない。LG Chemの停止のようなニュースを、実際の部品調達へ翻訳できる支援が重要になる。

まとめ

韓国LG Chemのクラッカー停止は、対岸の火事ではない。ロイターによると、停止の背景にはイラン情勢に伴うナフサ供給難があり、対象設備は年80万トンのエチレン能力を持つ。さらに、同じ時期にホルムズ海峡経由の石油化学供給が詰まり、プラスチック価格は約4年ぶり高値圏にある。 (Reuters)

この事例が示しているのは、中東リスク → ナフサ調達難 → アジアのクラッカー停止 → 樹脂・ゴム調達悪化 という連鎖が、すでに現実のものになっているということだ。

だからこそ、製造業が今やるべきことは明確である。

  • ナフサと石化設備の動きを追う
  • 自社のプラスチック・ゴム材の在庫と納期を見直す
  • 代替材候補を持つ
  • 調達先を分散する
  • 設計と購買を早めに連携させる

LG Chemの停止は、韓国の出来事ではなく、
アジアの樹脂・ゴム調達が平時ではなくなっていることを示す警報である。

韓国LG Chemのクラッカー停止の様子