成形・加工方法
2021-05-11
ゴムの切削加工が試作に最適な理由とメリット・デメリット
ゴムの切削加工は、試作品やサンプルの製作に適した加工方法です。ゴムの加工方法としては金型成形が一般的ですが、切削加工は金型を使用しない分、試作品製作に向いている特徴を持っています。
当記事では「ゴムの切削加工がなぜ試作品の製作に向いているのか」という部分について、金型成形との違いや切削加工のメリット・デメリットを交えて解説します。
ゴム切削加工が試作に最適な理由
ゴムの切削加工とは、ゴムブロックやゴムシートなどのゴムの塊を、さまざまな方法で削ったり切断したりして成形を行う方法です。金型を用いたコンプレッション成形、注入成形、射出成形(インジェクション)などの方法と異なり、切削機械や刃物を用いて加工を行います。
ゴムは医療関係の機器や食品工場の配管ライン、腕時計のパッキン、扉のクッション、携帯電話を作る設備など、そのほかの製造関係のさまざまな業界で活用される素材です。だからこそ、製品の実用化や量産体制の構築前には「試作品」を製作し、テスト運用やシミュレーションを行うことが重要になります。
試作品を製作すべき具体的な理由は次のとおりです。
- 見込んだとおりのゴム形状になっているのかを確認すべきだから
- 加工後のゴムの質感に問題ないのかを見たいから
- 製造工程について事前に問題点を抽出しておきたいから など
切削加工は、そんな試作品の製作には最適な加工方法です。詳細をご紹介します。
金型成形との違い
金型成形は、主にゴム製品の大量生産のときに採用されることが一般的です。金型成形には次の手法が存在します。
- コンプレッション成形:
適度に加熱したゴムを上部と下部の金型で加圧し決まった形に成形する方法 - 直圧注入成形(トランスファー成形):
コンプレッション成形のように圧をかけ注入口にゴムを強制的に注入させて成形する方法 - 射出成形(インジェクション成形):
可塑化させたゴムを金型に注入して成形する方法
しかし金型成形は金型の製作に時間がかかったり、試作品の作り直しのときに金型の修正が発生したりなど、労力や費用面のコストがかかります。量がそれほど必要ではない試作品を製作する手法としてはあまり向いていません。
対して切削加工は、小ロット製造や1つだけのサンプル製作などに向いている手法です。金型を使用しないことが、金型加工よりさまざまな面での柔軟性につながっています。
ゴムを切削加工で試作するメリット
切削加工によってゴム製品の試作品を作るメリットは、具体的に次のことが挙げられます。
- 金型製作の時間(1ヶ月程度)が発生せず納期を短縮できるから
- 金型の新規製作や作り直しが発生しないから
- さまざまな形状の加工に対応できるから
- 金型製作にかかる初期費用を抑えられるから
切削加工は、機械や刃物さえあれば試作品の製作に取りかかれます。「すぐに試作品を試したい」「欲しい」というニーズに答えることが可能です。
また、途中で試作品の仕様変更があったり試作品の形状を改良したくなったりしたときに、もう一度金型製作を行う必要がありません。その分だけ金銭的コストも抑えられます。
さらに切削加工は穴あけや円抜き、平面加工、曲面加工などさまざまな形状に対応できます。熟練の腕を持つ職人の手作業であれば、機械では難しい特殊な加工も期待できるでしょう。切削加工で対応できる形状の一部をご紹介します。
- ゴムキャップ
- Oリングやゴムパッキン
- 球体
- ホース型
- スクリュー型
- ジャバラ型 など
上記のような迅速かつ柔軟性のある対応が取れるのが、金型加工にはない切削加工の大きなメリットです。大量生産は困難ではあるものの、試作品や多品種少量生産に向いている加工方法といえます。
切削加工のデメリット
試作品の製作には最適なゴムの切削加工ですが、いくつかデメリットも存在します。
- 定形金型による安定した連続加工が難しい
- ジャバラ形状といった薄肉の加工には技術が必要になる
- 金型のようなツルツルの加工面に仕上がらない
- 1個あたりのコストは金型より高い
ゴムは金属や木材と違い、強い弾力を持つ素材です。弾力や柔らかさを考慮した加工が必要になるため、技術やノウハウがなければ切削加工自体の難易度が上がります。
また金型成形のような「決まった型」に基づいての製作ができません。都度の切削作業が発生することから、スピーディーかつ安定した大量生産には、切削加工は向いていないといえるでしょう。その分、製作品一つひとつの単価も上がります。
「試作品は切削加工で」「生産体制が整ったら金型成形で」のように、運用計画や状況に応じた使い分けが大切です。
ゴムの切削加工に向いている硬度
切削加工で対応できるゴムの硬度は技術や機械によって変化しますが、大体30~95、98度くらいと言われています。一般的なゴムの硬度は40~70度であるため、ゴムの形状や材質にもよりますが、ほとんどのゴム素材に対応可能です。
工業用ゴムの加工によく用いられる素材は次のとおりです。
- 天然ゴム(NR)
- フッ素ゴム(FKM)
- クロロプレンゴム(CR)
- シリコーンゴム(Si)
- ウレタンゴム(U)
- エチレン・プロピレン・ジゲンゴム(EPDM)
- アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR) など
加工の目的に合ったゴム素材で試作品を製作しましょう。
ゴムの切削加工に向いている硬度
切削加工で対応できるゴムの硬度は技術や機械によって変化しますが、大体30~95、98度くらいと言われています。一般的なゴムの硬度は40~70度であるため、ゴムの形状や材質にもよりますが、ほとんどのゴム素材に対応可能です。
工業用ゴムの加工によく用いられる素材は次のとおりです。
- 天然ゴム(NR)
- フッ素ゴム(FKM)
- クロロプレンゴム(CR)
- シリコーンゴム(Si)
- ウレタンゴム(U)
- エチレン・プロピレン・ジゲンゴム(EPDM)
- アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR) など
加工の目的に合ったゴム素材で試作品を製作しましょう。
ゴム切削加工の精度
ゴムの加工で一ミリも違わない精度で製品を生産することは非常に難しいとされています。素材が柔らかさや弾力、経年劣化などが原因で、まったく同じ精度で安定させるのが困難になるからです。そのため、ゴム製品に関してはある程度の誤差(寸法公差)を許容しています。
切削加工はひとつずつ製品を加工するため、他の加工方法では実現が難しい小さな誤差で加工することも可能です。
ゴムの加工における大体の目安の一部を以下でご紹介します。
寸法区分(mm) | 1級(精級) | 2級(中級) | 3級(粗級) |
---|---|---|---|
等級に該当する製品 | 金型成形による、特に精密な公差を要求される製品 | 通常の金型、打ち抜き、押出しの成形品 | 手加工品、機械加工ゴムによる穴あけやゴムホースなど |
0.3~3未満 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.4 |
3~6 | ±0.2 | ±0.4 | ±0.5 |
6~10 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.6 |
10~18 | ±0.3 | ±0.6 | ±0.8 |
18~30 | ±0.4 | ±0.8 | ±1.0 |
【参考】工業用ゴム製品寸法公差表(VDI:ドイツ技術者協会)
さまざまな要因が精度に影響するため、試作品を製作して実際に切削したり、検査したりなどのチェック体制が重要になるのです。
切削加工以外の試作に向いているゴムの加工方法
切削加工以外にも、ゴム製品の試作製作に向いている加工方法を以下でご紹介します。
ウォータージェット加工
ウォータージェット加工とは、小径ノズルからの噴出によって超高圧になった水の運動エネルギーでゴムを切断する方法です。高圧ポンプから送り込まれた水が無理やり小さな穴を通ることで、噴出スピードが音速の約3倍に達します。そのウォータージェットの破壊力で加工を行います。
特徴は次のとおりです。
- 熱に弱いゴム製品でも変形や歪み、溶けがなく加工できる
- 局地的なエネルギー集中で脆弱材や複合材の加工にも対応できる
- 電気を通さない材料の切断ができる
- ランニングコストがかかる
- 加工精度はほかの機械加工に劣る
- 肌目に線が残ってしまう など
純粋に水圧で切断を行う「ピュアウォータージェット加工」に加え、水に研磨剤を混入させて切断力を高めた「アブレイシブウォータージェット加工」が存在します。
フライス加工
フライス加工とは、フライスと呼ばれる切削工具を高速で回転させながら固定したゴムに当てることで、平面や側面、溝、段等の切削を行う加工方法です。手動でさまざまな切削工具を交換しながら、理想のゴムを理想の形に成形します。
フライス加工で使われる主な工具と特徴は次のとおりです。
フライス加工用の工具 | 概要 |
---|---|
正面フライス | 平行移動によってゴムの平面を平らに削る |
溝フライス | ゴムに溝を作るように削る |
平フライス | 正面フライスより荒く切削効率がよい |
また、フライス加工には工具の自動交換システムや数値制御によって切削加工を行う「マシニング加工」や「エンミドル」なども存在しますが、金属に使われるもので、柔らかい素材であるゴムには使用されません。
切断、削りなど様々な技術を組み合わせる加工法
熟練の職人によっては一つの加工方法に囚われず、さまざまな技術を組み合わせることも珍しくありません。例えば上記で紹介した以外にも、次のようなゴム加工の方法があります。
- トムソン抜き加工
- せん断加工
- 3Dプリンタ(ゴムにおいては一般的なものではなく、物性が出ないものとなります) など
ゴムの形状や材質、希望の試作品の規格などの要素を考慮し、最適な技術を選択して加工や仕上げを進めていきます。
小ロット(1個~)対応可能な金型不要の切削加工
切削加工は金型の製造が不要であるため、製作時間やコストが必要ありません。非常に柔軟性ある加工のおかげもあり、1個からの小ロット生産にも対応できます。ゴム製品の試作品やサンプルを作るのにもってこいの加工方法といえるでしょう。
しかしながら、上記でお伝えしてきたように形状や材質など様々な要因を考慮する必要があります。詳細や具体的な内容は専門家や詳しい企業に相談してみてください。
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