ものづくりプレス
2026-03-15
ナフサ高で再注目される“材料代替”──TPE・樹脂化・仕様見直しはどこまで有効か
ナフサ高で再注目される“材料代替”──TPE・樹脂化・仕様見直しはどこまで有効か
原油や石油をめぐるニュースが続くなか、製造業の現場では「材料費が上がった」で終わらない変化が起きている。 その中心にあるのがナフサである。
日本の石油化学は、
原油 → ナフサ → 基礎化学品 → プラスチック・ゴム原料 → 部品・製品
という流れの上に成り立っている。経済産業省は、ナフサが原油を精製して得られる石油製品であり、エチレンなどを経てプラスチック製品等につながると整理している。さらに日本政府は2026年3月、国内消費約4か月分相当のナフサ確保見通しを示しつつ、中東以外からの調達も進めていると説明した。これは、ナフサが依然として供給不安の論点になっていることを意味する。 (経済産業省)
こうした局面では、従来どおり合成ゴムをそのまま使い続けるだけでなく、
- ■TPEへの切替
- ■樹脂化
- ■複合材化
- ■必要性能そのものの見直し
といった“材料代替”が再び現実的な選択肢になる。 富士ゴム化成の既存発信でも、熱硬化性ゴムからTPEへ代替することで、加硫工程不要・ランナー再利用・自動化しやすさなどにより、成形加工費を約30〜50%削減できる可能性が示されている。ナフサ高の局面では、このような代替提案は単なるコストダウン策ではなく、供給リスクを含めた設計見直しとして重要性を増している。
なぜ今、“材料代替”が再注目されているのか
背景にあるのは、単純な原料高ではない。ナフサ由来原料の価格と供給の両方が不安定になりやすいことである。
ロイターは2026年3月、中東情勢の悪化により石油化学品の流れが詰まり、プラスチック価格が約4年ぶり高値圏に上昇したと報じた。中東は2025年のポリエチレン輸出の4割超を占め、アジアではナフサ精製マージンが大きく上昇している。つまり、ナフサ高は「樹脂の単価が上がる」だけでなく、調達余地が狭くなるリスクも伴っている。
このため現場では、次のような問いが増えている。
- このゴム材は本当にゴムでなければならないのか
- TPEで置き換えられる用途はないか
- そもそも柔軟性が必要なのか、樹脂化できないか
- 複合材や二色成形に変える余地はないか
- 仕様を少し変えるだけで材料の自由度は上がらないか
つまり、材料代替は「高いから別のものにする」という話ではなく、用途と要求性能を再定義することに近い。
まず整理したい:ナフサ高がゴムとプラスチックに与える影響
ナフサ高の影響は、プラスチックだけではない。石油化学の上流では、ナフサからエチレン、プロピレン、ブタジエンなどが生まれ、それがさまざまなプラスチックや合成ゴムの原料につながる。経産省は、ナフサを起点にプラスチック、ゴム、電子部品、塗料などへ波及するサプライチェーンを示している。
そのため、ナフサ高になると現場では次のようなことが起きやすい。
- 汎用プラスチックの値上げ
- 合成ゴムの見積変動幅拡大
- 小ロット品や特殊材の納期長期化
- 代替材提案の増加
- 図面や仕様の見直し依頼の増加
つまり、ゴムかプラスチックかという単純な二択ではなく、どの材料体系で、どの工法で、どの仕様なら安定供給できるかを考える必要がある。
TPE代替はどこまで有効か
今回もっとも相性が良いテーマが、TPEへの置き換えである。TPEは、ゴムのような柔らかさ・弾性を持ちながら、熱可塑性を持つ材料群である。富士ゴム化成の記事では、熱硬化性ゴムと比較したときの強みとして、加硫工程が不要であること、射出成形が可能なこと、ランナーを再利用しやすいこと、自動化しやすいことが挙げられている。これにより、成形加工費の圧縮や歩留まり改善が期待できる。
TPE代替が効きやすい場面
- 柔らかさは必要だが、最高レベルの耐熱・耐油性までは不要
- 大量生産でサイクルタイム短縮の効果が大きい
- 小型部品で自動化メリットが出やすい
- 意匠性や触感も重視する
- 樹脂との一体成形や複合化を狙う
TPE代替のメリット
- 加硫工程が不要
- 射出成形しやすい
- ランナー再利用がしやすい
- サイクル短縮が見込みやすい
- 樹脂との複合成形に発展させやすい
TPE代替の注意点
つまり、TPEは万能ではないが、“ゴムである必要性”を問い直す用途にはかなり有効である。特にナフサ高の局面では、単なる材料単価比較ではなく、成形工法・歩留まり・自動化まで含めた総コスト比較で優位に立ちやすい。富士ゴム化成も既存記事で、TPE代替は材料費だけでなく成形プロセス全体で評価すべきだと整理している。
樹脂化はどこまで有効か
次に考えたいのが、そもそも柔軟材でなくてもよい部分を樹脂化する発想である。ゴム部品は、慣習的に採用されているケースも少なくない。しかし、実際には必要なのが密封性なのか、防振性なのか、滑り止め性なのか、緩衝性なのか、組付け性なのかを分解してみると、すべてがゴムでなければ満たせないとは限らない。
樹脂化が効きやすいケース
- “柔らかい方がよい”程度で、弾性が必須ではない部品
- 位置決め、スペーサー、ガイド、カバーなど剛性側でも成立する部品
- 機能よりも形状保持や保護が主目的の部品
- ゴムの経年変化が課題になっている部品
- 量産性や寸法安定性を上げたい部品
樹脂化のメリットは、単に安くなる可能性があるだけではない。寸法精度、成形性、量産安定性、軽量化、複合化のしやすさといった面でも強みが出ることがある。一方で、当然ながらシール性、振動吸収性、面圧追従性、摩擦特性、柔軟変形といった性能は低下しやすい。そのため樹脂化は、材料の置き換えというより、必要性能の再定義に近い。
“仕様見直し”が実は最も効くこともある
材料代替の議論では、「ゴムをTPEにするか」「TPEを樹脂にするか」に目が向きやすい。しかし実務上、もっと効くのが仕様そのものの見直しである。
たとえば、
- 余剰な耐熱マージンを持たせすぎていないか
- 実際の接液環境より厳しい耐薬品条件を想定していないか
- 硬度や色などの指定が不必要に狭くないか
- 小ロット専用品になっていないか
- 一体成形の方が合理的ではないか
こうした見直しによって、材料の自由度が一気に広がることがある。ナフサ高やプラスチック価格高騰が続く局面では、材料を変える前に、仕様を少し緩めるだけで代替余地が生まれるケースは少なくない。つまり、代替設計の本質は「別の材料を探すこと」ではなく、要求仕様を実態に合わせて最適化することである。
複合材・複合設計の見直しも有効
最近は、ゴムかプラスチックかの二者択一ではなく、複合設計で解くケースも増えている。たとえば、樹脂骨格+TPE被覆、硬質樹脂+軟質エラストマーの二色成形、ゴム単体から、樹脂+シール部のみ軟質材へ変更、金属+樹脂+エラストマーの組み合わせ最適化などである。
こうした考え方は、材料そのものの高騰局面で特に有効である。柔軟性が必要な部分だけに柔らかい材料を使い、その他は樹脂化することで、材料コストだけでなく成形性や組立性まで改善できることがある。これは、単純な代替材探しより一歩進んだ構造見直しであり、富士ゴム化成の「技術×調達」と相性が良い切り口である。
どこまで有効かを判断するためのチェックポイント
判断するには、次の順番で整理すると実務で使いやすい。
シール、緩衝、防振、保護、滑り止め、意匠、組付け補助
2. その機能はゴムでなければ成立しないか
弾性が必要、面圧追従が必要、高温・油環境が厳しい、長期耐久が厳しい
3. TPEで代替できるか
熱可塑で問題ないか、耐熱・耐油条件は満たせるか、成形方法変更のメリットは出るか
4. 樹脂化できるか
柔らかさは本当に必要か、剛性を上げても困らないか、寸法安定性を優先した方がよいか
5. 仕様そのものを見直せるか
過剰品質ではないか、色や硬度の縛りが強すぎないか、専用品化しすぎていないか
製造業は今回のナフサ高をどう受け止めるべきか
今回のナフサ高やプラスチック価格高騰は、一時的なコスト増として片付けるより、設計と調達を見直すきっかけとして捉える方が価値が大きい。ロイターは、中東情勢の悪化によりアジアのナフサマージンが急上昇し、プラスチック価格も4年ぶり高値圏にあると報じている。こうした局面では、安い材料を追うだけではなく、使う材料の構成自体を変える企業の方が強い。
つまり今見るべきなのは、次の4点である。
ナフサ高は厳しいが、見方を変えれば材料代替を進める企業が差をつける局面でもある。
まとめ
ナフサ高が続く今、プラスチックやゴムの調達は「同じ材料をどう安く買うか」だけでは乗り切りにくい。原油からナフサ、そこからプラスチックやゴム原料へとつながる供給連鎖が揺れる以上、材料代替そのものを設計テーマとして捉える必要がある。経産省はナフサがプラスチックやゴムなどの原料につながることを示しており、日本政府も中東以外からの調達強化を進めている。
そのうえで、有効な選択肢は大きく3つである。
1. TPE代替
加硫不要、射出成形、ランナー再利用、自動化しやすさなどから、総コスト改善が狙いやすい。富士ゴム化成の既存記事でも、成形加工費30〜50%削減の可能性が示されている。
2. 樹脂化
柔らかさが必須でない用途では、寸法安定性や量産性も含めて有効な場合がある。
3. 仕様見直し
過剰品質や過度な材料固定を見直すことで、代替余地が大きく広がる。
結論として、
TPE・樹脂化・仕様見直しは、万能ではないが“かなり有効”である。
ただし、効くのは「材料名」を変えたときではなく、必要機能を分解して見直したときである。
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