ゴム

2021-08-24

ゴム市場はアジアが中心?日本国内の取引の歴史

日用品から工業用製品まで、さまざまな用途で用いられるゴム製品は生活の上で欠かせない存在となっています。
天然ゴムの主要原産地は、タイ、インド、ベトナム、シリコンは中国がほとんどです。アジアを中心に発展したゴムですが、生産地が限られていることで政治的影響は受けやすくなっており、天然ゴムやシリコーンゴムの価格の上り幅は大きく、合成ゴムも石油由来の為、原油価格の影響を受けるという背景があります。
ここでは、日本におけるゴム取引所の歴史やほかのアジア各国と比較したゴムの生産量、天然ゴムや日本の新ゴムの需要について解説します。

ゴム市場はアジアが中心?

1951年日本に初めて「ゴム取引所」が誕生


日本でのゴム取引の歴史について解説します。日本で初めて設立された取引所は、1951年設立の「神戸ゴム取引所」です。東京では、翌年の1952年に「東京ゴム取引所」が誕生しました。

世界のゴム市場は第二次世界大戦以前より拡大しており、取引所としてはロンドンやニューヨーク、シンガポールなどの都市が選ばれていました。当時の日本も天然ゴム消費国のひとつではありましたが、取引所としては選ばれていません。日本はゴム市場では後れを取った存在でした。

第二次世界大戦勃発後、世界各地で戦争が頻発するようになりました。天然ゴムは戦略物資だったため戦争により価格が高騰、停戦になると価格が大暴落と国際価格が不安定となります。天然ゴムの先物取引においても、価格変動に対するリスクヘッジのニーズが高まりました。

天然ゴムのリスクヘッジニーズを必要としていた神戸のゴム取引会社が中心となり、日本で初めてのゴム取引所として「神戸ゴム取引所」が誕生しました。当時は天然ゴムの輸出量が横浜港よりも神戸港の方が高かったのも、神戸が取引所として選ばれた理由のひとつです。当時は先物のヘッジ機能に関しては理解していましたが、市場価格の形成については必要性をあまり意識しておらず、シンガポールでの相場が取引に採用されていました。

1984年「東京工業品取引所」へ統合


1951年に神戸ゴム取引所が誕生したのを受け、翌年1952年にゴム輸入業者の組織を母体とした、東京ゴム取引所が誕生します。日本の一大ゴム市場として期待を受けて誕生したのもつかの間、合成ゴムの生産増加やアメリカの備蓄ゴムが放出された影響を受け、天然ゴムの価格低迷が始まります。1960年より8年ほど天然ゴムの価格低迷は続き、この間東京、神戸の取引所ともに閑散としていました。

一方、1960年後半より金の取引価格が高騰し始めます。一般の投資家たちの先物取引への参入も増加したことを受け、天然ゴムの先物取引も少しずつ活発化していきました。当時、日本のゴム工業も成長していたこともプラスとなり、日本での天然ゴム取引市場は拡大していきます。1975年以降にはアジアでの一大天然ゴム取引場であったシンガポールを超え、1980年代には世界的に認知されるほどの取引出来高を得ました。この時から、日本での天然ゴム先物が、天然ゴム取引の国際指標のひとつとして認められることになります。

社会情勢に合わせて生産から流通までの構造が大きく変化し、先物取引の意義も変わりました。1980年にはロンドンやニューヨークはゴム先物取引から撤退します。合理的な取引のために、1984年東京ゴム取引所は東京繊維商品取引所、東京金取引所と統合し、「東京商品取引所(TOCOM)」が設立されました。東京工業品取引所は、世界のゴム先物取引市場の中心的な存在となります。

2013年 称号が現在の「東京商品取引所」へ変更

神戸ゴム取引所はゴム市場の発展のために、1991年より欧米市場での主力製品「TSR20(技術的格付けゴム)」の上場を目指します。TSR20の上場は一度頓挫しつつも、1995年3月には「天然ゴム指数先物」を上場させました。天然ゴム指数先物は、日経平均株価先物などと同じ現物の商品受渡しをしない先物です。

1995年1月17日、阪神淡路大震災により神戸ゴム取引所のビルが崩壊しました。一度神戸ゴム取引所は取引ができない状態となります。取引所職員が崩壊の危険性ある取引所事務所のコンピュータからデータを取り出したことや、関係者の必死の努力により1月25日に大阪繊維取引所で取引を再開させました。

阪神淡路大震災後、神戸ゴム取引所は1997年に大阪繊維取引所と合併し大阪商品取引所となります。1991年より11年後の2000年にはTSR20の上場を果たしました。2007年に愛知県の中部商品取引所と合併して「中部大阪商品取引所」となります。取引所の場所も大阪から愛知に移転しますが、2009年にTSR20、2010年に天然ゴム指数の取引を休止、2011年に解散しました。

東京工業品取引所は1980年代後半より「板合わせ仕法」が取引方法として主流となります。1991年4月より「ザラバ仕法」によるシステム売買がスタートし、2005年にはザラバ仕法、板合わせ仕法を併用しすべての売買をシステム売買に移管します。2008年には取引時間が15時30分から17時30分に延長され、会員商品取引所から株式会社商品取引所への組織変更も果たしました。取引時間は2009年には23時まで、2010年には翌朝4時までとさらに延長されています。

2011年中部大阪商品取引所が解散したことで、東京工業品取引所は国内唯一の取引所となりました。2013年には現在の「東京商品取引所」に名称を変更します。

2020年 ゴム市場は「大阪取引所」へ移管


東京商品取引所は2019年10月に日本取引所グループと統合し、総合取引所となりました。天然ゴムの先物取引は、2020年7月に日本取引所グループ傘下の「大阪取引所」に移管されています。

世界のゴム先物取引において、現在日本ではリーダー的な存在となりつつあります。次に、日本のゴム生産量に関する現状について解説します。

日本のゴム生産量


ゴムの木の樹液を原料とする天然ゴムは、日本では主に生育していないため日本で天然ゴム生産は盛んにおこなわれていません。一方、化学物質を合成し生産する合成ゴムの生産市場や需要が拡大したことを受け、日本でも多くの合成ゴムが生産されるようになりました。日本を含めた世界の天然ゴムと合成ゴムの生産量の現状を解説します。

天然ゴムの生産量1位はタイ(2019年度)


IRSG(国際ゴム研究会)が発表した2019年度の天然ゴム生産量は、天然・合成とも5年ぶり減に前年を下回っています。世界の天然ゴム生産量上位10か国をまとめました。

順位国名
1位タイ
2位インドネシア
3位ベトナム
4位インド
5位中国
6位コートジボワール
7位マレーシア
8位位フィリピン
9位グアテマラ
10位ミャンマー

天然ゴムの総生産量は、1364万1000tで前年比1.8%減少しており、前年の2.5%増から減少に転じています。タイやインドネシアでは、ゴムの木の病害が拡大しており、その影響が考えられます。

天然ゴムの生産はアジア圏が主要地域となっています。1位のタイ、2位のインドネシア、3位のベトナムは数年間順位変動がなく、4位以下の国で入れ替わりをしている状態です。
1位のタイ、2位のインドネシアの天然ゴム生産量を合わせると、世界全体の64.4%を占めています。ただし、2019年度と前年度を比較すると、天然ゴムの生産量が減ったのは1位のタイと2位のインドネシア、5位の中国となっており、その他の国ではいずれも生産量が増加しています。ベトナム、コートジボワール、カンボジアは前年同期よりも2桁増となり、特にコートジボワールは同25.0%増と、近年天然ゴム生産が急激に伸びています。

合成ゴム生産量1位は中国、日本は3位(2019年度)


2019年度の世界の合成ゴム生産量は760万トンで、前年度と比べて横ばい状態となっています。世界の合成ゴム生産量上位10か国は以下の通りです。

順位国名
1位中国
2位アメリカ
3位日本
4位韓国
5位ロシア
6位ドイツ
7位台湾
8位位フランス
9位インド
10位シンガポール

1位の中国は同5.8%増、2位のアメリカは同1.4%増と、合成ゴム生産量は上位2か国ともに増加しています。3位の日本は同0.2%減、4位の韓国は同3.2%減、5位のロシアは同7.4%減となりました。なお、日本の合成ゴム生産量は2015年度には世界3位、2016年度には韓国に抜かれ世界4位となりましたが、2019年度に順位が逆転し3位となりました。

2020年度は新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、世界全体でゴムの消費量が落ち込みを見せました。日本でも自動車の国内生産量が前年度を大きく下回るなど、関連業種の生産量減少を受けてゴム消費量も大幅に落ち込みました。2021年度は前年から経済の回復傾向があるとして、ゴム消費量は増加すると予測されています。次に、ゴムの世界的な需要について解説します。

天然ゴムの世界的な需要


ゴム

天然ゴムの世界的な需要は1983 年ごろから順調に推移し、2018年には1983年比で約3倍の規模まで拡大しています。天然ゴムの生産量も増加しており、生産量と消費量はバランスを保っている状態でしたが、1999年をピークに在庫量が減り始めています。世界の天然ゴム消費量は2001 年から拡大し、2007 年および2008 年は、1,000 万トンを超えました。その後は 2011 年から 2018 年まで年率換算 3.5%ほど増加する傾向となっています。

近年の天然ゴム需要は、中国とインドがけん引しています。天然ゴムの主な需要は自動車用タイヤです。中国は急激な経済成長による道路インフラ整備、関税引き下げなどで自動車の需要が高まり、近年20年間分の天然ゴム消費の増加分は 300 万トン(アメリカの年間消費量の 3 倍)に達しました。世界最大の天然ゴム消費国は 2000 年まではアメリカでしたが、2001 年に逆転して中国となっています。インドも2018年には自動車販売台数世界第4位となり、自動車の需要高による天然ゴムの需要増加につながっています。

また、ゴムの樹液である「ラテックス」からは手袋などの医療品も多く製造されています。鳥インフルエンザや新型インフルエンザ、新型コロナウィルスなどによりラテックスの特需が発生し、高値を記録しました。ラテックスの価格変動も、天然ゴムの価格変動に多くの影響を与えています。新型コロナウィルス感染症後の動向を見据えた動きをする国も多く、2020年10月以降よりゴム原料の動きが活発化しています。

日本国内の新ゴム需要


新ゴムとは、再生ゴムや屑ゴムを除いた新しい天然ゴムまたは合成ゴム原料のことです。新ゴムの世界年間消費量2,915万8,000トン(2018年)と比較すると、日本国内では、年間約159万トンの新ゴムが消費されています。

日本国内の新ゴム需要は、80%以上がタイヤ類です。ほか工業用製品に約18%が使われ、生活用品に新ゴムが使われているのは全体のわずか1.4%です。自動車をはじめとしたタイヤ類の需要は増加傾向にあるため、今後も日本国内で安定した新ゴム需要が見込まれています。

ゴム市場の今後に期待しよう


日本は戦後より国内でゴム取引所ができ、近年では世界的なゴム先物取引国となりました。取引だけでなく合成ゴムの生産量も増加させ、2019年のデータでは5位となっています。世界各国で新型コロナウィルス後を見据えた動きも活発化しており、今後もゴムは安定的な需要が見込まれています。

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