ゴム
2021-11-18
中国の材料における価格高騰について解説
2021年10月現在、「中国の材料の価格が高騰して、生産に影響が出るかも知れない」といった声が日本国内でも増えてきました。実際に半導体に関係する中国産の金属シリコンやアルミニウムの価格が、2~3倍に跳ね上がっているのが確認されています。
当記事では中国材料の価格高騰の概要や影響、その原因となった「中国の電力不足」について概要を解説します。
2021年、中国材料の価格高騰が問題に?
2021年10月現在、中国で作られている金属シリコンやアルミニウムなど、鋼材関係の材料の値段が高騰しています。これに伴い日本のメーカーだけでなく、世界中のメーカーが、中国から材料を調達するのが難しくなりました。
実際に世界中の金融ニュースやマーケット情報などを発信する「Bloomberg(ブルームバーグ)」は、1トンあたり8,000元~1万7,000元であったシリコンの値段が、約2ヶ月で約6万7,000元と、300%もの上昇を見せたと報じました。具体的なグラフも公開されています。
記事内のグラフは、シリコンの価格変化を現したものです。確かに2000年代に入ってからはシリコンの需要と比例して上昇していますが、2020~2024に入ってから暴騰と呼んで良いほど、ほぼ直角に伸びています。どれほどの異常事態かおわかりいただけたのではないでしょうか。
シリコンだけではありません。中国の非鉄金属原料の輸入などを行う商社「株式会社タックトレーディング」によると、自動車向けのアルミ合金に使用される中国産の金属マグネシウムも、2020年に1トン2,000ドルだったものが、2021年8月には4,000ドルを超えたと発表されました。
さらにアルミニウムも2,600ドルを超え、過去最高水準で上昇しています。
タックトレーディングの社長や中国から非鉄金属を輸入する日本メーカーは、「経験したことがない上がり幅」「このままだと、来年以降の材料の調達が厳しい」と、危機感と強めています。
中国材料の価格高騰による影響
2021年現在、アメリカに次いでGDP(国内総生産)が世界2位になるほど成長した中国は、世界の産業にとって欠かせない存在となっています。
とくに半導体関係の生産量は急激に伸びつつあります。2021年には日本を上回る勢い でだとまで言われ、台湾、韓国に次ぐ第3位になる見込みでした。また中国は、シリコンウェーハ(シリコン基板)の材料となる「金属シリコン」の主要生産国の1つでもあります。
つまり、中国の金属シリコンやその他の材料の高騰は、世界中の産業に多大な影響を与えるということです。
たとえば中国から輸入する材料が高くなれば、それだけ製品を生産するコストも上昇します。すると生産コストと比例して製品の販売価格も上げざる得なくなり、市場の物価上昇にもつながります。
2020年~2021年にかけて景気が大きく後退した中、こうした物価だけ上がる「スタグフレーション」は好ましくない状態です。
高騰が続けば、半導体市場と大きな関わりを持つ自動車業界でNo.1のトヨタや、iPhoneを開発するアップル社なども悪影響を受けるでしょう。自動車やスマートフォンの製造が遅れ、出荷のずれ込みが発生する可能性もあります。
巡り巡って、消費者にも多大な影響が出るはずです。とくに生産量の減少や企業の利益低下によって、人々の雇用も減り、内需も減っていく悪循環も十分にありえます。
中国材料の価格が高騰した理由
ではなぜここまで中国材料の価格が一気に高騰したのでしょうか。一番の原因は「中国の電力不足」だと言われています。工場を動かす電力が足りず、先述した金属シリコンやマグネシウムなどの生産量が落ちこんだのです。
また電力不足に陥る前から、以下の要因で半導体関係の材料価格が上昇傾向にありました。
- 世界的な半導体の需要が急騰により、生産が追いつかない状態(需要過多)
- 在庫積み増し
- 多重発注
- 台湾の水不足や停電
- 新型コロナウイルスによる東南アジアの都市封鎖による後工程工場の操業停止 など
上記の複合的な要因に電力不足が加わったことで、歴史上類を見ない価格高騰につながったと考えられています。
ただし半導体の需要増などの要因があるとはいえ、とくに深刻なのはやはり中国の電力不足でしょう。中国はなぜそこまでの電力不足に陥ったのか、以下で解説します。
中国で深刻化している電力不足
中国で電力不足が深刻化している主因は、火力発電所の稼働が抑制されている点が挙げられます。簡単に言えば発電量が足りていません。
火力発電所の稼働が少なくなった原因は、主に石炭価格の高騰です。中国は以前より、石炭に関する以下の点が問題になっていました。
- オーストラリアとの対立で石炭の輸入が制限されて品薄状態だった
- 相継ぐ事故を防ぐための炭鉱の安全規制によって石炭生産が頭打ちになっていた
さらに中国政府は、後述する「二酸化炭素の排出量削減」を達成するため、エネルギー消費削減を発電所に命じました。その結果、目標達成が難しい省は火力発電所の稼動を減らさざる得なくなり、製造量減や工場の操業停止となっています。
火力発電所の停止は、中国の生産業にとって大きな打撃です。中国の電源構成(発電内容の内訳)は火力発電が6割を超えているためです。
なお上記の火力発電以外にも、天候による風力発電の発電不足による東北三省で発生したブラックアウトも問題になりました。
中国による電力供給の規制が生産業の打撃に
電力供給の規制は、生産業が集まる中国の広東省や江蘇省(こうそしょう)をはじめ、広範囲で経済活動が制約を受けることとなりました。実際に電力の抑制による電力不足や政府からの命令によって、操業停止に追い込まれる企業も少なくありません。
たとえばシリコンウェーハ(シリコン基板)を製造する際、原材料の珪石(けいせき)を溶解精錬するために膨大な電気を消費します。
しかし中国の電気制限によって、金属シリコンメーカーは大幅な減産が必要になりました。他にも精錬工程のあるアルミの生産量が落ち、相場価格が高止まりする事態となっています。
電力供給規制の背景
電力供給の規制の背景には、中国が掲げた「脱炭素」が大きく関わっています。
中国の習近平氏は、環境対策の一環として「二酸化炭素の排出量を2030年までに減少させ、60年にはカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)」という目標を掲げています(3060目標)。
しかし2021年の前半時点で目標を達成したのは、30省のうち10省のみでした。
この事態を受けて中国は二酸化炭素削減措置の強化を行います。具体的には火力発電所の稼動の抑制を要求しました。
先述した石炭価格の高騰も加わると、結果的に火力発電所での発電が滞り、中国で大問題になるほどの電力不足につながっています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所の調査によると、南部の広東省では約180の日系企業で操業停止などの影響が出ていると結果が出ています。
電力供給規制の内容
中国が掲げた電力供給の規制目標は、主に以下2つのものがあります。
- 双控(ダブルコントロール):エネルギー消費強度(単位GDPあたりのエネルギー消費量)の低減と消費総量のコントロールの二重制御
- 両高の規制:高エネルギー、高汚染排出のプロジェクトの指導を強化したり、管理を強化したりする規制
2021年9月11日には、目標未達の省が多かったことを受け、上記の規制がさらに厳しくなりました。具体的には次のとおりです。
- 各地方はエネルギー利用に対する二重制御の五ヵ年目標作成し、各地方の実情に応じた年間目標を国家発展改革委員会に備案する
- 各地方の両高プロジェクトリストを作成し、エネルギー消費量標準炭5万トン以上の両高の新規プロジェクトへの指導を強化
- 基準に満たない両高プロジェクトの金融機関からの融資を禁止
- 国指定のエネルギー消費の削減目標を達成した場合は現五ヵ年計画におけるエネルギー利用二重制御の審査を免除
- エネルギー消費の二重制御目標の設定、設定に基づいた年間目標を国家発展改革委員会へ報告
- エネルギー消費の総量管理の柔軟性の向上
- エネルギー消費の総量管理の柔軟性の向上
出典:MUFG|電力使用制限の背景:「双控」と「両高」規制について
規制による中国内企業への影響
電力規制によって、中国内企業(日系企業も含む)へは以下の影響が発生します。
- 各エリア内の企業に対して電力使用に制限をかける
- 規制の長期化によって生産に影響するため、事業継続計画(BCP)の検討が必要
- 電力使用量や二酸化炭素の排出量の抑制や規制が強化され、一部電力供給の一時停止や生産休業の要請あり
- 両高規制によって新規ライン増設の承認や新工場送電工事のストップなどが発生し、新規事業投資への影響が出ている
上記のように中国企業、中国に進出した日系企業の両方が大きな打撃を受けました。これらも中国材料の高等化の要因になっていると推測されます。
中国の材料の高騰はこれからも注視していくべき事案
中国の電力規制により、世界中の生産業に大きな影響が出ました。
しかし中国も事態を重く見たのか、電力不足を解決するため、中国政府は10月に石炭の増産を指示しています。また19日にはエネルギー関連の大手企業への稼動や水力・原子力発電の総動員を決定しています。
とはいえ、半導体の供給不足が長期間続く懸念もあるため、引き続き事態を注視する必要がありそうです。
中国の製造業や経済市場は、もはや世界全体に関係するほどの影響力です。バブル崩壊や経済悪化なども聞かれますが、製造業に関わる人や金融関係の人は、常に中国の情報にアンテナを張っておくことをおすすめします。
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